【2025年6月2日】新潟県の長岡と上越妙高・糸魚川などを結ぶ高速鉄道構想について、早期実現を目指す期成同盟会の総会が開かれました。この同盟会は「上越・北陸新幹線直行特急実現期成同盟会」という組織で、新潟県やJR信越本線の沿線自治体などで構成されています。
総会では、2024年3月に県の委員会が示した高速鉄道の調査結果について、期成同盟会でも調査研究や国への啓発活動、地域活性化策の検討などを進めることが確認されました。
県交通政策局の担当者は、地元メディアの取材に対して「できるだけ早くプロジェクトが目に見える形で達成できるよう国に働きかけながら、我々も検討を進めていく」と話しています。期成同盟会は今後も、国土交通省やJRなどへ要望活動をしていく方針です。
【解説】構想から約40年・新潟県の高速鉄道は実現するのか?
上越・北陸新幹線直行特急実現期成同盟会は、信越本線の長岡~直江津などを高速化し、新潟県内の鉄道アクセス向上と沿線地域の活性化をめざす組織です。また、上越新幹線と北陸新幹線を結ぶアクセス鉄道を果たすことで、日本海縦貫高速鉄道(羽越新幹線)の実現もめざしています。
期成同盟会の要望などを受け新潟県では、長岡~直江津~糸魚川などの高速鉄道に関する調査を進めています。2008年には、長岡から糸魚川または上越妙高までの在来線を高速化し、フリーゲージトレイン(FGT)で上越新幹線~信越本線~北陸新幹線を直行する計画を立案。事業費は456~488億円(当時)、費用対効果(B/C)は1.1~1.2になるとして、事業化に向けて大きく前進しました。
ただ、これは「フリーゲージトレインの実現ありき」の計画です。西九州新幹線での導入を進めていた国土交通省は、2018年に「フリーゲージトレインの導入は困難」と報告。これを受けて、新潟県の高速鉄道計画も「1から見直し」になったのです。

出典:新潟県交通政策局「高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会~現状と課題について~」
新たな検討委員会が4つの案を提示
計画を見直すことになった新潟県は、2022年に新たな検討委員会を設置します。それが、「高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会」です。構成メンバーは新潟県、長岡市、上越市、柏崎市、JR東日本、JR西日本、有識者(大学教授)などで、これまで5回開催されました。
委員会では、ミニ新幹線をベースに高速化の方法を議論。第4回検討委員会(2023年9月27日)では4つの案に絞られ、第5回(2024年3月26日)では各案の詳細概要が示されています。各案の概要は、以下の通りです。
【案1】長岡~上越妙高のミニ新幹線化
信越本線の長岡~直江津と、えちごトキめき鉄道(妙高はねうまライン)の直江津~上越妙高を三線軌化し、ミニ新幹線を走らせるというもの。概算工事費は約1,200億円、工期は15~17年程度と見積もっています。
所要時間の短縮効果は、長岡~上越妙高が9分、新潟~上越妙高は34分(特急しらゆき直通)、新潟~新大阪は55分です。
【案2】長岡~糸魚川のミニ新幹線化
信越本線の長岡~直江津と、えちごトキめき鉄道(日本海ひすいライン)の直江津~糸魚川を三線軌化し、ミニ新幹線を走らせるというもの。概算工事費は約1,500億円、工期は19~21年だそうです。
新潟~糸魚川の所要時間は55分短縮。糸魚川から北陸新幹線の乗り入れることで、新大阪へは54分短縮されます。
【案3】長岡~上越妙高の在来線改良による高速化
信越本線の長岡~直江津と、えちごトキめき鉄道(妙高はねうまライン)の直江津~上越妙高の在来線を改良し、特急列車を走らせる計画です。短絡線としてトンネルの整備も必要なため、概算工事費は約2,000億円に。工期は13~15年程度とされています。
所要時間の短縮効果は、長岡~上越妙高が12分、新潟~上越妙高は27分(特急しらゆき直通)、新潟~新大阪は14分です。
【案4】浦佐~上越妙高のミニ新幹線化
上越線と北越急行の一部線区を三線軌化し、うらがわら~上越妙高などに短絡線を整備。ミニ新幹線を走らせます。また、信越本線の長岡~柏崎に直通の特急を走行させます。概算工事費は約2,100億円でもっとも高い一方、工期は8~10年程度で最短です。
所要時間の短縮効果は、長岡~上越妙高が11分、新潟~上越妙高は40分(特急しらゆき直通)、新潟~新大阪は58分です。
課題が多く実現は困難か?
検討委員会では、上記の4案からひとつに絞り込むとしています。ただ、いずれの案も課題が多く、委員会のメンバーからも難儀する声が聞かれます。
たとえば、ミニ新幹線を走らせる案では在来線を三線軌化する必要があります。その工事期間は在来線を運休しなければならず、多方面に影響が出てくるでしょう。新潟県が筆頭株主のえちごトキめき鉄道の場合、長期運休による運賃収入の激減が想定され、経営に大きな影響を与えそうです。
【案3】であれば在来線の長期運休を避けられます。ただ、工事費が高い割に所要時間の短縮効果は小さく、コスパが悪いのが難点です。
検討委員会の行方を見守る期成同盟会にとっても、ルートによっては恩恵を受ける自治体・受けない自治体が変わるため複雑な心境のようです。なかでも糸魚川市は、【案2】以外のルートだと恩恵がほぼありません。そのため「メリット・デメリットについて、もっと話し合うべき」といった糸魚川市の議員の声も聞かれるようです。
なお、現段階では各案の費用対効果(B/C)は算出されていませんが、2008年に見積もられた概算費用より大幅にアップしています。もっとも、当時は北陸新幹線の開業前でしたから状況は異なるでしょう。とはいえ、工事費を削減する工夫がなければ費用対効果が1を下回る可能性が高く、事業化も難しくなります。
課題の多いプロジェクトですが、まずは検討委員会の判断を待ちたいところです。
参考URL
上越・北陸新幹線直行特急実現期成同盟会
https://www.joetsu-chokko.jp/
高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会(新潟県)
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/koutsuseisaku/kousokutetudou-network.html
令和4年度~令和5年度 高速鉄道ネットワークのあり方に係る調査結果について(新潟県)
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/653534_1933250_misc.pdf
“直行特急”実現へ!新幹線通らない新潟~上越…アクセス改善目指し協議続く「できるだけ早く目に見える形で達成を」(NST新潟総合テレビ 2025年6月3日)
https://www.fnn.jp/articles/-/881566