JR北海道の黄線区廃止を避けるには?アクションプランが空振りの理由

JR北海道の黄線区 コラム

JR北海道は、沿線自治体と協力した事業計画「アクションプラン」を実施しています。計画期間は、2019~2023年度の5年間。早ければ2024年春までに、黄線区に対して何らかの方向性がJR北海道から示されると予測されます。

果たして、黄線区は残せるのか。沿線自治体と協働で進めてきた施策内容をもとに、今後の動向を考えてみます。

JR北海道の黄線区と「アクションプラン」とは

2016年11月、JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区」を公表しました。

対象線区は、輸送密度が2,000人/日未満のローカル線です。このうち、利用者が極端に少ない200人/日未満の線区(赤線区)の自治体には、代替交通への転換を申し入れ、廃止または廃止が事実上確定しています。

一方、200人/日以上の線区は、沿線自治体と協力しながら存続の道を探るとしています。この輸送密度200人/日~2,000人/日未満の線区が、いわゆる「黄線区」です。

JR北海道の公表後、多くの沿線自治体から難色を示す声が挙がります。なかには、「JRはもともと国鉄だし、今も株主である国の協力が不可欠だ」と、国への支援を求める声もありました。人口密度が低い割に、長距離ローカル線の多い北海道。地域だけで鉄道を守るのは困難という主張です。

こうしたなか、国土交通省は2018年7月、JR北海道に対して監督命令を発出します。このなかで、黄線区については沿線自治体と協力して事業計画を立てるよう命じました。これが、アクションプランのもとになります。

計画の実行期間は、2019年度から5年間。最終年度の2023年度には総括的な検証をおこない、目標に対する達成度合いを踏まえて、事業の抜本的な改善方策を検討することになっています。なお、実行期間中の鉄道存続に必要な費用は「沿線自治体の支援額と相応の額を国も支援する」と、国土交通省は伝えています。

さて、国が示した「目標に対する達成度合い」とは、「2017年度の輸送密度および収支を下回らないこと」としています。ここで、黄線区の2017年度の輸送密度と赤字額を、おさらいしておきましょう。

■黄線区の輸送密度と赤字額(2017年度)

線区名輸送密度赤字額
根室本線(釧路~根室)26411億1,000万円
宗谷本線(名寄~稚内)35227億3,300万円
釧網本線37414億9,700万円
根室本線(滝川~富良野)42812億7,000万円
室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)43912億3,300万円
日高本線(苫小牧~鵡川)4494億2,600万円
石北本線89142億4,300万円
富良野線1,5979億9,800万円
※宗谷本線のアクションプランは、全線(旭川~稚内)の沿線自治体が取り組んでいます。
※各線区の詳細とアクションプランの内容は、線区名のリンクをクリックしてご覧ください。

この数値を下回らないように、JR北海道は各線区の沿線自治体と協力して経営改善をめざす事業計画「アクションプラン」を立案。2019年4月から実行に移されます。

JR北海道のアクションプランの施策内容

2019年度から始まったアクションプランの実施例は、JR北海道のWebサイトで3カ月おきに公表されています。また、実施例に対する検証報告書も毎年8月ごろに公表しています。

沿線自治体と協力して実施してきたアクションプランの具体例を、以下にまとめました。

  • 鉄道利用者への助成金交付
  • 観光列車の運行
  • 旅行会社へのプロモーション
  • 利用の少ない駅の廃止、または自治体による維持管理に移行
  • 特急列車内で特産品の車内販売(地元有志者が販売)
  • 有志者による清掃・美化活動
  • 沿線幼稚園・小学生などの体験乗車
  • 観光パンフレット・ガイドブックの作成
  • スタンプラリーの実施
  • 利用促進ポスターの作成(役場などに掲載)
  • 広報誌に鉄道に関する特集掲載
  • ふるさと納税返礼品に観光列車の乗車券を採用
  • クラウドファンディング
  • PR動画の制作
  • フォトコンテストの実施
  • SNSを活用した情報発信

…など

JR北海道のアクションプランの一例
▲釧網線のアクションプラン(一例)。検証報告書では、取り組み内容を「◎」「○」「△」で評価している。
出典:JR北海道「アクションプラン第2期計画1年目報告書(令和3年度)」

盛り上がらない沿線住民と届かない自治体のメッセージ

アクションプランで掲げた目標を達成するには、自治体および関係団体の努力はもとより、沿線住民の協力が大事です。仮に、観光客の利用を増やそうと計画しても、観光列車を走らせるだけでは利用者数は増えません。観光客に「その駅や地域で降りてみたい」と思わせる施策が必要であり、その施策には観光客をもてなす沿線住民の協力も欠かせないのです。

しかし、アクションプランの実施例を見ていると、JR北海道と観光団体など一部の人だけが頑張り、地域全体で盛り上がっているようには見えません。コロナの影響で、住民協力の施策が実現できなかった一面もあるでしょう。ただ、それを差し置いても、やはり沿線住民の意識の薄さを感じるのです。

一部の沿線住民からは「列車に乗らないから」「自分には関係ない」といった冷めた意見も聞かれます。ただ、自分たちが乗らなくても、鉄道を支える方法はいくつかあります。

たとえば、国鉄からJRに継承されなかった第三セクターで、現在も存続している路線には、沿線住民主導の「ファンクラブ・サポータークラブ」が多数存在します。三陸鉄道やえちぜん鉄道など一部の組織では、個人や法人から年会費を徴収し、そのお金で駅前の美化活動や利用促進イベントの費用に充てるなど、独自の活動を続けているところもあるのです。

こうした活動の輪が、JR北海道の沿線住民のあいだで広がりを見せていません。それだけ、利用者数が少ない、鉄道の存続で恩恵を受ける人が少ない地域ともいえるでしょう。

支援の輪が広がらない一因として、自治体や首長からのメッセージにも問題があったように感じます。JR北海道の単独維持困難線区の公表後、一部自治体からは国への支援を求める声が相次ぎました。そのメッセージが「国が何とかしてくれる」という誤った認識を広めてしまった可能性があります。もっとも、「鉄道がなくなっても生活に影響がない」とあきらめている方のほうが多いのかもしれません。

一部の自治体では、広報誌などで鉄道の特集記事を掲載するなど、沿線住民への協力を呼び掛けましたが、それも2019年までの話。コロナ禍以降、積極的にアピールしている自治体は減っていきます。

JR北海道のアクションプランの問題点

アクションプランには、効果が現れている、または期待できる施策が、いくつかあります。一例として、日高本線(苫小牧~鵡川)では、スクールバスで通学していた高校生を鉄道にシフトさせ、通学定期代を自治体が負担するという施策で、利用者数が15%も増加しました。また宗谷本線では、次年度に統合する高校の近くに駅を移設。生徒数が増えることで、利用者数の増加が期待されます。

こうした事例は、どの地域でも実現できるわけではないものの、少子化が進む地域で鉄道の利用者数を増やせる好例といえるでしょう。

JR宗谷本線の名寄高校駅
▲宗谷本線「名寄高校駅」は、東風連駅を学校の近くに移設して2022年に開業。2023年度からは再編統合された高校生もこの駅を利用するため、通学定期客の増加が期待されている。

一方で、アクションプランの実施例には「これで鉄道の利用者数が、どうやって増えるの?」という施策も散見されます。その多くが、明確な数値目標を掲げていません。

先に挙げた日高本線や宗谷本線のケースなら、増加する利用者数をある程度予測できます。しかし、フォトコンテストやPR動画制作などで利用者数の増加につながるかは、誰も予測できないわけです。また、サイクルトレインなどのイベントを実施して「30人が参加しました」といわれても、目標値を設定していなければ成功か否かの評価ができません。単に「施策を実施した」という既成事実だけでは、利用者は増えないのです。

民間企業であれば、各施策に対して数値目標を掲げ、実際の数値と比べて評価するのが常です。「その施策で、どれだけの効果が期待できるか」を十分に検討し、誰もが評価しやすい目標を掲げたうえで実行に移す。それが、アクションプランで示せなかったことも、利用者の増加につながらない一因ではないかと考えられます。

また、地域の足として鉄道の便益を重視する場合でも、何らかの数値目標を立てることが重要です。たとえば、静岡県の岳南電車などは、鉄道が存続することで得られる「社会的便益」を金額で表し、存続にかかる経費と比べて、沿線自治体が必要な支援をおこなっています。これにくわえ、沿線自治体は利用促進の施策も実施しており、地域が一体となって鉄道を支えているのです。

こうした動きが、JR北海道の沿線自治体でおこなわれていないことも、アクションプランに足りない部分です。なお、数値目標の考え方や具体的な設定方法については、富山県のJR城端線・氷見線の協議会も参考になります。

JR北海道の黄線区を残す方法はあるのか?

2019年度から始まったアクションプランですが、その後、コロナの影響を受けて計画が大幅に変更されています。しかし、目標値は「2017年度の輸送密度・収支」であることに変わりはなく、このままでは黄線区の存続は厳しいと考えられます。

存続の足掛かりとなるのは、沿線住民の協力です。ただ、利用者が減少しすぎた現状では、地域全体に支援の輪を広めるのは難しいかもしれません。今からファンクラブを新設するにしても、輸送密度500人/日に満たない路線だと、活動の輪は広がりにくいでしょう。

そもそも、多くの沿線住民にとって鉄道の存在価値は「0またはマイナス」です。通学定期客をはじめ一部の人には重要な足でも、大多数の人が「なくてもよい」と考えている現状では、公的支援もはばかられます。

JR北海道の黄線区を存続させるには、「鉄道の存在価値を沿線住民に理解してもらうこと」から始める必要があるでしょう。その価値を行政主導で考え広く周知させることが、黄線区の廃止を避けるための第一歩です。

では、鉄道の存在価値を、どのように示せばよいのでしょうか。端的にいえば、「その地域に鉄道が存続することで思い描ける、明るい未来図」を示すことが重要だと考えます。いま利用している人の足を守ることも大切ですが、その先に明るい未来がなければ、どんな利用促進策や活動を実行しても、中途半端になりやすいのです。

仮に観光路線に振り切る場合、「多くの観光客が鉄道を使って訪れ、地域にお金を落としてくれる」という考えも、明るい未来図になるでしょう。ただ、鉄道があるだけでは観光客は増えません。それに、観光客が多少増えたところでJR北海道の赤字が劇的に改善することはなく、最大の受益者である自治体に公的支援が求められるのは必至です。

「多くの観光客が鉄道を使って訪れ、地域にお金を落としてくれるのか」「その代償として、毎年何億もの維持費を払い続けることが、本当に地域のためになるのか」という点まで考えたうえで、観光のために鉄道が必要だと示してほしいのです。

これは、北海道だけに限らず、これから始まる全国の新協議会にもいえることでしょう。「その地域における鉄道の価値とは何か」「鉄道を残すことで地域にとって明るい未来がやって来るのか」という視点で、建設的かつ合理的な協議ができなければ、協議会で決定した実証実験に無駄な税金を投じることになります。その観点で、沿線住民も協議の行方を見守る必要があるのではないでしょうか。

JR北海道のアクションプランにも、多額の予算、つまり税金が投じられています。頑張ってやっても効果がなければ、税金は水泡に帰し、鉄道までも失うことになるかもしれません。もっとも、結果が出なかったからといって即座に廃止にはなりませんが、2024年の春にはJR北海道から改善策の方向性が示されることは決まっています。2023年度は、沿線自治体にとっても大きなターニングポイントとなる年なのです。

※2024年1月30日にJR北海道が国に提出した「アクションプラン総括的検証報告書」の内容については、こちらの記事で解説しています。

参考URL

JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf

アクションプランとは(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/actionplan_overview.pdf

第1期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_01.html

第2期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_02.html

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