【2026年8月24日】岐阜県は、LRT(次世代型路面電車)などの新しい交通システムに関する検討会を開き、これまでの議論をまとめた中間報告を公表しました。
中間報告には、岐阜市周辺の基幹交通(幹線軸)となる4つのルート案を選定。このうち「岐阜駅~長良」「岐阜駅~岐阜大学」の2路線は、既存の路線バス利用者も多く、定時性・輸送力確保の観点からLRTやBRT(バス高速輸送システム)などの導入を検討する方針です。一方、「岐阜駅~岐阜羽島駅」「長良~則武」の2路線は移動需要が限定的として、導入の必要性を検討するとしています。
今後は、県が新たに設置する実務者レベルの作業部会で、事業費や採算性、既存の鉄道やバスへの影響などを調査・検討するとしています。
【解説】岐阜でLRT新設が検討されるようになった理由
岐阜県では2025年に、岐阜市周辺のまちづくりに関するプロジェクトチームを発足。中心部の活性化を含め「賑わいを広げるまちづくり」の実現に向けて、新たな交通システムの検討を進めています。
2026年3月には、岐阜市や羽島市、名鉄、有識者などを交えた協議組織「次の世代につなげる県都岐阜市を中心とした交通システムの在り方検討会」を設置。LRTやBRTといった交通モードやルート案など、具体的な議論も始まりました。
県が新たな交通システムを検討しているのは、「岐阜市中心部の衰退に歯止めをかける」ことも理由のひとつです。岐阜市も車社会で、郊外のショッピングモールなどには人が集まる一方、中心部では百貨店をはじめ大型商業施設が相次いで閉店。柳ケ瀬や問屋街といった商店街も、人通りが減少しています。
中心部が衰退した一因として、かつて名鉄が運行していた岐阜市内線などの廃止も影響していると考えられます。名鉄岐阜市内線は、岐阜駅前~忠節と徹明町~長良北町の2路線を運行。2005年に廃止されました。廃止の理由は、モータリゼーションの進展にともなう「利用者の減少」です。
名鉄は2003年1月に、岐阜市内線の廃止を表明。くわえて、岐阜市内線に接続する揖斐線(忠節~黒野)と美濃町線(徹明町~関)、田神線(田神~競輪場前)のあり方についても、沿線自治体に協議を申し入れます。沿線自治体は、上下分離方式への移行も含め存続の道を模索します。また、鉄軌道を活用した社会実験も実施。路面電車区間では、これまで認められていた軌道線内の自動車通行を禁止にするなどして、「利用者が増えるのか」という実験もおこないました。
しかし、利用者の減少に歯止めがかからないばかりか、軌道線内を通行禁止にしたことで中心部の渋滞が激化する羽目に。この結果を受けて沿線自治体は、名鉄に財政支援をしてまで存続できないとして、岐阜市内線・揖斐線・美濃町線・田神線の4路線の廃止を容認します。
あれから20年が過ぎ、市の中心部では「過度な車社会の弊害」がみられるようになりました。新岐阜百貨店やパルコ、高島屋などの商業施設が相次いで閉店。跡地に新たな商業施設がオープンしても、かつての賑わいは戻ってきません。柳ケ瀬や問屋街などの商店街はシャッター通りとなり、街中から人通りが消えていったのです。
もっとも、鉄軌道の廃止だけが衰退の理由ではないでしょうが、人口減少や環境対策などの課題に対応するうえでも、新しいまちづくりの起爆剤として「路面電車を復活させよう」と岐阜県は考えた模様です。
検討会が示した4つの候補路線
2026年3月に始まった検討会は、これまで4回開催。路線バスの利用状況や人流データ、将来需要が見込まれる開発予定地域など、さまざまな観点からルート案や交通モードが検討されます。
その結果、公共交通網の幹となる基幹交通(幹線軸)として、4つのルート案を設定。それぞれの候補路線の方向性が、中間報告で示されました。
■岐阜LRTの想定ルート(経由地は仮称)

参考:岐阜県「次の世代につなげる県都岐阜市を中心とした交通システムの在り方検討会 中間報告」
岐阜駅~長良・岐阜大学
「岐阜駅~長良」と「岐阜駅~岐阜大学」の沿線には、高校や大学、岐阜市役所、岐阜公園、商業施設、医療機関、教育研究拠点など、さまざまな施設が集まっています。
現状の路線バスは、ピーク時に1時間あたり2,000人超を輸送。今後も安定した通勤・通学需要が見込まれることから、検討会は「BRTやLRT、路線バスの拡充など最適な交通システムについて検討を進める」としています。
岐阜駅~岐阜羽島駅
「岐阜駅~岐阜羽島駅」は、県庁や柳津(ものづくり産業等集積地)を経由し、市中心部と新幹線駅を結ぶルート案です。竹鼻線など名鉄の路線と競合しますが、名鉄は県庁から離れていることや、リニア中央新幹線の開業により東海道新幹線の停車回数が増えるとして設定されました。
とはいえ、県庁周辺から岐阜羽島駅の移動ニーズはそれほど多くありません。検討会は「移動需要拡大の可能性や既存交通への影響などについて十分に配慮したうえで、最適な交通システムの導入の必要性について検討を進める」と、少し後ろ向きな姿勢です。
長良~則武
「長良~則武」の沿線には高校や医療機関のほか、岐阜メモリアルセンターや長良川球場など大規模イベントが開かれる施設もあります。また、LRTなどを環状線化にすることで、公共交通の需要が増えることも期待されます。
とはいえ、現状の移動ニーズは限定的。岐阜駅~岐阜羽島駅と同じく、将来の開発や需要動向を踏まえ「導入の必要性」を慎重に分析するレベルにとどめています。
LRTありきではない?岐阜の公共交通はどうなる?
中間報告をまとめた検討会での議論は、いったんここまで。今後は、岐阜県が新たに設置する実務者レベルの作業部会で、事業費や採算性などを調査する予定です。つまり、想定利用者数や建設費、費用対効果などの調査分析は、これからです。その調査で「LRTは採算が取れない」「バスでも効果が見込める」となれば、LRTは候補から外れるでしょう。
実は検討会でも、LRTの新設に疑問視する意見が出ていました。
・人口減少が進む中、大きな社会構造の変化に柔軟に対応するため、新しい技術も含め自由度が高く身の丈に合った交通システムをいかに幹線軸に落とし込めるかが重要
・交通システムを変えただけでは利用につながらないため、企業・商業施設の誘致や土地利用を考えていくことが重要。
・現状、路線バスで十分運行を担っており、そこに何の問題があるのか、高度化が必要か既存バスの拡充も含めた議論が必要。
出典:岐阜県「次の世代につなげる県都岐阜市を中心とした交通システムの在り方検討会 中間報告」
LRTが走るようになれば、岐阜市の中心部に賑わいが戻ってくるかもしれません。その一方で、LRTの新設には巨額の事業費が必要です。2023年8月に開業した宇都宮ライトレールを例に挙げると、最終的な事業費は約684億円になりました。
「巨額の財政負担をしてまで、本当に必要なのか?」といった市民の反発も想定されるでしょう。かつて岐阜市を走っていた路面電車が廃止されたのは、道路の車線減少に伴う交通渋滞や巨額の財政負担に対する市民の不安があったからです。
こうした意見もあることに対して、岐阜県の江崎知事は中間報告後の会見で「電車が引きたいわけではない」と述べ、LRTに限定せずBRTなど柔軟な選択肢を受け入れる考えを示しています。また、検討会の会長を務める岐阜大学の倉内教授も、需要分析の結果次第では「ルートの再設定や見直しもあり得る」と語っています。
宇都宮ライトレールでは開業前の想定より多くの人に利用されており、経営も黒字です。また、沿線地域では再開発が進んだり車の渋滞が緩和したりと、さまざまなメリットを生み出しています。こうした沿線地域に与える便益を含めて、LRTが岐阜のまちづくりに与える影響を検証し、実現に向けて取り組んでほしいところです。
※宇都宮ライトレールが開業に至るまでの経緯は、以下の記事で詳しく解説しています。

参考URL
次の世代につなげる県都岐阜市を中心とした交通システムの在り方検討会 中間報告(岐阜県)
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/511901.pdf
まちづくりの推進(岐阜県)
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/453024.html