【NEWS】岐阜県がLRT新設のイメージ案を公表 – 岐阜羽島駅への延伸も

LRT延伸が計画される岐阜羽島駅 協議会ニュース

【2025年9月18日】岐阜県は、岐阜市などに新設するLRT(次世代型路面電車)のイメージ案を公表しました。

資料には、おおまかなルート案も掲載。市中心部を巡回する「循環ルート」、この循環ルートから東海循環自動車道の岐阜ICまで延びる「北ルート」、さらに西岐阜駅付近や県庁などを経由して岐阜羽島駅に至る「南ルート」の3ルートが示されています。

岐阜県は9月定例議会で、LRTの採算性などを調査するために3,000万円の調査委託費を県議会に提出。また岐阜市も、架線レスの次世代LRTを運行する台湾2都市の視察費などを、市議会で補正予算に計上しています。

【解説】岐阜でLRT新設が検討されるようになった理由

岐阜県の江崎知事は2025年7月1日に開かれた定例議会で、新たな交通インフラの整備を提言。その候補として、LRTを検討していることを明らかにしました。

LRTの検討に至った理由のひとつが、岐阜市中心部の衰退です。岐阜市も車社会で、郊外のショッピングモールなどには人が集まる一方、中心部では百貨店をはじめ大型商業施設が相次いで閉店。柳ケ瀬や問屋街といった商店街も、人通りが減少しています。

こうした状況に岐阜県は2025年度より、岐阜圏域のまちづくりに関するプロジェクトチームを発足。中心部の活性化を含め「賑わいを広げるまちづくり」の実現に向けて、新たな交通システムの検討を始めます。

また同年9月18日には、県議会の県政自民クラブが「LRT整備とまちづくりに関する研究会」を設置。その第1回勉強会で、岐阜県が考えるLRTのイメージ案が報告されました。

岐阜市内線の廃止が中心部の衰退に影響?

岐阜市の中心部が衰退した一因として、かつて名鉄が運行していた岐阜市内線などの廃止も影響していると考えられます。

名鉄岐阜市内線は、岐阜駅前~忠節と徹明町~長良北町の2路線を運行。2005年4月1日に廃止されています。廃止の理由は、モータリゼーションの進展にともなう「利用者の減少」でした。

名鉄は2003年1月に、岐阜市内線の廃止を表明。くわえて、岐阜市内線に接続する揖斐線(忠節~黒野)と美濃町線(徹明町~関)、田神線(田神~競輪場前)のあり方についても、沿線自治体に協議を申し入れます。

これに対して岐阜市などの沿線自治体は、協議会を設置。上下分離方式への移行も含め、存続の道を模索します。また、鉄軌道を活用した社会実験も実施。路面電車区間では、これまで認められていた軌道線内の自動車通行を禁止にするなどして、「利用者が増えるのか」という実験もおこないました。

しかし、利用者の減少に歯止めがかからないばかりか、軌道線内を通行禁止にしたことで中心部の渋滞が激化する羽目に。この結果を受けて沿線自治体は、名鉄に財政支援をしてまで存続できないとして、岐阜市内線・揖斐線・美濃町線・田神線の4路線の廃止を容認します。最終運行日は、2005年3月31日でした。

あれから20年が過ぎ、市の中心部では「過度な車社会の弊害」がみられるようになりました。新岐阜百貨店やパルコ、高島屋などの商業施設が相次いで閉店。跡地には新たな商業施設などをオープンさせるものの、かつての賑わいは戻ってきません。柳ケ瀬や問屋街などの商店街もシャッター通りとなり、街中から人通りが消えていったのです。

もっとも、鉄軌道の廃止だけが衰退の理由ではないでしょうが、人口減少や環境対策などの課題に対応するうえでも、新しいまちづくりの起爆剤として「路面電車を復活させよう」と岐阜県は考えた模様です。

岐阜LRTの想定ルートは?

岐阜県が提示した資料では、多くの人が集まる「拠点」をLRTという「線」で結び、岐阜圏域全体に賑わいを広げる構想を掲げています。

LRTの想定ルートは、大きく3つ。それぞれの案をみていきましょう。

■岐阜LRTの想定ルート(経由地は仮称)

岐阜LRTの想定ルート(経由地は仮称)
▲岐阜県の公表資料をもとに、地理院地図で想定ルート案を作成。緑が循環ルート。北ルート(黄色)や南ルート(青)も、循環ルートに乗り入れると想定される。
参考:岐阜県「新たな交通システム整備の考え」

ルート案のひとつが、市の中心部をめぐる循環ルートです。JR岐阜駅から北進し、忠節橋付近で右折。長良川沿いを東に向かい、岐阜城の近くで南に進路を変え、市役所や名鉄岐阜駅などをめぐって岐阜駅に戻ります。LRTが市の中心部を巡回することで、「歩いて移動できるまち(車社会からの脱却)」をめざすそうです。

この循環ルートを核に、忠節橋付近からさらに北進し、岐阜大学か東海循環自動車道の岐阜ICをゴールとする北ルート、JR岐阜駅から西進し、西岐阜駅手前で南へ進路を変え岐阜県庁などを経由して、東海道新幹線の岐阜羽島駅と結ぶ南ルートも想定されています。

岐阜県は、岐阜ICや岐阜羽島駅から「人やモノが集まる県」をめざすとしています。

岐阜LRTは実現するのか?

LRTの開業時期について、岐阜県の江崎知事は「10年をひとつの目標に調整していく」と語っており、2035年度ごろの運行開始をめざすとしています。ただし、予測される利用者数や建設費、費用対効果などの調査は、これからです。岐阜県と岐阜市は、これらの調査費用を2025年度の一般会計補正予算案に盛り込み本格的に検討していくとしています。ただ、その調査で「採算が取れない」ことが判明すれば、事業は中止でしょう。

また、事業化には多くの障壁が想定されます。2023年8月に開業した宇都宮ライトレールを例に挙げると、最終的に約684億円になった建設費に対する市民などの反発や、並走する路線バス会社の反対もあり、構想から事業化までに約20年、運行開始まで約30年もかかっています。岐阜でも同様の障害が考えられますし、用地買収や運行事業者の選定、環境アセスなど必要な手続きも多く、相当の時間を要すると予測されます。

とはいえ、宇都宮ライトレールでは開業後2年で累計利用者数が1,000万人を突破。開業前の想定より多くの人に利用されており、経営も黒字です。また、沿線地域では再開発が進んだり車の渋滞が緩和したりと、さまざまなメリットを生み出しています。こうした沿線地域に与える便益を含めて、LRTが岐阜のまちづくりに与える影響を検証し、実現に向けて取り組んでほしいところです。

※宇都宮ライトレールが開業に至るまでの経緯は、以下の記事で詳しく解説しています。

参考URL

まちづくりの推進(岐阜県)
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/453024.html

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