【JR東日本】吾妻線は全線存続できるか?かつての特急走行区間も廃止対象に

吾妻線の終点・大前駅 JR

吾妻線は、群馬県の渋川と大前を結ぶ、JR東日本のローカル線です。かつては万座・鹿沢口駅まで上野発の特急列車が運行されていましたが、現在は長野原草津口駅までに短縮。万座・鹿沢口駅を含む長野原草津口から大前の線区は、閑散としています。こうした状況に、JR東日本は2024年3月22日、長野原草津口から大前までの沿線自治体に対して、存続・廃止に関する協議を申し入れました。

吾妻線は全線存続できるのでしょうか。沿線自治体や群馬県の利用促進の取り組みも交えながら、JR東日本との今後の協議を考察します。

JR吾妻線の線区データ

協議対象の区間JR吾妻線 長野原草津口~大前(13.3km)
輸送密度(1987年→2024年)791→278
増減率-65%
赤字額(2024年)4億4,800万円
営業係数4,790
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2024年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。

協議会参加団体

長野原町、嬬恋村、渋川市、中之条町、草津町、高山村、東吾妻町、群馬県

半世紀の歴史がある吾妻線の協議会

吾妻線の沿線自治体が、鉄道に関する協議の場を設置したのは1971年。国鉄時代のことで、吾妻線が全線電化された年でもあります。このとき設置したのは、「上越新幹線渋川市川島地区駅設置促進期成同盟会」という組織。当時、建設計画中だった上越新幹線の駅を、吾妻線と交差する渋川市川島エリアに設置を求めるのが、主な活動内容でした。

この活動は上越新幹線の開業後も続きますが、最終的に断念。ただ、長年にわたり地域活性化の取り組みを続けてきた組織であることから、吾妻線の利用促進を目的とした「渋川・吾妻地域在来線活性化協議会」に衣替えし、2003年から再スタートします。

ここで、沿線自治体の協議会が実施してきた主な利用促進の取り組みをまとめておきましょう。

  • 沿線ガイドマップの作成・配布(年1回の「協議会だより」の発行)
  • デジタル周遊スタンプラリーの実施
  • 地域イベントによる集客
  • SNSによる情報発信
  • フォトコンテストの実施
  • Suica利用駅の拡大要請

…など

Suicaについては協議会の申し入れもあり、吾妻線では3駅(中之条駅、長野原草津口駅、万座・鹿沢口駅)で利用できるようになりました。ただ、その他の駅に関しては利用者が少ないことなどを理由に、JR東日本はSuica端末機の設置を断っているようです。

群馬県が進める吾妻線の「アクションプログラム」

吾妻線の利用促進に関する取り組みは、群馬県でも進めています。群馬県は2019年2月に、「JR吾妻線利用促進アクションプログラム」という利用促進を喚起するための計画を策定します。このアクションプログラムは、2015年に国と群馬県が実施したパーソントリップ調査の結果を受けて策定されました。

パーソントリップ調査によると、吾妻線で通勤している人の割合はわずか3.1%。一方で、吾妻線を年に1回も利用しない人の割合は66%もいるという、厳しい結果が示されています。

この結果を受けてアクションプログラムでは、行政が中心となり駅周辺の整備をはじめ鉄道を利用しやすい街づくりをしていくと宣言。具体的には、パークアンドライドを整備し、年に1回も利用しない人の割合を改善する目標を掲げました。

▲JR吾妻線利用促進アクションプログラムの概要。マイカーからの転換を図り、吾妻線を利用しない人の割合を5年後(2024年度)には56%に改善する目標を掲げている。
出典:群馬県「どうなる?吾妻線。どうする!私たち。」

アクションプログラムには、一部の沿線自治体も協力しています。東吾妻町では、町長が出張する際に吾妻線を利用するなど、自らも利用促進に努めている姿勢を示しています。しかし、こうした取り組みが他の自治体に広がっていない様子もうかがえるのです。

○町長
郡内の首長で吾妻線を使っている人というのは私以外いないんですよね。軽井沢へ行ったり、月夜野の上毛高原駅へ行ったりしている人、首長もそういう人ばかりで、実際使っていないわけでありまして、私も極力、新前橋の市町村会館で会議があるときは原町駅から乗っていきます。そういうふうなことで、私もJR線を使っているという姿を見せることで、ぜひ使っていただきたいというふうに思っておるところでございます。

出典:東吾妻町議会会議録(令和元年第2回定例会)

吾妻線の「あり方」協議をJR東日本が申し入れ

沿線自治体が利用促進の取り組みを進めるものの、効果は限定的で吾妻線の利用者数は減少の一途をたどり続けています。こうしたなかでJR東日本は2024年3月22日に、吾妻線の存続・廃止に関する協議を沿線自治体に申し入れます。対象線区は、長野原草津口から大前までの13.3kmです。

該当線区の輸送密度は278人/日、赤字額は約4億4,800万円(2024年度)。利用促進くらいで維持できるレベルではなく、JR東日本は「存続・廃止の前提を置かず地域の交通体系について議論したい」と、鉄道の「あり方」を含めた抜本的な地域公共交通の改革を求めています。

JR東日本の申し入れに対して、群馬県と沿線自治体は「JR吾妻線(長野原草津口・大前間)沿線地域交通検討会議」を設置。2024年5月23日に、第1回の会合が開催されます。

会議冒頭でJR東日本は、長野原草津口~大前の利用者が極めて少なく、約8割が通学定期客であることを説明。この説明から検討会議の参加メンバーは、沿線地域の高校生や保護者などを対象にアンケート調査の実施を確認します。まずは利用状況や利用者の意向などを把握し、そのうえで今後の対応を検討していくことが決まったのです。

新幹線は吾妻線の代替にならない?

検討会議の後、沿線自治体はウェブ形式による住民アンケートを実施。通学時の移動手段や時間、吾妻線の利用頻度などを調査します。

住民アンケートの結果は、2024年12月24日に開かれた第3回検討会議で報告されました。ここで検討会議の参加メンバーが注目したのは、高校生の通学時間です。

沿線地域には学校が少なく、吾妻線で高崎市や前橋市へ通学する生徒も少なくありません。なかには、2時間以上かけて通学している生徒もいます。また、みんなが駅近くに住んでいるわけではなく、駅まで家族に送迎してもらう生徒が半数以上いるという実態も明らかになりました。

これらの結果を受けて、会議座長の有識者が「保護者にも大きな負担になっている点に注視したい」と指摘。通学時間の短縮や送迎負担の軽減につながる方策の検討が始まります。

そして第4回検討会議(2025年7月14日)で、北陸新幹線を使った「新幹線通学」の実証実験が提起されます。吾妻線沿線地域から軽井沢駅まで送迎バスを運行。そこから高崎駅まで新幹線で通学してもらうという実験です。参加する高校生には、新幹線定期券を無償で提供します。

高校生や保護者の負担を軽くするための実験ですが、この実験にはもうひとつの狙いがありました。それは「吾妻線の通学生を新幹線で代替輸送できるか?」という実験です。仮に、沿線地域の高校生が新幹線通学にシフトできれば、吾妻線の存在意義は薄まります。

こうして、新幹線通学の実証実験が2025年9月からスタート。実験期間は同年12月までの3カ月間でした。

実証実験の結果は、第5回検討会議(2026年2月17日)で報告されます。参加した生徒は22人でした。その生徒に対するアンケート調査によると、約6割の生徒の通学時間が短縮。平均で19分間短くなり、なかには1時間以上短縮した人もいたようです。また、家族の送迎時間も20分以上短縮したと報告されています。

この結果だけをみると、「吾妻線がなくなっても新幹線で通学できる」と言えるかもしれません。ただ、「新幹線通学を選びたい」と答えた生徒は55%に留まる一方、吾妻線を選ぶ生徒は32%もいたのです。吾妻線を選ぶ理由として「通学時間を短縮できない」「下校時の新幹線・送迎バスの時間があわない」という回答が多くみられました。

■吾妻線(長野原草津口~大前)沿線高校生の通学手段の選択意向

▲新幹線通学を望む生徒は半数以上いたが、吾妻線での通学を望む生徒も3分の1近くいた。
参考:JR吾妻線(長野原草津口・大前間)沿線地域交通検討会議「『新幹線を利用した通学』実証実験のアンケート結果報告書」をもとに筆者作成

参加者22人のうち13人の通学時間が短縮したとはいえ、沿線地域には実験不参加の生徒が60名以上もいます。不参加の生徒からみれば、新幹線通学のメリットを感じず、吾妻線での通学を選んだともいえるのです。

この結果を踏まえ、検討会議は「新幹線は吾妻線の代替手段にならない」ことを確認。吾妻線を活用した新たな実証実験で、鉄路存続の道を探ることになりました。具体的には、吾妻線の各駅から生徒の自宅近くまで送迎バスを運行する実証実験を、2026年5月からスタートします。

通学定期客が激減する吾妻線は存続できるか?

通学定期客が利用者の約8割を占める、吾妻線の長野原草津口~大前。高校生にとって重要な足ですが、実数は100人弱しかおらず、その数は減少の一途をたどり続けています。
2019年に群馬県と沿線自治体がまとめた資料によると、2015年の実績を基準に、20年後の2035年には「通学定期客が約44%も減少する」と報告されています(吾妻線全線の減少率)。

吾妻線の将来の利用者減少率
▲2015年の利用者数を基準に、20年後(2035年)の減少率を予想した路線図。長野原草津口~羽根尾では40%以上の減少(青のライン)、羽根尾~万座・鹿沢口では25%以上の減少(水色のライン)が見込まれている。
出典:群馬県「鉄道利用促進アクションプログラム – JR吾妻線(JR金島駅~JR大前駅)」

この減少率を、現状の長野原草津口~大前の輸送密度に当てはめると、2035年には200人/日を割り込む予測です。

検討会議では高校生の足を確保する方法について議論しています。これはこれで大事なことですが、吾妻線を存続させるには全体の利用者数を増やす方法も考える必要があります。とはいえ、通学定期客の大幅減が見込まれるなかで、観光利用を増やすなどの利用促進をしても「焼け石に水」でしょう。そうした意味では、検討会議の議論の方向性は的確であり、他路線でみられる「鉄道の存続を目的化した協議」とは一線を画しているといえます。

検討会議は今後も続きますが、鉄道の存廃という視点でみると、すでに結論が出ているようにも感じます。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

JR吾妻線(長野原草津口・大前間)沿線地域の総合的な交通体系に関する議論の申入れについて(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2023/takasaki/20240322_ta01.pdf

平均通過人員2,000人/日未満の線区ごとの収支データ(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/pdf/2019.pdf

渋川・吾妻地域在来線活性化協議会
【リンク切れ】http://joetsu-agatsumarailline.com/

どうなる?吾妻線。どうする!私たち。(群馬県)
https://www.town.higashiagatsuma.gunma.jp/www/contents/1570521423144/files/gaiyouban.pdf

東吾妻町議会会議録(令和元年第2回定例会)
https://www.town.higashiagatsuma.gunma.jp/www/gikai/contents/1564123816866/files/teireikai6.pdf

第1回 鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)議事概要(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001967384.pdf

「新幹線を利用した通学」実証実験のアンケート結果報告書(長野原町)
https://www.town.naganohara.gunma.jp/assets/images/content/content_20260312_135517.pdf

鉄道利用促進アクションプログラム – JR吾妻線(JR金島駅~JR大前駅)(群馬県)
https://www.vill.takayama.gunma.jp/02chiiki/tetsudo/honpen.pdf

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