【JR西日本】高山本線も経営分離させるか?鉄道存続をめざす富山の野望

高山本線の列車 JR

高山本線は、岐阜から富山まで本州を縦断するローカル線です。途中の猪谷(富山市)を境に管轄事業者が異なり、岐阜~猪谷はJR東海が、猪谷~富山はJR西日本が管理しています。

このうちJR西日本の線区について、富山市は鉄道の存続をめざした活動を続けています。高山本線を守るために、富山市がおこなってきた支援内容と今後の動きについてお伝えします。

JR高山本線の線区データ

協議対象の区間JR高山本線 猪谷~富山(36.6km)
輸送密度(1987年→2023年)2,556→2,068
増減率-19%
赤字額(2023年)
営業係数
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2023年を比較しています。
※赤字額・営業係数は非公表です。

協議会参加団体

富山市、富山県、JR西日本

高山本線と沿線自治体

富山市のコンパクトシティ構想を高山本線で検討

富山県と岐阜県の沿線自治体には「高山本線強化促進同盟会」という組織が、1964年から活動を続けています。この組織は、高山本線の複線電化やスピードアップといった輸送サービスの改善を事業者に要望するのが主な活動内容です。

単に要望するだけでなく、沿線地域でイベントを実施したり観光スポットを紹介するグッズの開発・配布をしたりと、利用促進を図ることも目的にしています。

ただ、こうした活動を続けても高山本線の利用者数は減少の一途をたどります。車社会の沿線地域で、鉄道がにぎわうのは朝夕の通勤通学時間帯のみ。特急列車は走るものの日中の普通列車は閑散としており、生活交通としての役割を十分に果たせていませんでした。

こうした状況に、沿線自治体の富山市が課題解決の検討を始めます。富山市では、公共交通を軸にまちづくりを進める「コンパクトシティ構想」を掲げ、富山地方鉄道やJR富山港線の再生に取り組み、成功を収めた実績があります。そのノウハウを、高山本線でも活用できないかと考えたわけです。

JR西日本と連携した交通社会実験で利用者が増加

2006年、富山市は「JR高山本線活性化事業」を立ち上げます。これは、JR西日本とも連携した大規模な交通社会実験を実施する事業です。具体的な施策として、以下の社会実験を実施しています。

  • 富山~猪谷で増便
  • 駅前の整備(駐輪場やパークアンドライドの設置)
  • 臨時駅の新設
  • ポケット時刻表の作成・配布

…など

実験期間は、2006年10月から2011年3月までの4年半です。増便実験では、富山~越中八尾間で通常の1.5倍以上にあたる1日50~60本に設定(増便前は34~36本)。越中八尾~猪谷でも23~33本に増やし、日中は約30分間隔の運行にします。
また、各駅には駐輪場やパークアンドライド駐車場を整備したほか、臨時駅として「婦中鵜坂駅」を開業させます。このほかにもポケット時刻表を作成して配布するなど、さまざまな取り組みを実施した結果、該当線区の利用者数が増え始めたのです。

■高山本線(西富山~越中八尾)1日の乗車人数の推移

高山本線の乗車人員の推移
▲社会実験は2006~2011年(赤の棒グラフ)に実施。実験終了後も利用促進策に取り組み(オレンジの棒グラフ)、2019年には実験開始前と比べて約3割も増加している。
参考:富山市「高山本線のまちづくりにおける重要性」をもとに筆者作成

2011年3月の実験終了後も、富山市は「活性化事業」として増便に対する支援を続けています。また、高齢者をターゲットとした企画きっぷの販売や、コミュニティバスとの接続改善といった利用促進策もパワーアップして実施。こうした取り組みにより、2019年には実験開始前の2005年と比べて31%も増加したのです。

なお、臨時駅で設置した婦中鵜坂駅は、2014年に常設駅へと昇格。利用者数は増加傾向にあります。

高山本線の経営分離も視野に入れる富山市

利用者が増加に転じたものの、沿線地域は少子高齢化が進んでおり、近い将来減少に転じることが予測されます。
そこで富山市は、2021年3月26日に「高山本線ブラッシュアップ会議」を設置。持続可能な公共交通の実現に向け、さらなる利便性の向上と鉄道ネットワークの強化を検討していくことになりました。なお、この会議には富山県とJR西日本も参加しています。

2023年3月には、「高山本線ブラッシュアップ基本計画」を策定。鉄道の魅力を高めるために、さまざまな施策を実施していくことが提言されます。主な施策内容は、次の通りです。

  • 増便運行の継続やパターンダイヤ化
  • 鉄道・路線バスの共通運賃化
  • ICカードの導入・MaaSアプリを活用したデジタル乗車券の導入
  • 新型車両の導入(ハイブリッド車両など)
  • あいの風とやま鉄道区間への乗入れ(直通運行)

…など

こうした施策を通じて、鉄道をはじめ公共交通が便利になれば、さらに利用者が増えることが期待されます。

その一方で基本計画には、民間企業であるJR西日本に実施できることは限られており、沿線自治体や住民が要望するだけではサービスの低下をもたらし、利用者の減少につながることを指摘しています。

運営主体である交通事業者は、高山本線及び、沿線公共交通の公共財的な役割のほか、民間事業者である以上、経営基盤を維持しながら、安心・安全な運行を実現するための費用対効果についても、配慮が必要です。
⇒そのため、現在の事業構造(事業者単独の自助努力)において、実現できる施策は限定的であり、加えて、このまま利用者数が減少し続けると、減便等のサービスレベル低下、それによる利用者の更なる減少といった負のスパイラルに陥る懸念が高まります。

出典:富山市「高山本線ブラッシュアップ基本計画」

サービスレベルを下げず持続可能な公共交通を維持するには、沿線自治体である富山市や富山県が、さらなる支援をしていくことも必要でしょう。

そこで富山市は、高山本線の将来的な公的支援について検討を始めます。その内容を報じた読売新聞によると、以下3案の公的支援額を試算し、2024年度中にもまとめることが伝えられています。

  1. 上下分離方式の導入
  2. みなし上下分離の導入
  3. JR西日本以外の事業者に移管(自治体は移管した事業者を支援)

富山市は、それぞれの案を実施した場合の負担額や、まちづくりに与える効果などを算出し、資料がまとまり次第、JR西日本や富山県と協議を始める方針です。

ただ、富山県は城端線・氷見線のあいの風とやま鉄道への移管に際し、75億円を拠出しています。仮に、事業者移管で決まった場合、城端線・氷見線より多くの負担が生じるかもしれません。もっとも、事業者が変わるとJR東海の線区(岐阜県の線区)から利用する人にとって値上げなどの不利益を被り、観光誘客に影響が出ることも懸念されます。現実的には、上下分離かみなし上下分離だと思いますが、この場合も億単位の負担が毎年かかるとみられます。

いずれにしても、高山本線を維持するには「自分たちも支援する必要がある」と能動的に動き始めた富山市。今後、どのような決着をみせるのか、注目したいところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

設立趣意書(高山本線強化促進同盟会)
https://www.pref.toyama.jp/documents/4933/01428037.pdf

高山本線強化促進同盟会(富山県)
https://www.pref.toyama.jp/kendodukuri/koukyou/koukyoukoutsuu/takayamahonsen/index.html

高山本線ブラッシュアップ基本計画(富山市)
https://www.city.toyama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/333/kihon.pdf

高山本線のまちづくりにおける重要性(富山県)
https://www.city.toyama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/333/11shiryo11.pdf

高山本線活性化事業(富山市)
https://www.city.toyama.lg.jp/kurashi/road/1010282/1010286/1006276.html

JR高山線の利便性向上へ 富山市が「上下分離」などの試算進める(読売新聞 2024年3月14日)
https://www.yomiuri.co.jp/local/toyama/feature/CO068936/20240314-OYTAT50000/

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