【JR東日本】五能線に学ぶ沿線自治体が人気観光列車をつくるポイント

五能線のリゾートしらかみ JR

五能線は、秋田県の東能代と青森県の川部をつなぐJR東日本のローカル線です。観光列車「リゾートしらかみ」でも知られる人気路線ですが、この列車が成功した背景にはJR東日本と沿線自治体の協働による取り組みが深くかかわっています。

利用者数は年々減少を続ける路線ではあるものの、五能線がこれまで存続できた理由を探ってみます。

JR五能線の線区データ

協議対象の区間JR五能線 東能代~川部(147.2km)
輸送密度(1987年→2023年)東能代~能代:3,527→769
能代~深浦:764→241
深浦~五所川原:1,290→447
五所川原~川部:3,137→1,345
増減率東能代~能代:-78%
能代~深浦:-68%
深浦~五所川原:-65%
五所川原~川部:-57%
赤字額(2023年)東能代~能代:3億1,900万円
能代~深浦:17億1,500万円
深浦~五所川原:16億0,000万円
五所川原~川部:6億4,000万円
営業係数東能代~能代:3,073
能代~深浦:3,292
深浦~五所川原:1,841
五所川原~川部:749
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2023年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2023年のデータを使用しています。

協議会参加団体

能代市、八峰町、深浦町、鰺ヶ沢町、つがる市、五所川原市、鶴田町、板柳町、藤崎町、JR東日本

五能線と沿線自治体

五能線をめぐる協議会設置までの経緯

五能線の沿線自治体には、鉄道の利用促進や地域活性化などを目的とする「五能線沿線連絡協議会」という組織があります。この組織は1990年1月に設立されますが、発起人は自治体ではなくJR東日本(秋田支社)でした。

協議会の設立前は、各自治体が観光客を呼び込むための施策を独自に実施していました。しかし、自治体単独の取り組みには限界があり、効果が期待できる施策は少なかったようです。

一方でJR東日本でも、五能線の利用者数を増やすための施策を検討していました。そんななか、各自治体のさまざまな取り組みを知り、「みんなで集まって何かできないか?」と呼びかけたのが協議会誕生のきっかけです。

こうして、沿線13市町村(当時)とJR東日本から構成される五能線沿線連絡協議会が設立。自治体主導で、さまざまな施策案が出されていきます。一例として、観光客向けにパンフレット作成やイベント実施などを通じて五能線の魅力をアピールしたほか、沿線住民向けに二次交通の接続改善なども実施します。

また、協議会を設置した1990年からは「ノスタルジックビュートレイン」という列車を運行。定期普通列車の最後尾1両を指定席にしただけの列車でしたが、これが後の「リゾートしらかみ」につながっていくのです。

自治体が「やりたいこと」を詰め込んだリゾートしらかみ

秋田新幹線が開業して間もない1997年4月、五能線に新しい観光列車が誕生します。今でも人気が高い「リゾートしらかみ」です。この列車には、五能線の魅力を存分に楽しんでもらおうと、JR東日本と沿線自治体が連携し、さまざまな工夫が詰め込まれています。

たとえば、十二湖駅での散策ガイド。十二湖は五能線の観光スポットのひとつで、駅からバスで15分くらいのところにあります。ただ、運行本数の少ない五能線では、湖を散策した観光客が駅に戻っても、次の列車まで数時間も待たなければなりません。

そこでJR東日本は、いったん折り返し設備のある駅まで列車を走らせ、バスの到着時間にあわせて十二湖駅まで引き返して観光客をピックアップするという、運行者泣かせの画期的な方法でこの課題をクリアしています。

このほか、海沿いの風光明媚なエリアでは徐行運転をしたり、車内で津軽三味線の演奏イベントを実施したり、千畳敷駅で散策タイムを設けたりと、沿線の観光資源を盛り込んだ施策を次々に展開します。
さらに、観光スポットの乏しい駅には「自分たちで観光スポットをつくろう」と、沿線自治体はアイデアを出していきます。一例として、バスケットボールの街として知られる能代駅では、ホームにバスケットボールのゴールを設置。ボールがゴールに入ると記念品がもらえるといった、観光客向けのイベントもおこなっています。

こうした取り組みの多くは、沿線自治体から積極的に提案されていることも、五能線が盛り上がっているポイントといえます。JR東日本に要望や要請をするだけでなく、「この駅でこんなことをしたい」「そのためにJRにも協力してほしい」と、自治体が積極的に関与する姿勢を見せたことが両者の関係性を深め、多くの観光客が訪れる人気路線へと成長させたのです。

ちなみに、リゾートしらかみを目当てに五能線沿線に訪れる観光客は、年間10万人以上といわれます。

地域経済効果は約30億円でも五能線の赤字額は約38億円

リゾートしらかみは、JR東日本の増収に寄与するだけでなく、地域経済にも大きく貢献しています。では、実際にどれくらいの効果があるのでしょうか。これについて、野村総合研究所が2023年8月に調査レポートをまとめています。

そのレポートによると、JR東日本にはリゾートしらかみの運賃収入にくわえ新幹線を含めた周遊ルートの構築により、増益効果が「年間4.4億円」と試算されています。

それよりも大きいのが、沿線自治体に対する経済波及効果です。レポートでは、リゾートしらかみによって「年間約30億円」の便益を沿線自治体に与えていると報告。観光列車が、沿線の地域経済を支えているといっても過言ではないでしょう。

JR東の増収効果地域経済への波及効果
収入・効果6.4億円29.6億円
費用2.0億円
増益効果4.4億円29.6億円
参考:野村総合研究所「地域公共交通がもつ多面的な価値とは~岐路に立つローカル線~」をもとに筆者作成

一方で、五能線の赤字額は年間で約38億円です(2019年)。JR東日本には増益効果があるとはいえ、五能線の全体の利用者数は減少の一途をたどっていることから、このまま存続させるには厳しい一面もあると考えられます。

ただ、沿線自治体には約30億円の便益を得ています。リゾートしらかみは、沿線自治体の多大な協力のもと運行されている列車ですが、利用者の少ない線区に関しては公的支援の検討もする必要があるかもしれません。

いまのところJR東日本は、沿線自治体に対する支援を求めていませんが、観光列車の効果をより長く得続けるためにも、さらなるアイデアと支援が求められるでしょう。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

平均通過人員2,000人/日未満の線区ごとの収支データ(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/pdf/2019.pdf

ガイドブック完成!五能線の旅 おらほの自慢(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/akita/press/pdf/20110415-4.pdf

五能線に学ぶ地方創生とは(WEB Voice)
https://voice.php.co.jp/detail/3193

地域連携による観光とまちづくり(国土交通省)
【リンク切れ】https://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/kitami/komyunithi/pdf/komyunithikouza1.pdf

地域公共交通がもつ多面的な価値とは~岐路に立つローカル線~(野村総合研究所)
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2023/forum362.pdf?la=ja-JP&hash=3E2708B1D7BE3B5CB24FC263524D7770D00453B1

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