【とさでん交通】黒字だった路面電車が廃止検討される理由

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とさでん交通の路面電車 私鉄
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とさでん交通は、高知県で路面電車や路線バスなどを運営する交通事業者です。このうち路面電車は、1904年に開業。日本で現存する路面電車としては、もっとも古い路線です。また路線長も、伊野線と後免線(東西線)、桟橋線(南北線)を合わせて25.3kmになり、「日本一長い路面電車」としても知られます。

コロナ禍前は年間約600万人が利用し、近年の利用実績は安定しているとさでん交通の路面電車。しかし、沿線自治体は一部区間の廃止を含めた話し合いを進めています。その経緯を知るには、前身である土佐電気鉄道の経営悪化問題から振り返る必要があります。

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とさでん交通(路面電車)の線区データ

協議対象の区間伊野線 はりまや橋~伊野(11.2km)
後免線 はりまや橋~後免町(10.9km)
桟橋線 高知駅前~桟橋通五丁目(3.2km)
輸送密度(1987年→2019年)4,187→3,121(全線)
増減率-25%
赤字額(2019年)6,119万円
※輸送密度および増減率は1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

高知市、南国市、いの町、土佐市、香南市、安芸市、香美市、須崎市、大豊町、本山町、芸西村、土佐町、高知県など

とさでん交通と沿線自治体

とさでん交通の成り立ち~路線バスの債務超過で事業再生へ

2012年、土佐電気鉄道の役員による重大なコンプライアンス問題が発覚します。これを機に、高知県や沿線自治体などは土佐電気鉄道への指導強化とあわせて、持続可能な公共交通の構築に向けて検討する「中央地域公共交通再構築検討会」を、2013年9月に発足させました。

単なる指導だけでなく検討会を発足させたのは、バス事業者が抱える赤字問題を解決する狙いもあったからです。当時、高知市を含む県中央地域には、土佐電気鉄道のほか高知県交通というバス会社もありました。いずれも、モータリゼーションの影響などで利用者は激減。両社は多額の債務を抱えていました。

国や自治体は、1999~2013年度の15年間に約43億円もの運行補助で両社を支援しています。それでも、土佐電気鉄道は約21億円、高知県交通は約26億円の債務を抱え、経営破たん寸前という状況だったのです。

ちなみに、土佐電気鉄道の路面電車(軌道事業)は、年間で約3,000万円の黒字です(2013年度)。地方鉄道では、「赤字の鉄道をバスの利益で補てんする」という内部補助の構図が一般的ですが、土佐電気鉄道では「バスの赤字を路面電車の利益で補てんする」という状況が長年続いていました。これが、後で説明する「路面電車の設備投資が遅れた」一因になっています。

土佐電気鉄道と高知県交通の赤字問題を解決するため、検討会では2014年6月、両社に対する「事業再生計画」を策定。このなかで、沿線自治体の出資による新会社の設立が提言されます。

こうして2014年10月、土佐電気鉄道と子会社の土佐電ドリームサービス、高知県交通の3社が統合した「とさでん交通」を設立。新会社は、高知県と沿線自治体が全額出資し(出資金は10億円)、事実上の公設民営として再スタートを切ったのです。なお、沿線自治体は出資金とは別に、毎年度の赤字補てんもしています。

とさでん交通のこれまでの取り組み

事業再生計画では、とさでん交通の自助努力による経営改善計画(計数計画)も示しています。計画期間は2014~2019年の5年間です(後に5年半に延長し、2020年3月に完了)。

また、沿線自治体との協力により利用促進策も進めています。主な取り組みを紹介しましょう。

  • 講演活動・イベントの実施(高齢者への出前授業、車庫見学など)
  • ローラー活動
  • 企画きっぷの販売(バス電車一日乗車券、新春初詣キップなど)
  • パークアンドライド・サイクルアンドライドの設置
  • バリアフリー化の推進
  • クラウドファンディングの実施
  • ダイヤモンドクロッシングやトリプル・クロスの看板設置
  • 営業拠点の集約
  • 社会実験(電車・バス等運賃無料デー、ワンコインデー)
  • ICカード「ですか」の無料配布

…など

講演活動やイベント実施にくわえ、役員も含めた全従業員による「ローラー活動」も展開しています。これは、沿線住民に電停やバス停の時刻表やサービス一覧表、バス路線図などを配布する地道な作業です。

高知市の交通分担率は、路面電車やバスが4%、JRなどの鉄道が1%と、公共交通の利用者が極めて少ない地域です。地道な活動でも、まずは「公共交通を使う意識の醸成」が重要な施策だったといえるでしょう。

高知市が地域公共交通の「あり方検討会」を設立

事業再生計画によると、とさでん交通は設立から3年後に黒字転換する計画でした。もちろん自助努力だけでは黒字にならず、国や県、沿線自治体の補助金を含めての話です。その補助金は、年間3億~4.6億円。当初、バス路線の減便・廃止などで補助金は減少すると予測されていましたが、実際にはなかなか減りません。とりわけ高知市の支援額は、年々増加傾向にあったのです。

▲とさでん交通への運行費補助金(単位:千円)。高知市(青色)は、バス路線の収支悪化が続き、増加の一途をたどっている。
参考:高知市「本市の地域公共交通の現状及び課題」をもとに筆者が作成

ちなみに、補助金は路線バスのみに適用され、黒字の路面電車には適用されません。ところが、その路面電車も2017年に赤字へ転落します。路面電車の赤字は年々増え続け、コロナ禍の2021年度には2億円を突破。このままでは、とさでん交通が資金ショートに陥ります。

こうしたなか、補助金をもっとも多く支援する高知市は、路面電車を含めた公共交通の「あり方」について、抜本的な改革が必要と判断。2022年に、有識者や市民代表による「地域公共交通あり方検討会」を設置します。

検討会では、路面電車も含めた持続可能な交通体系網の検討にくわえ、赤字に対する費用負担のあり方や利用促進策についても議論されることになりました。なお、路面電車に関しては「LRTやBRTへの転換」「バス転換」なども、検討事項に含まれています。

設備投資の先送りが大きな問題に

地域公共交通あり方検討会は、2022年12月に第1回が開催されます。専門家からは、「クロスセクター効果や便益の数値化などで、公共交通の必要性を示すことが大切」といった意見が出る一方、「誰が赤字を負担するかを整理する必要がある」といった意見も出されます。

こうしたなかで、路面電車に関して以下の意見も出されました。

・路面電車を残すことは文化的・観光的に意義があるが、現在の規模での維持は現実的ではない。

出典:高知市地域公共交通あり方検討会「第1回あり方検討会の論点整理」

なぜ、「現在の規模での維持は現実的ではない」のか。その理由は、第2回の検討会(2023年2月)で詳しく示されます。

とさでん交通は、バスの赤字を埋め合わせるために路面電車の設備投資を最小限に抑えてきました。その路面電車への設備投資額について、「本来必要な投資額」と「実際の投資額」に大きな乖離が生まれていたのです。

本来必要な投資額実際の投資額
重軌条(レール)の交換4億3,800万円3,000万円
き電線の改良1,475万円720万円
低床車両の更新4億円8,333万円
参考:高知市「本市の地域公共交通のあり方に係る検討について(交通体系・費用分担)」の資料をもとに筆者が作成。

たとえば、レールの交換に本来必要な額は年間4億3,800万円に対し、実際には3,000万円しか投じられていません。車両の更新も年間4億円が必要なのに、実際には8,333万円です。とさでん交通の路面電車は非常に古い車両が多く、平均車齢は57年と老朽化が深刻な問題になっています。

これらの設備投資は、安全な運行に必要な投資です。それができない状況だから、「現在の規模での維持は現実的ではない」と指摘されたわけです。また、伊野~はりまや橋は路線バスも並走する区間です。さらに、いの町周辺ではJR土讃線も並走しており、少ないパイを取り合っている状況も課題として挙げられました。

路面電車の一部廃止にも言及

2023年7月、高知市地域公共交通あり方検討会は、検討結果をまとめた報告書を公表します。この報告書には、路面電車のあり方や交通ネットワークの維持について、以下の提言がされています。

・中心部は電車、周辺部はバス、さらにタクシーや自家用有償運送といった多様な交通モードを組み合わせたネットワークと結節点整備を検討すること。

出典:高知市「高知市地域公共交通あり方検討結果報告書」

この意見は、路面電車利用者の9割以上が高知市内で乗降を完結するというデータから、出されたものです。ちなみに、いの町・南国市でそれぞれ完結する利用者は1%未満、両市町から高知市内の移動も5%未満しかありません。そのため、隣接する市町はバスなどに転換し、高知市内に新たに設ける結節点で乗り換えさせることも検討事項としています。

また、車両や電停などの設備更新も急がれることから、「LRTやBRTを導入している全国事例や海外事例を研究し、幅広い視点から検討することが必要」と提言しています。

このほか、とさでん交通に対する財政支援について、さらなる充実と見直しにも言及しています。具体的には、行政の役割や責任を再確認したうえで、「自治体の負担」「利用者の負担」「とさでんの負担」「市民の負担」などのバランスを検討する必要があるとしています。

「利用者の負担」というと、運賃の値上げをイメージするかもしれませんが、報告書では逆に「運賃を安くすることで交通渋滞の緩和や地域経済の活性化も期待できる」として、値下げを意識した運賃制度の見直しを提言しています。

また、「市民の負担」という点では、民間事業者などからの協賛金や寄付金を募ることに言及。自治体の補助金も厳しい財政状況から限界であり、マイレール意識の醸成によりとさでん交通を支えていくしくみが必要であると伝えています。

とさでん交通の路面電車は存続できるのか?

高知市地域公共交通あり方検討会では、「路面電車の『古さ』を価値にできないか」という意見も出されています。実際に、レトロな車両を見に来る観光客も多く、地域活性化の一助になっているのも事実です。とはいえ、安全運行を確保するには適切な設備投資が必要ですし、その投資が「誰がするの?」という問題が出てきます。

ここで注意しなければならないのは、この検討会は「高知市の考え」をまとめる場であり、「沿線自治体の総意ではない」という点です。今回の報告書では、路面電車の部分的な廃止にも言及していますが、隣接する沿線自治体が反対するのは容易に想定されます。

ただ、高知市以外の自治体も財政は厳しい状況です。とさでん交通に対して、これ以上の支援ができるかは、県がイニシアティブを取って協議していく必要があるでしょう。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

事業再生計画とは(とさでん交通)
https://www.tosaden.co.jp/download/?t=LD&id=1540&fid=5543

本市の地域公共交通の現状及び課題(高知市)
https://www.city.kochi.kochi.jp/uploaded/attachment/124968.pdf

本市の地域公共交通の取り組み(高知市)
https://www.city.kochi.kochi.jp/uploaded/attachment/125016.pdf

令和4~8年度 中期経営計画(とさでん交通)
https://www.tosaden.co.jp/download/?t=LD&id=1866&fid=7253

高知市地域公共交通あり方検討会
https://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/193/chiiki-koukyoukoutsu-arikatakentou-kai.html