【2025年5月9日】JR旅客各社は、2024年度(25年3月期)の決算を発表しました。JR四国は2025年5月10日現在で未発表ですが、四国を除く5社は鉄道運輸収入が前期より増加。JR北海道では10%増、JR東海は7%増、JR東日本とJR西日本は6%増、JR九州は4%増になりました。
このうちJR東海は、東海道新幹線を利用するインバウンドの増加などにより、鉄道運輸収入は過去最高の1兆4,325億円を記録。また、JR東日本とJR西日本、JR九州の鉄道運輸収入は、コロナ禍前と比べて9割以上まで回復したようです。
連結決算の最終利益も、2023年度と比べて各社とも大幅に増加。JR東海とJR西日本では過去最高を記録しています。
【解説】脱コロナで増収するも将来を不安視するJR各社
■JR各社の2024年度(2025年3月期)の決算
連結売上(前年比) | 鉄道運輸収入(前年比) | 連結最終利益(前年比) | |
---|---|---|---|
JR北海道 | 1,560億円(6.9%) | 766億円(9.6%) | 46億円(37.8%) |
JR東日本 | 2兆8,875億円(5.8%) | 1兆7,688億円(5.5%) | 2,242億円(14.2%) |
JR東海 | 1兆8,318億円(7.1%) | 1兆4,905億円(7.1%) | 4,584億円(19.3%) |
JR西日本 | 1兆7,079億円(4.5%) | 8,926億円(6.2%) | 1,139億円(15.4%) |
JR九州 | 4,543億円(8.1%) | 1,512億円(4.2%) | 436億円(13.6%) |
2025年3月期の決算は、コロナの影響が一部残っていた前期と比べているため、JR旅客各社の連結最終利益は大幅に増加しています。コロナ禍前と比べた鉄道運輸収入は、JR東日本が95%、JR西日本とJR九州が99%まで回復したようです。
連結最終利益の増加がめだつのは、JR北海道。前期比で37.8%も増えています。快速エアポートの増発や一部特急列車の全席指定化といった施策が功を奏し、2期連続で最終黒字を達成しました。なお鉄道事業単体でみると、経営安定基金の運用益などを含めても125億円の赤字です。
好調な理由は「インバウンド需要の増加」
北海道を含めJR旅客各社が好調な理由として挙げているのが、「インバウンド需要の増加」です。
なかでもJR東海は、東海道新幹線を利用するインバウンド客がコロナ禍前の2~3倍に増加。鉄道運輸収入の8%は、インバウンドが占めます。JR西日本もインバウンドの運輸収入が409億円となり、過去最高を更新しました。インバウンド向けのフリーきっぷ「ジャパンレールパス」の売上も好調で、JR北海道では2割増、JR東日本では1割程度増えたそうです。
インバウンドの恩恵は、鉄道以外の事業にも影響を与えています。
JR九州では訪日客の増加などで、ホテル事業が好調。営業利益でみると、前期比85%も増えています。駅ビルなどの不動産事業も好調で、不動産・ホテル事業の売上は1,434億円と鉄道運輸収入(1,512億円)とほぼ同じです。JR東日本も、ホテルや駅ナカビジネスが好調。不動産・ホテル事業の売上は4,454億円で、前期比6.5%の増加になりました。
このほか2024年は、北陸新幹線が敦賀まで延伸したことも、JR東日本とJR西日本の鉄道運輸収入の増加につながっているようです。
2025年度は利益が減ると見通す事業者も
では、2025年度もJR旅客各社の好調な状況は続くのでしょうか。各社の決算記者会見では「2025年度は大きな伸び率は期待できない」という見通しを示しています。その理由として、物価高騰や鉄道施設の更新費の増加、人手不足にともなう人件費の上昇など経費の増加を挙げる事業者がめだつようです。
2025年4月から運賃を値上げしたJR北海道では、運輸収入は増える見通しですが、人件費や修繕費の上昇により連結営業損益は524億円の赤字に(今期の連結営業損益は482億円の赤字)。経営安定基金の運用益などを含めた最終利益は24億円の黒字で、今期より減少する見通しです。JR東日本では、最終利益は前期比1%程度の増加を見込んでいますが、今期ほどの伸び率は期待していないようです。
大阪・関西万博により増収が期待できるJR東海と西日本も、消極的な見通しを示しています。大阪・関西万博による増収効果は200億円ともいわれ、売上予測は両社とも前年より増える見通しです。
しかし、JR東海では人件費や修繕費の増加で最終利益は前期より7.7%減という見方を示しています。2期連続で過去最高の最終利益をめざすJR西日本も、人件費や修繕費の増加にくわえ、南海トラフ地震への対策など安全関連投資の増加が見込まれています。くわえて、人手不足にともなう自動化・デジタル化への投資も増加し、最終利益の伸び率はそれほど期待していないようです。
一方でJR九州は、今期比で17%増という高い伸び率をめざすとしています。鉄道事業では2025年4月に運賃を値上げし、運輸収入は11%増に。また、分譲マンションなどの不動産事業の売上増加も期待され、最終利益は511億円になる予想です。ただ、九州新幹線の利用者数がコロナ禍前まで回復していないことや、日韓航路の高速船がなくなったことなどの懸念点も伝えています。