JR石北本線は、新旭川から網走まで234kmにおよぶ長大路線です。石北本線は旅客列車だけでなく、毎年秋から翌年春にかけて「玉ねぎ列車」と呼ばれる農産物を運ぶための臨時貨物列車も運行しています。
旅客と貨物の両面で地域を支え続ける鉄道を守ろうと、沿線自治体は「石北本線合同会議」という協議会を設置しています。協議会の設置経緯や具体的な取り組みについて紹介しましょう。
JR石北本線の線区データ
協議対象の区間 | JR石北本線 新旭川~網走(234.0km) |
輸送密度(1987年→2023年) | 2,415→643 |
増減率 | -73% |
赤字額(2023年) | ・新旭川~上川:11億5,800万円 ・上川~網走:38億3,900万円 |
営業係数 | ・新旭川~上川:589 ・上川~網走:617 |
※赤字額と営業係数は、2023年のデータを使用しています。
協議会参加団体
旭川市、当麻町、愛別町、上川町、遠軽町、北見市、美幌町、大空町、網走市
石北本線合同会議の設置までの経緯
石北本線合同会議は、オホーツク圏活性化期成会(石北本線部会)と上川地方総合開発期成会から構成される協議会の名称です。期成会とは、各振興局内の首長や議長が集まり、さまざまな課題や問題点をまとめて北海道や国に要望する会のことをいいます。
2016年11月18日、JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」を公表しました。このなかで石北本線は、輸送密度が200人以上2,000人未満の線区(以下、黄線区)に該当し、「鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」として位置付けられています。
JR北海道の公表を受け、2017年3月にオホーツク圏活性化期成会では「石北本線部会」を設立。翌4月には上川地方総合開発期成会と石北本線合同会議を開催し、作業部会を設置しています。
なお、これとは別に北見市では関係団体で構成する「北見市鉄道活性化協議会」、遠軽町では商工会議所や観光協会などで構成される「石北本線利用促進協議会」といった協議会も設置され、各期成会やJR北海道と共同して利用促進を中心とした活動を展開しています。
出典:オホーツク圏活性化期成会「JR石北本線応援団」
2017年5月の中間報告では、線区の位置づけを再確認するとともに、現状分析と課題整理、関係機関の役割、JR北海道への支援策などについて協議しています。また、釧網本線の沿線自治体とも密接な関係性があることから、同年には釧路地方総合開発促進期成会釧網線部会との合同会議を設置し、具体的な検討を進めています。
これらの期成会は、JR北海道の黄線区のなかでもスピード感のある対応や行動が目立ちました。その背景には、2006年の北海道ちほく高原鉄道(北見~池田)が廃止されたことや、2011年ごろにJR貨物の廃止協議があったこと(関係団体の支援により、貨物列車は現在も継続)などの出来事から、沿線自治体が鉄道に対する危機感を共有していたことが大きいと考えられます。
石北本線を重要路線と捉える北海道
石北本線は、北海道にとっても重要な路線のひとつとして位置づけられています。
2018年に北海道の運輸交通審議会が設置した作業部会「鉄道ネットワークワーキングチーム」において、石北本線は以下のように位置付けています。
国土を形成し、本道の骨格を構成する幹線交通ネットワークとして、負担等に係るこれまでの地域の協議を踏まえ、維持に向けてさらに検討を進める。
※ 鉄道貨物輸送のあり方については、輸送実績及び鉄道施設の維持に要する費用負担等を考慮するとともに、道内全体の物流の効率化・最適化の観点から、トラック輸送や海上輸送も含めて総合的に対策を検討していくことが適当であり、地域における検討・協議と並行して、関係機関による議論を進めていく。
出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」
「維持に向けて」という表現が使われているのは、石北本線と宗谷本線のみです。つまり、石北本線は北海道にとっても重要な鉄道路線であり「存続させたい」という意思を示したことになります。
特急列車の走行区間にくわえ貨物列車の走行区間であることも、北海道が石北本線を重視する理由のひとつでしょう。半年しか走らない臨時列車とはいえ、オホーツク管内で収穫された農作物の約3割を鉄道が運んでおり、その売上は北海道経済の一端を担います。
ただし、この作業部会の報告には「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」としており、北海道が石北本線を残す保証はありません。鉄道の存廃は、あくまでも沿線自治体とJR北海道が協議をして決めるのが前提としています。
※北海道が維持の姿勢を見せるJR宗谷本線の協議会や沿線自治体の取り組みは、以下のページにまとめています。
石北線事業計画(アクションプラン)の策定
2018年7月、国土交通省はJR北海道の経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう監督命令を発出。このなかで、沿線自治体などと一体となった取り組みを2019年度より5年間実施するように求めました。その具体的な取り組みをまとめたものが、「石北線事業計画(アクションプラン)」です。
アクションプランは、第1期(2019~2020年度)と第2期(2021~2023年度)にわけて、鉄道の利用促進や経費削減などに向けた取り組みを、JRと沿線自治体が一緒に実施する内容になっています。そして、最終年度となる2023年度に総括的な検証をおこなうとしています。
石北本線アクションプランの実施内容
石北本線における具体的な取り組み内容は、以下の通りです。
- 特急列車における車内販売
- 鉄道利用に対する助成制度
- 広報誌での利用促進に関する特集掲載
- 利用促進動画の配信
- 地域住民による駅の内装塗装・美化活動
- 公共交通シンポジウムの定期的な開催
- 公共交通ガイドブックの作成・配布
- 沿線小学生向けの鉄道ツアー実施(乗車体験)
- 観光列車のおもてなし・利用者の少ない駅の廃止
…など
石北本線を走る特急列車内で、沿線自治体が車内販売を実施していることが活動内容のひとつです。この取り組みは2017年から始まっており、土日を中心に各自治体がローテーションを組んで地域の特産品を販売しています。新型コロナウィルスの感染拡大で、一時期見合わせたこともありましたが、それでも2020年は年間41回、2021年は29回実施しています。
利用促進策としては、運賃などの助成制度を各自治体で設けています。一例として網走市では、5名以上のグループが鉄道で旅行する場合に運賃を助成。2019年度には小学校の遠足から家族・友人グループの旅行まで、年間で約40件、800名を超える利用者がいたそうです。また、大空町では特急列車利用者に対して運賃の一部を助成しており、2019年度は110件の利用がありました。
このほか、駅の美化活動や修繕(塗装)も地元の小学生から有志者まで協力しておこなうなど、協力体制ができていることも特筆すべきポイントです。ただ、利用者の増加にいまひとつつながっていない点が課題といえます。
※2024年1月30日にJR北海道が国に提出した「アクションプラン総括的検証報告書」の内容については、こちらの記事で解説しています。
※JR北海道のアクションプランの詳細内容や、改善が求められるポイントについて、以下のページで解説しています。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/5/1/1/4/9/0/9/_/290731shiryou2.pdf
JR石北本線応援団(オホーツク圏活性化期成会石北本線部会事務局)
https://sekihoku-honsen.jp/
「みんなで守ろう石北本線」動画(北見市)
https://www.city.kitami.lg.jp/administration/town/detail.php?content=10943
当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf
JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf
第1期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_01.html
第2期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_02.html