【錦川鉄道】錦川清流線は存続できる?廃止を防ぐも「10年後に再検討」の現実

錦川鉄道の列車 三セク・公営

錦川鉄道(錦川清流線)は、山口県岩国市の川西と錦町をつなぐ第三セクター鉄道です。

国鉄岩日線を継承したローカル線のため、開業前から厳しい経営が予測されていた錦川鉄道。沿線自治体は赤字補てんなどで支えますが、2023年に「鉄道のあり方」に言及し、存続・廃止議論が始まります。その後、みなし上下分離による存続が決定。「10年後に改めて見直す」という条件付きで、2035年度までの営業運行が決まっています。

沿線自治体の岩国市は、なぜ錦川鉄道の廃止を避けたのでしょうか。存続に至った経緯や、10年後に見直す理由について解説します。

錦川鉄道の線区データ

協議対象の区間錦川清流線 川西~錦町(32.7km)
輸送密度(1987年→2023年)1,030→220
増減率-79%
赤字額(2024年)1億4,099万円
※輸送密度および増減率は1987年と2023年を比較しています。
※赤字額は2024年度の経常損益を使用しています。

協議会参加団体

岩国市、錦川鉄道ほか

錦川鉄道と沿線自治体

非鉄道業で稼いでも赤字が続いた錦川鉄道

錦川鉄道は開業当初、多角経営を進めることで鉄道の赤字を穴埋めする経営方針を打ち出していました。1991年には、旅行代理店「清流線トラベルサービス」を設置。後に紹介する企画列車の運行も、こちらが担っています。

ほかにも、岩国駅東口の業務受託、売店の運営、錦町(現・岩国市)の町営バスの運行受託、さらには岩国城や錦帯橋といった観光施設の管理受託など、「副業」の売上は鉄道の運賃収入を超えるまで成長しました。

錦川鉄道の事業別収入の推移
▲錦川鉄道の事業別収入の推移。鉄道事業は減少する一方、関連事業は増加の一途をたどり、2009年には関連事業のほうが上回った。
参考:運輸総合研究所「沿線住民の支援で実現した錦川鉄道の活性化」のデータをもとに筆者作成

しかし、副業の利益は鉄道の赤字を穴埋めできるほど多くありません。そのため、国鉄の転換交付金をもとにした基金を取り崩すほか、国の補助金を活用して車両や設備を更新するなど、赤字の穴埋めを続けてきました。

それでも、錦川鉄道の経営はなかなか改善しません。沿線地域の少子化・過疎化が進み、利用者が減り続けたからです。そこで沿線自治体は「錦川鉄道再生支援協議会」を設置。過疎化が進む現状を踏まえ「観光旅客で生活路線の減収分を補う」という方針の鉄道再生計画を、2005年に策定します。

錦川鉄道のこれまでの取り組み

錦川鉄道が沿線自治体と取り組んできた利用促進策を紹介します。

  • 観光遊覧車「とことこトレイン」の運行
  • 観光名所の新設(秘境駅「清流みはらし駅」の開業など)
  • イベント列車の運行(利き酒列車など)
  • 通学定期券の割引制度
  • 沿線小学生への体験学習(こども鉄道員など)

…など

錦川鉄道の名物のひとつが、観光遊覧車「とことこトレイン」です。国鉄時代の未成線部分を活用したゴムタイヤの遊覧車で、錦町駅からそうづ峡温泉までの6kmを運行します。国内のみならず中国や台湾、韓国などのインバウンド客の増加にも寄与しているようです。

錦川鉄道の「とことこトレイン」
▲錦川鉄道の「とことこトレイン」。

また、沿線で新たな観光名所を8カ所設定。名所の区間では列車の速度を落として運行し、沿線の魅力を伝える取り組みもおこなっています。2019年には、イベント列車のみが停車する「清流みはらし駅」という新駅を開業。錦川の清流をホームから眺望できる絶景ポイントとして、一部の観光客に人気があるようです。

このほか、キハ40を改装したイベント列車や、お花見・紅葉シーズンには「利き酒列車」を運行するなど、さまざまな取り組みを実行します。

赤字急増で錦川鉄道の「あり方」を検討開始

ただ、観光による増収効果は限定的で、利用者数は右肩下がりに減っていきます。輸送密度は2016年度以降、300人/日未満に。一方で赤字額は、1億円前後まで増加。副業の利益どころか、自治体の補助でもカバーできなくなってきました。

■錦川鉄道の補助金の推移

錦川鉄道の補助金の推移
▲錦川鉄道への補助金の推移。2010年ごろまでは5,000万円以内に収まっていたが、その後上昇傾向にあり、2017年以降は年間1億円を超えている。
出典:岩国市地域公共交通計画

こうした状況に赤字補てんを続ける岩国市は、2023年3月に策定した地域公共交通計画で、錦川鉄道の「あり方」について言及します。

錦川清流線は利用者が開業時の約7割まで減少し、一方で鉄道経営対策基金は残り少なくなり、市の補助金も財源確保が徐々に困難になることが見込まれます。錦川清流線の将来のあり方については、ニュートラルな立場で様々な方向性について検討を進める必要があります。

出典:岩国市地域公共交通計画

地域公共交通計画の公表後、岩国市は有識者などで構成する「錦川清流線のあり方について意見を聴く会(以下、意見を聴く会)」を設置。存続・廃止の前提を置かない、錦川鉄道の将来について議論することになったのです。

第1回会合は、2023年7月25日に開催。岩国市は「市の補助金が年々増加していること」「鉄道施設の老朽化にともない修繕や更新に多額の費用が必要なこと」など、市や錦川鉄道の苦しい台所事情を説明します。一方で有識者からは「観光で持ち直すのは難しい」と、観光頼みだった方針の転換を求める声も挙がったのです。

4つの案から錦川鉄道の将来を決めることに

意見を聴く会とは別に、岩国市では「錦川清流線あり方検討プロジェクト会議」という組織を設置しています。この会議は、錦川鉄道の将来について「岩国市としての考え」をまとめる組織です。岩国市は、将来の方向性として4つの「あり方案」を提言。それをもとに、意見を聴く会でも議論していくことになりました。第2回意見を聴く会(2024年4月26日)で公表された、市が考える錦川鉄道のあり方案は、次の4つです。

(1)現状維持
(2)上下分離方式への移行
(3)全線廃止・バス転換
(4)一部路線の廃線・バス転換

岩国市は、各案の収支シミュレーションや沿線住民へのアンケート調査を実施すると説明。意見を聴く会で挙がった声のほか、さまざまなデータを集めたうえで錦川鉄道の将来を決める考えを伝えます。

その後、第3回の意見を聴く会(2024年11月14日)では「みなし上下分離」を追加した5案で検討することが決定。さらに第4回(2025年1月31日)では、(4)の一部線区を「北河内~錦町」にすることが確認されます。

なお、意見を聴く会では(1)~(4)以外の方法として、BRTやDMVといった交通モードへの転換も検討されました。ただ、高額な初期費用がネックとなり選択肢から外したようです。

事業者収支と自治体負担のシミュレーション結果は?

意見を聴く会は4回開催され、最終的な報告書(錦川清流線あり方検討報告書)が2025年5月13日に公表されます。

報告書には、みなし上下分離を含めた5案の試算結果が記載されています。収支は「事業者の収支」と「岩国市の負担額」にわけてシミュレーション。移行や転換に必要な初期費用を含めた10年間の合計額で、試算されました。その結果は、次の通りです。

■各案の収支シミュレーション(10年間)

収支(経常損益)岩国市の負担額
現状維持▲16億2,681万円14億5,339万円
上下分離方式▲4億7,301万円13億9,400万円
みなし上下分離▲5億7,403万円13億3,019万円
一部バス転換▲26億5,866万円25億5,812万円
全線バス転換▲8億449万円16億5,870万円

事業者の収支をみると、いずれの案も赤字ですが、赤字額がもっとも少ないのは「上下分離方式」でした。

一方で岩国市の負担額が最小なのは、「みなし上下分離」です。上下分離方式の場合は「下」を管理する新会社を設立するなど、高額な初期費用がかかります。この費用を、赤字の錦川鉄道には出資できず、自治体が負担しなければなりません。このため、岩国市の負担は上下分離方式より「みなし上下分離」のほうが少ないという結果になったのです。

なお、一般的に自治体負担がいちばん少なくなるのは路線バス(全線バス転換)です。ただ岩国市の試算では、マイカーにシフトする利用者が多いと予測されたため「路線バスの運賃収入が減ること」、またバスの購入費や営業所の新築といった「初期費用が必要なこと」なども考慮しており、バス転換の負担額は高くなりました。

一部線区をバス転換する案でも、利用者の減少や高額な初期費用が見込まれます。くわえて、北河内以南は鉄道を維持しなければならないため、事業者の赤字額も市の負担額も大きくなってしまいます。

報告書には、こうした収支予測のほかにも、各案のメリット・デメリットや住民アンケートの結果なども記載。多角的な視点から、錦川鉄道の将来を決めるように求めています。

クロスセクター効果や経済波及効果の分析も実施

意見を聴く会がまとめた報告書以外にも、岩国市ではクロスセクター効果や錦川鉄道がもたらす経済波及効果の分析も実施しています。これらのデータも、錦川鉄道の将来を決める材料として使われました。

岩国市が示したクロスセクター効果と経済波及効果の分析結果をみていきましょう。

錦川鉄道の存続で年間2,720万円の行政費用を抑制

クロスセクター効果の分析では、錦川鉄道の廃止にともなう行政負担額の増加や歳入減となる要素から算出。たとえば「観光バスやスクールバスの運行に必要な費用」や、鉄道の廃止で地価が下落して「固定資産税が減る」といった行政負担(代替費用)が予想されます。また、鉄道の廃止により沿線住民の外出機会が減ることで、健康が損なわれ「医療費が増加する」といった項目も、クロスセクター効果の項目にはあります。

こうした錦川鉄道の廃止で生じる負担や代替費用は、年間で2,720万円になると試算されました。平たくいうと、錦川鉄道が存続すれば「行政負担が2,720万円くらい抑えられる」という結果が示されたのです。

■クロスセクター効果の分析結果(分野別代替費用)

医療(医療費の増加にかかる行政負担額)70万円
観光(観光バスの運行に必要な費用)860万円
財政(土地の価格低下等に伴う税収の減少)800万円
教育(スクールバスの運行に必要な費用)990万円
合計2,720万円
参考:岩国市「錦川清流線経済効果等分析調査結果報告書」をもとに筆者作成

錦川鉄道がもたらす経済波及効果は7,240万円

経済波及効果は、主に観光施設やイベントなどがもたらす効果を数値化しています。たとえば、先述の「とことこトレイン」の経済効果は年間110万円、錦町周辺で開かれるイベントの効果は400万円、これら観光需要にともなう錦川鉄道の運賃収入は2,000万円といった試算結果を積み重ねて効果を求めます。

それらの合計額は、7,240万円と算出(厳密には経済効果が3,540万円、生産活動などの経済波及効果は3,700万円)。これに、クロスセクター効果の分析結果とあわせて、9,960万円が「錦川鉄道の価値」とみなしたのです。

とはいえ、仮に錦川鉄道をみなし上下分離で維持する場合、市の負担額は10年間で13億3,019万円、1年あたり約1億3,300万円です。経済波及効果より市の負担額のほうが大きくなります。ただ、先述の通り負担額は全線廃止・バス転換のほうが大きいです。それに、バス転換すれば鉄道の経済波及効果などが得られないかもしれません。

みなし上下分離で存続決定も「10年後に再検討」

錦川鉄道の将来を決める材料は、すべて出そろいました。これらをもとに、岩国市が5つの「あり方案」からひとつを選択します。

岩国市が選んだのは、「みなし上下分離による鉄道存続」でした。理由は、先述のクロスセクター効果などの分析結果からもお分かりでしょう。市の負担額が増えても、地域公共交通を守らなければなりません。だったら「安くて効果が高い、みなし上下分離が合理的」と考え、錦川鉄道の存続を決めたのです。

みなし上下分離による支援期間は、2026年度から2035年度までの10年間です。なお岩国市は、国の鉄道事業再構築事業(社会資本整備総合交付金)を使っていません。その代わりに有利な地方債を得るとし、国の支援を受けながら錦川鉄道を支えていく方針です。

何はともあれ、存続が決まった錦川鉄道。しかし、将来が安泰とはいえません。岩国市は、支援について以下の条件を付けています。

ただし、今後の利用実績、沿線人口の状況などを引き続き見極めていく必要がありますので、10年後(令和17年度)を目途に改めてあり方の検討を行うことといたします。

出典:岩国市「錦川清流線の今後のあり方について」

沿線人口は今後10年で、これまで以上のスピードで減っていくと予測されています。少子化も進み、2025年に岩国高校の広瀬分校が廃校になりました。一方で、車両更新や鉄道設備の大規模改修などが控えており、多額の投資決断も今後求められます。こうした点を含め、10年後に「鉄道のあり方」を検討することが付記されたのです。

2036年度以降も錦川鉄道が存続できるか否かは、これからの10年間で「地域がどれだけ錦川清流線を活用できるか」にかかっています。

錦川鉄道(錦川清流線)の関連記事

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

沿線住民の支援で実現した錦川鉄道の活性化(運輸総合研究所)
https://www.jttri.or.jp/survey/zisseki/archives_event/100929seminar/pdf/semi_05.pdf

地域鉄道の再生・活性化モデル事業の検討調査
https://www.mlit.go.jp/common/001064373.pdf

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293544.pdf

岩国市地域公共交通計画
https://www.city.iwakuni.lg.jp/uploaded/life/93225_641810_misc.pdf

岩国市(山口県):錦川鉄道の遊覧車「とことこトレイン」市主導で実現した錦川鉄道の活性化策(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/pdf/083_iwakuni.pdf

岩国市錦川清流線あり方検討
https://www.city.iwakuni.lg.jp/soshiki/12/97688.html

錦川清流線あり方検討報告書(岩国市)
https://www.city.iwakuni.lg.jp/uploaded/life/114012_707641_misc.pdf

錦川清流線経済効果等分析調査結果報告書(岩国市・ランドブレイン株式会社)
https://www.city.iwakuni.lg.jp/uploaded/life/113991_707567_misc.pdf

錦川清流線あり方検討 最終報告(岩国市)
https://www.city.iwakuni.lg.jp/uploaded/attachment/61573.pdf

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