【NEWS】佐賀県と国交省が環境アセス実施に合意 – 西九州新幹線の現在地

西九州新幹線 協議会ニュース

【2026年7月17日】佐賀県と国土交通省は、西九州新幹線(九州新幹線西九州ルート)の未整備区間で、アセスメント(環境影響評価)を実施することに合意しました。未整備区間のルートは決まっていませんが、特定ルートを前提としないよう最大12kmの幅を持たせて実施。2026年度末までに事前調査を完了させ、2027年度から3~5年かけてアセスメントを進める計画です。

合意文書には、焦点となっていた佐賀県の財政負担にも言及。地方負担分に上限額を設けるなど国が特別に配慮するほか、長崎県に事業費の一部負担を求める協議を開くことにも触れています。

合意後の記者会見で、国土交通省の水嶋事務次官は「関係者で知恵を出し合って財源問題を考えたい」とコメント。また佐賀県の山口知事は「議論を前に進めるのは並大抵のことではなかった。今後議論は深まっていくと思う」と述べています。

【解説】未整備区間の環境アセス実施を佐賀県が認めた経緯

佐賀県と国土交通省が今回合意したのは、「アセスメント(環境影響評価)の実施」に関わる項目が中心です。未整備区間のルートが決まったわけではありません。また、フル規格での着工を佐賀県が認めたわけでもありません。

アセスメントとは、整備新幹線のような大規模開発事業を実施する前に、周辺の自然環境や住民生活に与える影響を調査・予測・評価する手続きのことです。

■アセスメント(環境影響評価)から事業着手までの流れ

アセスメントから事業着手までの流れ
▲左の枠内がアセスメントの流れ。その後、着工5条件に対する関係者への確認などを経て、整備新幹線は着工される。
出典:北陸新幹線早期全線開業実現大阪協議会

アセスメントは本来、ルートが決まってからでなければ実施できないものです。しかし国土交通省は、「特定のルートを前提とせず」に実施することを提案しています。これは、佐賀県が検討するルート案(佐賀空港ルートなど)が、実施エリア内(最大幅12km)に含まれることを確認できたからでしょう。佐賀県は、このエリアを広げて実施することを前提に、未整備区間のアセスメントを容認したのです。

両者が合意に至るまでに、実に6年もの歳月を要しました。佐賀県と国土交通省との協議の歴史を、振り返ります。

環境アセスへの同意は「ありえない」

西九州新幹線の未整備区間をめぐっては、国がFGT(フリーゲージトレイン)を断念しフル規格で整備すると決めた後、佐賀県と国土交通省による「幅広い協議(2020年6月~)」で議論を進めてきました。

その第2回(2020年7月15日開催)で、国土交通省はアセスメントの実施を提案しています。ただ、この時点で佐賀県はFGTでの整備を捨てていませんでした。また、アセスメントは本来ルートが決まってから実施されるものです。「アセスを実施した」という既成事実をもとに、国土交通省が勝手にルートを決めてしまう可能性も懸念されました。

そのため佐賀県は、整備方法もルートも決まっていないのにアセスメントに同意するのは「ありえない」と断言。「手続きはおこなわない」という強い姿勢で、国土交通省の提案をはね返します。

その後、整備方法やルート案など国土交通省との協議は続きますが、両者の話はかみ合わず、佐賀県は「改めて地元で話し合いたい」と要望。2024年5月から佐賀県と長崎県、JR九州の三者で「意見交換会(三者協議)」を設置し、協議を始めます。

意見交換会では佐賀県が、ルートを決める以前に財政負担の問題を指摘。「地方負担分には、国の責任で何かがあってしかるべき」と伝えます。そもそも西九州新幹線が全線開業できないのは、「国がFGTの実用化を断念したこと」が事の発端です。それなのに、通常の負担割合を適用させようとする国の姿勢に、佐賀県としては納得がいかないのです。

佐賀県の意見に、長崎県とJR九州が同調。両者も国に対して、それぞれの立場から働きかけることを、2025年8月19日に確認します。

それから半月後の9月4日、長崎県の大石知事(当時)は石破首相(当時)と会談。佐賀県の費用負担軽減などを求める書面を提出します。またJR九州の古宮社長も、10月23日に国土交通省の水嶋事務次官と面会し、同様の要望をおこないました。

これと前後しますが、9月には水嶋事務次官が佐賀県の山口知事に対して面会を打診。10月8日から、西九州新幹線の未整備区間をめぐる新たな会議がスタートします。

議論が噛み合わず激しいバトルも

水嶋事務次官と山口知事の面会は、2026年7月までの約9カ月間に11回開催されます。水嶋事務次官は、佐賀県の意向に寄り添えるよう丁寧な対応に努めました。

たとえば、佐賀県が問題視する財源負担について、地方負担分に一定の上限を設けたり、地方交付税措置率の上限超えが適用できるよう関係省庁に掛け合ったりと、他の整備新幹線にはない「特別の配慮」をおこなうと提案しています。

また、西九州新幹線は長崎県の受益が大きいとして「長崎県との共同負担」を提言。長崎県の意向を確認するうえで、両県で協議することも提案しています。

並行在来線問題についても、「現行の経営形態を維持すること」を念頭に、国土交通省がJR九州に要請すると提言。仮に佐賀駅ルートになった場合でも、在来線(長崎本線など)の利便性が低下しないよう運行本数の維持などを国土交通省からも伝えると約束します。

このほか、江北~諫早の在来線(上下分離区間)で交通系ICカードの導入推進、有明海沿岸道路や佐賀唐津道路の整備推進、佐賀空港を含めた北部九州地域の空港の「あり方」に関する検討調査など、地域振興にも国土交通省が積極的に協力するとしています。

こうした国土交通省の「譲歩」が続くなかで開かれた、2026年4月16日の面会。水嶋事務次官は、未整備区間のアセスメント実施を提案します。膠着状態にある事業を一歩でも前進させようと、水嶋事務次官が進言したのです。

しかし、水嶋事務次官が示したアセスメントの実施エリアには、佐賀空港の周辺地域が入っていませんでした。国土交通省としては、「佐賀駅ルートで新幹線をつくりたい」という思惑があったのでしょう。これに警戒した山口知事は、佐賀空港周辺を含めた広域でアセスメントを実施するように要望。エリアを広げることで、複数の選択肢をフラットに比較検討できるように求めたのです。

この要望を受けて国土交通省は、北陸新幹線の事例を参考に最大12kmの幅を持たせたアセスメント実施を検討。佐賀空港周辺を実施エリアに入れるとともに、事前調査で技術的な課題などを確認しながら進めることを提言し、山口知事の合意を取り付けます。

水嶋事務次官と山口知事は、かつて官僚仲間だったそうですが、協議では議論がかみ合わず激しいバトルを繰り広げたこともあったようです。合意後の記者会見で、水嶋事務次官は「(山口知事に)つかみかかってしまうんじゃないか」と語り、山口知事も「(どちらか)片方がいなくなるんじゃないか」と思ったこともあったようです。

しかし、互いの意見や主張を尊重しながら本音で語り合うなかで、両者の関係は雪解けへと向かいます。

そして2026年7月17日、佐賀県と国土交通省は「九州新幹線西九州ルートの在り方に関する二者合意」を締結。事業化に向けて一歩前進するに至ったのです。

必要な合意形成が増えた?着工までの長い道のり

アセスメント実施をはじめ、佐賀県と国土交通省は、さまざまなことを合意しました。しかし、未整備区間の着工には、解決しなければならない問題が山積しています。

そのひとつが、ルート案です。国土交通省としては「佐賀駅ルート」を推進したい考えです。長崎県とJR九州も、佐賀駅ルートを求めています。一方で佐賀県は、佐賀空港ルートについても検討しており、明確に決めたわけではありません。利便性や採算性などの観点でいえば佐賀駅ルートが最適ですが、県民の意向を踏まえてまとめられるかが、佐賀県への宿題になっています。

■西九州新幹線のルート案(国土交通省提示)

西九州新幹線の未整備区間のルート案
▲未整備区間のルート案には、3つの候補が挙がっている。
出典:国土交通省鉄道局「ご説明資料」

並行在来線問題について、合意書には「現行の経営形態を維持することを念頭に」と記されています。JR九州からみれば、「在来線を経営分離するなよ」と釘を刺しているようにも聞こえますし、くわえて運行本数の確保も約束させようとしています。これにJR九州が賛同するかは、疑問が残ります。

そして最大の課題が、財源負担です。合意書では、国の特別の配慮だけでなく、長崎県との共同負担についても触れています。つまり、佐賀県区間の工事費を「長崎県も一部負担してほしい」と伝えているのです。これに対して長崎県の平田知事は、2026年7月17日の記者会見で、条件を整理してすべてがクリアされたときに「(長崎県が)負担することは否定しない」と、慎重に含みを持たせています。

西九州新幹線が全線開通することで、長崎県には大きな受益が生じます。とはいえ、長崎県もかつて多額の事業費を負担したわけですから、負担額をめぐり両県の協議がこじれることも予想されるでしょう。

誰かに利益があれば、誰かが不利益を被る―そこをうまく調整し合意形成をめざすのが、協議の場です。アセスメントの実施期間は3~5年程度とされています。その間に、佐賀県、長崎県、そしてJR九州が納得できる合意を形成できるかが、これからの協議の焦点になりそうです。

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参考URL

鉄道局との協議の状況(佐賀県)
https://www.pref.saga.lg.jp/list05368.html

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