島原鉄道は、諫早と島原港を結ぶ鉄道路線と、路線バス、船舶などを運営する会社です。鉄道はかつて、島原港から先の加津佐まで続いていましたが、2008年に廃止。現存する区間も厳しい経営状況が続き、沿線自治体は鉄道の「あり方」の議論を始めています。
これまで沿線自治体が取り組んできた支援内容を紹介しつつ、島原鉄道の将来について考えてみます。
島原鉄道の線区データ
協議対象の区間 | 島原鉄道線 諫早~島原港(43.2km) |
輸送密度(2008年→2019年) | 1,303→1,192 |
増減率 | -9% |
赤字額(2019年) | 2億14万円 |
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。
協議会参加団体
島原市、諫早市、雲仙市、南島原市、長崎県、島原鉄道
島原鉄道をめぐる協議会設置までの経緯
1980年代の島原鉄道は、徹底した合理化などにより、輸送密度が2,000人/日未満でも黒字経営を達成していました。しかし1991年、雲仙普賢岳の噴火災害による長期不通が影響し、利用者数は大幅に減少。経営も赤字に転落します。
沿線自治体は、島原鉄道の支援と地域振興を図るため、1996年10月に「島原鉄道自治体連絡協議会」を設立。駅周辺の美化活動や沿線のイベントを紹介したカレンダーを作成・配布するなど、利用促進活動に努めます。
ただ、沿線地域の少子化や過疎化、モータリゼーションの進展などの影響もあって利用者数は減少の一途をたどり、経営は一向に改善しません。とくに、南島原(現・島原船津)~加津佐は赤字額が大きく、協議会では廃止も視野に検討を始めます。そして2008年4月、南島原の隣駅の島原外港(現・島原港)~加津佐間が廃止されます。
一部区間の廃止により赤字は改善しますが、存続した諫早~島原外港も決して安泰ではありません。沿線自治体は、さらなる利用促進策を進めるため、2009年2月に「島原鉄道沿線地域公共交通活性化協議会」を設置。翌年3月には地域公共交通総合連携計画を策定し、島原鉄道の支援を強化します。
自主再建を断念し長崎自動車の傘下に
沿線自治体は、島原鉄道に対する公的支援もおこなっています。2006年度からは、老朽化した車両や鉄道施設の更新・整備にかかる費用を、国や県と一緒に支援。さらに、2014年度からは10カ年の施設整備計画を策定し、主に施設更新に対する支援を実施しています。
しかし、こうした支援を受けても、島原鉄道の経営は改善しませんでした。改善しない理由は、雲仙普賢岳の災害復旧時に借り入れた「多額の債務返済」に追われていたからです。
島原鉄道はバスやホテル、不動産といった事業も展開していますが、その利益も借金の返済に充てられました。一方で、鉄道事業は利用者の減少により赤字額が増え続け、首が回らない状況だったのです。
そして2017年11月、島原鉄道は自主再建を断念。政府系ファンドの地域経済活性化支援機構の出資を受け、長崎自動車の傘下で経営再建を図ることになります。
島原鉄道のこれまでの取り組み
沿線自治体の協議会とともに、島原鉄道で実施してきた取り組みの一例を紹介します。
- 企画乗車券の販売(SHIMATETSU FREE PASS、ぐるっと島原半島フリーきっぷなど)
- 各駅前に沿線案内地図の設置
- バス乗継時刻表の作成・配布
- パークアンドライドの設置
- イベント列車の運行(カフェトレイン、サイクルトレイン、スイーツ列車など)
…など
企画乗車券は当初、利用者にポイントカードを発行して商品を贈呈するなど、日常利用の促進を目的とした施策に注力していました。ただ、効果は限定的として廃止に。現在は、観光利用者向けにバスやフェリーも利用できる「SHIMATETSU FREE PASS」などの企画乗車券に注力しています。
また、各駅に周辺施設などを掲載した案内地図を設置したり、島原港には船との乗継案内情報を提供する設備を設置したりと、観光客を意識した取り組みを進めています。
島原鉄道の「あり方」を議論する検討会が発足
長崎県と沿線自治体は2013年に、島原鉄道の社会的便益の調査を実施しています。このときは「鉄道を廃止するより、存続させたほうが便益は高い」という結論に至り、2014年度からの公的支援につながりました。
この公的支援は、10カ年の施設整備計画がベースになっており、2023年度が最終年です。そこで長崎県は、今後の支援を検討するために「島原鉄道活性化検討部会」を2022年11月に設置。将来の需要予測調査や経営改善策の検討などをおこない、島原鉄道の「あり方」について検討を始めました。
検討部会の第1回は、2023年7月28日に開催されます。この場では「需要予測調査の実施」と、沿線住民の利用実態や意向などを把握するために「住民アンケートの実施」が決定します。
また、島原鉄道の今後の運用形態として「上下分離方式の導入」を検討するほか、「路線バス・BRT・LRTへの転換」も選択肢に含めることが確認されます。なお、上下分離方式については、島原鉄道が自主再建を断念した2017年にも沿線自治体へ申し入れています。そのときは沿線自治体が断りましたが、今回は選択肢のひとつとして検討されることになりました。
上下分離の導入か?一部or全線でバス転換か?
2024年3月15日に開催された、第3回検討部会。ここで、将来の需要予測調査と住民アンケートの結果が報告されます。
まず需要予測については、少子化・過疎化などの影響もあり、10年後の2033年度には約16%減少すると推計。現状のままでは鉄道の維持が困難になるという見通しが示されます。
住民アンケートの結果では、沿線住民の約1割が「廃止やむなし」と答えたのに対し、鉄道が廃止されると「不便になる」と答えた人は66.1%という結果に。さらに、2008年に部分廃止された島原港(島原外港)以南の地域では、住民の約8割が「外出頻度が減った」と回答したことも報告されます。
これらの報告を踏まえ、検討部会は島原鉄道の今後の運用形態を議論。その結果、以下3つの選択肢が示されたのです。
(1)鉄道の存続(上下分離方式の導入)
(2)鉄道の一部存続(一部区間はバス転換)
(3)全線廃止・バス転換
この3つを軸に、2024年度も引き続き検討していくことが確認されました。
(1)の場合、自治体負担の増加が懸念されます。現在、島原鉄道に対する公的支援額は年間3億円前後。国や長崎県も一部負担するとはいえ、沿線自治体も毎年1億円以上の支援を続けています。沿線地域は過疎化・少子化が進む見通しですから、できる限り負担額を抑える方策が求められるでしょう。
また(2)(3)の場合も、バス運転士を確保できるかが課題として挙げられます。赤字路線とはいえ、島原鉄道の輸送密度は1,192人/日(2019年)。代替バスによる輸送が難しい区間もありそうです。
なお、前回までの検討部会で示されていたBRTとLRTは、莫大な導入コストが必要なことや、工事期間中に代替輸送手段を確保しなければならないことから「実現困難」として、選択肢から外されました。検討部会は、2024年度中に島原鉄道の方向性を決める予定です。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html
2020地域振興部の概要(長崎県)
https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2020/06/1592975662.pdf
島原鉄道自治体連絡協議会(国土交通省)
【リンク切れ】https://www.mlit.go.jp/crd/chiiki/tiikidukuri/03-02.html
島原鉄道沿線地域公共交通活性化協議会(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000119467.pdf
長崎県地域公共交通計画
https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2023/03/1679453988.pdf
百年超える歴史の島原鉄道、無念の自主再建断念(日経ビジネス)
https://business.nikkei.com/atcl/interview/15/279177/022600030/
島原鉄道、上下分離方式による「存続」か路線バスへの「転換」か…沿線人口減少で経営難(読売新聞 2024/3/19)
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20240318-OYTNT50101/
バス高速輸送と次世代路面電車 島鉄活性化 検討から除外(長崎新聞 2024/3/16)
【リンク切れ】https://news.yahoo.co.jp/articles/cad5d251e6ccd09bf546b96615e9cf0431c9d702