【2026年4月23日】財務省は、建設が進む北海道新幹線の札幌延伸工事に関する最新の費用対効果(B/C)を、財政制度等審議会で公表しました。
北海道新幹線の札幌延伸工事は工期延長や資材高騰などの影響で、事業費が最大1.2兆円増えると予測されています。これを受けて財務省が事業を再評価した結果、全体の費用対効果は「0.6」、残事業でも「0.9」と、いずれも採算性の目安となる「1」を下回りました。国土交通省の評価基準では、両数値が1を割り込むと「基本的に中止」に該当する水準です。
財政制度等審議会は2026年6月までに意見をまとめ、財務大臣へ提言する予定です。
【解説】北海道新幹線の札幌延伸工事は中止になるのか?
整備新幹線を着工するには、5つの基本条件(着工5条件)を満たす必要があります。そのひとつに「投資効果(費用対効果:B/C)」もあります。ざっくりいうと、「建設費などの事業費」より「JR各社の増収分(=後の貸付料)や地域にもたらす便益」のほうが大きいとみなされたら、着工が認められるのです。
ただ、事業費や便益といった数値は、計画変更や景気変動などにより大きく変わることもあります。そのため財務省では、着工後も何か大きな変動があった際には、残りの事業費などを含めた費用対効果を再試算し、事業の継続または中止を判断するのです。
北海道新幹線の場合、札幌延伸が決まったのは2012年でした。このとき想定された事業費は7,283億円。一方の便益は8,139億円と試算され「便益のほうが大きい」とされました。便益で事業費を割った費用対効果(B/C)は「1.1」です。この数値が1を上回り続ければ、基本的に事業は継続します。
その後、工事計画の変更や物価高騰などさまざまな要因で、事業費・便益ともに膨らんでいきます。
2023年3月時点で再評価した際の事業費は2兆1,314億円、便益は1兆9,014億円。B/Cは「0.9」でした。この段階で事業費のほうが上回っていますが、残事業のB/Cは「1.3」で便益のほうが上回っていました。財務省は再評価の基準にもとづき「事業は継続するが事業内容の見直しを行う」として、札幌延伸工事は継続されたのです。
ところがその後になって、工事に大きな計画変更が発生します。巨大な岩塊群に阻まれトンネル掘削が難航するなど、複数箇所で工事進捗が遅れ始めたのです。
建設主体の鉄道・運輸機構は「2030年度末の開業予定は困難」と、国土交通省に報告。工期は8年前後延びるとされています。工期が延びれば建設費は増えます。さらに近年の物価高騰も、建設費増加の一因になります。鉄道・運輸機構は2025年12月に、再試算した建設費を報告。「最大で1兆2,000億円増えるおそれがある」と伝えました。
これを受けて財務省は、一定の条件下で補正した建設費を当てはめて、費用対効果を再試算。事業全体では3兆209億円となり、B/Cは「0.6」にまで下がったのです(便益は2023年と変わらず1兆9,014億円)。また、前回の試算では1を上回った残事業の試算結果も「0.9」に。いずれの数値も1を下回ったことで財務省は「基本的に中止」の水準であることを、2026年4月23日の財政制度等審議会で報告したのです。
■札幌延伸工事の費用対効果(B/C)
| 評価時期 | 全体事業のB/C | 残事業のB/C | 判定 |
|---|---|---|---|
| 2012年(着工時) | 1.1 | – | 採算性あり |
| 2023年3月(再評価) | 0.9 | 1.3 | 事業継続(見直しあり) |
| 2026年4月(今回) | 0.6 | 0.9 | 基本的に中止 |
東北新幹線の「接続利益」で費用対効果は改善する?
ただ、財務省は「物価上昇は便益の増加にもつながり得る」として、便益の再試算により費用対効果が1を上回る可能性も指摘しています。とはいえ、事業費と便益の差は1兆円以上。いくらインフレの時代とはいえ、この差を埋めるのは難しいのではないでしょうか。
こうしたなかで、財務省はもうひとつの可能性として「接続利益」についても触れています。接続利益とは、新幹線の延伸開業で受ける既存路線の増収効果のことです。
たとえば、北陸新幹線が敦賀まで延伸した際に、既存路線の高崎~長野では年間23億円の増収(接続利益)が生まれたと試算されています。同じ理論を北海道新幹線に当てはめると、札幌延伸開業により東北新幹線の利用者が増えることで、JR東日本などは「接続利益」が得られます。こうしたネットワーク効果による利益を便益に含めることで、「札幌延伸工事の費用対効果を改善できないか?」と、財務省は模索しているようです。
ただし、この利益はJRの増収分ですから整備新幹線の「貸付料」に反映されると考えられます。
国土交通省は2026年4月に、整備新幹線の貸付料に関する見直し案を提示し、支払期間を延長する方向性を示しました。これに対してJR各社は反発していますが、JR北海道からみれば複雑な心境でしょう。貸付料の延長に反対すれば、新幹線の札幌延伸開業が遠のき、JR北海道の経営はますます悪化する可能性があります。黄線区などのローカル線問題にも、大きな影響を与えるでしょう。逆に貸付料の延長に賛成すれば、後々経営を苦しめる一因になります。どちらに転んでも八方塞がりです。
財務省は工事中止を求めているわけではない
財務省の再評価を受けて、札幌延伸工事の中止が決まったわけではありません。というより、財務省が中止を求めることは考えにくいでしょう。
財務省も、かつては「効果がある事業」と認め、札幌延伸工事にGOサインを出したわけです。そして、これまで沿線自治体とあわせて1兆円以上の事業費を投じてきました。これにくわえ沿線自治体では、札幌延伸開業に合わせたまちづくり計画にも多額の投資をしています。
それを水泡に帰すようなことをすれば、沿線地域だけでなく日本経済に大打撃を与えることが考えられます。
とはいえ、今後生じる残事業費は2兆円以上。沿線地域以外の人からみると「効果がないものに、これ以上の税金を使うな」という意見もあるでしょう。大規模インフラ整備には、国民の理解も不可欠です。
こうした声があることも踏まえ、財務省は「増え続ける事業費の財源を、税金だけで賄っていいのか?」と指摘することが、財政制度等審議会で公表した目的であったと推測されます。人口減少は沿線地域や北海道だけでなく、日本全体で進んでいます。鉄道に使える財源の減少も予測されるなかで、整備新幹線の着工5条件にある「安定的な財源見通しの確保」も揺らぎ始めているのです。
では、足りなくなった財源を誰が穴埋めすればよいのでしょうか。財務省としては、もうひとりの受益者である「JR各社にも出してほしい」というのが本音でしょう。先述の接続利益や貸付料の延長などの提言も、財源確保の一環と考えれば筋が通ります。
整備新幹線計画は北海道以外にも、北陸や西九州などでも進んでいます。いずれの路線も建設費などの事業費をめぐり地元との話し合いが硬直しており、事業推進の難しさが顕在化してきました。新幹線の必要性に疑問視する声が増えるなかで、全国的な新幹線ネットワークの見直しが求められる時期なのかもしれません。
参考URL
人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財政各論Ⅰ)(財務省)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20260423/01.pdf