【JR東日本】陸羽東線の廃止は防げるか?本気度が違う大崎市の取り組み

陸羽東線の駅 JR

陸羽東線は、宮城県の小牛田と山形県の新庄を結ぶJR東日本のローカル線です。このうち、小牛田~古川は比較的に利用者が多いものの、古川~新庄は輸送密度1,000人/日未満と少なく、宮城・山形の県境にあたる鳴子温泉~最上に至っては79人/日しかありません。

沿線自治体は、陸羽東線の存続をめざして、さまざまな取り組みを進めています。

JR陸羽東線の線区データ

協議対象の区間JR陸羽東線 古川~新庄(84.7km)
輸送密度(1987年→2019年)古川~鳴子温泉:2,740→949
鳴子温泉~最上:456→79
最上~新庄:1,273→ 343
増減率古川~鳴子温泉:-65%
鳴子温泉~最上:-83%
最上~新庄:-73%
赤字額(2019年)古川~鳴子温泉:11億100万円
鳴子温泉~最上:4億4,300万円
最上~新庄:5億4,100万円
営業係数古川~鳴子温泉:1,043
鳴子温泉~最上:8,760
最上~新庄:1,933
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

大崎市、最上町、舟形町、新庄市、宮城県、山形県

陸羽東線と沿線自治体

陸羽東線の活性化をめざす複数の協議会

陸羽東線の利用促進や沿線地域の活性化などをめざす自治体の組織は、宮城・山形の両県に複数存在します。

古くからある組織のひとつが、「JR陸羽東西線利用推進協議会」です。両県の沿線自治体をはじめ34団体で構成される協議会で、山形新幹線の新庄延伸計画が進んでいた1996年に設立。協議会主導でイベントを実施したり団体ツアーを企画したりと、陸羽東線・陸羽西線の利用促進に取り組んでいます。

JR陸羽東西線利用推進協議会が実施した、陸羽東線に関する主な取り組みは以下の通りです。

■JR陸羽東西線利用推進協議会の取り組み

  • ツアー企画(全国こけし祭りや政宗公まつりなどに合わせたツアー企画)
  • イベント実施(テントサウナ体験イベントなど)
  • 貨客混載(「線路がつなぐ石巻・庄内海鮮市」のイベント開催に合わせて実施)
  • 運賃補助事業

…など

JR陸羽東西線利用推進協議会のほかにも、山形県には「やまがた鉄道沿線活性化プロジェクト推進協議会」「鉄道利用・整備強化促進期成同盟会」があります。また、宮城県には「ローカル線活性化検討会議」や、大崎市には「大崎市陸羽東線再構築検討会議」が陸羽東線の存続をめざし活動を続けています。

陸羽東線のニーズを把握せよ―大崎市の取り組み

さまざまな組織があるなかで、より踏み込んだ取り組みをしているのが大崎市です。大崎市では、JR東日本が「ご利用の少ない線区の経営情報」を開示した直後の2022年9月、市職員に対する陸羽東線の利用実態調査や、塚目駅の利用者に対するアンケート調査を実施。JR陸羽東西線利用推進協議会とも連携を取りながら、独自に議論を進めています。

2022年10月20日には、「大崎市陸羽東線再構築検討会議」を設置。その第1回の検討会議で大崎市長は、沿線住民に問題意識を広く伝えるために地域懇談会を開催し、「住民目線でさまざまなアイデアや意見をいただきたい」と呼びかけます。

なお、第1回検討会議では市職員の利用実態調査の結果も公表されています。回答が得られた675人のうち、鉄道(在来線)で通勤している人はわずか3人。そのうち陸羽東線は2人という厳しい現状も明らかにされました。

ただ、陸羽東線の沿線には多くの市職員が住んでいます。利用実態調査では、自家用車で通勤している人に対して「マイカー以外で通勤する場合、陸羽東線を利用できるか?」という質問も提示。可能と答えたのは、158人もいたのです。

■大崎市職員の通勤手段に関するアンケート結果

現在の主な通勤手段は?
▲大崎市が実施した市職員の現状の通勤手段。鉄道利用者3人(0.4%)のうち、陸羽東線の利用者は2人しかいなかった。
参考:大崎市「JR陸羽東線の利活用促進にかかる職員アンケート調査結果」をもとに筆者作成
自家用車以外で通勤する場合の主な通勤手段は?
▲自家用車以外で通勤する場合の移動手段として、陸羽東線で通勤できると答えた職員は28.1%(158人)もいた。
参考:大崎市「JR陸羽東線の利活用促進にかかる職員アンケート調査結果」をもとに筆者作成

この結果から、協議会では「市職員が積極的に陸羽東線を利用し、実証実験をやっていくべきだ」という意見が出され、実証実験の実施が決まります。

陸羽東線で本当に通勤可能なのか?

その後も大崎市では、沿線自治体や県と意見交換をしたり、JR東日本や東北運輸局にも足を運び大崎市の取り組みを報告したりと、積極的に動きます。また、沿線の企業や高校に訪問して陸羽東線の利用を働きかけるほか、広報紙には陸羽東線の利活用促進に関する募集告知を掲載。沿線住民からの意見やアイデアを、広く募りました。

市職員が協力した実証実験は、2023年1月と2月にわけて実施。陸羽東線で通勤利用してもらい、アンケートを取りました。その結果は、第3回の検討会議(2023年3月13日)で公表されます。

実際に陸羽東線を利用した人は、1月が116人、2月が259人。「1日だけ」「片道のみ」という人も含みますが、多くの職員が陸羽東線を利用できることがわかりました。しかし、運行本数の少なさや通勤時間が長くなるなどの理由で、「定期的な利用は難しい」と回答する職員が過半数を占めたことも伝えています。

陸羽東線の定期利用の可否について
▲各駅の左が1月調査の結果、右が2月調査の結果。「定期的な利用は難しい(青)」と答える職員が、いずれの駅も過半数を占めた。
出典:大崎市「陸羽東線の利活用促進に関する検討報告書」

無理を強いて鉄道を使わせても、長続きしません。国鉄末期に全国各地でおこなわれた「乗って残そう運動」と同じ結果になります。

とはいえ、往復利用可能な人が約40人もいることがわかりました。行政が中心となって鉄道の利用を呼びかけるなら、「市職員も陸羽東線を利用してみる」。この大崎市長の考えから、引き続き市職員に対する利用促進の取り組みを進めることになったのです。

大崎市の陸羽東線に関する取り組み

第3回検討会議では、市職員や沿線住民から寄せられた声を踏まえて、実現可能な利用促進策をまとめています。その報告書が、「陸羽東線の利活用促進に関する検討報告書」です。この報告書で提言している、陸羽東線の利用促進策について紹介します。

  • エコ通勤優良事業所認証制度の普及
  • 二次交通の整備(地域循環バスやスクールバスなどの運行)
  • 駅のバリアフリー化
  • 利用促進イベントやツアーの企画・実施
  • 鳴子温泉郷の特産品とのタイアップ事業
  • 企画列車の定期運行
  • ファンクラブの設置・運営

…など

「エコ通勤優良事業所認証制度」とは、公共交通での通勤を促す企業などに対して、大崎市が独自に設置する優遇制度です。「陸羽東線の利用者に、減税もしくは定期券割引率を増やせないか」という市民の意見をもとに創設されました。

駅のバリアフリー化は、跨線橋がある鳴子温泉駅や岩出山駅、西古川駅で進める方針です。

また、地場産品を使った駅弁開発など、鳴子温泉郷の特産品とタイアップした事業も進めるとしています。沿線で随一の観光地である鳴子温泉には、年間200万人もの観光客が訪れますが、その多くがマイカー利用者です。鉄道で来てもらうためには、「鉄道だから楽しめるモノ・コト」を観光団体などと一緒に打ち出していくことも大切です。

宮城・山形との連携強化が陸羽東線の未来を決める

大崎市がまとめた検討報告書では、「古川~鳴子温泉駅間の輸送密度を、2025年に1,000人/日とする」という目標を掲げています。コロナ禍前の2019年の実績が949人/日ですから、各種の取り組みにより実現可能な目標値でしょう。

ただ、取り組みを続けるには大崎市の努力だけでは限界があります。宮城県の協力も必要ですし、さらに新庄市をはじめ山形県側の沿線自治体と連携していくことも重要です。

とくに山形県側は、鳴子温泉~最上の輸送密度が79人/日、最上~新庄が343人/日(いずれも2019年の実績)と宮城県側より少なく、JR東日本全体でみても下位の成績です。もっとも山形県の沿線自治体でも、通学定期券の補助やレールウォークなどのイベントで利用促進をおこなっています。しかし、利用者の減少に歯止めがかからない現状では、さらなる施策が求められるところです。

公共交通の利用促進策を考える基本は、現場を確認することです。「まずは自分たちで陸羽東線を使ってみる」という大崎市の取り組みも参考になるでしょう。「1日7往復しかない鉄道なんて通勤に使えない」と行政が諦めたら、誰も使わなくなります。

もちろん、無理して使っても続きませんので、通学や観光で陸羽東線を利用する人の視点で考えるのが現実的でしょう。実際に乗ってみて「二次交通との接続が悪い」「駅周辺施設の使い勝手が悪い」といった運行本数以外の課題を洗いだし、それを解決する施策を実行するのも利用促進につながります。

他の自治体とも歩調を合わせながら、地域が一体となって陸羽東線の存続をめざしてほしいところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

平均通過人員2,000人/日未満の線区ごとの収支データ(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/pdf/2019.pdf

陸羽東線利活用促進検討会議(大崎市)
https://www.city.osaki.miyagi.jp/shisei/soshikikarasagasu/shiminkyodousuishimbu/machizukurisuishinka/koukyoukoutu/18035.html

第2回大崎市陸羽東線再構築検討会議資料(大崎市)
https://www.city.osaki.miyagi.jp/material/files/group/11/siryouichi.pdf

陸羽東線の利活用促進に関する検討報告書(大崎市)
https://www.city.osaki.miyagi.jp/material/files/group/11/rikuto_kentohoukoku_03.pdf

山形県鉄道利用・整備強化促進期成同盟会
https://www.pref.yamagata.jp/020056/kurashi/kendo/kotsuseisaku/yamagata_tetsuri_pr.html

やまがた鉄道沿線活性化プロジェクト 最上ワーキングチームの取組み(山形県)
https://www.pref.yamagata.jp/documents/31654/mogami-wt.pdf

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