週刊!鉄道協議会ニュース【2024年9月1日~9月7日】

黄線区を走るJR北海道の列車 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、JR北海道の黄線区に対する「アクションプラン」の2024年度以降の取り組みが公表された話や、名鉄西尾・蒲郡線で「上下分離方式」の導入を検討していることが明らかになったニュースなどを、お伝えします。

黄線区の赤字を100億円以内に – JR北海道アクションプラン延長戦

【2024年9月4日】JR北海道は、輸送密度2,000人/日未満の線区(黄線区)に対する経営改善計画「アクションプラン」について、2024~2026年度の取り組みを公表しました。

アクションプランには、2026年度末までに達成すべき「輸送密度」と「収支(赤字額)」の目標値が掲げられています。今回のアクションプランには、これまでと同じく「2017年度の実績」をめざすことが示されました。

ただ、収支については新たに「チャレンジ目標」という難度の高い目標値を設定。黄線区全体の赤字額を「100億円以内にする(2023年度の実績は約148億円)」としています。JR北海道の村林取締役は「地域の皆さまと相談し、この目標に向けて頑張ることを確認した。ただ、現状の取り組みだけで達成は難しく、沿線自治体と協議しながら進めたい」と語っています。

【解説】新たな収支目標「チャレンジ目標」を設定した狙いとは?

JR北海道の黄線区では、沿線自治体と協力して経営改善に向けた取り組みを、2019年から続けています。この取り組みの計画(アクションプラン)は、国の監督命令にもとづき策定。2023年度末に、総括した検証報告書を国に提出することが求められていました。

しかし、取り組み期間中に新型コロナウィルスが流行。実行できなかった施策も多く、JR北海道は「3年間の延長」を国に申し入れます。これが国に認められ、今後3年間に実施する取り組みをまとめたものが、今回公表されたアクションプランです。

2019年に策定したアクションプラン(第1期)では、各線区で達成すべき目標値として「2017年度の実績をめざす」ことが掲げられました。今回も、それを継承したかたちになりますが、収支に関しては新たに「チャレンジ目標」を設けています。ここで、各線区の「輸送密度」「収支(赤字額)」「チャレンジ目標(赤字額)」をまとめました。

■2026年度末に達成すべき目標値(カッコ内は2023年度の実績)

線区輸送密度収支チャレンジ目標
花咲線(釧路~根室)264(221)11.10億円(13.02億円)8.09億円
宗谷本線(名寄~稚内)352(252)27.33億円(28.23億円)23.64億円
釧網本線374(356)14,97億円(17.83億円)9.70億円
根室本線(滝川~富良野)428(384)12.70億円(11.25億円)10.60億円
室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)439(325)12,33億円(10.90億円)6.26億円
日高本線449(390)4.26億円(4.16億円)2.87億円
石北本線891(643)42.43億円(49.97億円)31.37億円
富良野線1,597(1,233)9.98億円(13.08億円)7.37億円
▲収支とチャレンジ目標は「赤字額」を示す。
参考:JR北海道「事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画(2024(令和6)~2026(令和8)年度)」をもとに筆者作成

輸送密度をみると、花咲線と釧網本線はあと少しで目標達成です。いずれも観光路線ですから、観光誘客でどれだけ増やせるかがポイントといえます。富良野線も、目標達成の可能性はあるでしょう。一方で収支(赤字額)をみると、根室本線(滝川~富良野)、室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)、日高本線では、2023年度時点で目標をクリアしています。これらの線区では、さらなる改善をめざすうえで「チャレンジ目標」を掲げたとも考えられます。

ただ、この「チャレンジ目標」には、もうひとつ大きな意味があると推測されます。それは、「路線存続に必要な自治体負担額」を示していることです。

JR北海道はこれまで、上下分離方式などの支援を沿線自治体に求めてきました。しかし、多額の財政支出が見込まれるため、賛同する自治体は皆無でした。また、「JR北海道の経営努力が足りない」という声も相次ぎ、支援を受けられない状況が続いていたのです。

そこでJR北海道は、「コスト削減と利用促進に徹底的に取り組む」として、線区ごとにチャレンジ目標を設定。JR北海道が「もうこれ以上のコスト削減はできない」「利用促進も最大限努力している」という大前提で、それでも足りない額がチャレンジ目標の赤字額として公表したと考えられます。

JR北海道の村林取締役は、記者会見で「できるだけ収支を改善したうえで、残った赤字を誰がどれだけ負担するかを相談していきたい」と述べています。「残った赤字」とはチャレンジ目標の赤字額、「誰が」とは沿線自治体と北海道、そして国を指すでしょう。

2026年度末には、再びアクションプランを総括した検証報告書を、国に提出することになっています。そこでJR北海道は、今後3年間の取り組みをどのように評価し、誰に何を求めるのか。これからの取り組みが、黄線区の存廃を決めることになります。

※JR北海道と沿線自治体が策定した「アクションプラン」の取り組み内容については、以下の記事で詳しく解説してます。

その他の鉄道協議会ニュース

名鉄西尾・蒲郡線で「上下分離方式」を検討へ

【2024年9月4日】愛知県西尾市と蒲郡市は、名鉄西尾・蒲郡線(西尾~蒲郡)の将来について、「上下分離方式も選択肢のひとつ」として検討していることを明らかにしました。これは、西尾市と蒲郡市、名鉄が構成する検討会で協議している内容を、両市の市議会定例会でそれぞれ答えたものです。

名鉄西尾・蒲郡線は、両市が年間2億5,000万円を支援することで、2025年度までの運行継続が決まっています。ただ、2026年度以降の支援は未定です。これについて蒲郡市の鈴木市長は「上下分離方式も考え方のひとつで、協議を進めている」と、市議会の一般質問で回答。11月下旬に開催予定の名鉄西尾・蒲郡線対策協議会で中間報告をおこない、2024年度末までに方向性を示すとしています。

※名鉄西尾・蒲郡線に対する支援が決まるまでの経緯は、以下のページで詳しく解説しています。

「上下分離」や「BRT」も選択肢に – 平成筑豊鉄道の沿線自治体で報告

【2024年9月2日】福岡県みやこ町の町議会で全員協議会が開かれ、平成筑豊鉄道の「あり方」について報告がありました。このなかで、沿線9市町村が検討している内容が紹介され、「上下分離方式の導入」「BRT(バス高速輸送システム)」「廃止・バス転換」などの方法が示されたそうです。

それぞれの自治体負担額も試算されており、上下分離方式だと今後30年間で300億円以上、BRTは約200億円、路線バスは約100億円と見積もられています。なお、みやこ町の内田町長は鉄道の存廃に関して「現時点では申し上げられない」と述べています。

※平成筑豊鉄道の沿線自治体がこれまで取り組んできた支援内容や、協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。

肥薩おれんじ鉄道でも法定協議会の設置へ

【2024年9月4日】鹿児島県は、肥薩おれんじ鉄道に対する今後の支援について、国の社会資本整備総合交付金を活用する考えを示し、近いうちに法定協議会を立ち上げることを明らかにしました。

国の支援を受けるには、肥薩おれんじ鉄道の利用促進や経営改善計画などを盛り込んだ「地域公共交通計画」の策定が必要です。その策定に向けて議論する場として、沿線自治体や有識者などが一堂に会して話し合う法定協議会を設置することになっています。今後は、熊本県の沿線自治体などとも話し合い、協議会を設立。2024年度中に、地域公共交通計画の策定をめざすとしています。

※肥薩おれんじ鉄道の経営状況や、沿線自治体のこれまでの協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。

芸備線再構築協議会に安芸高田市も参加表明

【2024年9月2日】安芸高田市は、芸備線再構築協議会に参加する考えを示しました。安芸高田市ではこれまで「対象区間に該当しない」ことを理由に参加を見送っていました。ただ、2024年7月に就任した藤本市長は「安芸高田市は関係ないということではなく、沿線自治体と一体となり路線の維持について考えたい」と参加の意思を表明。9月2日には、中国運輸局へ文書を送ったことを明らかにしています。

10月に開催予定の次回協議会で認められたら、安芸高田市も構成メンバーの一員にくわわります。

※芸備線再構築協議会のこれまでの流れは、以下のページで詳しく解説しています。

米坂線復活絆まつりで山形・新潟県知事が「マイレール意識の醸成」を訴え

【2024年8月31日】山形県小国町のJR小国駅で、「米坂線復活絆まつり」が開催されました。このイベントは、災害で長期不通が続く米坂線の復旧を後押ししようと、沿線自治体が企画したものです。沿線住民に対する「マイレール意識の醸成」も、狙いのひとつになっています。

イベントには、山形・新潟の両県知事をはじめ約1,500人が参加。山形県の吉村知事は「みんなで力を合わせて、米坂線を復旧させるという強い思いを持って取り組むことが一番重要」と語りました。また、新潟県の花角知事は「利用促進策を含め、みんなで知恵を出していく必要がある」と、参加者に自分事として捉えてほしい考えを示しています。

※米坂線の災害復旧を検討するJR東日本と沿線自治体との会議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。

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