週刊!鉄道協議会ニュース【2024年12月22日~12月28日】

島原鉄道の島原駅 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、島原鉄道の存続・廃止を議論する検討部会で上下分離方式とバス転換を比較した調査結果が報告された話や、肥薩おれんじ鉄道への支援のあり方を検討する法定協議会が設置された話題など、ローカル線の存廃に関わるニュースを中心に紹介します。

島原鉄道の存廃検討部会 – バス転換なら車両もドライバーも不足

【2024年12月25日】島原鉄道活性化検討部会が開かれ、「上下分離方式による鉄道存続」と「廃止・バス転換」を比べた調査結果が報告されました。

島原鉄道は、沿線自治体などの公的支援を受けながら運行していますが、上下分離方式を導入すると自治体負担の増加が課題に。効率的な運行方法や、車両更新費の負担割合なども検討されたようです。一方で、鉄道を廃止にしてバス転換すると、ドライバーは20人以上、車両は10台以上が不足するという結果に。ほかにも、運行管理者や車両整備士などの増員が必要だと報告されています。

検討部会は、いずれかの方向性について2024年度中に決める方針です。

【解説】バス転換は難しい?瀬戸際に立たされた島原鉄道の現状

島原鉄道は2006年から、国や沿線自治体の支援を受けながら運行を続けています。2014年には、今後10カ年の施設整備計画を策定。その計画にもとづき、沿線自治体は鉄道施設の更新に対する支援を実施してきました。支援額は、年間で3億円前後です。

ただ、島原鉄道は雲仙普賢岳の災害復旧時に借り入れた多額の債務返済が経営を苦しめ、2017年に自主再建を断念。その後、長崎自動車の傘下で再建を図りますが、利用者の減少にくわえコロナ禍や物価高などの影響もあり、厳しい経営状況が続いています。

こうしたなかで、2023年度末には施設整備計画と自治体による支援の更新を迎えます。このタイミングにあわせて長崎県は、今後の支援を検討する組織として「島原鉄道活性化検討部会」を設置。2023年7月から協議が始まりました。

検討部会では、「鉄道のあり方」にまで踏み込んで議論。その結果、「上下分離方式に移行」「LRT転換」「BRT転換」「バス転換」という4つの方向性が示されます。このうちLRTとBRTは莫大な初期投資が必要などの理由で、2024年3月の検討部会で外されます。

2024年12月25日の検討部会では、「上下分離方式に移行」と「バス転換」に関するメリットや課題などを調査した結果(中間報告)が示されます。長崎新聞の報道(2024年12月26日)によると、上下分離方式に移行するケースでは「並行する島鉄バスを全廃にして、鉄道の利用者増加や自治体負担の減額ができないか?」といった内容も調査したようです。

沿線自治体は、鉄道と並走する路線バスにも公的支援をおこなっています。その額は、年間で約7,000万円と推定。これを、上下分離方式への移行による自治体負担の増加分に充てることで、島原鉄道を維持しようという考えです。廃止するバス路線のドライバーを、他路線に割り振れるというメリットもあります。

こうした考えや調査は、他の沿線地域ではあまり見られません。そこまでしなければならないのは、「深刻なバスドライバー不足」と「沿線自治体の厳しい財政状況」があるからでしょう。

日本バス協会によると、全国のバスドライバーの数は2020年から2030年までの10年間で、約25%も減少すると予想しています。地方であれば、もっと減るかもしれません。

また、人口減少が進めば市町村税の納税額が減少します。ちなみに雲仙市と島原市の人口は、2020年から2030年までの10年間で約13%の減少が予測されています(国立社会保障・人口問題研究所の予測をもとに算出)。地方交付金の減額も予想されるなかで、公共交通に対して従来通りの支援を続けるのは限界に近づいているのです。

このような事情もあり、沿線自治体は「鉄道一本に支援を絞りたい」と考えたのかもしれません。

とはいえ、島原鉄道の利用者は年々減少を続けており、輸送密度はコロナ禍前で1,192人/日(2019年)、2020年以降は1,000人を割り込んでいます。いくらバスのドライバー不足が懸念されるといっても、利用者の減少が続き「バスでも十分に運べる」ようになれば、鉄道は廃止されてしまいます。島原鉄道に3億円以上を支援するなら、7,000万円でよい島鉄バスのほうが財政負担を大きく減らせるからです。

もっとも、現状では安易に鉄道を廃止にできる状況ではありません。人口減少がますます進むこれからの10年が、島原鉄道の将来を決めると考えられます。

なお、上下分離方式への移行で想定される自治体支援額は、まだ試算されていません。その試算結果を含め今後10年間の収支計画などは、次回の検討部会で報告されるそうです。

※島原鉄道の経営が悪化した理由や、沿線自治体の支援内容などは、以下の記事で詳しく解説しています。

その他の鉄道協議会ニュース

肥薩おれんじ鉄道で法定協議会を設置 – 鉄道の存続をめざす

【2024年12月23日】肥薩おれんじ鉄道への支援のあり方について話し合う「未来戦略検討委員会」が、初会合を開きました。この組織は、鉄道の維持存続を目的に、国の社会資本整備総合交付金の活用を検討する法定協議会です。交付金を受けるための地域公共交通計画を策定し、これが国に認められると、10年間で約28億円の自治体負担軽減につながるそうです。

この日の委員会では、二次交通の接続改善や駅のバリアフリー化、駅周辺の賑わい創出など、9項目の基本方針について議論。それぞれの課題について、沿線自治体などの参加者が意見を交わしました。委員会は地域公共交通計画を2025年3月までに策定する方針で、2026年度からの交付金活用をめざしています。

※肥薩おれんじ鉄道に対する沿線自治体の支援内容や、利用促進の取り組みなどは、以下の記事で詳しく解説しています。

北陸鉄道の再構築実施計画を国が認定 – みなし上下分離の導入へ

【2024年12月25日】北陸信越運輸局は、北陸鉄道と沿線自治体が申請していた鉄道事業再構築実施計画を認定しました。これにより、石川線と浅野川線は2025年度から「みなし上下分離」に移行。国と沿線自治体の支援を受けて存続することが決まりました。

認定された計画では、鉄道施設の維持に必要な費用を2025年度から15年間、国と沿線自治体が負担。支援額は総額で約132億円です。このうち石川県が28億8,000万円、沿線自治体が46億8,000万円を北陸鉄道に支援します。なお北陸鉄道も、利便性向上などの事業費として約73億円を投資する予定です。

認定書を受け取った金沢市の村山市長は「地域の足を守るのに、沿線自治体だけでなく国も責任を果たしていただき、ありがたく思う」と述べています。

※北陸鉄道の存続・廃止に関する協議の流れや、沿線自治体が支援を決めた理由などは、以下の記事で詳しく解説しています。

JR吾妻線の検討会議で高校生へのアンケート結果を報告

【2024年12月24日】JR吾妻線(長野原草津口・大前間)沿線地域交通検討会議が開かれ、沿線の高校生などに実施したアンケート結果が報告されました。このアンケートは2024年7~8月に実施。高校生と家族あわせて323件の回答(高校生146件、家族177件)が寄せられたそうです。

吾妻線の長野原草津口~大前は、利用者の8割以上が高校生です。その高校生に駅までのアクセス手段をたずねたところ、「家族の送迎」と回答した生徒が半数以上いたそうです。これは、大前駅や万座・鹿沢口駅の始発列車では学校の始業時間に間に合わず、長野原草津口駅まで家族に送迎してもらうケースが多いからだと考えられます。

一方、BRTなど他の交通手段に転換したときの利用意向を聞いた質問では、7割以上の生徒が利用する意向を示しました。

これらのアンケート結果を受けて、今後は検討会議に設置する作業部会で、吾妻線の交通体系のあり方を協議する予定です。

吾妻線の利用者アンケートの調査結果はこちら(PDF)

JR芸備線の経済効果を試算へ – 再構築協議会の幹事会

【2024年12月25日】芸備線再構築協議会の第3回幹事会が開かれ、沿線住民などへのアンケート調査にくわえ、芸備線の多様な価値を把握するために経済効果の算出もすることが確認されました。ファクトとデータにもとづいて路線の価値を調べる作業は、芸備線では初めてのことです。

具体的には、ダイヤの見直しや二次交通との連携強化による効果、民間企業の駅舎活用といった駅の拠点機能を強化したときの効果などを、あらかじめ試算。2025年度から始まる実証事業で実験し、実際の経済効果を調べます。経済効果の試算やアンケート調査は、2024年度中に実施される予定です。

なお、幹事長の中国運輸局は「最適な交通モードを検討していくために、構成員(沿線自治体)にはゴールを意識した議論をお願いしたい」と、一部自治体を牽制する発言もあったようです。

※芸備線再構築協議会のこれまでの流れは、以下の記事で詳しく解説しています。

TXの東京駅延伸をめざす期成同盟会が発足

【2024年12月23日】つくばエクスプレス(TX)の沿線10市区と東京都中央区は、つくばエクスプレスの東京駅延伸をめざす期成同盟会を発足しました。

沿線自治体は、これまでも運営会社の首都圏新都市鉄道などに対して、東京駅への延伸を要望してきました。また、国土交通省の審議会でも東京駅へ延伸し、東京都が2040年の開業をめざす都心部・臨海地域地下鉄と接続することが明示されています。こうした背景から沿線自治体は、早期事業化に向けた活動の場として、同盟会を結成したそうです。

期成同盟会の会長に就任した守谷市の松丸市長は「東京駅延伸が実現すれば、沿線自治体の魅力は格段に変わる。自治体の熱意を伝えていきたい」と述べています。

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