【整備新幹線】西九州新幹線が全線開業できない理由 – 翻弄された佐賀県の思い

西九州新幹線の起点 JR

2019年8月5日、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは、西九州新幹線の未整備区間について「フル規格」で整備する方針を固めました。この報告を聞いた佐賀県は、「また梯子を外された」と落胆。協議を求める国に対して「協議はできない」と強く反発します。

ただ佐賀県は、新幹線の建設を認めていないわけではありません。条件によっては、フル規格での建設も認めています。傍から見ると、西九州新幹線の全線開業を拒んでいるように感じる佐賀県は、何を望んでいるのでしょうか。

ここでは、2020年6月から始まった佐賀県と国土交通省との「幅広い協議」を振り返りながら、佐賀県の主張を詳しく見ていきます。

西九州新幹線(九州新幹線西九州ルート)の線区データ

協議対象の区間九州新幹線西九州ルート 博多~武雄温泉(営業キロは未定)

協議会参加団体

佐賀県、国土交通省

西九州新幹線のルート案
▲フル規格で整備する場合の案。赤のラインが佐賀駅を通る「アセスルート」、緑のラインが長崎自動車道方向に迂回する「北回りルート」、青のラインが佐賀空港を経由する「南回りルート」。ただし、ルート案はこれ以外にも検討されており、2024年7月時点では決まっていない。
出典:国土交通省鉄道局配布資料(概要ルート図)

西九州新幹線の未整備区間をめぐる「幅広い協議」

国の方針決定から1カ月後の2019年9月、赤羽国土交通省大臣(当時)は、佐賀県の山口知事と直接対話する考えを示します。対話は翌月からスタート。11月には山口知事が、未整備区間における「5つの方式」を示します。この5つの方式について「幅広い協議」をすることで大臣は約束。翌年から協議を始めることで合意します。

さて、ここで出てきた「5つの方式」とは、未整備区間を以下の方法で整備することを指します。

  1. フル規格
  2. ミニ新幹線
  3. スーパー特急方式
  4. FGTの導入
  5. 武雄温泉駅での対面乗換(現状維持)

このなかからひとつに絞り込むために、「両者が納得するまで議論する」ことになったのです。国土交通省からみると、協議を拒否してきた佐賀県が受け入れたわけですから、「一歩前進した」と前向きに捉えていました。しかし、佐賀県には「フル規格に誘導するための協議になるのではないか」という疑念があったのです。

2020年2月12日、佐賀県は「特定の選択肢に議論を誘導しない」ことを求める文書を国土交通省に送ります。これに対して国土交通省は、「5つの整備方式をフラットに並べて真摯に議論する」と約束。その後も、協議内容に関するやり取りを繰り返すなかで国土交通省は、佐賀県が国に強い不信感を抱いていることを知るのです。

西九州新幹線をめぐる「合意」と「約束違反」

2020年6月5日、国土交通省と佐賀県との「幅広い協議」の第1回が開かれます。

まず、国土交通省がこれまでの文書でのやり取りに関する補足説明をおこない、それに対して佐賀県の意見を聞くことになりました。佐賀県は「西九州新幹線の経緯から説明する必要がある」として、国に対する思いを語り始めます。

西九州新幹線の具体的なルート案が最初に決まったのは1992年です。このときの計画案では、博多~武雄(現:武雄温泉)は在来線を活用し、武雄~長崎は新規路線を整備する「スーパー特急方式」による整備でした。この計画案に、佐賀県は合意します。

なお、新規路線の線区ではJR九州から経営分離される並行在来線(肥前山口~諫早)の将来を決める必要があります。10年以上に及んだ協議の内容は、以下の記事で詳しく解説します。

さて、在来線活用区間については、2004年12月に国が「FGT(フリーゲージトレイン)の導入」を示します。このとき国は佐賀県に対して、「責任を持ってFGTの実現を推進する」と約束したそうです。

ただ、FGTの開発は困難を極めます。2016年3月、国はFGTの開発が遅れていることから「武雄温泉~長崎を先行開業させ、武雄温泉では対面乗換えにしたい」と佐賀県に申し入れます。佐賀県としては、FGTの開発を待つという選択肢もありましたが、長崎県など他地域の影響も考慮し、これに合意します。

ところが2017年7月、JR九州がFGTによる運営は困難と表明。一転して「フル規格」での整備を国に要望したのです。この要望を受けた国は、佐賀県と長崎県に意見聴取を実施。佐賀県は、実質負担額が約800億円以上と見積もられることから「フル規格は受け入れられない」と反発します。

しかし、2018年7月に与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームはFGTの開発を断念し、翌年8月に「フル規格」での整備方針を決めたのです。

こうした経緯から佐賀県は、「これまでの合意や約束が守られていない」と主張。フル規格に対しては、以下のような例えで反論しています。

佐賀県からしますと、お隣の家の方から、表通りに出て行くのに、あなたの庭に歩道を造ってくださいとお願いされたので、分かりました、それに協力をしましょうとなったわけです。やっていたら、後から、速く行きたいので、これは歩道じゃなくて、高速道路にしなさいと言われているようなものなんです。

出典:佐賀県「国土交通省鉄道局幹線鉄道課長と地域交流部長の面談(令和2年6月5日)」

未整備区間について、佐賀県はこれまで「フル規格で新幹線をつくってほしい」と求めたことは、一度もありません。その佐賀県に、フル規格でつくるために多額の費用を求めるのは「筋違いだ」というのが佐賀県の主張です。

これに対して国土交通省は、「新幹線はネットワークでつながるのが大事だ」と力説。お隣さんの通過道路ではなく、佐賀県にも交流人口が増えるなどのメリットがあると伝えます。また、FGTについては「国としての責任を痛感している」と謝罪します。

一方、佐賀県は「FGT断念の正式な説明を、我々は受けていない」と主張。このような状況になったのは、FGTの開発を国が一方的に断念したことにあると伝え、「国の責任やJRのコストを、佐賀県に転嫁されているような気がする」と吐露します。

国土交通省は、佐賀県の事情を踏まえたうえで「だからこそ、5つの方式で議論が必要だ」と、決して佐賀県との約束を反故したわけではないと伝えます。こうした議論が休憩を挟まず2時間40分も続き、第1回の「幅広い協議」は幕を閉じたのです。

国のメリットは佐賀県のデメリット?

「幅広い協議」の第2回は2020年7月15日に開催されます。この場で国土交通省は、環境影響評価(環境アセスメント)の手続きを勧めます。しかし、佐賀県はルートなど何も決まっていない段階で「評価するのはおかしい」と反論。佐賀県の合意がない限り、「環境影響評価を含めて事業化に向けた手続きをおこなわない」という強い姿勢を示します。

それから3カ月後の2020年10月23日に開かれた、第3回の協議。ここでいよいよ「5つの方式」に関する幅広い協議が始まります。

国土交通省は、各方式を比較した資料を提示します。ただ、この資料のなかに「FGTは国が断念したため、選択肢から除外する」という内容が記載されていました。国土交通省としては、佐賀県が「FGT断念の正式な説明を受けていない」と主張したのを受け、改めて経緯を説明しようと資料を用意したのです。

ところが佐賀県は、国土交通省の資料にはないFGT開発の詳しい経緯を説明し、「実現できない理由を確認するための議論をするつもりはない。幅広く議論するのが、この協議会の目的だ」と主張。仮に、国が「FGTはダメです」と言うなら、佐賀県は「フル規格はダメです」ということになり、幅広い協議ができなくなると伝えます。

さらに佐賀県は、各方式を比較したメリット・デメリットについて「国のメリットが佐賀県のメリットとは限らない」ことも指摘します。

■国土交通省が考える「5つの方式」のメリット・デメリット

フル規格・時間短縮効果や収支改善効果が大きく、新幹線ネットワークの整備効果が最も発揮される
・建設費が最も大きい
・在来線の取扱いについて協議が必要
ミニ新幹線・フル規格より建設費は小さいが、時間短縮効果は限定的
・標準軌化工事の期間中、在来線利用者の利便性が損なわれる
スーパー特急方式・標準軌で建設中の区間を狭軌へ改軌する工事が必要(開業時期が遅れる)
・対面乗換方式と比べて時間短縮効果が見込めない
・新車両の開発が必要
FGTの導入・高速走行車両の開発は断念
武雄温泉駅での対面乗換・恒久的に対面乗換が必要なため利便性が損なわれる
・武雄温泉~長崎間の開業に必要な費用以外の建設費がかからない
参考:国土交通省「ご説明資料」をもとに筆者作成

たとえば、武雄温泉駅での対面乗換について国土交通省は「乗り換えにより利便性が損なわれる」というデメリットを挙げています。これに対して佐賀県は、「フル規格にすると、在来線からの乗り換えが発生する」と説明。しかも、その乗り換えはフロアが異なるため「対面乗換より利便性が損なわれる」と訴えます。国からみればフル規格のメリットが大きくても、佐賀県民からみると「フル規格はデメリットのほうが大きい」という主張です。

これに対して国土交通省は「在来線の課題は検討する必要があるが、それよりも新幹線による地域振興や災害対応などのメリットのほうが大きい」と反論。武雄温泉駅での対面乗換をなくし、高速ネットワークがつながることが佐賀県にとっても効果が大きいと、フル規格のメリットを訴求します。

一方で佐賀県は、フル規格に反対しているわけではないことも説明。「佐賀空港を通るルートや、佐賀市の北部を通るルートなどの話が県議会で出ている」ことを伝え、ルート案はゼロベースから協議することを約束します。

そのうえで、「フル規格のルート案が複数あるように、FGTにもいろんなバリエーションがあって、実現できる方法があるのではないか」と国土交通省を諭し、FGTも選択肢に入れる考えを伝えたのです。

FGTによる西九州新幹線開業にこだわる佐賀県

第4回(2021年5月31日)では、5つの方式について佐賀県が抱く課題を具体的に聞く会議になりました。

国土交通省は、概算建設費や投資効果などのほかに「どんな数字を示してほしいのか」と、佐賀県に意見を求めます。また、前回佐賀県がFGTをあきらめていないと主張したことに対して「FGTを実現できる方法として、どんな考えがあるのか?」という質問も投げかけます。

数字に関する質問の回答として、佐賀県は国が示す数字に疑問があることを伝えます。たとえば、フル規格開業によるJR九州の収支改善額について、国土交通省が示した資料には「年間86億円」と記載されていました。しかし、国土交通省はJR九州に相談していない事実を指摘。「JR九州に相談せず、どうやって86億円という額を算出したのか?」という疑問を投げかけます。

ちなみに、この収支改善額は新幹線の開業後にJR九州が支払う「貸付料」と同等の額です。建設費を出す佐賀県からみれば、「JR九州に確認していない貸付料で本当に償還できるのか?」という不安につながります。

また、5つの方式の所要時間にも佐賀県は食いつきます。

■所要時間(長崎~博多)の比較

フル規格ミニ新幹線スーパー特急FGT対面乗換
51分1時間13~19分1時間20分1時間20分1時間20分
参考:国土交通省「ご説明資料」をもとに筆者作成

圧倒的に速いのはフル規格ですが、他の4案は1時間20分前後でほぼ同じです。

このうちスーパー特急方式の最高時速は200kmとされました。ということは、最高時速260km以上とされたFGTを時速200kmで走らせても、「所要時間は変わらないのでは?」という疑問が生まれます。そこで佐賀県は「時速200kmでFGTを走らせれば、安全性の問題を解決できるのではないか?」と提言。FGTなら武雄温泉での対面乗換がなくなるため、国土交通省が懸念する利便性の課題を解決できることも伝えます。

国土交通省は「FGTは断念した」と改めて説明しますが、佐賀県は「時速200kmで耐久テストをしたのか?」「200kmのFGTもあっていいのでは?」「可能性があるならFGTも候補として残すべきだ」と詰め寄ります。

なお、FGTの技術的な話については、第6回の協議(2022年2月10日)で開発に携わった技術部門の担当者を交えておこっています。この場で担当者は、「高速走行する新幹線には厳格な安全性が求められる」として、時速200kmでも実現できないこと説明します。

一方の佐賀県は、2005年6月に国土交通省からFGTの開発状況について「時速220~240kmで実用化の目途がついている」という説明を受けたと指摘。実現できない一因とされた車軸の摩耗についても、「メッキ厚を上げて、かつ時速200kmで走行させれば実現できるのではないか」「走行実験を再度やってほしい」と主張します。

しかし国土交通省は、耐久性や実用化の点で実現不可能だと繰り返すのに終始し、佐賀県を納得させることはできなかったのです。

佐賀駅を通るルートのフル規格は「失うものが大きい」

第4回の協議では、フル規格で整備する場合のルート案も話し合われました。佐賀県は県議会で出された案として、佐賀空港を通る「南回りルート案」と、佐賀市の北部を通る「北回りルート案」が候補として出たことを説明します。

このうち南回りルート案は、佐賀空港が福岡空港の代替機能を果たすことが期待され、「新幹線を組み合わせれば相当の経済効果が出るのでは?」という意見が出たようです。一方の北回りルートについては「高速道路に近く、貨物ターミナルをつくれる」といった意見が出たことを伝えます。

こうした意見について、佐賀県は「将来の地域発展を見据えてルートを検討する必要がある」と説明。国土交通省にも、長期的かつ幅広い視点で「新幹線のある佐賀県の明るい未来について提案してほしい」と懇願します。

この意向をくみ、第5回(2021年11月22日)の協議では、フル規格のルート案について話し合われています。ルート案は、佐賀県が提言した「南回りルート案」と「北回りルート案」、そして従来の佐賀駅を通る通称「アセスルート」の3案です。それぞれのルートについて、比較検証した資料を国土交通省が提示します。その資料には、建設費や投資効果(B/C)なども示されていました。

■各ルートの概算建設費と効果

アセスルート北回りルート南回りルート
概算建設費約6,200億円約5,700~6,200億円約1兆1,300億円
投資効果(B/C)3.12.6~2.81.3
収支改善効果(年間)約86億円約62~75億円約0億円
参考:国土交通省「ご説明資料」をもとに筆者作成

山間部を通る北回りルートは、トンネルや高架橋が増えるものの、ルートによっては建設費が抑えられるというメリットがあるようです。ただし、佐賀駅を通らないため集客が十分に期待できず、投資効果や収支改善効果はアセスルートより低いと国土交通省は説明します。

一方の南回りルートは、筑後船小屋が起点になると説明。筑後川の区間は橋ではなく、トンネルにします。これは、川の流量変化や有明海のノリ漁場への影響を抑えるためです。ただ、地盤が軟弱なため建設費が大幅に増加。収支改善効果は0円で、「JR九州から貸付料が得られない」という大きな課題が生まれます。

これらの結果から、国土交通省は「佐賀駅を通るアセスルートがベストな選択肢」と結論付けたのです。

これに佐賀県は、「アセスルートは考えられない」と否定。その理由として、佐賀県が用意した資料を使って説明します。

■JRによる旅客流動(2018年度)

佐賀県のJRによる旅客流動
出典:佐賀県「JRによる旅客流動(平成30年度)」

佐賀県にとって、つながりが深いのは福岡県です。仮に佐賀駅を通るアセスルートで決まれば、在来線特急がなくなり利用者には乗換負担が生じます。また、国土交通省が示した「交流人口が増える」というメリットについて、関西圏との旅客流動は現状でも年間30万人弱。フル規格の新幹線をつくり2~3倍に増えたとしても100万人に満たず、福岡県との流動の15分の1以下に過ぎません。

つまり、在来線が不便になると福岡県との流動に影響が出て「県民生活に大きな影響が出る」というのが佐賀県の主張です。

もっとも、どのルートであっても新幹線ができれば在来線特急はなくなるでしょう。これについて佐賀県は、国土交通省の資料に特急がなくなる影響に関する考察がないことを指摘。前回の協議で佐賀県が求めた「長期的かつ幅広い視点で新幹線のある地域の未来」についての説明がないと伝えます。

これに対して国土交通省は、「地域にいちばん詳しい佐賀県の考えがないと、我々が佐賀県の将来を示すのは難しい」と反論。すると佐賀県は、「佐賀県に何か考えがあるのかと言われると、我々にもない」と、さらに反論したのです。

佐賀県は、フル規格の新幹線を求めたことは一度もありません。ゆえに、フル規格で新幹線ができる佐賀県の将来については「考えがない」と答えるしかないのです。だからこそ、国土交通省に「新幹線のある佐賀県の明るい将来について提案してほしい」と懇願したわけです。その期待に、国土交通省は応えられませんでした。

平行線をたどり続ける「幅広い協議」

第6回(2022年2月10日)は、先述の通りFGTの話し合いがおこなわれ、進展がないまま終了します。

それから1年後の2023年2月9日に開催された、第7回の「幅広い協議」。国土交通省は、フル規格のルート案のうち空港を経由する南回りルートについて「課題が多く、現実的に選択肢とはなり得ない」と説明します。これに対して佐賀県は、「ルートについて何も協議していない。他のルートも考えていいはずなのに、なぜここと決めてしまい調査するのか?」と疑問を投げかけます。

国土交通省としては、これまでの協議で議論された選択肢のなかから、「そろそろ絞り込みたい」という思惑がありました。しかし、佐賀県としては議論の途中であり「絞り込む段階ではない」という考えだったのです。

続けて佐賀県は、「新幹線をどのように生かし、どんな未来や希望が描けるのか。国土交通省としての考えを出してほしい」と、以前の協議で伝えたことを改めて懇願します。

今我々はないと思っているけれども、川島課長さんはフルだと主張される。主張されるのであれば、佐賀県がフルを考えてもいいと思えるものがあるのかどうか。まずは鉄道局なりに大きな視点で、長期的な視点で、幅広い視点で、それいいですねというものが見えるのかどうか。見えたら議論も深まっていくかもしれないし、深まらないかもしれない。ただ、議論を進めようとしたときには、まずそこがないと、ルートから入りましょうということにはなかなかならないと思うんですよね。

出典:佐賀県「九州新幹線西九州ルートに関する幅広い協議(令和5年2月9日)」

一方の国土交通省からみれば、佐賀県は求めるばかりで何か提案しても否定する。「一緒に考えよう」「課題を解決しよう」といった、協力姿勢を見せない。そういった不満も募らせていました。

とはいえ、佐賀県はフル規格の新幹線整備を求めていません。「いらない」と言っている人に、「一緒に必要性を考えよう」と求めること自体に、無理があったのです。

また、幅広い協議と言いながら国土交通省には「アセスルートをフル規格で整備したい」という思惑がありました。これは国土交通省の要望というより、国や長崎県、JR九州の要望ともいえるでしょう。これに対して佐賀県は、「アセスルートはあり得ない」と全否定しています。この状況で何を話し合っても平行線をたどるのは、当たり前かもしれません。

両者だけの協議では埒が明かないと考えた国土交通省は、「JR九州を交えて議論させてほしい」と懇願します。在来線の利便性が損なわれるという佐賀県の不安を、JR九州と一緒に解消していこうという提案です。これに対して佐賀県は、「結局、佐賀県民がどれだけ利便性の低下を受け入れられるのかという話になると思う」と否定的な考えを示し、JR九州の参加を断ります。

互いに万策尽きて先を見通せなくなった「幅広い協議」は、この第7回を最後に1年以上開催されていません。

原点回帰で地元での合意形成をめざすことに

「幅広い協議」の進展がないなか、2023年12月28日に国土交通省と佐賀県は意見交換をおこないます。このなかで国土交通省は、改めて佐賀駅を通るアセスルートをフル規格で整備することを求めたのに対し、佐賀県はFGTの断念が諸問題の根幹であることとフル規格での整備費用は負担できないと、従来通りの主張を繰り広げたようです。

ただ、佐賀県からは「原点に立ち返り、地元で合意形成をしたい」と長崎県やJR九州と新たな協議をつくる考えを示します。1992年に西九州新幹線のルート案を決めた際は、佐賀県、長崎県、福岡県が議論をして、博多~武雄は在来線を活用することで合意しました。しかし、FGTの断念によりこの合意は白紙になったため、再び地元で合意形成が必要だという考えです。

もともと整備新幹線というのは、本来地元でこうしたいよねということがあって、それを前提にしてやり取りをする話なんですよね。でも、いわゆる新鳥栖-武雄温泉間って毎回言っていますけど、未合意区間で何もないんですよ。だから、何もない状態で、いきなり国交省とこういうやり取りをしているということのほうがむしろ異常で、そういう意味で、地元できちっと合意形成をするということをやらないと動かないんじゃないですか、ということを申し上げました。

出典:佐賀県「協議後会見(南里副知事)(令和5年12月28日)」

この提言をもとに、2024年5月13日より佐賀県と長崎県、JR九州の三者協議が始まります。ただ、武雄温泉~長崎がすでにフル規格で開業しており、当時とは状況が異なります。長崎県とJR九州もアセスルートのフル規格整備を求めるのは当然ですし、結局のところ「佐賀県と国が協議するのが望ましいのでは?」と、三者協議に疑問を投げかけているようです。

西九州新幹線の未整備区間をめぐる話し合いは、新たな段階に入りましたが、先行きの見通せない状況は、まだまだ続きそうです。

※長崎本線の並行在来線(江北~諫早)をめぐる国と佐賀県、沿線自治体との協議は、以下のページで詳しく解説しています。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道局との協議の状況(佐賀県)
https://www.pref.saga.lg.jp/list05368.html

西九州ルートの経緯(佐賀県)
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00374236/index.html

与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会ヒアリング資料(佐賀県)
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00357966/3_57966_67242_up_yycahydd.pdf

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