【2025年10月31日】JR日南線のあり方を検討する「日南線の将来を考える会議」の初会合が開催されました。対象線区は、油津~志布志の42.9kmです。会議には、宮崎県、鹿児島県、日南市、串間市、志布志市、JR九州、有識者(大分大学の教授)などが参加。オブザーバーとして九州運輸局も同席します。
会議では、まずJR九州が同線区の現状を説明。利用者数は今後も減り続けると予想され、「このエリアに危機感を持っている」と強調します。また、「地域公共交通は持続可能性が重要」として、地域のニーズに適した交通体系の議論を求めます。
一方の沿線自治体は、JR九州と協力して取り組んできた利用促進策の効果などを説明。「観光利用が徐々に増えてきている」「日南線で通学する学生のことを考えほしい」といった発言が出たそうです。
この会議は、存廃を前提としない任意の協議会で、期限は決まっていません。今後は、利用者などへのアンケート調査も予定しています。
【解説】通学定期客の減少が大きい日南線の油津~志布志
JR九州と日南線の油津~志布志の沿線自治体は、2019年に「日南線活用に関する検討会」を設置。鉄道の持続可能性を高めることを目的に、さまざまな利用促進策を検討・実施してきました。検討会の各種施策により、2024年度は観光客など年間で約6,400人もの利用者を確保。一定の効果を挙げています。
ただ、油津~志布志の利用者の約7割は、沿線の高校などに通う通学定期客です。その通学定期客が、少子化や過疎化などの影響で大幅に減少しており、該当線区全体の利用者数も減り続けると予測されています。
さらに、東九州自動車道が2018年に日南東郷ICまで延伸。その先の未開業区間は、日南線の油津~志布志と並走する地域もあり、観光利用客も奪われる可能性があります。
■日南線(油津~志布志)の輸送密度の推移
| 1987 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 669 | 222 | 210 | 193 | 199 | 171 | – | – | 179 | – |
参考:JR九州「交通・営業データ」より筆者作成
将来の日南線に危機感を抱くJR九州は、2024年11月に沿線自治体に対して、鉄道の「あり方」に関する協議を打診。利用促進の取り組みだけにとどまらず「将来を見据えた議論が必要」として、存廃の前提を置かない協議組織の設置を求めます。
これを受けて沿線自治体は、事務レベルでの勉強会を設置。2025年1月から6回開催し、各自治体で情報交換や協議で話し合う内容などを検討します。そして同年10月28日に、「日南線(油津・志布志間)の将来を考える会議」の設置を決定。10月31日に初会合が開かれたのです。
日南線のあり方協議の流れはどうなる?
鉄道のあり方協議の初会合では、事業者が現状の利用状況などを説明し、沿線自治体の意見を聞いて「協議の方向性を確認する」という流れが多いです。日南線(油津~志布志)の初会合でも、同じような流れだったと考えられます。
では、今後の協議はどのように展開されるのでしょうか。その参考になるのが、「指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議」です。
JR九州は2024年8月から、指宿枕崎線(指宿~枕崎)の沿線自治体とも、鉄道のあり方について協議を始めています。指宿枕崎線では「鉄道を活用して住みたくなる地域をつくる」という目標を掲げ、沿線住民とワークショップを実施するなど、鉄道の可能性を追及する議論を進めています。
指宿枕崎線も、利用者の7割以上が通学定期客です。その一方で、少子化・過疎化の影響により全体の利用者数は減少を続けています。これは日南線の環境と似ており、今後の協議は指宿枕崎線と同じような流れになると推測されます。
ちなみに指宿枕崎線の協議も、存廃の前提を置かず、協議期間も決めていません。直近の協議(2025年8月5日)では、指宿枕崎線が地域に与える経済波及効果を調べるために、調査を依頼するコンサル会社を決めています。
日南線の協議のゴールは?
南日本新聞(2025年10月29日)によると、JR九州は「現在、2区間(日南線・指宿枕崎線)以外での協議の予定はない」と伝えているそうです。
日南線も指宿枕崎線も、ゴールを決めずに協議を続けています。そのため、いつ、どのような結論になるかは誰にもわかりません。ただ、ゴールは大きくわけると「鉄道の存続」か「廃止・バス転換」の2つであることはわかっています。
このうち鉄道を存続する場合、JR九州に対して何らかの公的支援が求められるでしょう。日南線の利用者が減ったのは「JR九州の営業努力が足りないこと」だけではありません。沿線地域の少子化や過疎化、高速道路の延伸などモータリゼーションの進展といった外的要因の影響もあるのです。
さらに近年の日南線は、自然災害により長期不通になるケースが増えています。JR九州はその都度、復旧工事や代替バスの手配などをおこなっており、復旧にかかるコストは増える一方です。
こうした背景から、利用者の少ない赤字路線を持続可能なものにするには、沿線自治体の協力も必要でしょう。
両線区とも、まずは存続の可能性を探りながら「鉄道を使って地域活性化に結びつけることができるか」「鉄道が地域に与える便益が、どれくらいあるのか(事業者への支援額を上回るか)」といった視点も含め、地域の発展につながる未来志向の公共交通体系を創造してほしいところです。
参考URL
利用が低迷するJR日南線「油津-志布志」 将来のあり方を検討する会議が宮崎県庁で初会合(宮崎放送 2025年10月31日)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2262439?display=1
2024年度「線区活用に関する検討会」の取り組みについて(JR九州)
https://www.jrkyushu.co.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2025/07/23/20250724_Initiatives_of_the_Study_Group_on_Line_Utilization_in_FY2024.pdf
令和7年2月定例会会議録(宮崎県議会)
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/documents/82306/82306_20250901150242-1.pdf
利用者は約35年で7割以上減――JR日南線の油津―志布志間の在り方議論へ JR九州が沿線自治体と協議会 存廃は前提とせず(南日本新聞 2025年10月29日)
https://373news.com/news/local/detail/223027/