【平成筑豊鉄道】年間10億円に膨らむ赤字予測の背景は?鉄道の廃止は防げるか?

平成筑豊鉄道のことこと列車 三セク・公営

平成筑豊鉄道は、国鉄の特定地方交通線を継承した伊田線・田川線・糸田線の3路線と、「門司港レトロ観光線」という観光トロッコ列車を運営する第三セクター鉄道です。このうち前者の3路線について2024年7月、廃止も視野に入れた「鉄道のあり方」の協議を沿線自治体に申し入れました。

2026年度以降の赤字額は、年間10億円規模になると見込まれている平成筑豊鉄道。鉄道は存続できるのでしょうか。設立時からさまざまな支援を続けてきた沿線自治体の動きを中心に、これまでの流れを振り返ります。

平成筑豊鉄道の線区データ

協議対象の区間伊田線 直方~田川伊田(16.1km)
田川線 行橋~田川伊田(26.3km)
糸田線 金田~田川後藤寺(6.8km)
輸送密度(1989年→2019年)1,543→827
増減率-46%
赤字額(2019年)2,738万円
※輸送密度および増減率は、平成筑豊鉄道が開業した1989年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

直方市、小竹町、福管町、糸田町、田川市、香審町、赤村、みやこ町、行橋市

平成筑豊鉄道と沿線自治体

貨物廃止で公的支援を受け始めた平成筑豊鉄道

平成筑豊鉄道の沿線自治体は、1989年10月の開業と同時に「平成筑豊鉄道推進協議会」を設置。利用促進をはじめ、鉄路を支えてきました。

開業当初は、列車の増便や新駅設置といった施策の効果もあり、年間利用者数は340万人台をキープ。国鉄時代より増加します。しかし、1995年ごろから緩やかな減少に転じ、2007年には約203万人とピーク時の約6割にまで減ってしまいました。原因は、沿線地域の少子化や過疎化、モータリゼーションの進展といった、地方鉄道でよくみられるものです。

平成筑豊鉄道の年間輸送人員の推移
▲平成筑豊鉄道の輸送人員の推移。1998年には年間300万人を割り込み、それからわずか10年で100万人近くも減少している。
参考:平成筑豊鉄道「地域公共交通総合連携計画策定に向けて」のデータをもとに筆者作成

また、平成筑豊鉄道では貨物輸送も国鉄から継承し、1990年には約2億2,000万円もの収入を得ていました。その貨物もトラックに奪われ、収入は激減。沿線市町村は、2002年より経営安定化補助金を投入して支援しますが、貨物輸送は2004年に廃止されます。

経営環境が大幅に悪化した平成筑豊鉄道は、2005年に運賃改定を実施します。ただ、旅客輸送も減り続ける状況ですから、運賃の値上げだけで経営は改善しません。累積赤字も膨らみ、平成筑豊鉄道は最大のピンチを迎えます。

再生計画を経て地域公共交通総合連携計画の策定へ

2005年10月、平成筑豊鉄道は経営改善を目標とした「平成筑豊鉄道再生計画」を策定します。これにもとづき、国の輸送高度化補助事業の適用を受け、老朽化した車両や施設の更新を実施。さらに、沿線自治体による経営安定化補助金や三線沿線地域交通体系整備事業基金(三線基金)を活用するなど、事業再生を進めることになりました。

しかし、2007年度には補助金と基金を投入しても5,200万円の赤字を計上するなど、自治体の支援だけでは限界に近づいていたのです。

ちょうどこのころ、国は地域公共交通活性化再生法を施行します。この法律にもとづく国の制度や支援を使えば、平成筑豊鉄道を再生できるかもしれない。そう考えた沿線自治体は、「筑豊・京築地域公共交通活性化協議会」という法定協議会を設置。地域公共交通総合連携計画を策定したうえで、平成筑豊鉄道の経営の安定化をめざすことになりました。

平成筑豊鉄道のこれまでの取り組み

地域公共交通総合連携計画では、地域交通としての「生活列車」と、観光誘客をめざす「観光列車」という2つの視点から、平成筑豊鉄道への支援策を示しています。具体的な取り組みを、いくつか紹介しましょう。

  • 企画乗車券の販売(ちくまるキップ)
  • 観光列車「ことこと列車」の運行
  • イベント列車の運行(へいちく浪漫号、クリスマス列車など)
  • 駅名ネーミングライツ・広告ラッピング列車の導入
  • 枕木オーナー制度・つり革オーナー制度の導入
  • イベント実施(へいちくフェスタなど)
  • グッズ販売(ちくまるボーロなど)

…など

「生活列車」の施策として、1日フリー乗車券の「ちくまるキップ」は大きなヒットになりました。大人1,000円、子ども500円のちくまるキップには、沿線にある温泉施設の入湯券も付いており、キップを提示すれば無料で入浴できます。対象の温泉施設は3カ所。いずれの施設も利用客が伸びており、鉄道利用者も10%増加につながったそうです。

一方、「観光列車」の施策としては、2019年3月から運行している「ことこと列車」が有名です。ことこと列車は、レトロ風の車内で沿線の食材を使ったフランス料理をいただけるのがウリ。列車のデザインは水戸岡鋭治氏、料理はアジアのベストレストラン50に選ばれた福山剛シェフが監修しています。なお、列車の改装費などは国の地方創生推進交付金を活用するなど、平成筑豊鉄道推進協議会が中心に動いたことで、事業者の負担を抑えられました。

このほか、駅名ネーミングライツや広告ラッピング列車、枕木オーナー制度、つり革オーナー制度など、収益改善を図る施策も実施しています。

沿線自治体に「鉄道のあり方」の協議を申し入れ

沿線自治体の支援と利用促進策によりピンチを乗り越えた平成筑豊鉄道ですが、利用者数の減少は続きました。2023年度の年間利用者数は約135万人。これは、開業当初の半分以下です。

また近年は、沿線地域を襲う豪雨災害により復旧費用や防災対策などの費用が増加。老朽化した施設の更新費や修繕費も重なるほか、燃料費や資材費、人件費の高騰といった影響も受け、赤字額は増加の一途をたどり続けます。ちなみに、2023年度の赤字額は約5億2,000万円。赤字は今後も増える見通しで、2026年度以降は年間10億円規模になると予測されています。

こうした状況に平成筑豊鉄道は2024年6月28日の株主総会で、「鉄道のあり方」について話し合う法定協議会の設置を、株主である沿線自治体に伝えました。7月には沿線自治体に訪問し、協議を申し入れます。

これに対して、沿線自治体の田川市や行橋市は「地域住民の交通手段の確保を前提に、沿線自治体で議論したい」という趣旨のコメントを発表。また、筆頭株主である福岡県は、服部知事が同年7月2日の定例記者会見で、客観的なファクトとデータをもとに「存続・廃止の前提を置かず議論することが重要だ」と述べています。

(知事)今申しましたように、「廃止ありき」「存続ありき」という前提を置かずに議論するというのは、具体的なファクトとデータ、これが勝負だと思っています。客観的なそういうものに基づいて議論をしていくことが重要であると思いますので、まだ、存続なのか、廃止なのかというのは、今の段階で論じるというのは時期尚早であると思っています。

出典:福岡県「知事定例記者会見 令和6年7月2日(火曜日)」

一方で、「鉄道として存続が難しい場合は、地域の足をどうするか検討する必要がある」とも述べており、鉄道以外の交通モードも視野に入ることも想定しているようです。

とはいえ、輸送密度ベースでみるとコロナ禍前は800人/日以上。一部区間では、バスで輸送できない可能性があるでしょう。BRTも選択肢のひとつになると考えられますが、初期費用が高額なため、沿線自治体の財政状況を考慮すると現実的な解とは言いづらいかもしれません。

沿線自治体との法定協議会で、どのような決断が下されるのか。今後の動きを見守っていく必要がありそうです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

地域公共交通総合連携計画策定に向けて(平成筑豊鉄道)
【リンク切れ】https://www.heichiku.net/system/documents/pc001.pdf

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293544.pdf

県民の声(福岡県)
https://kvoice.pref.fukuoka.lg.jp/voices/detail/id:2249

平成筑豊鉄道、存続へ経営改善策策定へ 交通体系の抜本的見直しも(西日本新聞 2022年7月7日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/952302/

田川市地域公共交通網形成計画
https://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/kiji0036970/3_6970_16691_up_0l52jpxl.pdf

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