【西武鉄道】西武秩父線の廃止問題はどうなった?利用者減を抑えた自治体の行動

西武秩父線の秩父駅 私鉄

西武秩父線は、埼玉県の吾野と西武秩父を結ぶ19kmの路線です。地域の足として多くの通勤通学客を輸送するほか、飯能や池袋など池袋線に直通する列車も多数あります。

首都圏郊外で利用者の多い西武秩父線でも、かつて廃止問題が浮上したことがありました。再上場をめざす西武ホールディングスと筆頭株主との意見の食い違いから発展した、敵対的TOB。そして、この騒動に巻き込まれた沿線の自治体と住民。西武秩父線の沿線で起きた出来事を振り返ります。

西武秩父線の線区データ

協議対象の区間西武秩父線 吾野~西武秩父(19.0km)
輸送密度(2010~2012年の平均)8,525
増減率
赤字額(2019年)
※輸送密度は、運輸総合研究所「外資ファンドによる大手民鉄路線の廃止要求に対する制度的対策に関する研究(楠木行雄・著)」より引用しています。

協議会参加団体

秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町、商工団体、観光協会

西武秩父線と沿線自治体

西武秩父線の廃止問題が浮上した「サーベラス騒動」

2004年11月、東京証券取引所は西武鉄道株の上場廃止を決定します。上場廃止の理由は、有価証券報告書の虚偽記載でした。西武鉄道は大株主の持ち株比率を過少報告するなど、長年にわたり虚偽記載を繰り返し、証券取引法違反で告発されたのです。

その後、西武鉄道は持株会社制へ移行。2006年に西武ホールディングスとして、グループを再編します。その際に大株主となったのが、投資ファンドのサーベラス・キャピタル・マネジメント(以下、サーベラス)でした。

西武ホールディングスは、サーベラスとともに経営再建と再上場をめざして動き始めます。しかし2012年10月、再上場に関するサーベラスからの「提案」をめぐり、両社の関係が悪化します。その提案のひとつに「不採算路線の廃止」があったのです。対象路線は西武秩父線のほか、多摩川線、山口線、国分寺線、多摩湖線の5線でした。

サーベラスとしては、不採算路線を廃止にすることで企業価値を向上させ、株価が上がることを期待しての提案だったといわれます。これに対して西武側は反発。公共交通機関としての使命を果たすためにも、5線の存続を主張します。これだけが原因ではありませんが、再上場をめぐる考えの違いからサーベラスと西武ホールディングスは対立してしまったのです。

そして2013年3月11日、サーベラスは西武ホールディングスの株式公開買い付け(TOB)を発表。敵対的TOBで仕掛けてきます。当然、西武側はTOBに反対を表明しますが、これが報道され「鉄道の廃止提案」も公になったことで、沿線自治体や住民も企業間の騒動に巻き込まれることになってしまいます。

西武秩父線の廃止を防ぐために沿線自治体が取った行動とは

西武秩父線の廃止提案を知った沿線自治体は、2013年3月25日に西武鉄道などに対して路線存続の要望書を提出します。また、各市町の議会では西武秩父線の存続を求める決議を下し、4月10日には国土交通省に要望書を提出しています。

自治体だけでなく、沿線の商工団体や観光協会なども路線存続に向けて動き始めます。秩父商工会議所などは「西武鉄道を応援する会」を組織。西武ホールディングスの株を積み立て方式で購入するよう、市民に呼びかけます。

別の団体では、池袋線などを含めた沿線各地で存続を求める署名活動を展開。最終的には約50万人もの署名が集まります。とりわけ西武秩父線がある1市4町では、人口の8割にあたる8万人以上の署名が集まったそうです。

こうした官民の団体をまとめる組織として、沿線自治体は5月15日に「西武秩父線利用促進協議会」を設立。鉄道の利用促進を含め、路線が継続的に確保される取り組みを始めることになりました。6月11日には、沿線自治体と埼玉県、関係団体による担当者会議を開催。利用促進の具体案を示します。実行に移された主な利用促進は、以下の通りです。

  • 沿線施設で利用できるクーポンの配布(「秩父へグッと来ーポン」など)
  • ステッカー配布(「Visit 秩父」のロゴをあしらったステッカー)
  • メディアプロモーション(TVCMなど)
  • SNSを使ったPR(「Visit 秩父」を合言葉に、沿線スポットの情報を拡散してもらう)
  • 誘客DVD・CDの展開(西武沿線に関係するタレントなどがPR)
  • デジタルサイネージ・ウエルカムボードの設置
  • イベントの実施(ふるさと祭りフェアなど)

…など

再上場後、秩父観光に注力する西武鉄道と沿線自治体

2013年5月31日、サーベラスは西武ホールディングスへのTOBを終了します。結果的に、TOBは失敗。サーベラスに対する金融機関や取引先などの警戒感が高まったことが、TOB失敗の一因とされました。また、同年6月の取締役会ではサーベラスが提案した人事案などがすべて否決され、西武秩父線をはじめ5線の廃止提案も撤回されます。

その後、両社は和解。2014年4月に西武ホールディングスは、再上場を果たします。なお、サーベラスは2017年8月までに全株を売却し、撤退しました。

一連の騒動をめぐり、西武鉄道は沿線の自治体や住民に無用な心配をかけてしまいました。その一方で、西武秩父線が沿線住民にとって「どれだけ大切なものか」を改めて認識する契機にもなりました。

これを受けて西武鉄道は再上場以降、西武秩父線の利用促進に力を注ぎます。TVCMなどで秩父観光キャンペーンを展開するほか、2016年にはレストラン列車「52席の至福」の運行を開始。さらに、2017年には西武秩父駅前の温泉施設「祭の湯」を開業します。

沿線自治体も、西武鉄道や近隣自治体との連携を深め、西武秩父線のさらなる利用促進に努めるようになりました。サーベラス騒動が起きる前年の2012年、豊島区と秩父市、飯能市、西武鉄道は「西武線沿線サミット協定」を締結。鉄道を使って、地域の魅力創出や観光事業の推進を図る取り組みを進めています。この協定に、2018年には所沢市と横瀬町が、さらに2023年には清瀬市も参加。路線存続をめざした取り組みの輪が、広がりつつあるようです。

こうした取り組みもあってか、西武秩父線の利用者数は近年、ほぼ横ばいの状態が続いています。沿線人口の減少が進むなかで利用者数を維持できているのは、サーベラス騒動もきっかけのひとつになったのかもしれません。

■西武秩父線の乗降客数合計の推移

▲吾野駅を含む6駅の乗降客数を合計した推移。オレンジは再上場前。コロナ禍前は、1万人以上の乗降客数を維持していた。
参考:国土数値情報「駅別乗降客数データ」をもとに筆者作成

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

外資ファンドによる大手民鉄路線の廃止要求に対する制度的対策に関する研究(運輸総合研究所)
https://www.jttri.or.jp/members/journal/assets/no68-01.pdf

路線存続を求める西武鉄道沿線自治体及び地方議会のとりくみ(衆議院国土交通委員会 配布資料 2013年5月17日)
http://www.shiokawa-tetsuya.jp/modules/spaw2/uploads/files/130517shiryou.pdf

<線路は続くよ 西武秩父線開通50周年>廃線の危機(東京新聞 2019年11月1日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/13558

西武秩父線利用促進協議会(秩父市)
https://www.city.chichibu.lg.jp/5182.html

第1日 6月17日(月曜日)本会議(横瀬町)
https://www.town.yokoze.saitama.jp/wp-content/uploads/2020/02/250617.pdf

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