【2025年9月24日】東京都葛飾区は、新金貨物線(JR総武本線貨物支線)の旅客化構想について、新小岩~金町をBRTで整備する方針を固めました。複線化用に確保された用地をバス専用道として整備するとしています。
葛飾区では、新金貨物線の旅客化に関する検討会を2022年に設置。LRTやBRTを活用した新たな交通システムを検討してきました。その結果、事業性や早期実現などの点でBRTでの整備が適切と判断。「新金線を活用した新たな交通システム整備構想骨子(案)」にまとめ、区議会に報告しています。
設置する駅数は10駅ほど、運行本数はピーク時で毎時10本(オフピークは毎時6本)を想定しています。葛飾区では、この骨子案をもとに事業化計画の策定に着手し、早期実現をめざして取り組むとしています。
【解説】葛飾区を南北に縦断する新交通システムの実現へ
葛飾区には、JR総武本線や常磐線、京成本線など、区を東西に走る鉄道はありますが、南北につなぐ旅客鉄道はなく路線バスに依存しています。ただ、定時性や速達性、輸送力などの観点で区の拠点間移動をバスのみに依存するのは、区民に不便をかけますし、人口減少を見据えた将来のまちづくりにも影響を及ぼすでしょう。
そこで着目したのが、区を南北に縦断する新金貨物線の旅客化構想です。新金貨物線は貨物専用線で、1日9本の貨物列車(2025年現在・臨時列車を除く)が運行しています。ここを旅客化することで、新小岩駅(総武本線)や京成高砂駅(京成本線)、金町駅(常磐線)などの拠点間移動がスムーズになると、葛飾区は考えたのです。
葛飾区によると、新金貨物線の旅客化構想は1994年から検討しており、線路を保有するJR東日本とも意見交換をしていたようです。ただ、想定需要に対して事業費が高いなど旅客線の整備には課題も多く、なかなか前に進みませんでした。
新交通システムを活用した検討会が発足
新金貨物線の旅客化構想が進展しないなか、国は地域公共交通活性化再生法を施行します。この法律にもとづく国の支援制度を活用して、新規路線計画を進める自治体がありました。宇都宮市のLRT構想(宇都宮ライトレール)です。
この事例に、葛飾区は着目。LRTなら、1日約3万人と想定される新金線の需要にピッタリな交通モードですし、事業費の一部を国が支援するため区の負担を抑えられます。
そこで葛飾区は、JR東日本、京成電鉄、有識者などで構成される「新金線旅客化検討委員会」を2022年に設置。LRTやBRTなどの新交通システムによる整備も含め、本格的に議論することになったのです。検討委員会は、担当者レベルの幹事会を含めて10回開催。最後の検討委員会(2025年1月)では整備方法の案などを報告書にまとめ、葛飾区に提出されます。
この報告書には、大きく3つの整備方法が示されていました。
(1)貨物線と旅客線の共用
(2)貨物線の隣に旅客線(LRT)を整備
(3)貨物線の隣に専用道路(BRT)を整備
(1)は、既存の貨物線の線路を使って旅客列車(LRT)を運行する方法。(2)と(3)は、貨物線の複線化用として確保された用地に、「旅客列車(LRT)の専用線」または「バス専用道(BRT)」を新たに整備するという計画です。これらの需要予測や概算事業費など、事業性に関する試算結果も報告書には記載されています。
■事業性の試算結果
(1)貨物線と共用 | (2)旅客線を整備 | (3)専用道路を整備 | |
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全線所要時間 | 約17~21分 | 約26~28分 | 約26~28分 |
需要予測 | 約3.7~4.4万人/日 | 約2.9~3.3万人/日 | 約2.9~3.0万人/日 |
概算事業費 | 約450~800億円 | 約700~800億円 | 約320~560億円 |
費用便益比 | 約1.2~1.6 | 約0.8~0.9 | 約1.1~1.7 |
概算事業費をみると、既存の貨物線を活用する(1)でも約450~800億円が必要とされています。これだけ高額になる理由は、一部区間で「高架化が必要だから」です。
一例として金町駅には、旅客線のホームを新たに整備する余地がなく、高架化などの対策が必要になります。高架にせず地上の駅前広場にホームを設置する場合でも、広場の再整備が必要です。
また、国道6号と交差する部分も高架化が検討されています。現状の新金貨物線は、道路と平面交差のため列車が通過する際には遮断されますが、貨物列車は1日9本しかなく道路に大きな影響を与えません。しかし、旅客列車(LRT)はピーク時で毎時8本の運行を見込んでいます。ピーク時は国道6号も渋滞しますから、遮断時間が増えればさらに激化するのは明白です。それを回避するうえで、国道周辺の高架化も検討されています。
ほかにも、京成本線と交差する部分など高架化を検討している区間があり、その距離は(1)が約1.4~2.8km、(2)が2.2~2.8km、(3)が0~1.9kmと検討会は報告しています。
葛飾区がBRTでの整備を決めた理由
検討会の報告書を受けて、葛飾区は「旅客化方針検討委員会」を設置。3つの整備方法からひとつに絞り込み、「新金線を活用した新たな交通システム整備構想骨子(案)」を策定します。
葛飾区は「BRTでの整備」を選びました。その理由は、先述の事業性の試算結果を見てもわかるでしょう。BRTなら、金町駅では駅前広場で発着させたり国道6号も平面交差できたりと、高架化をしなくても整備でき事業費を抑えられます。また、定時性や速達性に優れ、輸送力を確保しやすい点でも、BRTが適切な整備方法であったといえます。
さらに、早期実現をしやすい点も決め手になったようです。複線用地を道路に整備すればBRTを運行できますし、高架化する場合でも完成前は一般道路を走らせて完成後に高架のルートを変えるといった柔軟な対応もできます。
このように葛飾区では、段階的に進めながらBRTを整備していく模様です。なお運行開始の時期について、葛飾区では当初2030年頃を目指していましたが、道路の整備にくわえ車両の新造や運行事業者の決定など対応しなければならないことも多く、開始時期は未定のようです。魅力あるまちづくりを進めるうえでも、BRTの早期実現を待ちたいところです。
参考URL
新金線の旅客化検討(葛飾区)
https://www.city.katsushika.lg.jp/planning/1030243/1003616/1023798.html