今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、JR加古川線の存続・廃止をめぐる協議が2025年秋以降に判断することで沿線自治体が合意した話や、JR久留里線の協議で代替交通に関する議論が始まった話題など、さまざまなニュースをピックアップして紹介します。
JR加古川線の存廃協議は万博後に判断 – JR西と自治体が合意
【2024年7月16日】加古川線の利用促進などを検討するワーキングチームの会合が開かれ、JR西日本は西脇市~谷川の「あり方」を話し合う法定協議会の設置を求めました。
これに対して沿線自治体は、沿線住民も協力した利用促進を始めたばかりであることから、「もう少し後にしてほしい」と懇願。利用促進の効果を検証し、2025年の大阪・関西万博の終了後にも協議を始めるかを判断することで合意しました。
なお、この合意内容は7月19日に開かれた兵庫県の「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」で、西脇市が報告しています。
【解説】2025年秋までの取り組みが加古川線の未来を決める
兵庫県では、加古川線をはじめ利用者の少ない線区の沿線自治体とJR西日本が協議する「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」を、2022年6月に設置しています。この協議会では、鉄道の「あり方」について相談したいJR西日本に対し、沿線自治体は利用促進の検討を優先。JR西日本は、沿線自治体に対して不信感を抱きます。
沿線自治体による利用促進は、2023年度から始まります。しかし、それから1年と経たない2024年1月。JR西日本は、加古川線の西脇市~谷川について鉄道の「あり方」を話し合うための法定協議会を申し入れる考えを示したのです。
沿線自治体からみれば、利用促進をおこなっている途中ですから効果検証もできていません。それに、2024年6月には沿線住民が主体の「利用促進地域協議会」が設立。住民を巻き込んだ取り組みは、これからです。こうした事情もあって沿線自治体は「あり方の協議は、もう少し待ってほしい」と懇願したようです。
そこでJR西日本は、大阪・関西万博が終了する2025年10月まで法定協議会の設置を待ち、それまでに一定の効果が現れなければ協議を始めることを提案。これに、沿線自治体が同意します。
なお、JR西日本が「万博終了時」で期限を切ったのは、大きなイベントで集客が見込めるチャンスだからでしょう。一般的に、大きなイベントがあると鉄道の利用者は増えます。それでも加古川線の利用者が増えなければ、「沿線住民に必要とされていない路線」という見方もできるでしょう。逆に一定の効果が現れたら、JR西日本は協議の申し入れを撤回する可能性もあるということです。
とはいえ、西脇市~谷川の輸送密度は237人/日(2022年度)。仮に2倍に増えても、JR西日本が求める2,000人/日には、足元にも及ばないのが実情です。そもそも、協議を申し入れる基準すらあいまいですが、いずれにせよ沿線自治体・住民の今後1年の取り組みが、加古川線の将来を決めることになりそうです。
※兵庫県の利用者が少ない線区(加古川線・山陰本線・姫新線・播但線)を対象とした「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
JR久留里線で代替交通の検討が始まる
【2024年7月16日】「JR久留里線沿線地域交通検討会議」の第4回会議が開催され、久留里~上総亀山について、バスやデマンド交通などの代替交通に関する議論が始まりました。鉄道の廃止が決まったわけではありませんが、協議に参加する沿線住民の代表は「鉄道を残してほしい気持ちもあるが、自動車交通のほうが地域の移動環境を改善できる可能性がある」として、代替交通の検討に一定の理解を示したそうです。
会議では、既存の公共交通機関だけでなくスクールバスなど地域の交通資産の活用も検討課題に挙げられました。また、ライドシェアについては、地域内に参加意向を示すタクシー事業者がいなかったことから「導入は難しい」ことが確認されました。
会議では今後、報告書の原案を作成。次回以降の会議で報告書がまとまり次第、君津市が主宰する法定協議会に議論の場が移され、久留里線の将来を検討する予定です。
※JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
JR西日本の株式1億円分取得 – 岡山県真庭市
【2024年7月17日】岡山県真庭市は、JR西日本の株を3万4千株取得したと発表しました。取得費用は、手数料などを含めて約1億円です。
真庭市には姫新線が通っていますが利用者が少なく、とりわけ中国勝山~新見の輸送密度は132人/日(2022年度)と、廃止の危機に瀕しています。そこで真庭市は、JR西日本株を取得することで、株主の立場からも姫新線の存続を訴えていく方針です。真庭市の太田市長は地元メディアの取材に対して、「資本参加することで一定の責任を持ちつつ、必要な意見をJR西日本に伝えていく」と述べています。
なお、年間で約250万円と想定される配当金は、利用促進イベントや団体利用者への運賃補助の一部などに活用するそうです。
※姫新線のほか、岡山県では因美線や赤穂線などもJR西日本との協議を進めています。協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
JR只見線で観光列車を検討 – 会津鉄道と共同運行
【2024年7月16日】只見線で新たな観光列車の導入に向けた検討部会の初会合が、開催されました。この検討部会は、福島県や沿線自治体が組織する「只見線利活用推進協議会」に設置されたものです。部会では、会津鉄道の観光列車「お座トロ展望列車」の更新に合わせ、新しい観光列車の製造を提言。これを只見線で運用します。なお、車両は会津鉄道が所有し、会津線でも運行する予定です。
ただ、新車両の製造には億単位の費用が必要になるため、費用対効果などを分析したうえで導入の可否を決める方針です。
※只見線が復旧するまでの経緯や、復旧後の沿線自治体の取り組みは、以下のページで詳しく解説しています。
札幌市電延伸計画の代替案は「水素燃料の新公共交通システム」に
【2024年7月16日】札幌市は、大通・すすきのと札幌駅などをつなぐ新たな交通システムの検討内容を市議会で公表しました。新たな交通システムは、水素燃料電池で動く車両で、定員は約120人。バスのように一般道を走り、市電延伸計画の代替案としても期待されています。
運行ルートは大通・すすきのを起点に、札幌駅(新幹線改札口まで)までのルートと、苗穂駅までのルートの2コースを想定。定員30人ほどの中型車両と10人程度の小型車両も導入し、ニーズに応じて使い分ける予定です。水素燃料電池の車両は、早ければ2025年にも試験運行をスタートし、2030年の本格運行をめざすとしています。
※札幌市電の延伸計画や、運行と軌道施設の管理をわけた「上下分離方式」を導入するまでの経緯は、以下のページで詳しく解説しています。