鉄道の存続・廃止をめぐる沿線自治体と事業者との協議が、活発化しています。鉄道の廃止は、国鉄改革が進められた1980年代をピークに全国各地でおこなわれました。その後、1990年代には廃止路線が減るものの、2000年代からは再び増加傾向にあるようです。
ここでは、2000年以降に廃止された鉄道・軌道の路線を一覧で掲載。廃止の理由も、時代ごとにまとめました。
■本文の注意事項
※表中の黒字はJR、赤字は第三セクター鉄道、青字は私鉄を示します。
※日付は営業廃止届に記載された年月日です。最終列車の運行日ではありません。
※東急東横線(横浜~桜木町)など、代替鉄道路線に移行した廃止路線は含みません。
※モノレール・スカイレールなど、一部の廃止路線は割愛しています。ご了承ください。
【2000~2005年】法改正で始まった私鉄の廃止時代
まずは、2000年から2005年に廃止された路線の一覧です。
廃止年月日 | 事業者 | 路線(区間) | 営業キロ |
---|---|---|---|
2000/11/26 | 西日本鉄道 | 北九州線(黒崎駅前~折尾) | 5.0 |
2001/4/1 | のと鉄道 | 七尾線(穴水~輪島) | 20.4 |
下北交通 | 大畑線(下北~大畑) | 18.0 | |
2001/10/1 | 名古屋鉄道 | 揖斐線(黒野~本揖斐) | 5.6 |
名古屋鉄道 | 谷汲線(黒野~谷汲) | 11.2 | |
名古屋鉄道 | 八百津線(明智~八百津) | 7.3 | |
名古屋鉄道 | 竹鼻線(江吉良~大須) | 6.7 | |
2002/4/1 | 長野電鉄 | 河東線(信州中野~木島) | 12.9 |
2002/5/26 | 南海電気鉄道 | 和歌山港線(和歌山港~水軒) | 2.6 |
2002/8/1 | 南部縦貫鉄道 | 南部縦貫鉄道線(野辺地~七戸) | 20.9 |
2002/10/21 | 京福電気鉄道 | 永平寺線(東古市~永平寺) | 6.2 |
2003/1/1 | 有田鉄道 | 有田鉄道線(藤並~金屋口) | 5.6 |
2003/12/1 | JR西日本 | 可部線(可部~三段峡) | 46.2 |
2004/4/1 | 名古屋鉄道 | 三河線(碧南~吉良吉田) | 16.4 |
名古屋鉄道 | 三河線(猿投~西中金) | 8.6 | |
2005/4/1 | 日立電鉄 | 日立電鉄線(常北太田~鮎川) | 18.1 |
のと鉄道 | 能登線(穴水~蛸島) | 61.0 | |
名古屋鉄道 | 揖斐線(忠節~黒野) | 12.7 | |
名古屋鉄道 | 岐阜市内線(岐阜駅前~忠節) | 3.7 | |
名古屋鉄道 | 美濃町線(徹明町~関) | 18.8 | |
名古屋鉄道 | 田神線(田神~競輪場前) | 1.4 |
2000年から2005年にかけては、私鉄の廃止路線が目立ちます。なかでも名鉄は、8路線10線区を廃止にしています。名鉄では1998年に、利用者の少ない不採算路線の整理縮小案を公表。その後、2001年からのわずか4年間で全路線の17%にあたる94.2kmを廃止にしたのです。
名鉄をはじめ私鉄の廃止が相次いだ理由のひとつが、2000年3月に施行された鉄道事業法の改正です。改正前の法律では、鉄道の廃止には国の許可が必要でしたが、法改正後は廃止1年前までに届出するだけで廃止が認められるようになったのです。法改正により鉄道の廃止のハードルが下がったことで、大手私鉄を中心に届出する事業者が続出したのです。
当時は「規制緩和」「自由化」が推し進められていた時代。公共交通に参入するのも、また撤退するのも、事業者に判断を任せるべきだという風潮でした。
一方で、近鉄や南海といった関西の大手私鉄では「子会社化」や「事業譲渡」といった方法で、存続の道を探る路線が多くみられました。新しい会社に移行すれば運賃形態を独自に設定でき、収入の増加が見込めます。また、沿線自治体からの支援も受けやすくなり、経営改善が図りやすいという考えから、養老鉄道や和歌山電鉄などの私鉄が誕生していくのです。
なお、JRで廃止された路線は可部線の一部線区のみです。国は2001年11月に、完全民営化を果たした本州のJR3社に対して「指針」を告示します。平たくいうと「安易に廃止するなよ」と釘を刺したことで、赤字路線の廃止を抑え込んだのです。JRに対して告示された国の指針の内容は、以下の記事で詳しく解説します。
【2006~2008年】平成の大合併が影響?三セクの廃止時代
続いて2006年から2008年に廃止された路線の一覧です。
廃止年月日 | 事業者 | 路線(区間) | 営業キロ |
---|---|---|---|
2006/4/21 | 北海道ちほく高原鉄道 | ふるさと銀河線(池田~北見) | 140.0 |
2006/10/1 | 桃花台新交通 | 桃花台線(小牧~桃花台東) | 7.4 |
2006/12/1 | 神岡鉄道 | 神岡線(猪谷~奥飛騨温泉口) | 19.9 |
2007/4/1 | くりはら田園鉄道 | くりはら田園鉄道線(石越~細倉マインパーク前) | 25.7 |
鹿島鉄道 | 鹿島鉄道線(石岡~鉾田) | 27.2 | |
西日本鉄道 | 宮地岳線(西鉄新宮~津屋崎) | 9.9 | |
2007/9/6 | 高千穂鉄道 | 高千穂線(延岡~槙峰) | 29.1 |
2008/4/1 | 島原鉄道 | 島原鉄道線(島原外港~加津佐) | 35.3 |
三木鉄道 | 三木線(三木~厄神) | 6.6 | |
2008/12/28 | 高千穂鉄道 | 高千穂線(槇峰~高千穂) | 20.9 |
この2~3年で廃止が目立つのは、国鉄末期にJRへ継承されなかった第三セクター鉄道です。これらの路線は国鉄時代から利用者が少なく、第三セクターに移行後も赤字経営が続いていました。そのため、国の転換交付金などを原資とした基金を取り崩して、赤字補てんを続けていたのです。
ただ、開業から20年近くが経過し、基金が底をつきはじめます。鉄道を存続させるには、一般会計からの予算の確保も検討しなければなりません。つまり、沿線住民の税金で第三セクター鉄道の赤字を補てんすることになるのです。
これに賛同できない自治体が、2005年前後に増えてきます。その理由のひとつが、平成の大合併です。合併後の自治体では、第三セクター鉄道に対する支援に「温度差」が出てきたのです。
たとえば、合併前に鉄道がなかった地域では「多額の税金を使って鉄道を維持しても、我々の地域には恩恵がない」と、支援に疑問を呈する人たちが出てきます。こうした人たちが多勢になった合併後の自治体では、マイレール意識の醸成が難しく、事業者に対する支援の見直しや打ち切りにより廃止された鉄道もあるでしょう。
ほかにも、高速道路の延伸や道路中心のまちづくりによるモータリゼーションの進展も、ローカル線の存在意義を奪っていきます。
私鉄も第三セクター鉄道も廃止が相次ぐ状況に、国がようやく動き始めます。2007年に地域公共交通活性化再生法を施行。上下分離方式への移行など鉄道事業者を支援する沿線自治体に対して、国の支援制度を拡充したのです。この制度を活用することで自治体負担が軽減され、廃止に瀕していた第三セクター鉄道の多くが救われました。
【2009~2013年】廃止が小康状態の時代
私鉄や三セクの大量廃止時代が過ぎ、さらに国の支援拡充もあって、廃止路線はしばらく減少します。2009年から2013年までの廃止路線は、以下の通りです。
廃止年月日 | 事業者 | 路線(区間) | 営業キロ |
---|---|---|---|
2009/11/1 | 北陸鉄道 | 石川線(鶴来~加賀一の宮) | 2.1 |
2012/4/1 | 十和田観光電鉄 | 十和田観光電鉄線(十和田市~三沢) | 14.7 |
長野電鉄 | 屋代線(屋代~須坂) | 24.4 |
いずれも私鉄です。北陸鉄道と長野電鉄は、利用者減少に歯止めがかからないことや、老朽化した設備の更新費用を調達できないことなどで廃止に。十和田観光電鉄は、利用者減少にくわえ沿線自治体から支援を受けられなかったことで廃止にされました。
このなかには、地域公共交通活性化再生法を活用することで、存続できた路線があるかもしれません。ただ、この時代は「私鉄なんだから、自分たちで何とかするのが当たり前」と考える自治体も多かったのです。
【2014年~2025年】ついに始まったJRの廃止時代
最後に、2014年以降に廃止された路線を紹介します。
廃止年月日 | 事業者 | 路線(区間) | 営業キロ |
---|---|---|---|
2014/4/1 | JR東日本 | 岩泉線(茂市~岩泉) | 38.4 |
2014/5/12 | JR北海道 | 江差線(木古内~江差) | 42.1 |
2015/1/31 | 阪堺電気軌道 | 上町線(住吉~住吉公園) | 0.2 |
2016/12/5 | JR北海道 | 留萌線(留萌~増毛) | 16.7 |
2018/4/1 | JR西日本 | 三江線(江津~三次) | 108.1 |
2019/4/1 | JR北海道 | 石勝線(新夕張~夕張) | 16.1 |
2020/4/1 | JR東日本 | 大船渡線(気仙沼~盛) | 43.7 |
JR東日本 | 気仙沼線(柳津~気仙沼) | 55.3 | |
2020/5/7 | JR北海道 | 札沼線(北海道医療大学~新十津川) | 47.6 |
2021/4/1 | JR北海道 | 日高線(鵡川~様似) | 116 |
2023/4/1 | JR北海道 | 留萌線(石狩沼田~留萌) | 35.7 |
2024/4/1 | JR北海道 | 根室線(富良野~新得) | 81.7 |
この10年間は、JRの廃止が急激に増えました。なかでも、JR北海道の線区が目立ちます。
JR北海道では、特急列車のトンネル火災事故や貨物列車の脱線事故などのトラブルが相次ぎました。その原因として、安全投資ができないほど窮地に追い込まれた経営実態が、この時代に明らかになります。
JR北海道も国の「指針」を守り、経営安定基金の運用益を内部補助として使いながら、ローカル線の維持に努めてきました。しかし、金利低下で運用益は激減。くわえて、札幌圏を除くローカル線の利用者数も激減。収入が減るなかで、安全への投資を削減した結果、トラブルの頻発につながったのです。経営改善の方策が限られるなかで、JR北海道は利用者の少ない路線の廃止に踏み切ります。
ほかにも、JRの廃止が増えた理由として「大規模災害で復旧が困難な被災線区が増えた」こともあります。JR東日本の廃止線区は、いずれも災害で原因です。JR北海道でも、日高線と根室線の一部線区の廃止は災害が原因でした。この表にはありませんが、JR九州の日田彦山線(添田~夜明)も鉄道で復旧できず、BRTに移行しています。
いつの時代も「利用者減少」が鉄道廃止の理由
ローカル線の廃止は、いまに始まったわけではありません。半世紀以上前の国鉄時代から、多く路線が廃止されています。いずれの路線にも共通するのは、「利用者の減少に歯止めがかからない」のが廃止の理由として挙げられていることです。
鉄道事業者は、一定の利用者数がいれば赤字でも路線の維持に努めます。それは、公共交通を担う事業者の使命であり役割だからです。しかし、利用者が減り続けて他の交通モードで輸送できるくらい少なくなった路線では、「何のために鉄道を維持しなければならないのか?」と疑問が生じてきます。
内部補助で維持するにも、人口減少は都市部でも始まっており、いずれ維持できなくなるのは明白です。また、インバウンドなどの観光利用者を増やしても普段使いする利用者の減少数のほうが圧倒的に多く、全体の利用者数は減少しているローカル線が大半なのです。
人口減少は今後も続きます。それは、鉄道の利用者数や乗務員などの数も減り続けることを示し、国や自治体の財政状況が悪化することを意味します。こうした将来を見据えて、鉄道を維持するのは誰なのか。持続可能な地域公共交通を、みんなで考える時代なのです。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
近年廃止された鉄軌道路線【平成12年度以降の全国廃止路線一覧】(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001344605.pdf