【NEWS】いわき市が福島臨海鉄道の旅客化に向けて調査開始 – 課題は採算性

福島臨海鉄道の貨物列車 協議会ニュース

【2025年11月10日】福島県いわき市は、泉駅と小名浜駅をつなぐ福島臨海鉄道の旅客営業化に向けて、調査を始めたことを明らかにしました。

小名浜駅は福島臨海鉄道の貨物駅ですが、周辺には観光・商業施設が広がり、休日には多くの人でにぎわいます。また、地元のJ2チーム「いわきFC」の新スタジアムが小名浜駅の近くに建設される予定で、2031年度の開業をめざして計画が進んでいます。一方で、周辺エリアでは駐車場不足や渋滞が恒常的な課題となっており、新スタジアムの建設で深刻化することが懸念されます。

こうしたなかで、いわき市は福島臨海鉄道の旅客化に向けて調査を開始。マイカーから鉄道へシフトさせることで、課題を解決したい考えです。いわき市は、実現可能性の調査についてコンサル会社に委託しており、小名浜駅周辺のアクセス改善や活性化を含め、事業化に向けて検討を進めたいとしています。

■福島臨海鉄道の周辺地図

福島臨海鉄道の周辺地図
参考:国土地理院の地図をもとに筆者作成

【解説】福島臨海鉄道の旅客列車は復活できるか?

福島臨海鉄道は、貨物駅の小名浜からJR常磐線の泉駅を結ぶ貨物専用鉄道です。路線長は4.8km。泉駅では、JR貨物の鉄道コンテナの引取りや引渡しをおこなっています。福島臨海鉄道では1972年まで、旅客列車も運行していました。ただ、利用者の低迷により旅客は廃止に。その後は、小名浜港の花火大会などの際にJR東日本が臨時列車を運行することもありましたが、2007年ごろを最後に旅客運行はおこなわれていません。

さて、小名浜駅の周辺では1990年代後半からウォーターフロントの再開発が進んでいます。一帯にはイオンモール、環境水族館「アクアマリンふくしま」、道の駅「いわき・ら・ら・ミュウ」などの観光施設や商業施設が集結。年間来場者数は、アクアマリンふくしまが約92万人、いわき・ら・ら・ミュウは約217万人(いずれも2010年)と、多くの人でにぎわっていました。

しかし、2011年の東日本大震災で小名浜港一帯は津波の被害を受けます。その後は徐々に人出が戻ってきたものの、観光入込客数は震災前と比べて大きく減少したままです。周辺地域の人口減少が加速化するなかで、いわき市は震災前の賑わいを取り戻す起爆剤となるような計画を考えていました。

こうしたなかで浮上したのが、地元のJ2チーム「いわきFC」の新スタジアム構想です。多くの人が集まるスタジアムを作ることで、周辺産業への経済波及効果を生み出すとともに、若者の流出抑制や交流人口の拡大が期待されています。

駐車場不足を福島臨海鉄道の旅客化で解決へ

新スタジアムは、福島県が保有する土地に建設する予定です。その土地は現在、観光・商業施設の駐車場の一部として活用しています。

ここで問題となったのが、駐車スペースの不足です。小名浜港の周辺には現状、施設が保有する駐車場を含め3,715台分の駐車スペースがあり、ゴールデンウイークなどの繁忙期にはほぼ満車になります。このうち、868台分の駐車スペースを使って新スタジアムを建設する計画ですから、観戦者用の駐車場を含め繁忙期には明らかに不足します。

ちなみに、いわきFCの現スタジアム(ハワイアンズスタジアムいわき)では、最寄り駅の湯本駅やいわき駅などからシャトルバスを運行していますが、観戦者の約8割はマイカーで来場しています。新スタジアムの候補地も最寄り駅から遠く、多くの人がマイカーで来場すると予測されます。いわき市によると、最大で約3,000台の駐車スペースが不足すると試算しているようです。

この問題を解決するうえで着目したのが、福島臨海鉄道の旅客化構想でした。いわきFCの試合開催日などに臨時の旅客列車を運行し、アクセスを改善することで、駐車場不足や周辺エリアの渋滞緩和といった課題を解決できると、いわき市は考えたのです。また、観光・商業施設などの来場者も増えて、小名浜地域の活性化や、その賑わいが市全体に広がることも期待されます。

そこでいわき市は、福島臨海鉄道に打診。旅客化の実現可能性に関する調査に協力を求めます。なお、福島臨海鉄道は2025年11月13日のプレスリリースで、市の調査に協力するとしたうえで「弊社が主体的に旅客化を検討している事実はない」と伝えており、具体的な話は市の調査結果を受けて判断する模様です。

旅客列車復活の課題は?

福島臨海鉄道の旅客化構想について、現時点で決まっていることは何もありません。ただ、実現を阻む課題はいくつか考えられるでしょう。

たとえば、旅客化に必要な鉄道設備の整備。軌道やプラットホーム、保安装置などを再整備しなければなりませんし、車両の新造または中古購入の検討も必要でしょう。これらの費用を誰が、どれだけ出すのかを、いわき市と福島臨海鉄道で協議していく必要があります。

なによりも、いちばんの課題は採算性です。いわき市の自家用車分担率は約8割とされ、サッカーや花火大会などのイベントでも多くの人がマイカーで来場しています。新スタジアムまで鉄道で行けるようになっても、大半の人はマイカーを利用するでしょう。そもそも、JR東日本が花火大会などで臨時列車を運行しなくなったのは、採算が取れないことも理由として考えられます。

マイカー移動の人を鉄道にシフトさせるには、まちづくりを含めた工夫も必要です。たとえば、泉駅やいわき駅などにパークアンドライドを整備したり、いわき駅から直通運行する列車を走らせて利便性を高めたり、観光施設のクーポンを配布したりと、福島臨海鉄道の整備以外にも多額の予算が必要になる可能性もあります。

いわき市が進める実現可能性の調査で、そこまで検討されるかは不明ですが、いずれにしても事業の採算性に関するコンサル会社の調査結果を待ちたいところです。

参考URL

小名浜港周辺のエリア価値向上に向けた可能性調査事業(いわき市)
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1759384433533/index.html

小名浜港周辺エリアにおける防災・交通対策協議会 資料(いわき市)
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1759384433533/simple/dai1kai_kyougikaisiryou.pdf
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1759384433533/simple/dai2kai_kyougikaisiryou_1.pdf

福島臨海鉄道の旅客化検討をめぐる報道について(福島臨海鉄道)
http://f-rinkai.co.jp/wp-content/themes/fukushima-rinkai/pdf/company/%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E8%87%A8%E6%B5%B7%E9%89%84%E9%81%93%E3%81%AE%E6%97%85%E5%AE%A2%E5%8C%96%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%90%E3%82%8B%E5%A0%B1%E9%81%93%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf

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