【JR東日本】吾妻線は全線存続できるか?かつての特急走行区間も廃止対象に

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吾妻線の終点・大前駅 JR
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吾妻線は、群馬県の渋川と大前を結ぶ、JR東日本のローカル線です。かつては万座・鹿沢口駅まで上野発の特急列車が運行されていましたが、現在は長野原草津口駅までに短縮。万座・鹿沢口駅を含む長野原草津口から大前の線区は、閑散としています。こうした状況に、JR東日本は2024年3月22日、長野原草津口から大前までの沿線自治体に対して、存続・廃止に関する協議を申し入れました。

吾妻線は全線存続できるのでしょうか。沿線自治体が組織する「渋川・吾妻地域在来線活性化協議会」や群馬県の利用促進の取り組みも交えながら、JR東日本との今後の協議を考察します。

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JR吾妻線の線区データ

協議対象の区間JR吾妻線 長野原草津口~大前(13.3km)
輸送密度(1987年→2019年)791→320
増減率-60%
赤字額(2019年)4億6,500万円
営業係数2,367
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

長野原町、嬬恋村、渋川市、中之条町、草津町、高山村、東吾妻町、群馬県

半世紀の歴史がある吾妻線の協議会

吾妻線の沿線自治体が、鉄道に関する協議の場を設置したのは1971年。国鉄時代のことで、吾妻線が全線電化された年でもあります。このとき設置したのは、「上越新幹線渋川市川島地区駅設置促進期成同盟会」という組織。当時、建設計画中だった上越新幹線の駅を、吾妻線と交差する渋川市川島エリアに設置を求めるのが、主な活動内容でした。

この活動は上越新幹線の開業後も続きますが、最終的に断念。ただ、長年にわたり地域活性化の取り組みを続けてきた組織であることから、吾妻線の利用促進を目的とした「渋川・吾妻地域在来線活性化協議会」に衣替えし、2003年から再スタートします。

ここで、沿線自治体の協議会が実施してきた主な利用促進の取り組みをまとめておきましょう。

  • 沿線ガイドマップの作成・配布(年1回の「協議会だより」の発行)
  • デジタル周遊スタンプラリーの実施
  • 地域イベントによる集客
  • SNSによる情報発信
  • フォトコンテストの実施
  • Suica利用駅の拡大要請

…など

Suicaについては協議会の申し入れもあり、吾妻線では3駅(中之条駅、長野原草津口駅、万座・鹿沢口駅)で利用できるようになりました。ただ、その他の駅に関しては利用者が少ないことなどを理由に、JR東日本はSuica端末機の設置を断っているようです。

群馬県が進める吾妻線の「アクションプログラム」

吾妻線の利用促進に関する取り組みは、群馬県でも進めています。群馬県は2019年2月に、「JR吾妻線利用促進アクションプログラム」という利用促進を喚起するための計画を策定します。このアクションプログラムは、2015年に国と群馬県が実施したパーソントリップ調査の結果を受けて策定されました。

パーソントリップ調査によると、吾妻線で通勤している人の割合はわずか3.1%。一方で、吾妻線を年に1回も利用しない人の割合は66%もいるという、厳しい結果が示されています。

この結果を受けてアクションプログラムでは、行政が中心となり駅周辺の整備をはじめ鉄道を利用しやすい街づくりをしていくと宣言。具体的には、パークアンドライドを整備し、年に1回も利用しない人の割合を改善する目標を掲げました。

▲JR吾妻線利用促進アクションプログラムの概要。マイカーからの転換を図り、吾妻線を利用しない人の割合を5年後(2024年度)には56%に改善する目標を掲げている。
出典:群馬県「どうなる?吾妻線。どうする!私たち。」

アクションプログラムには、一部の沿線自治体も協力しています。東吾妻町では、町長が出張する際に吾妻線を利用するなど、自らも利用促進に努めている姿勢を示しています。しかし、こうした取り組みが他の自治体に広がっていない様子もうかがえるのです。

○町長
郡内の首長で吾妻線を使っている人というのは私以外いないんですよね。軽井沢へ行ったり、月夜野の上毛高原駅へ行ったりしている人、首長もそういう人ばかりで、実際使っていないわけでありまして、私も極力、新前橋の市町村会館で会議があるときは原町駅から乗っていきます。そういうふうなことで、私もJR線を使っているという姿を見せることで、ぜひ使っていただきたいというふうに思っておるところでございます。

出典:東吾妻町議会会議録(令和元年第2回定例会)

吾妻線の「あり方」をJR東日本が協議を申し入れ

沿線自治体や群馬県が利用促進の取り組みを進めるものの、効果は限定的で吾妻線の利用者数は減少の一途をたどり続けています。

こうしたなか、JR東日本は2024年3月22日に吾妻線の沿線自治体に対して、「地域の総合的な交通体系に関する議論」を申し入れたと発表しました。端的にいえば、吾妻線の存続・廃止に関する協議を、沿線自治体に申し入れたのです。対象線区は、長野原草津口から大前までの13.3kmです。これに対して群馬県や沿線自治体は、協議に参加する姿勢を示しています。

協議の申し入れがあった長野原草津口〜大前の輸送密度は、263人/日(2022年度)。利用促進策くらいで維持できるレベルではありません。こうした状況にJR東日本では、「存続・廃止の前提を置かず、地域の交通体系について沿線自治体と議論していきたい」と述べています。

該当線区を鉄道で存続させるのであれば、沿線自治体がJR東日本に支援をしていくことも必要でしょう。ただ、公的支援をする場合、該当線区の赤字額は約4億6,000万円。すべてとはいわないまでも、億単位の支援になるのは確実です。費用だけでみれば、路線バスやデマンド交通などの自動車で再構築するほうが有利でしょう。

なお群馬県は2023年3月に、地域鉄道に対する公的支援について「根拠あるデータにもとづいた議論が必要」として新たな法定協議会を設置しています。
この協議会は、公的支援を受けながら運営する上毛電鉄、上信電鉄、わたらせ渓谷鉄道で設置され、データに基づいた地域公共交通の再構築を進めています。

具体的には、利用者や観光客へのアンケート調査、沿線事業者や住民への意向調査などを実施。クロスセクター効果や他の交通モードに転換した場合の効果なども分析し、事業者に対する公的支援のあり方について検討を進めています。

吾妻線でも同様の調査分析をおこない、鉄道の価値や公的支援の妥当性などを評価していくものと推測されます。持続可能な地域公共交通に再構築するには、どのような交通モードが適しているのか。JR東日本と沿線自治体との協議が待たれます。

※JR東日本と沿線自治体との協議の先行事例として、久留里線(久留里~上総亀山)の協議も参考になります。久留里線の協議の流れは、以下のページで紹介します。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

JR吾妻線(長野原草津口・大前間)沿線地域の総合的な交通体系に関する議論の申入れについて(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2023/takasaki/20240322_ta01.pdf

平均通過人員2,000人/日未満の線区ごとの収支データ(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/pdf/2019.pdf

渋川・吾妻地域在来線活性化協議会
http://joetsu-agatsumarailline.com/

どうなる?吾妻線。どうする!私たち。(群馬県)
https://www.town.higashiagatsuma.gunma.jp/www/contents/1570521423144/files/gaiyouban.pdf

東吾妻町議会会議録(令和元年第2回定例会)
https://www.town.higashiagatsuma.gunma.jp/www/gikai/contents/1564123816866/files/teireikai6.pdf