【2025年5月13日】山口県岩国市は、錦川鉄道(錦川清流線)の将来のあり方を検討した報告書を公表しました。この報告書は、2023年7月から4回開催された「錦川清流線のあり方について意見を聴く会」の内容をまとめたものです。
報告書には、上下分離方式への移行や全線バス転換などの収支シミュレーションの結果も掲載されています。それによると、事業者の赤字額がもっとも少ないのは上下分離方式で、10年間で4億7,301万円という結果に。一方で岩国市の負担額は、みなし上下分離がもっとも少なく、10年間で13億3,019万円という結果になりました。
この報告書をもとに岩国市は、錦川鉄道の存続・廃止を含め判断を下すことになります。
【解説】錦川鉄道の将来を決める報告書
今回公表されたのは、「錦川清流線あり方検討報告書」という報告書です。
錦川鉄道は、旅行代理店や売店の運営、岩国市の観光施設の管理、観光遊覧車「とことこトレイン」の運行といった多事業化で、鉄道の赤字補てんをしてきました。しかし、沿線地域の急激な人口減少にくわえ、コロナの影響で収益は悪化。年間の赤字額は1億円を超えます。
これに対して岩国市は、国鉄の転換交付金などを原資とする基金で赤字を補てんしますが、7億円もあった基金は2024年度に枯渇。基金とは別に補助金を設置し、錦川鉄道を支えています。
ただ、補助金は税金ですから、いくらでも出せるわけではありません。利用者の減少が今後も見込まれるなかで、岩国市は2023年に錦川鉄道の将来を検討する「錦川清流線のあり方について意見を聴く会」を設置。大学教授などの有識者と議論します。その結果、錦川鉄道の将来について4つの案が示されたのです。
- 現状維持(鉄道の存続)
- 上下分離方式 or みなし上下分離への移行
- 全線廃止・バス転換
- 一部線区の廃線(北河内~錦町をバス転換)
報告書には、それぞれの案のメリット・デメリットや収支シミュレーションなども記載。沿線住民に、錦川鉄道の危機的な状況を伝えています。
さて、収支シミュレーションには「今後10年間の赤字額(事業者の収支)」と「岩国市の負担額」が示されています。それぞれの試算結果は、以下の通りです。
■今後10年間の事業者収支&岩国市の負担額
収支(経常損益) | 岩国市の負担額 | |
---|---|---|
現状維持 | ▲16億2,681万円 | 14億5,339万円 |
上下分離方式 | ▲4億7,301万円 | 13億9,400万円 |
みなし上下分離 | ▲5億7,403万円 | 13億3,019万円 |
全線バス転換 | ▲8億449万円 | 16億5,870万円 |
一部バス転換 | ▲26億5,866万円 | 25億5,812万円 |
現状のまま鉄道を存続させると、錦川鉄道は今後10年間で約16億円以上の赤字を生み出します。それが、上下分離方式に移行すると4億7,301万円に、みなし上下分離なら5億7,403万円に、錦川鉄道の赤字は圧縮されるそうです。一方で岩国市の負担額は、いずれも13億円台(10年間)で、ほぼ同じです。みなし上下分離であれば、「下」を管理する新会社設立の初期費用が不要な分、若干安くなる結果になっています。
ここで注目すべきは、「バス転換をすると、岩国市の負担額は現状より増えてしまう」という点です。これは、バスの購入費や営業所の新設といった初期費用も含まれるから。
現状、錦川鉄道の沿線には市が運営する生活交通バスはありますが、錦町駅と岩国駅を結ぶバスはありません。そのため、新たなバス路線を設置するための費用も必要です。また鉄道を廃止にしても、橋梁やトンネル、駅舎などの処分や安全対策の費用が発生します。これらは、岩国市の負担です。こうした理由から、バス転換をしても岩国市の負担が増えてしまう結果になったのです。
以上の結果から、錦川鉄道からみれば「上下分離方式」が、岩国市からみれば「みなし上下分離」が、もっとも負担を軽くできる方法になります。
とはいえ、岩国市の負担は「一部バス転換」を除き、それほど変わりません。それに、今回のシミュレーションは「今後10年間」で試算していますが、これが30年くらいのスパンであれば、結果は変わってくるでしょう。長期的にみれば、全線バス転換がもっとも負担は軽くなると思われます。
ただ、錦川鉄道の輸送密度は200人/日前後。公共交通の利用者が少ない地域です。しかも、今後数年で人口減少が急速に進みます。2025年3月には、岩国高校の分校も閉校になりました。そうした地域事情を踏まえると「バスも10年維持できるかわからない」という岩国市の不安も、報告書から感じられます。
いずれにせよ、錦川鉄道の将来を分析した報告書は完成しました。これをもとに、岩国市は鉄道の将来について判断を下すことになります。
※錦川鉄道に対する岩国市の支援内容や、「意見を聴く会」で議論された内容は、以下の記事で詳しく解説します。