【NEWS】JR美祢線利用促進協議会がBRTでの復旧を容認 – 鉄道は廃止か?

協議会ニュース

【2025年7月16日】JR美祢線利用促進協議会が臨時総会を開き、美祢線の復旧方法について「BRT(バス高速輸送システム)」を軸に検討を進めることが確認されました。臨時総会には、美祢市・長門市・山陽小野田市の市長や商工会・観光団体、JR西日本などが出席。それぞれの意見が伝えられました。

美祢市の篠田市長は「国鉄改革の経緯を踏まえると、鉄道はネットワークとして維持されるべきだ」と鉄道の重要性を指摘しながらも、「被災から2年が過ぎ、復旧を求め続けても何も進まない」と発言。長門市の江原市長は、「時代が流れるなかで、鉄道に固執して10年待つという回答にはならない」「上下分離の場合、自治体が年間3億円以上を負担することから現実的でない」として、鉄道での復旧に否定的な考えを述べています。

また、山陽小野田市の藤田市長は「早期復旧が必要。BRTか路線バスでの復旧を検討すべきだ」と主張。他の首長や商工会、観光団体なども、BRTを支持する意見が相次いだそうです。

一方で、臨時総会には参加していない山口県の村岡知事は2025年7月18日の定例記者会見で、「復旧は事業者の責任」としながらも「沿線自治体の意向を尊重しながら、総合的に判断したい」と述べ、BRT転換に一定の理解を示したようです。

今後は沿線自治体と県が話し合い、復旧方針を正式に決定。仮にBRTで復旧する場合は法定協議会を設置し、費用負担などの具体的な内容を決める予定です。

【解説】美祢線の沿線自治体がBRTを容認した理由

今回の臨時総会で沿線自治体は、BRTでの復旧を容認しましたが、鉄道の廃止が正式に決定したわけではありません。とはいえ、沿線自治体とJR西日本は2024年8月より「美祢線のあり方」を含めた調査検証を進めてきました。その結果として沿線自治体はBRTを軸に検討を進めることを確認したわけですから、鉄道の廃止は濃厚でしょう。

美祢線のあり方について議論していた場は、協議会のなかに設置された「復旧検討部会」です。

この部会では、美祢線を「鉄道で復旧する場合」と「鉄道以外で復旧する場合」について検証。鉄道で復旧する場合は「JR西日本の単独復旧・運行」「上下分離方式の導入」「第三セクターへの移行」の3パターン、鉄道以外で復旧する場合は「BRT」「路線バス」の2パターンで、さまざまな観点から議論してきました。

部会で議論した内容は、「鉄道や鉄道以外のモードによる復旧の整理・検討報告書」にまとめられ、2025年5月22日に開かれたJR美祢線利用促進協議会で報告されています。7月16日の臨時総会では、5つの復旧方法について各自治体の意見を集約。「BRTを軸に検討を進める」ことで一致したのです。

なお、JR西日本も5月22日の協議会でBRTを推奨しています。

復旧期間と運行負担がBRTの決め手に

沿線自治体がBRTを支持した理由は、「復旧までの期間」と「自治体の運行負担」にありました。

■美祢線の復旧費用・期間と運行負担

復旧費用工期運行負担
JR単独58億円以上
(全額JR負担)
最短10年5.5億円以上
(全額JR負担)
上下分離方式58億円以上
(国と自治体が一部補助)
最短10年5.5億円以上
(うち約3億円以上を自治体負担)
第三セクター58億円以上
(負担額は要調整)
最短10年5.5億円以上
(全額自治体負担)
BRT55億円
(国と自治体が一部補助)
約3~4年2.5億円
(全額JR負担)
バス転換9.6億円
(国と自治体が一部補助)
約1~2年2.5億円
(全額JR負担)
▲黒字は「鉄道で復旧する場合」、青字は「鉄道以外で復旧する場合」を示す。
参考:JR美祢線利用促進協議会「鉄道や鉄道以外のモードによる復旧の整理・検討報告書」をもとに筆者作成

沿線自治体は当初、鉄道での復旧を求めていました。これに対してJR西日本は「氾濫を繰り返す厚狭川の河川改修が必要だ」と主張。改修工事をしなければ再び被災するとして、管理者である山口県に工事を要望します。

鉄道の復旧工事は、河川改修工事後に始まります。このため、美祢線の復旧までに「10年以上かかる」とされたのです。これはJR西日本の単独復旧・運行であれ、上下分離方式の導入であれ、第三セクターへの移行であっても同じです。

また、JR西日本は2024年5月29日に開かれた協議会で「単独で復旧・運行は困難」と主張。沿線自治体に支援を求めたことから、事実上「上下分離方式」か「第三セクターへの移行」が、鉄道復旧の選択肢となりました。

一方、BRTで復旧する場合についてJR西日本は、厚保~湯ノ峠の約4.2kmでバス専用道を設置すると提案。復旧までの期間は3~4年としています。また、復旧後の運行負担(赤字補てん)はJR西日本が全額負担すると約束しました。

なお、路線バスへの転換については現状の代行バスをベースとした案ですが、営業所やバス停の設置などのイニシャルコストとして9億6,000万円が必要に。この費用は、国と自治体、JR西日本がそれぞれ3分の1ずつ負担するとしています。また運行負担は、JR西日本が全額負担します。

こうした条件から、沿線自治体は「10年も待てない」「年間3億円以上の自治体負担はできない」として、鉄道での復旧に否定的な姿勢となり、BRTでの復旧に傾倒していったのです。

只見線・肥薩線と美祢線の違い

沿線自治体が鉄道での復旧に否定的になった、もうひとつの側面として、「県が支援に積極的でない」こともあるようです。山口県の村岡知事は「復旧は事業者(JR西日本)の責任」と一貫して主張。復旧費用や運行負担を県が支援することに、否定的な考えでした。こうした姿勢に沿線自治体は「県はあてにならない」と考え、BRTに傾倒したとみられます。

美祢線と同じく災害で長期不通となった只見線や肥薩線では、福島県・熊本県が主導で協議を進めることで、復旧または復旧の合意に至っています。いずれの路線も「JR頼みではなく、自分たちも支援していかなければならない」と考え、鉄道の廃止を防いだのです。

では、美祢線の沿線自治体が考えを改められるかといわれると、なかなか難しいでしょう。なぜなら「鉄道を復旧しても、明るい未来を描けなかった」からです。

只見線と肥薩線の場合、普段使いする地元利用者が少なかったこともあり、「観光路線」に振り切ることで復旧にこぎつけた経緯があります。多くの観光客を鉄道で呼び寄せ、地域にお金を落としてもらう。それを財源に、沿線自治体は上下分離方式で支援するというスキームを作れたから、自治体負担の理解を得られたのです。

ちなみに、只見線(会津川口~只見)の自治体負担額は年間で約3億円。これに対して、鉄道復旧による地域経済波及効果は約6億円と福島県は試算しています。また、2033年度の復旧をめざす肥薩線(八代~人吉)では、復旧費用とは別に県や沿線自治体が約105億円を投資するのに対し、年間119億円の地域経済波及効果を期待するプランを描いています。

こうしたプランを美祢線で描けないのは、美祢線が「生活路線」であることが大きいでしょう。被災前の美祢線の利用者は、半分以上が通学・通勤定期客など地元の人でした。そのため、復旧スピードが重視される一方で、少子化・過疎化による利用者の減少が避けられません。

沿線自治体は、2010年の災害を機にJR西日本と協働で利用促進の取り組みを10年以上続けてきました。観光誘客の取り組みも、手を変え品を変え実施して一定の効果を上げたものの、利用者が爆発的に増えることはありませんでした。

鉄道の利用者を増やすは「どれだけ難しいことか」「どれだけ投資をしなければならないか」といったことも、沿線自治体は十分に理解しているでしょう。ゆえに、只見線や肥薩線のようなプランを美祢線で描くのは、「相当な覚悟が必要だ」ということもわかるはずです。

2025年7月16日の臨時総会後、美祢市の篠田市長は「BRTで本数を増やし、通勤通学や観光客などの利便性を高めて、鉄道と同等のネットワークをつくりたい」と語っています。この判断が地域にとって「正しい選択だった」と未来の沿線住民に語り継がれるよう、持続可能な公共交通の構築に向けて検討を続いてほしいところです。

※美祢線の沿線自治体とJR西日本との復旧協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。

参考URL

乗ろうよ!美祢線(JR美祢線利用促進協議会)
https://www.jrminesen.com/kentoubukai.html

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