JR石北本線は、新旭川と網走を結ぶ全長約230kmの長大路線です。札幌圏とオホーツク地域を結ぶ特急列車や臨時貨物列車(通称「玉ねぎ列車」)も運行され、北海道にとって重要な路線のひとつですが、利用者の減少などから廃止の危機に瀕する路線でもあります。
存続をめざす沿線自治体はJR北海道と一緒に、さまざまな取り組みを実行しています。石北本線は今後も維持できるのでしょうか。これまでの取り組みを振り返りながら、今後の行方を考察します。
JR石北本線の線区データ
| 協議対象の区間 | JR石北本線 新旭川~網走(234.0km) |
| 輸送密度(1987年→2024年) | 2,415→669 |
| 増減率 | -72% |
| 赤字額(2024年) | ・新旭川~上川:10億5,200万円 ・上川~網走:39億4,700万円 |
| 営業係数 | ・新旭川~上川:516 ・上川~網走:608 |
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。
協議会参加団体
旭川市、当麻町、愛別町、上川町、遠軽町、北見市、美幌町、大空町、網走市、JR北海道

石北本線の廃止を防ぐ複数の協議組織
JR北海道は2016年11月18日に、利用者の少ない線区を対象とした「当社単独では維持することが困難な線区」を公表します。このなかで石北本線は、輸送密度200~2,000人/日の線区(以下、黄線区)に該当。「鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」に位置付けられます。
JR北海道の公表を受け、まず動いたのはオホーツク圏の沿線自治体でした。2017年3月、オホーツク圏活性化期成会に「石北本線部会」を設立。翌4月には上川地方総合開発期成会に呼びかけ「石北本線合同会議」を開催し、作業部会を設置します。また同年には、釧網本線の沿線自治体とも合同会議を設置し、具体的な検討を進めました。
これらの組織とは別に、北見市には「北見市鉄道活性化協議会」、遠軽町には「石北本線利用促進協議会」といった、各市町の商工会や観光協会などで構成される組織も誕生。期成会やJR北海道と共同で、利用促進などの取り組みに参加しています。
■石北本線の輸送密度の推移

参考:JR北海道「石北線(旭川~網走間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画」をもとに筆者作成
他の黄線区と比べて、石北本線の沿線自治体はスピード感のある対応や行動が目立ちました。その背景には、かつて辛酸をなめる経験をしたことが大きく影響しています。
2006年には、北見を起終点とする第三セクター「北海道ちほく高原鉄道」が廃止に。また2011年ごろには、「玉ねぎ列車」の存廃をめぐりJR貨物と協議しました。玉ねぎ列車に関しては関係団体の支援により現在も運行していますが、こうした経験から沿線自治体が危機感を共有できていたことが対応の早さに表れたと考えられます。
石北本線を重要路線と捉える北海道
沿線自治体の協議組織とは別に、北海道でも全道的な観点から黄線区の「鉄道のあり方」を検討する組織を設置します。その組織が「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」です。
この会議が2018年2月にまとめた資料に、北海道にとって石北本線が重要な路線のひとつに位置付けていることがわかります。
国土を形成し、本道の骨格を構成する幹線交通ネットワークとして、負担等に係るこれまでの地域の協議を踏まえ、維持に向けてさらに検討を進める。
出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」
黄線区のなかで「維持に向けて」という表現を使っているのは、石北本線と宗谷本線のみです。石北本線は北海道にとっても重要な鉄道路線であり、「存続させたい」という強い意思を示していることがわかります。
貨物列車の走行区間であることも、北海道が石北本線を重視する理由のひとつでしょう。半年しか走らない臨時列車とはいえ、オホーツク管内で収穫された農作物の約3割を鉄道が運んでおり、その売上は北海道経済の一端を担います。
ただし、フォローアップ会議は「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」とも伝えています。存廃を決めるのは、あくまでも沿線自治体とJR北海道との協議であり、北海道が石北本線を残す保証はありません。
石北本線の維持をめざす「アクションプラン」策定
地域での協議が続くなか、国土交通省は2018年7月に、JR北海道の経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう「監督命令」を発出します。監督命令では、沿線自治体などと一体となった取り組みの実施も求めました。これを受けて沿線自治体とJR北海道は、石北本線の利用促進や経営改善につながる施策を検討。具体的な取り組みを「アクションプラン(石北線事業計画)」にまとめます。
アクションプランの計画期間は、2019年度から5年間(当初)。各種取り組みによる改善状況を評価するうえで、目標値も設定しました。その目標値は「2017年度の輸送密度と収支」で、石北本線は次の通りです。
■石北本線のアクションプラン目標値
| 輸送密度 | 891人/日 |
| 収支 | 42億4,300万円 |
計画最終年度の段階で上記をクリアできなかった場合、存廃を含めた抜本的な改善方策を検討することが国から求められました。
なお、アクションプランの計画期間中には新型コロナウイルスが感染拡大。イベントなど28件の計画が、中止や規模縮小を余儀なくされました。これにより目標値を達成できなかったとして、JR北海道と沿線自治体は国に「3年間の延長」を要望。それが国に認められ、計画の最終年度は2026年度末に変更されています。
石北本線アクションプランの実施内容
石北本線で実施したアクションプランの一部について、結果を交えながら紹介します。
特急列車内で特産品の販売
特急オホーツクなどの列車内で、沿線自治体が車内販売を実施。各自治体がローテーションを組み、地域の特産品を販売しています。この取り組みは2017年から始め、コロナ禍には一時見合わせたこともありましたが2020年度は年間41回、2021年度は29回実施。利用促進に貢献できたとしています。
イベント列車の運行
地元の高校生が考えたクイズを解きながら石北本線の駅をめぐる「ミステリートレイン謎解き列車の旅」は、2021年から開催。毎年400人前後が参加しています。ほかにも2024年度には、車内で地元のお酒を楽しむ「鉄道旅地酒・地ビールの饗宴」というイベント列車を運行。2日間で42人が参加しました。
運賃助成制度
JR利用者に対する運賃助成制度を、各自治体で設けています。旭川市や網走市などは、グループで鉄道を利用する場合に運賃を助成。特急列車利用者に対しても、運賃の一部を助成しています。小学校の遠足から家族・友人グループの旅行まで、助成制度を利用した人は5年間で約4,000人もいたそうです。
また愛別町と上川町では、通学定期代に対する助成も実施しています。
都市間バスと連携した運賃助成制度
札幌への往復利用者を対象に、運賃を4,000円助成する制度を設置。片道は都市間バスも利用できるという実証実験を、2023年度におこないました。利用者数の目標は100人でしたが、実際には216人が利用。鉄道とバスを組み合わせることで利便性が高まるとして好評だったようです。
その他の取り組み
- 利用促進の広報活動(広報誌・ホームページ・動画配信など)
- 地域住民による駅の内装塗装・美化活動
- 公共交通シンポジウムの開催
- 公共交通ガイドブックの作成・配布
- 沿線小学生向けの鉄道ツアー実施(乗車体験)
- 観光列車のおもてなし
- 利用者の少ない駅の廃止
…など
普段利用を増やすのが石北本線存続のカギ
アクションプランの取り組みを続ける沿線自治体とJR北海道ですが、残念ながら利用者の増加につながっていません。赤字額も年々増加。コロナの影響もあるとはいえ、輸送密度も赤字額も目標値をクリアした年は一度もないのです。
■石北本線の目標値との比較

参考:JR北海道の各年度の線区別利用状況をもとに筆者作成
ただJR北海道は、「アクションプランの目標達成状況のみで存廃は判断しない」と沿線自治体に伝えています。輸送密度や収支といった定量的な指標も大切ですが、沿線住民が「石北本線を重要なインフラと考えている」といった定性的な指標も、鉄道の存続・廃止議論では重視されます。
そこでJR北海道と沿線自治体は、高校生を除く沿線住民800人にアンケート調査を実施。石北本線の利用状況や鉄道の重要度などを調査しました。アンケート結果は、次の通りです。
■利用頻度

■公共交通の重要度

利用頻度をみると、月1回以上(週2日以上と月1~4日の合計)利用する社会人は6%、年1回以上を含めると24%です。少なく見えますが、他の黄線区と比べると宗谷本線・富良野線に次ぐ多さです。とはいえ、6割以上の人が「まったく使わない」と答えています。
一方、鉄道の重要度に関する質問では、「とても重要」「まあ重要」を合わせて8割以上います。石北本線が観光や貨物輸送などで地域にとって重要な存在であることは、多くの人が認識します。しかし「なくても生活に不便は生じない」人も多いという現実も浮き彫りになりました。
2025年のダイヤ改正で、石北本線を走る特急列車は1日4往復から2往復に減便されました。それは、JR北海道が「単にお金がない」のではなく、「利用者が減り続けている線区に投資する余裕はない」ことを暗に示した結果といえます。この考えは、JR東日本などの黒字事業者にも共通していえることです。
石北本線の存続には、利用者数を増やすことが重要です。そのためには、観光客やビジネス客を増やすことも大切ですが、何よりも「沿線住民が利用する」のがもっとも効果的です。「本数が少なくて不便だ」と不満をいったところで、増便されることはありません。少子化により通学定期客が減るなかで、普段利用しない沿線住民がどれだけ石北本線を利用するかが、存続のカギを握ります。
石北本線の関連記事
※JR北海道のアクションプランについて、以下のページで解説しています。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
地域の皆様との連携(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/alignment.html
当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf
鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/0/5/4/0/9/4/_/290731shiryou2.pdf
JR石北本線応援団(オホーツク圏活性化期成会石北本線部会事務局)
https://sekihoku-honsen.jp/
「みんなで守ろう石北本線」動画(北見市)
https://www.city.kitami.lg.jp/administration/town/detail.php?content=10943
JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf
石北線(旭川~網走間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/executionplan_03.pdf
事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画 検証報告書(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/v_report_2024_03.pdf
