【JR九州】肥薩線(八代~人吉)が復旧合意できた理由 – 廃止を防いだ要因とは

肥薩線の列車 JR

肥薩線は、熊本県の八代と鹿児島県の隼人をつなぐJR九州のローカル線です。このうち八代から吉松までの線区は、2020年7月の豪雨災害で壊滅的な被害を受け、廃止の危機に直面していました。

しかし、熊本県とJR九州は2024年4月、八代~人吉間の復旧について基本合意。2033年度までの復旧をめざすことになりました。膨大な復旧費用にくわえ、復旧しても赤字が明白な肥薩線。両者はなぜ、鉄道の復旧を決めたのでしょうか。「JR肥薩線検討会議」の内容を中心に、基本合意に至るまでの経緯をお伝えします。

JR肥薩線の線区データ

協議対象の区間JR肥薩線 八代~吉松(86.8km)
輸送密度(1987年→2019年)八代~人吉:2,171→414
人吉~吉松:569→106
増減率八代~人吉:-81%
人吉~吉松:-81%
赤字額(2019年)八代~人吉:6億2,100万円
人吉~吉松:2億7,000万円
営業係数八代~人吉:346
人吉~吉松:566
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

八代市、人吉市、球磨村、芦北町、錦町、多良木町、湯前町、水上村、相良村、五木村、山江村、あさぎり町、熊本県、JR九州、国土交通省(大臣官房技術審議官、九州地方整備局、九州運輸局)

肥薩線の災害不通区間と沿線自治体

JR九州発足以来最大の被害を受けた肥薩線

2020年7月、九州地方を襲った豪雨災害は肥薩線にも甚大な被害を与えました。八代~吉松間の被災件数は448カ所。2つの橋梁が流出したほか、球泉洞駅ではホームが流出。さらに路盤流出や築堤崩壊など、被害は熊本県の球磨川流域に集中しています。

同年10月20日、宮崎県や鹿児島県を含む沿線16市町村は、JR九州に早期復旧を要請します。ただ、国や熊本県が進める球磨川治水の概要がまとまらなければ、復旧計画すら立てられません。肥薩線の復旧工事は、球磨川の治水工事と同時に進める必要があったのです。

国や県の球磨川治水の概要(球磨川流域治水プロジェクト)が示されたのは、2021年3月30日でした。これを受けてJR九州は、肥薩線の復旧計画や概算費用について検討を始めます。ただし、被害が甚大なため概算費用がまとまるのは2021年度末になることも示されます。

一方、熊本県の蒲島知事(当時)は2021年7月6日の定例記者会見で、肥薩線の復旧は「国や沿線自治体と一緒に支援する」という考えを示します。熊本県は2016年の熊本地震で被災した豊肥本線の復旧でも、JR九州を支援しています。その経験から、今回も沿線自治体などと連携して支援すると決意していたのです。

とはいえ、復旧費用によっては支援できない可能性もあります。その費用が示されたのは、2022年3月22日に開かれた「JR肥薩線検討会議」の場でした。

JR九州や国土交通省と協議する「JR肥薩線検討会議」

2022年3月22日、第1回のJR肥薩線検討会議が開催されます。検討会議の構成メンバーは、熊本県、JR九州、そして国土交通省です。

まず、JR九州から復旧費用に関する説明があります。その概算費用は、約235億円。このうち、2つの橋梁の復旧に約125億円と示されます(鎌瀬トンネル改築含む)。これは、熊本地震で被災した豊肥本線の復旧費用(約50億円)を大幅に上回る額です。

そのうえでJR九州は、「肥薩線の利用者数が激減していること」「不通区間は年間約9億円の赤字であること」も説明。復旧後の持続可能性も含めて「総合的に判断してほしい」と伝えます。

続いて国土交通省からは、鉄道軌道整備法による災害復旧補助制度が適用されることが伝えられます。もっとも、国・自治体・JR九州で復旧費用を3等分しても、それぞれ約80億円を負担しなければなりません。

そこで国土交通省は、球磨川の河川整備事業や肥薩線と並行する道路復旧事業などと連携し、鉄道の復旧費用を抑える考えを提案。JR九州が示した復旧費の内訳を精査したうえで、国が検討する旨を伝えます。

ただ、国も無条件で補助するわけではありません。ここで国土交通省は、この案を検討するにあたり、熊本県に対して復旧費用に関する支援の意思を再確認しています。

(田口課長)
県に確認したいが、仮に多額な復旧費であっても、鉄道復旧を第 1 にということなのか、それとも他の復旧方法も含めて幅広に検討するということなのか。

(田嶋副知事)
まずは鉄道による復旧について検討するということ。他のモードへの転換の検討に進むには時期尚早である。

出典:国土交通省「第1回JR肥薩線検討会議 概要」

この熊本県の意思を確認したうえで、国とJR九州は肥薩線復旧に向けた協議を本格化していくことになります。

沿線自治体が組織する「JR肥薩線再生協議会」の役割

JR九州や国土交通省との協議とは別に、沿線自治体と熊本県は「JR肥薩線再生協議会」を発足させます。この協議会は、JR肥薩線検討会議で決定した内容や、今後の検討会議で議題になり得ることなどを想定し、解決策を検討する場として設置されたものです。JR九州から提示される復旧方針を受けて、その方策を検討する場としても機能します。

第1回のJR肥薩線再生協議会は、2022年4月18日に開催。巨額の復旧費用に対して財政力に不安がある沿線自治体は、国に支援を求めることで一致します。なお、熊本県はこの場で「復旧後の支援」についても、考えを示したようです。

熊本県の「先制攻撃」にJR九州がけん制

第2回のJR肥薩線検討会議は、2022年5月20日に開催されます。ここで国土交通省は、前回の会議で国が検討するとしていた復旧費用の圧縮案を示します。

圧縮案では、流出した2つの橋梁の復旧について、河道掘削や嵩上げなどの河川整備事業に影響することから「国がほぼ負担する」と提言。また、嵩上げ予定の鉄道区間については「道路整備と一緒に工事を実施すること」も伝えられます。これにより、トータルの復旧費用は約235億円から約76億円にまで圧縮。国・自治体・JR九州で3等分すれば、約25億円ずつの負担に軽減されたのです。

復旧費用の減額に安堵する熊本県とJR九州。ただ、続いておこなわれたJR九州の「肥薩線の利用状況」に関する説明で、両者の議論が紛糾します。

肥薩線(八代~人吉)の輸送密度の推移
▲肥薩線の利用実績(輸送密度)。JR九州が開業した1987年には2,000人/日を超えていたが、2019年には414人/日にまで減少している。
参考:国土交通省「第2回JR肥薩線検討会議 会議資料」のデータをもとに筆者作成

肥薩線の利用者数は、少子化や過疎化、道路整備の進展などの影響で、JR発足から約30年で8割以上も減少しています。この状況からJR九州は、「当社にできる範囲で、地域の足となるモビリティを提供したい」と提言。持続可能性の観点から、鉄道の復旧は慎重に検討する必要があると伝えます。

この提言に熊本県は、肥薩線の厳しい経営状況は認識していると伝えたうえで、「赤字に対して税金を投入する意義や、鉄道を支えるという共通の目標があれば乗り越えられるのではないか」と、復旧後の公的支援についての考えを示します。

なおJR九州は、この段階で公的支援を求める話は一切していません。熊本県は、いずれ議論されるであろう公的支援の話を持ち出すことで、肥薩線の早期復旧へとつなげたかったわけです。

ところが、JR九州からみると「公的支援ありき」の復旧論議に、違和感があったのでしょう。支援をしてくれるのはありがたいけど、利用促進策も将来の需要予測も出ていない段階で「支援をすれば鉄道を復旧してくれる」と、熊本県が考えているように見えたのです。

JR九州の慎重な姿勢を察知した熊本県は、「どのような条件が整えば鉄道の復旧に踏み切れるのか、検討すべき課題を示していただけないか?」と詰め寄ります。これに対してJR九州は、この場で示すのは難しいとしたうえで、利用者が激減している肥薩線の現実について熊本県に問いかけます。熊本県は、観光産業における鉄道の重要性を語り、「県としての責任は、肥薩線を残す意義を議論することだ」と訴えます。

(田嶋副知事)
収支が非常に厳しい状況ということは当然承知をしている。しかし、人吉温泉、地域を支える観光産業において鉄道がもつ魅力は非常に大きい。鉄道がなくなれば地域の衰退に拍車がかかる。今後の人口減少はそうだが、一方で地方創生に立ち向かっていくことも必要であり、その大きなツールが鉄道であると認識している。

出典:国土交通省「第2回JR肥薩線検討会議 概要

熱弁を振るう熊本県に対し、JR九州は改めて、復旧後の持続可能性について検討するよう主張。仮に、上下分離後の自治体負担額の一部を国の補助が活用できた場合でも、「将来の需要予測とあわせて鉄道の復旧を検討すべきだ」と訴えます。

上下分離を採用してでも、鉄道を復旧させたい熊本県。利用者が激減した路線の災害復旧に慎重姿勢のJR九州。両者のやり取りに国土交通省は、「感情論で財政支援をしないよう、国との議論で整合性の取れる形で支援策を打ち出したい」と熊本県をなだめる一方で、JR九州に対しては熊本県が求めた「検討すべき課題」を提示するよう促し、検討会議は閉会します。

上下分離に関する支援制度を国に要望

検討会議の内容を受けて、熊本県と沿線自治体は2022年6月7日、第2回のJR肥薩線再生協議会を開催します。この場で熊本県は、上下分離を導入したときの自治体負担額をシミュレーションしており、年間で4億4,000万円と試算しています(後に、7億4,000万円に修正)。

この額を、沿線自治体が毎年拠出するのは難しいでしょう。そこで、「上下分離後の自治体負担額について補助する制度の新設」を、国に求めることで一致。具体的には、「自治体の負担割合を25%に抑えられないか(75%を国が支援してほしい)」といった内容を要望書にまとめ、同年6月20日に国土交通省に提出します。

この要望を国が受け入れるかは未知数ですが、沿線自治体が積極的に議論して具体的な支援を国に求めることは、これから全国各地で始まる「再構築協議会」で重要なポイントになってくると考えられます。

また、第3回の協議会(2022年10月7日)では、肥薩線復旧後の利活用を促すビジョンを検討します。二次交通の充実や観光誘客などの利用促進策を通じて、肥薩線が「稼ぐ路線」であることをJR九州にアピールすることで、復旧を後押しするのが狙いです。これに関しては、次の検討会でJR九州が提示する「検討すべき課題」を受けて、本格的に議論することになります。

JR九州から示された「検討すべき課題」

第3回の検討会は、2022年12月6日に開催。ここでJR九州への宿題となっていた、復旧に関する「検討すべき課題」が示されます。課題は、以下の6点にまとめられていました。

■検討課題

  1. 将来における地域の全体像
  2. 地域全体の交通のあり方
  3. 鉄道の位置付けおよび利活用策の検討
  4. 鉄道がもたらす広域的な便益を定量的に検証
  5. 4.の便益と鉄道運行及び利活用策等の総費用とを比較
  6. 利活用策の責任主体等の整理

6つの検討課題を示したうえで、JR九州は「定量的な検証をおこなうとともに、鉄道が地域に貢献できるかを議論したい」と伝えます。定量的な検証とは、住民アンケートや将来の人口予測を踏まえた需要予測などのことです。クロスセクター効果による検証も含まれるでしょう。これに対して熊本県は、それぞれの課題について調査検討を進めることで合意します。

国も絶賛した熊本県の「肥薩線復興方針」

2023年12月13日に開催された第5回の検討会。ここで熊本県は、JR九州が求めた6つの検討課題に対する回答を提示します。それをまとめたのが、「JR肥薩線復興方針」という資料です。

丸1年かけて作成した資料は、全70ページ。内容も濃密なため、ここでは紹介しきれませんので、別の記事にて解説します。JR肥薩線復興方針の概要を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

復興方針では、2024年度末までに鉄道復旧に最終合意すれば、およそ10年後の「2033年度末に復旧する」というロードマップが提示されています。

また、復旧後の費用負担のあり方まで踏み込み、JR九州の負担軽減を示していることも大きなポイントです。自治体だけが「儲かる」または「損する」と訴えるだけでは、交渉は決裂して廃止になるでしょう。熊本県のまとめた復興方針には、JR九州にとってのメリットやデメリットもあわせて分析し、デメリットに関しては自治体が支援する考えを伝えることで、熊本県の本気度と覚悟を伝えています。

そうした点で、国は高く評価しているようです。

岸谷技術審議官
通常の利用促進だけにとどまらず、鉄道で営業再開した後の費用負担についてもしっかり議論されていて、県を中心とした地元の覚悟や意気込みが示された。(後略)

吉永九州運輸局長
(前略)内容的に見ても、観光の再成長を軸とした、地域の再生を目指す充実したしかるべき内容となった。あわせてJR肥薩線の鉄道復旧に向けた費用負担のあり方についても目を見張る内容となった。(後略)

出典:国土交通省「第5回JR肥薩線検討会議 概要」

また、JR九州も「地域の将来像を描いた内容である」「示された復興方針をしっかりと受け止めたい」と、熊本県の回答におおむね評価しています。そのうえで、「利用促進策についてはさらに深掘りして議論していく必要があること」「熊本県が求める上下分離方式への移行について、詳細を相談したい」という考えも示しました。

松下取締役常務執行役員
(前略)上下分離方式を実行するためには、事業運営のあり方など具体的な調整も必要になると考えている。県のお考えを詳細に伺い、協議をした上で当社の考えをしっかりと検討し、次回以降のこの場でお示しをしたい。

出典:国土交通省「第5回JR肥薩線検討会議 概要」

肥薩線の将来を決めるボールは、JR九州に渡りました。

肥薩線復興方針案に対する「JR九州の考え」

第6回検討会議は、2024年2月13日に開催。熊本県などが作成した復興方針案に対し、JR九州が回答を示す会議です。その回答は、「これまでのJR肥薩線検討会議を受けたJR九州の考え」という1枚の資料にまとめられていました。

鉄道は、観光振興だけでなく、通勤・通学など地域の生活を支える重要な交通であり、持続可能性を高めるためには沿線の方々の日常利用も不可欠です。観光需要には波があることも考慮し、「観光による振興」だけでなく、「沿線の方々の肥薩線に対するマイレール意識の醸成による日常利用の創出」を2本の柱として考える必要があります。そのために私どもが持つ知見の提供など、できる協力はさせていただきたいと考えています。

出典:国土交通省「第5回JR肥薩線検討会議 会議資料」

JR九州は、熊本県の復興方針案を評価したうえで、観光だけでなく「日常利用の創出も検討してほしい」と、新たな要望を提示します。これに国も理解を示したことから、熊本県は「速やかに地元と共有して知恵をしぼりたい」と回答します。

復興方針案に、さらなるブラッシュアップを求めてきたJR九州。肥薩線の未来を決めるボールは、再び沿線自治体に渡ります。

肥薩線の復旧は「マイレール意識の醸成」がカギに

熊本県と沿線自治体は、JR九州から指摘された「日常利用の創出」を議論する協議会(2024年2月28日)を開催。このなかで、沿線住民の「マイレール意識」を高める施策が次々と提案されます。

一方で、JR九州の動きも活発化します。3月中旬には、JR九州の古宮社長が熊本県庁を訪問。蒲島知事とのトップ会談が開催されます。ここで古宮社長は「沿線の方々が肥薩線を自分の鉄道だと思ってもらえるよう、『マイレール意識』を醸成する案を出してほしい」と懇願。これに対して蒲島知事は、協議会で検討中の施策を提示するとともに、「必ずやり遂げる」という固い決意を伝えたようです。

この内容を3月19日に開かれたJR九州の取締役会で、古宮社長が報告。最終判断は、次回の検討会議で熊本県が示す日常利用の施策を見て決めることが確認されます。肥薩線の八代~人吉は復旧するのか、それとも廃止か。約2年にわたる検討会議は、いよいよ大詰めを迎えます。

八代~人吉は鉄道での復旧でJR九州と基本合意

2024年4月3日に開かれた第7回検討会議。熊本県と沿線自治体が検討してきた、日常利用の促進策が示されます。具体的な案は、以下の通りでした。

■熊本県が示した日常利用の促進案

  • 県庁と沿線自治体の職員(約7,500人)の公務移動に、肥薩線を積極的に利用する
  • くま川鉄道との直通運転を実現する
  • バスやタクシーなどの二次交通を拡充させ、利便性を高める
  • 学校行事など団体利用者に対する助成制度を設置する
  • 乗車体験会など地域の子どもたちに肥薩線の魅力を伝えるイベントを実施する

…など

沿線住民に利用を促すのであれば、県や自治体の職員が「自分たちが率先して乗る」と態度で示すことも大事です。その行為が、職員のマイレール意識の醸成につながると熊本県は説明します。また、くま川鉄道との直通運転や二次交通の拡充といった利便性の向上を検討するほか、鉄道を身近に感じてもらえるようなイベントを通じて、沿線住民のマイレール意識を高める施策も提案します。

さらに、すでに復興方針案で示した「観光利用の促進」も改めて伝え、鉄道による復旧を訴えます。

これに対してJR九州は、熊本県や沿線自治体に謝意を伝えるとともに、肥薩線の復旧は重要事案であることから「社長の判断を仰ぎたい」と、いったん離席します。

数分後、会議場に戻ってきたJR九州の回答が示されました。

社長にも判断を仰いだ結果、沿線の方々の肥薩線に対するマイレール意識の醸成による日常利用の創出の内容につきまして承知をしたということでございますので、ご報告させていただきます。

出典:国土交通省「第7回JR肥薩線検討会議 概要」

これにより、肥薩線の八代~人吉は、鉄道で復旧することが確定したのです。

後にJR九州の古宮社長は定例記者会見で、「マイレール意識の醸成による日常利用の創出について、沿線の皆さまが一丸となって実行するという決意と具体策を示してもらったことが、復旧判断の材料として大きかった」と、述べています。復旧に慎重姿勢だったJR九州が、熊本県と沿線自治体の思いをようやく受け止めた瞬間でした。

なお、この検討会議で締結したのは「基本合意」です。上下分離の負担割合や利用促進の具体案など、細かな点を詰めていく作業がこれから始まります。利用促進に関しては、肥薩線再生協議会にワーキンググループを設置し、効果が期待される施策を検討していく予定です。熊本県とJR九州は、2024年度内に「最終合意」、2033年度の復旧をめざすとしています。

人吉~吉松の復旧はどうなる?

JR肥薩線検討会議で復旧が確約したのは、八代~人吉の通称「川線」と呼ばれる区間です。しかし、人吉~吉松の「山線」区間も長期不通になっています。この山線は熊本県と宮崎県、鹿児島県の3県にまたがり、2020年の災害による被害件数は熊本県内に数カ所、鹿児島県内が1カ所、宮崎県内にはありません。

被害は軽微なため、復旧費用だけでみればJR九州単独でも拠出できるでしょう。ただし、「持続可能な鉄道の維持」という観点で考えると復旧が難しい線区です。

■肥薩線被災区間の輸送密度

19872016201720182019
八代~人吉2,171478603455414
人吉~吉松569108138105106
▲被災前の輸送密度。人吉~吉松も減少の一途をたどり続け、近年は100人/日台しかない。
出典:JR九州「交通・営業データ」をもとに筆者作成

人吉~吉松の輸送密度は、八代~人吉の4分の1程度。JRが発足した1987年と比べた減少率は、-81%です。もちろん収支は赤字。被災前の2019年度は、2億7,000万円の赤字でした。こうした状況にJR九州の古宮社長は2024年3月の定例記者会見で、川線の協議とは別に「山線の協議も始めたい」と、3県に協議を申し入れる考えを示します。

なお3県は、2024年6月8日現在で協議の受け入れを明確に示していません。ただ、3県の事務レベルでの話し合いは始まっているようです。川線の検討会議では、観光利用だけでなく日常利用の促進についても求められました。日常利用が皆無といえる山線は、果たして存続できるのか。沿線自治体には、川線以上の決意と覚悟が求められそうです。

※熊本県の本気度と覚悟を伝えている「JR肥薩線復興方針」の内容は、以下の記事で解説しています。

※肥薩線と同時に被災した、くま川鉄道の協議会はこちらで紹介します。

※熊本地震で被災した南阿蘇鉄道の復旧までの流れは、以下のページにまとめています。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

交通・営業データ(JR九州)
https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/senkubetsu.html

「令和2年7月豪雨」による当社の被災状況について(JR九州)
https://www.jrkyushu.co.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2020/07/21/200721gouuhigai_2.pdf

令和3年(2021年)7月6日 知事定例記者会見(熊本県)
【リンク切れ】https://www.pref.kumamoto.jp/site/chiji/103716.html

JR肥薩線検討会議(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk7_000026.html

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