【2025年2月25日】茨城県は、つくばエクスプレス(TX)の土浦延伸構想について、事業計画の素案を公表しました。
素案によると延伸する区間は、つくば~新土浦(仮称)の約10km。中間駅は1駅で、新土浦駅ではJR土浦駅(常磐線)と約4分で乗り換えできるとしています。所要時間は、つくば~土浦が9分。秋葉原での乗り換え時間を含めた東京~土浦は約74分となり、常磐線快速を利用するより約9分早く到着するそうです。概算事業費は約1,320億円と見積もっています。
茨城県を含む沿線自治体は、東京~秋葉原の延伸も構想しています。これについて茨城県は、交通政策審議会ですでに答申されている東京駅延伸と一体で進める方針で、早ければ2045年の開業をめざすとしています。
【解説】TX土浦延伸は実現するのか?「盛られた」需要予測に危うさも
つくばエクスプレスは、秋葉原~つくばを結ぶ第三セクターの鉄道です。開業は2005年。沿線地域の人口増加が頭打ちするなかでの開業でしたが、宅地開発が進むなど利用者数は飛躍的に増加。開業前の予測では、2025年度(開業20年後)に1日約31.5万人とされましたが、2024年度上期の時点で1日約40.3万人と予測を上回る結果になっています。
経営も安泰で、茨城県などの沿線自治体は延伸構想を掲げます。この延伸構想には、大きく2つあります。ひとつが「東京駅への延伸」、もうひとつが「つくばから先への延伸」です。
東京駅への延伸計画(約2km)は、2016年の交通政策審議会答申で「国際競争力の強化に資するプロジェクト」と位置付けられ、2021年には都心部・臨海地域地下鉄との接続も検討。JR東日本が進める「羽田空港アクセス線(仮称)」との接続も検討されています。
一方、つくばから先への延伸計画について、茨城県は「土浦」「茨城空港」「水戸」「筑波山」の4ルートで調査を開始。需要予測や採算性、まちづくりなどの観点から、2023年6月に土浦への延伸が決定します。ただし、収支予測はいずれのルートも赤字です。費用便益分析(B/C)は、もっとも高い土浦で0.6しかなく、第三者委員会などから「採算性や費用対効果の面で課題がある」と指摘されました。
ただ、費用便益分析の方法は、ひとつではありません。茨城県は「応用都市経済モデル」という方法で、再びシミュレーションしたのです。

出典:茨城県「つくばエクスプレス(TX)延伸構想茨城県の事業計画素案を公表します」
応用都市経済モデルとは、鉄道の延伸により移住者の増加や企業立地の推進といった、需要拡大を見据えて試算する方法です。つくばエクスプレスのように、当初の予測を上回るペースで利用者数を伸ばしてきた鉄道事業者だからできる試算方法といえるでしょう。
再試算の結果、当初「8,600人の増加」としていた1日の利用者数は、「2万2,000~2万5,000人の増加」へ大幅アップ。費用便益分析も1.6になり、延伸開業から43年後に建設費の借入金を完済できるという結果になったそうです。
ここで疑問に感じるのが、「つくばと土浦の移動需要は、そんなにあるのか?」という点です。茨城県によると、つくば市と土浦市の流動量は1日7~8万人。3人に1人がつくばエクスプレスに転換すれば、2万2,000~2万5,000人の増加は実現可能でしょう。
とはいえ、当初の約3倍に上振れした需要予測には、少し危うさも感じます。開業をめざす2045年は、つくば市も土浦市も人口減少時代に入る見込みです。とくに土浦市は、2020年と比べて約13%も減少(国立社会保障・人口問題研究所「地域別将来推計人口」のデータをもとに筆者算出)。今後のまちづくりで「どれだけ交流人口を増やせるか」も、土浦延伸を実現するためのポイントとなりそうです。
なお、つくば~新土浦では上下分離方式の採用を想定しており、単年度でみれば収支は黒字化すると推測されます。
また、東京駅への延伸開業も同時に実現すれば、東京~土浦の所要時間は約57分に短縮。常磐線より約26分も早く東京駅に到着できます。くわえて、都心部・臨海地域地下鉄や羽田空港アクセス線との接続も実現すれば、つくばエクスプレスの価値は飛躍的に上昇するでしょう。ちなみに、東京駅延伸とあわせた総事業費は約3,070億円、費用便益分析は1.35で延伸開業から27年後に黒字化するそうです。
茨城県は今後、埼玉県や千葉県、東京都、国土交通省と素案への理解を促す協議をしていく方針です。
【参考URL】
つくばエクスプレス(TX)延伸構想事業計画素案(茨城県)
https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/kotsuseisaku/tetsudo/documents/tx-ibaraki-plan_20250225.pdf
つくばエクスプレス(TX)県内延伸調査の結果について
https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/kotsuseisaku/tetsudo/documents/03tyousa0419.pdf
地域別将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所)
https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/t-page.asp
その他の鉄道協議会ニュース
JR津軽線の代行交通 – 2025年度より乗降場所を大幅に増加
【2025年2月26日】JR東日本は、津軽線の代行バスと乗り合いタクシー「わんタク定時便」の乗降箇所を、2025年度から大幅に増やす計画を発表しました。
わんタク定時便は現在、蟹田駅から龍飛埼灯台までの区間に14か所の乗降箇所がありますが、2025年度からは「外ヶ浜中央病院」「青函トンネル記念館」など29か所を追加。乗降箇所は43か所になります。また代行バスは、現在の10か所から18か所にします。
代行交通が運行される津軽線の蟹田~三厩は、2027年春の廃止が確定していますが、その代替交通の利便性向上や利用者増加の検証も含めて、実施していくとみられます。
※JR津軽線(蟹田~三厩)が復旧できなかった経緯について、以下の記事で詳しく解説しています。
和倉温泉駅に直通する特急サンダーバードの復活を要望 – 石川県七尾市
【2025年2月26日】七尾市は、特急サンダーバードの運行再開に関する要望書を、石川県に提出しました。七尾市では2024年3月まで、JR七尾線の和倉温泉駅に特急サンダーバードが1日1往復乗り入れ、大阪や京都と直通運行していました。ただ、北陸新幹線の敦賀延伸にともない、現在は運行していません。
要望書には、能登半島地震からの復興には関西方面からの直通列車が欠かせないとし、まずは臨時列車の実証運行を要望。将来的には定期運行の復活をめざし、県からもJR西日本に働きかけることを求めています。要望書を受けた石川県の馳知事は「復興の大きな弾みとなる」「乗り換えなしの効果は臨時便でもはかりしれない」などと伝え、近くJR西日本に要望するそうです。
※特急サンダーバードが七尾線の和倉温泉駅まで直通運行することになった経緯は、以下の記事で詳しく解説しています。
JR東日本がライドシェアに参入 – 千葉県で実証実験開始
【2025年3月1日】千葉県南房総市と館山市は、ライドシェアの実証実験を2025年3月3日より始めます。
この実証実験は、2024年9月にJR東日本が南房総・館山地域公共交通活性化協議会で提案。JR東日本の社員がライドシェア専任のドライバーとなり、駅レンタカーの車両で運行します。いわゆる「公共ライドシェア」という枠組みで、運行主体は自治体(協議会)です。運行時間は、夜8時から翌朝7時まで。路線バスやタクシーが少ない時間帯を中心に、運行するそうです。
JR東日本では、秋田県仙北市でもライドシェアの実証実験を計画するほか、バスやタクシーのドライバー不足に課題を抱える地域で、協力姿勢を示しています。