JR四国は「5カ年推進計画2021~2025」の総括的検証報告書を、2026年3月23日に国土交通省へ提出しました。これに対して国土交通省は、JR四国に対する今後の支援と指導について回答。2030年度までの5年間に1,025億円を財政支援する代わりに、さらなる経営改善を求めています。また、利用者の少ない線区には2026年度中に協議組織を設置し、徹底的な議論・検討をおこなうことも指導しました。
これまで鉄道のあり方議論に消極的だったJR四国ですが、いよいよ本格的な存続・廃止協議が始まりそうです。JR四国のローカル線は、今後どうなるのでしょうか。5カ年推進計画の取り組みを振り返りながら、鉄道のあり方が問われる「輸送密度1,000人/日未満の線区」の将来を考察します。
JR四国の「5カ年推進計画」とは
JR四国の「5カ年推進計画」とは、利用促進や経費削減を目的に、四国4県および沿線自治体と連携した各種取り組みをまとめたものです。
JR四国では、2011年度に「経営自立計画」を策定しています。この計画は、国の支援を得ずとも自立した経営をめざすためのものであり、10年後の2020年度には「経常利益3億円」という目標を掲げていました。しかし実際は、人口減少やモータリゼーションの進展などの影響もあって利用者は減少。収支も2019年度の段階で20億円の赤字(経常損失)と悪化し、目標達成が難しくなったのです。
国の支援額は増え続ける一方、今後も厳しい経営が続くと予測されるなかで、国土交通省は2020年3月に経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう「行政指導」を発出します。このなかで、沿線自治体との連携にも言及。利用促進やコスト削減などの取り組みを、地域と協力して進めることが求められたのです。
国の行政指導を受けてJR四国は、持続的な鉄道網の確立に向けた検討を沿線自治体と始めます。なお、JR四国と沿線自治体は「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会」という協議組織を2010年に設置しています(第2期の懇談会は2017年に設置)。この組織があったことで、自治体への申し入れや行政指導への対応がしやすかったと考えられます。
こうして、沿線自治体との取り組みをまとめたものが「5カ年推進計画」でした。計画期間は、2021~2025年度までの5年間。対象線区は、JR四国の全線区です。
また、各種取り組みを評価しやすいように目標値も設定。2019年度の「輸送密度」と「列車キロ平均輸送人員」が指標とされました。
そして、最終年度(2025年度)に目標達成できなかった場合は、「事業の抜本的な改善方策についても検討」すると明記。つまり、鉄道の廃止を含めた議論を計画終了後の2026年度以降に始める可能性を示唆したのです。
■5カ年推進計画で設定した目標値(JR四国全線区)
| 基本指標(輸送密度) | 関連指標(列車キロ平均輸送人員) |
|---|---|
| 4,416人/日 | 68.3人 |
5カ年推進計画の結果は「目標未達成」
沿線自治体の協力のもとで進めた5カ年推進計画ですが、結果からいうと「輸送密度」「列車キロ平均輸送人員」いずれも目標を達成できませんでした。
JR四国全線区の2024年度の実績は、輸送密度が3,977人/日、列車キロ平均輸送人員が67.6人です。2025年度上期のデータだと、列車キロ平均輸送人員が72.3人で目標値を上回っています。ただ、2019年度の上期は75.3人。上期だけで比べると未達です。
線区別でみても、全線区未達成。JR四国のドル箱路線といわれる本四備讃線(瀬戸大橋線)でも、利用者が減っています。
JR四国は5カ年推進計画の総括的検証報告書で、「沿線地域の人口減少による移動需要の減少」を指摘。また、運行本数の少なさなど「利便性の低さ」も課題として挙げています。利便性を高めるために増便したくても、人口減少という不可抗力により利用者が増えない現状では、投資が難しいことを伝えているのでしょう。
さらにJR四国は事業の抜本的改善方策について、利用促進などの施策を「引き続き地域の関係者と一体となって取り組む」としながらも、利用者の少ない線区については以下の考えを伝えています。
四国全域で加速化する人口減少を見据えると、ご利用が減少し大量輸送機関としての鉄道特性の発揮がより困難になっている線区(特に平均通過人員が1,000人/日未満)については、利用者や地域戦略の視点に立った、利便性と持続可能性の高い地域公共交通ネットワークの実現に向けて、沿線自治体等関係者との議論・検討を進めていく必要がある。
<中略>
なお、沿線自治体等関係者との議論・検討や地域と一体となって取り組む抜本的改善方策の具現化に向けては、既存の協議会等の活用もしくは線区別に新たな会議体を設置することで、円滑・確実な推進を図っていく。
出典:JR四国「5カ年推進計画2021~2025」総括的検証報告書
JR四国は「輸送密度1,000人/日未満の線区は鉄道の特性を発揮しにくい」と、具体的な数値を提示。そのうえで、対象線区の沿線自治体と「鉄道のあり方」に関する協議を始めると伝えたのです。
この報告を受けた国土交通省は、JR四国の考えに同調。2026年度中にも協議組織を設置するよう求めています。
なお、JR四国の報告書や国土交通省の指導文書には、鉄道の「廃止」という言葉は一切使われていません。逆に「鉄道の存続ありき」といった表現もありません。
JR四国と国が沿線自治体に求めているのは、「利用者視点で使いやすく、地域の維持活性化にもつながる公共交通の再構築について、フラットな視点で議論すること」です。鉄道だけにとらわれず地域住民のための公共交通議論であることを、今後協議に参加する自治体は理解しておきたいところです。
JR四国の「あり方」協議が始まる線区は?
JR四国が協議を申し入れる対象は、以下3線区になる模様です。
| 線区 | 輸送密度 |
|---|---|
| 予讃線(海回りの向井原~伊予大洲) | 335人/日(364人/日) |
| 牟岐線(阿南~阿波海南) | 阿南~牟岐:394/日(605人/日) 牟岐~阿波海南:187人/日(186人/日) |
| 予土線(北宇和島~若井) | 234人/日(301人/日) |
出典:JR四国「5カ年推進計画2021~2025」総括的検証報告書
予讃線は、いわゆる「海回り」の線区です。いずれの線区も利用者が少なく、仮に路線バスに転換した場合でも補助金なしでは経営できない線区でもあります。
これらの線区でも5カ年推進計画では、さまざまな取り組みを実施しました。主な取り組みと結果についてまとめます。
予讃線(海回りの向井原~伊予大洲)
観光列車「伊予灘ものがたり」運行
JR四国を代表する観光列車のひとつ「伊予灘ものがたり」を活用した施策です。沿線住民を招待するなどの取り組みを実施しています。結果は、2021年から4年間で延べ9万人が利用。JR四国の増収効果は、年間9,600万円と試算されています。
サイクルトレインの運行
定期列車にサイクルトレインの車両を増結した「愛ある伊予灘号」を、2021年より運行。初年度は63台が利用しますが、2024年度には27台と低迷。ただ、2025年度は76台と過去最高を記録します。
モーダルミックス実証実験
並行する路線バスにJR定期券で乗車できる取り組みです。2025年7月から7カ月間実施しますが、利用者数はトータルで172人、1日あたり3.1人しか増えませんでした。
牟岐線(阿南~阿波海南)
鉄道とバスの共同経営
2022年4月に、JR四国と徳島バスが共同経営を開始。JR四国の乗車券で、並走する徳島バスに乗車できるようになりました。当初は阿南~浅川で実施。2023年には阿波海南まで拡大します。ただ、ドライバー不足によるバスの減便もあり利用者数が想定より増えず、1日あたり4.8~7.0人でした。
2025年度には実証実験として、牟岐~阿南にも拡大。こちらは1日あたり10.3人が利用したようです。
企画きっぷ販売
阿佐海岸鉄道や土佐くろしお鉄道などと連携した「徳島・室戸・高知55フリーきっぷ」は、1,348枚を販売。約800万円の増収効果があったそうです。ほかにも、指定エリアのバスも乗り放題になる「徳島レール&バス 南北きっぷ」も販売しますが、こちらの販売数は296枚でした。
サイクルトレインの運行
阿南~阿波海南の普通列車内に自転車を持ち込めるサイクルトレインを、2023年に実施。3日間の利用者数は延べ35人でした。
運賃補助事業
一部の自治体では、通学定期代や校外活動での利用などに運賃補助事業を実施しています。しかし、阿南~牟岐の定期利用者数は36~53%も減少。定期外利用者も、阿南~阿波海南で28~38%減っています。共同経営によるバスへの移行や、2025年に廃止された「特急むろと」も、利用者減少に影響しているのかもしれません。
予土線(北宇和島~若井)
モーダルミックス実証実験
2023年度は、高知県側の窪川~十川で実施。JR乗車券で並行する路線バスにも乗れるようにしました。結果は1日あたり3.3人でした。2024年度は、愛媛県側の宇和島~松丸で実施。こちらはバスの運行本数が多いこともあり、1日あたり11.0~12.1人が利用しています。
電動キックボードを主要駅に設置
電動キックボード「LUUP(ループ)」を、愛媛県側の主要駅に設置。二次交通の代替手段としての役割や沿線地域の周遊に活用できるかを検証しました。ただ、利用者数は1日あたり2.8人と低迷しています。
また高知県の江川崎駅では、自動運転の低速電動車両(グリーンスローモビリティ)を運行する実証実験を実施。1週間で延べ486人が利用したそうです。このうち予土線利用者は、わずか24人でした。
イベントの実施
予土線を応援するイベント「予土線Fun Fun 祭り」を2021~2023年に開催。臨時列車も運行され、会場には約2,300人が来場しました。うち予土線利用者は、約1,000人だったそうです(いずれも2022年度の実績)。もっとも、イベントは年1回のため一時的な集客に過ぎず、予土線全体の利用者増加にはつながっていません。
フリーきっぷの販売
予土線利用促進対策協議会の企画で、宇和島~窪川が2日間乗り放題になる「しまんとグリーンラインフリーきっぷ」を販売しました。ただ、販売枚数は約1年間で385枚、増収効果は約85万円と不発に終わったようです。
「鉄道の重要度」は線区ごとに温度差が
このほかにも3線区ではさまざまな取り組みを実行しましたが、結果的には利用者が増えずJR四国の収支改善にもつながっていません。
とはいえ、鉄道の価値は利用者数や収支といった定量的な指標だけでは判断できません。「沿線住民にどれだけ利用されているのか」「地域にとって鉄道がどれだけ重要か」といった定性的な指標も、存続・廃止の重要な判断材料になります。
こうした指標についてJR四国と沿線自治体は、沿線住民にアンケート調査を実施しています。ここでは、3線区の「利用状況」と「重要度の認識」についてまとめました。
※以下のデータは、JR四国「5カ年推進計画2021~2025 総括的検証報告書」をもとに作成しています。
利用状況
■予讃線(向井原~伊予大洲)

■牟岐線(阿南~阿波海南)

■予土線

予讃線と予土線は、7~8割の人が「全く使わない」と回答。二次交通を含め、利便性の低さに対する意見が多かったようです。
一方で牟岐線では、「JRを使う」と回答した人が4割以上もいます。ただし、そのうち74%は「利用頻度が年2~3回以下」と、ほとんど利用しない人たちでした。これは予讃線・予土線でも同じ傾向で、多くの沿線住民にとって「鉄道が日常的な移動手段になっていない」ことがわかります。
重要度認識
■利用者

■非利用者

「とても重要」「まあ重要」と答えた人は、予讃線と牟岐線では9割前後、日常的に利用しない非利用者でも6割以上が鉄道の重要性を認識しています。理由として「高齢者や体の不自由な方のため」「なくなると地域が廃れる」といった声が多かったようです。
一方の予土線は、利用している人では「とても重要」「まあ重要」が8割もありますが、非利用者では26%しかありません。むしろ「重要ではない(28%)」のほうが高いです。予土線沿線では、鉄道が日常の移動手段として使われないばかりか、「鉄道がなくても困らない」と考える人たちが多いことがうかがえます。
JR四国の3線区は廃止を防げるか?
利用者の少ない3線区のユーザーは、半分以上が通学定期客です。その多くが高校生だと考えられます。
■3線区の利用者構成比

ローカル線あるあるですが、多くの高校生は卒業すると自動車免許を取得し、地元のローカル線に乗ることはなくなります。上述の住民アンケートでも「マイカーがあるから鉄道に乗ることはない」と回答した人は、3線区でも多かったようです。
もっとも、高校生が今後増えると予測される地域であれば、鉄道を存続させる意義があるかもしれません。しかし実態は、3線区とも少子化・過疎化が進んでおり、減少の一途をたどり続けるのは明白です。
一方、高齢者の割合は増加傾向にあります。「免許返納後に乗るかもしれない」と考えている沿線住民も多いでしょう。では、いまの高齢者はどのように移動しているのでしょうか。鉄道やバスを長年利用してこなかったため乗り方すらわからず、いつまでも免許を返納できない高齢者の多い地域もあるでしょう。免許返納後も、家族に送迎してもらうか病院・介護施設の送迎車を利用するなど、公共交通を使わない人は少なくありません。
いまの高齢者をみれば、その地域で将来どのように移動するかが想像できますし、何より駅前に目的地がないなど「過度な車社会にあわせたまちづくり」も鉄道の利用を遠ざけていると考えられます。
地元の人が乗らないのであれば、観光誘客で鉄道を存続させる方法もあるでしょう。その点では、予讃線(海回り)と予土線(高知県側)は定期外利用者が多く、インバウンドをはじめ観光誘客に成功しているようにみえます。
しかし、定期外利用者の大半は買い物などで利用する沿線住民です。いくら観光客を増やしても、少子化・過疎化による沿線住民の利用者減少のほうが圧倒的に大きく、観光だけで鉄道は存続できないのが現実です。
一方で、観光は沿線地域に多くの便益をもたらします。「伊予灘ものがたり」や「予土線3兄弟」などの列車も、地域おこしに貢献しているでしょう。このほかにもJR四国は、さまざまな取り組みで地域に貢献してきたはずです。であれば、地域もJR四国に何らかの支援で還元してもよいのではないでしょうか。
「JRはもともと国鉄なんだから、国が支援しろ」という自治体の論理もわかります。実際に国は、経営安定基金を含めて数千億円もの支援を40年近く続けてきました。
しかしながら自治体は、鉄道があることで多くの便益を得ながら、それに見合う還元(公的支援)をしてきたのでしょうか。そもそも、JR四国と密に話し合う協議組織すらない線区も多いですし、協議組織があっても膝を突き合わせて話し合える環境がなかったと思います。
利用者の少ない3線区の協議で、JR四国は廃止を前提に話を進めることはありません。しかし、自治体が「廃止が前提の話し合い」と勝手に決めつけ、協議を拒んだり負担を押し付け合ったりと、地域住民のための公共交通議論をないがしろにすれば、JR四国は「公共交通機関として手助けすることがない」と考えるようになり、鉄道の廃止へと傾倒していきます。
そうしたネガティブな考えではなく、「どうすれば利用者が増えるか」「鉄道を地域の維持や活性化に役立てられるか」をポジティブな視点で考えることが、これから始まる3線区の協議に求められるのではないでしょうか。
参考URL
5カ年推進計画 2021~2025(JR四国)
https://www.jr-shikoku.co.jp/04_company/jigyou/suishin2021.pdf
「5カ年推進計画2021~2025」総括的検証報告書(JR四国)
https://www.jr-shikoku.co.jp/04_company/jigyou/soukatsu_kensyou_zenryou.pdf
JR四国の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001338324.pdf
四国旅客鉄道株式会社の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001989958.pdf
JR四国に対する指導・支援等について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001989957.pdf
経営計画・事業計画(JR四国)
https://www.jr-shikoku.co.jp/04_company/jigyou/jigyou.htm