西九州新幹線のルートなどを思案 – 佐賀・長崎・JR九州の協議開始
【2024年5月13日】佐賀県と長崎県、JR九州は、西九州新幹線の未整備区間について話し合う三者協議を開催しました。西九州新幹線の未整備区間をめぐっては、国と佐賀県が協議を続けています。しかし、両者の主張が食い違い「原点に立ち返り地元で議論したい」と佐賀県の意向で始まったのが、今回の三者協議です。
協議では、長崎県とJR九州が「佐賀駅を通るルート(アセスルート)で、フル規格が望ましい」と提言したのに対し、佐賀県は建設費負担の増加について説明。最終的な負担額は、長崎県の約2.5倍になると伝えたそうです。
また、長崎県とJR九州は「国を交えて協議したほうがよい」と四者協議を提案しますが、佐賀県は「その前に、三者で決めることもあるのでは」と国の参加には否定的だったようです。三者協議は今後も継続する予定です。
【解説】三者協議で佐賀県は何を合意したいのか?
佐賀県の呼びかけで始まった三者協議ですが、この協議で何を決めるのかは明確に決まっていないようです。
佐賀県は「FGT(フリーゲージトレイン)が頓挫したため新たな合意が必要だ」と両者に求めたようですが、長崎県は「合意というものが何を指すのか明確ではない」と戸惑う様子。JR九州も「三者で決めることがあるかもしれないが、整備新幹線は国の事業。国との協議が必要だ」と、疑問を抱いているようです。
そもそも、佐賀県と国との協議がこじれているのは、通常の整備新幹線とは異なる形で話し合いがスタートしたことに起因します。
西九州新幹線のルートは1991年9月に、当時の佐賀県知事が提案したスーパー特急方式による整備計画がベースになっています。この案では、佐賀県内の鳥栖(新鳥栖)~武雄温泉は在来線を活用するため、佐賀県は同区間に関する国との協議をしないまま30年もの月日が経過したのです。
国との協議が必要になったのは、長崎本線と西九州新幹線に導入予定だった新型車両「FGT」の開発を断念したため。これにより、新鳥栖~武雄温泉の計画は1から見直すことになりました。国は、佐賀県と長崎県、JR九州に対して意見聴取を実施。佐賀県は「フル規格は受け入れられない」と強く主張します。しかし2019年8月、国は同区間を「フル規格」で整備する基本方針を決定したのです。
この決定に驚いたのが、佐賀県です。国は佐賀県の主張を受け入れず、勝手に「フル規格で整備する」と宣言したことが、話し合いのこじれる一因になりました。
フル規格となれば、佐賀県にも莫大な建設費負担が生じます。もちろん、新幹線ができることで建設費以上のメリットがあれば、佐賀県も合意するでしょう。しかし、1,000億円以上を負担しても、博多までの短縮効果はわずか15分程度。佐賀県にとって新幹線は「大してうまみのない代物」へと変わってしまったのです。
2020年2月、佐賀県はフル規格以外の方式を含め「幅広く協議をしたい」と国に提言し、協議が始まります。しかし、佐賀県自身が新幹線のメリットを実感できない状況では、話が進まないのも当然です。その意味では、今回の三者協議で長崎県とJR九州が「新幹線の魅力を伝えることで、佐賀県の意向を変えること」が目的といえるかもしれませんが、先行きは不透明です。
※西九州新幹線に関して、佐賀県は長崎本線の並行在来線(江北~諫早)の協議には参加しています。ただ、沿線自治体との協議は難航。最終的に「上下分離方式」に決まった経緯を、以下の記事で詳しく解説します。
その他の鉄道協議会ニュース
芸備線再構築協議会の幹事会が初会合
【2024年5月16日】芸備線再構築協議会の実務者レベルで話し合う幹事会が、岡山市で開催されました。幹事会には、国や沿線自治体、JR西日本など約20名が出席。芸備線の価値を探るため、調査事業では沿線住民などに対するアンケートや、まちづくり・観光振興に関する調査など進めることで合意しました。住民アンケートの質問項目をはじめ具体的な調査内容は、7月に予定される次回の幹事会でまとめることも確認されます。
また、3月の協議会で沿線自治体がJR西日本に質問した「内部補助による路線維持を困難とする理由」について、JR西日本は「利用者の少ない路線に対して、民間企業が設備投資をおこなっていくのは困難だ」と主張。これに対して沿線自治体からは「国の責任で、支援などの対策を講じてほしい」といった要望が出されたようです。
実務者レベルの幹事会でも他力本願の発言が出る状況で、果たして協議がまとまるのか不安です。
※芸備線再構築協議会の協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
錦川鉄道の「あり方」検討で岩国市が4案を提示
【2024年5月16日】岩国市は、利用者の減少により存続が危ぶまれている錦川鉄道の「あり方」について、4つの案を提示。今後の方針を検討する「錦川清流線のあり方について意見を聞く会」で、有識者などと確認しました。
4つの案とは、「現状維持」「上下分離方式への移行」「一部廃止・バス転換」「全線廃止・バス転換」です。一部廃止の案に関しては、区間は決まっていません。それも含めて今後関係者と協議を進め、2025年春までに結論を出すとしています。
※錦川鉄道の現状や沿線自治体との協議については、以下の記事で詳しく解説しています。
JR吾妻線の運賃を全額補助 – 群馬県嬬恋村
【2024年5月16日】群馬県嬬恋村は、JR吾妻線を利用する村民に対して運賃を全額補助する制度を設置。2024年6月1日からの乗車に適用されます。利用条件は、村内にある3駅(大前駅、万座・鹿沢口駅、袋倉駅)から乗降すること。補助対象区間は、吾妻線の全線(大前~渋川)です。なお、通勤通学での利用は対象外になります。
吾妻線に関しては、2024年3月にJR東日本が一部区間(長野原草津口~大前)の「あり方」について沿線自治体に協議を申し入れています。協議はまだ始まっていませんが、村内の全線が存廃対象に含まれる嬬恋村。運賃無料の施策で利用促進につながるのか、注目されます。
参考:嬬恋村「JR吾妻線(大前駅 ~ 渋川駅間)を利用した鉄道運賃を令和6年6月1日以降の利用分から補助します!!」
小湊鉄道「年に数回利用」が6割超 – 市原市の住民アンケート
【2024年5月15日】市原市は、小湊鉄道への支援の方向性を決める「準備調整会議」を開催。このなかで、2023年11月に実施した沿線住民へのアンケート調査の結果が報告されました。
利用状況に関する質問では、「週1回以上」と答えた人は約1割、「年に数回」は約6割だったそうです。また、小湊鉄道の必要性について「必要」「今後は必要と思う」と答えた人は約7割に。公的支援の投入に関する質問では、6割近くが賛成という回答でした。
小湊鉄道は2023年4月に、市原市に対して支援を要請。同年7月から法定協議会の設置に向けた「準備調整会議」で、千葉県や有識者などを交えて話し合いを進めています。今後は、アンケート調査の結果も踏まえ、小湊鉄道に対する支援の方向性を検討していく予定です。
※小湊鉄道と沿線自治体との協議に関する情報は、以下の記事で詳しく解説しています。
只見線の経済波及効果は年間約6億1,000万円
【2024年5月17日】只見線利活用推進協議会は、今年度の取り組みなどを話しあう会合を開催しました。
全線再開から1年間(2022年10月~2023年9月)の実績報告では、会津川口~只見の沿線観光客数は約27万4,000人で、再開前と比べて約2割増加。鉄道再開による経済波及効果は、約6億1,000万円と報告されました。JR東日本に対する沿線自治体の支援額は年間で約3億円ですから、投資以上の回収ができたといえるでしょう。
また、今年度の取り組みとして、会津鉄道の新型車両を只見線で観光列車として走らせる案も報告。今後、本格的に検討を進め、さらなる利用促進をめざします。
※災害で長期不通となった只見線が復旧に至るまでの経緯について、以下の記事で詳しく解説しています。