【NEWS】とさでん交通に12億円を支援へ – 高知県と沿線自治体が合意

とさでん交通の路面電車 協議会ニュース

【2025年5月16日】とさでん交通の沿線自治体と高知県が関係首長会議を開き、コロナ禍で増大した同社の債務の一部を支援する方針で合意しました。支援額は約12億円です。

とさでん交通は、慢性的に赤字経営だった土佐電気鉄道と高知県交通を統合するかたちで、2014年に設立。当時の債務は約38億円でしたが、沿線自治体の支援などにより返済が進み、2019年度には約25億円まで減少します。

しかし、コロナの影響で債務が再び増加。2024年度には、約37億円に増大します。この増大した約12億円について沿線自治体は、「公共交通を維持するために経営基盤の強化が必要」と判断し、とさでん交通への支援を決めました。

会議後の記者会見で、高知県の浜田知事はコロナ禍前の財務状況に戻すことで、とさでん交通は投資がしやすい状況になると強調。「支援で生じた余裕を生かし、経営改善に取り組んでほしい」と話しています。

【解説】投資したくてもできない状況が続くとさでん交通

とさでん交通は、沿線自治体が毎年4億円前後の補助金を支援することで、路面電車や路線バスなどの運行を続けています。今回の自治体支援は、これとは別で「債務を減らすことで、とさでん交通の投資を促す」のが目的です。

近年のとさでん交通は、「路面電車を新型車両に更新できない」「バスドライバーの待遇を改善できない(運転手不足で路線バスの廃止が続いている)」など、投資ができないことが一因で、利用者に不便をかける負のスパイラルに陥っています。

この状況を打破するために、沿線自治体が借金の返済を肩代わりすることで、「経営改善のために、もっと投資してね」という狙いがあるのです。

高知県の呼びかけで12億円の協調支援へ

とさでん交通は、2014年に高知県と沿線自治体が全額出資して設立されました。その際に、前身の土佐電気鉄道と高知県交通の債務も一部継承しています。その額は約38億円でした。巨額の債務を抱えたまま再出発したため、とさでん交通は徹底した経費削減で路面電車・路線バスの維持と、前事業者の借金返済を続けてきたのです。

しかし、経費削減にも限界があります。利用者を増やし、利益を生み出すには一定の投資も必要です。それを含め、沿線自治体は「事業再生計画」を立て、毎年4億円前後の補助金で支援してきました。

ところがコロナの影響で、利用者が激減。収入が減少したことで、とさでん交通の債務が再び増大します。2024年3月時点での債務は、約37億2,000万円。設立時の債務とほぼ同じです。事業再生計画のもと、これまで以上に投資をしていかなければならない時期に、債務が増え続ける状況では経営改善が進みません。

こうした状況を打破するため、高知県はとさでん交通の沿線4市町(高知市・南国市・土佐市・いの町)に声をかけ、「このままでは地域公共交通の維持ができなくなる」と危機感を共有。協調支援を提案し、今回の約12億円の支援合意に至ったようです。

この支援により、とさでん交通は返済に充てる予定だった資金を投資に回せるようになります。それによって、とさでん交通の経営改善が進むことを自治体は期待しているのです。

12億円の内訳は?

さて、12億円の内訳について沿線自治体は、「路面電車と路線バス」と「貸切バス・高速バス」の2つにわけておこなうようです。

このうち、路面電車と路線バスに対する支援は、7億8,600万円。自治体ごとの内訳は、高知県が半分の3億9,300万円を負担、残り半分のうち高知市が約3億2,500万円、南国市が約3,800万円、土佐市が約700万、いの町が2,300万円です。いずれも路面電車が通る自治体ですから、電車・バスの維持や再編に向けた費用に充てられると考えられます。

一方で貸切バス・高速バスに対する支援は、4億1,400万円。こちらは高知県が全額補助します。

沿線自治体が経営改善プランを策定

ただ、巨額の支援には税金が使われるわけですから、一定の効果を上げなければなりません。これについて高知県などは、今後10年間の「経営改善プラン」を策定。とさでん交通の収益改善策も提言しています。

経営改善プランには、「貸切バス・高速バス事業への新規投資」「運転士確保のための処遇改善」などが示されています。貸切バスと高速バスは収益性がよく、赤字の路線バスを維持するうえでも今後注力していく必要があると、沿線自治体は伝えています。また、バス運転手の処遇改善も、路線バスの維持につながる施策。沿線住民の利便性の維持向上につなげたい考えです。

このほか、「路面電車と並行する路線バスの見直し」にも言及しています。とさでん交通の路面電車は、投資ができないなどの理由で全線の維持が困難だと2023年に高知市が報告書を提示しています。その後、県や沿線自治体との協議で2025年2月には、「路面電車は当面現状を維持することが妥当」という方針が示されました。

路面電車の利用者を増やすうえで、並行する路線バスの整理も必要でしょう。その見直しは、現在も協議が続いています。これらの実行により、2031年度には単年度の営業損益が黒字化を達成でき、2034年度までに年間2億円の営業利益をめざせるとしています。

沿線自治体の協力を得ながら、地域公共交通を支えているとさでん交通。ここ数年は路線バスの廃止が続いていますが、なんとか立ち直ってほしいところです。

※とさでん交通の成り立ちや、路面電車の「あり方」協議については、以下の記事で詳しく解説しています。

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