【平成筑豊鉄道】法定協議会はなぜ廃止・バス転換を選んだのか?

平成筑豊鉄道のことこと列車 三セク・公営

2026年3月25日、福岡県は平成筑豊鉄道の将来の方向性について「廃止・バス転換」とする方針を示しました。この方針決定にあたり、沿線9市町村などで構成される法定協議会では「鉄道(上下分離方式への移行)」「BRT」「路線バス」の3つから1つを選ぶ書面決議を実施。その結果、路線バスへの転換が有効投票数の過半数を占めたと伝えています。

沿線自治体は、なぜ鉄道の廃止を決めたのでしょうか。その理由は、平成筑豊鉄道に対する自治体支援の歴史が深く関わっているようです。設立時からさまざまな支援を続けてきた沿線自治体の動きを中心に、これまでの経緯を振り返ります。

平成筑豊鉄道の線区データ

協議対象の区間伊田線 直方~田川伊田(16.1km)
田川線 行橋~田川伊田(26.3km)
糸田線 金田~田川後藤寺(6.8km)
輸送密度(1989年→2023年)1,543→692
増減率-55%
赤字額(2024年)3億5,480万円
※輸送密度および増減率は、平成筑豊鉄道が開業した1989年と2023年を比較しています。
※赤字額は2024年のデータを使用しています。

協議会参加団体

直方市、田川市、行橋市、小竹町、香審町、糸田町、赤村、福管町、みやこ町、福岡県、九州運輸局(国土交通省)、平成筑豊鉄道、バス・タクシー事業者、有識者(北九州市立大学・九州産業大学)ほか

平成筑豊鉄道と沿線自治体

貨物廃止で公的支援を受け始めた平成筑豊鉄道

平成筑豊鉄道の沿線自治体は、1989年10月の開業と同時に「平成筑豊鉄道推進協議会」を設置。利用促進をはじめ、さまざまな施策で鉄路を支えてきました。

開業当初は、列車の増便や新駅設置といった施策の効果もあり、年間利用者数は340万人台をキープ。国鉄時代より増加します。しかし、1995年ごろから緩やかな減少に転じ、2007年には約203万人とピーク時の約6割にまで減ってしまいました。原因は、沿線地域の少子化や過疎化、モータリゼーションの進展といった、地方鉄道でよくみられるものです。

平成筑豊鉄道の年間輸送人員の推移
▲平成筑豊鉄道の輸送人員の推移。1998年には年間300万人を割り込み、それからわずか10年で100万人近くも減少している。
参考:平成筑豊鉄道「地域公共交通総合連携計画策定に向けて」のデータをもとに筆者作成

また、平成筑豊鉄道では貨物輸送も国鉄から継承し、1990年には約2億2,000万円もの収入を得ていました。その貨物もトラックに奪われ、収入は激減。沿線市町村は、2002年より経営安定化補助金を投入して支援しますが、貨物輸送は2004年に廃止されます。

経営環境が大幅に悪化した平成筑豊鉄道は、2005年に運賃改定を実施します。ただ、旅客輸送も減り続ける状況ですから、運賃の値上げだけで経営は改善しません。累積赤字も膨らみ、平成筑豊鉄道は最大のピンチを迎えます。

再生計画を経て地域公共交通総合連携計画の策定へ

2005年10月、平成筑豊鉄道は経営改善を目標とした「平成筑豊鉄道再生計画」を策定します。これにもとづき、国の輸送高度化補助事業の適用を受け、老朽化した車両や施設の更新を実施。さらに、沿線自治体による経営安定化補助金や三線沿線地域交通体系整備事業基金(三線基金)を活用するなど、事業再生を進めることになりました。

しかし、2007年度には補助金と基金を投入しても5,200万円の赤字を計上するなど、自治体の支援だけでは限界に近づいていたのです。

ちょうどこのころ、国は地域公共交通活性化再生法を施行します。この法律にもとづく国の制度や支援を使えば、平成筑豊鉄道を再生できるかもしれない。そう考えた沿線自治体は、「筑豊・京築地域公共交通活性化協議会」という法定協議会を設置。地域公共交通総合連携計画を策定したうえで、平成筑豊鉄道の経営の安定化をめざすことになりました。

平成筑豊鉄道のこれまでの取り組み

地域公共交通総合連携計画では、地域交通としての「生活列車」と、観光誘客をめざす「観光列車」という2つの視点から、平成筑豊鉄道への支援策を示しています。具体的な取り組みを、いくつか紹介しましょう。

  • 企画乗車券の販売(ちくまるキップ)
  • 観光列車「ことこと列車」の運行
  • イベント列車の運行(へいちく浪漫号、クリスマス列車など)
  • 駅名ネーミングライツ・広告ラッピング列車の導入
  • 枕木オーナー制度・つり革オーナー制度の導入
  • イベント実施(へいちくフェスタなど)
  • グッズ販売(ちくまるボーロなど)

…など

「生活列車」の施策として、1日フリー乗車券の「ちくまるキップ」は大きなヒットになりました。大人1,000円、子ども500円のちくまるキップには、沿線にある温泉施設の入湯券も付いており、キップを提示すれば無料で入浴できます。対象の温泉施設は3カ所。いずれの施設も利用客が伸びており、鉄道利用者も10%増加につながったそうです。

一方、「観光列車」の施策としては、2019年3月から運行している「ことこと列車」が有名です。ことこと列車は、レトロ風の車内で沿線の食材を使ったフランス料理をいただけるのがウリ。列車のデザインは水戸岡鋭治氏、料理はアジアのベストレストラン50に選ばれた福山剛シェフが監修しています。なお、列車の改装費などは国の地方創生推進交付金を活用するなど、平成筑豊鉄道推進協議会が中心に動いたことで、事業者の負担を抑えられました。

このほか、駅名ネーミングライツや広告ラッピング列車、枕木オーナー制度、つり革オーナー制度など、収益改善を図る施策も実施しています。

年間10億円の赤字予測に再び法定協議会を設置

沿線自治体によるさまざまな支援によりピンチを乗り越えた平成筑豊鉄道ですが、利用者数の減少は続きます。2023年度の年間利用者数は約135万人。開業当初の半分以下です。

また近年は豪雨災害により、復旧や防災対策などの費用が増加。老朽化した施設の更新や修繕、燃料費や資材費などの高騰も、赤字額の増加につながっています。ちなみに、2023年度の赤字額は約5億2,000万円。赤字は今後も増える見通しで、2026年度以降は年間10億円規模になると予測されています。

■今後30年間の年度別収支のシミュレーション

▲2026年度から今後30年間の赤字予測。2026年度にはデジタル化対応や機器更新など設備投資の増加で10億円超に。2046年度以降は車両更新が始まり、15億円前後の赤字が見込まれる。
参考:平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会「平成筑豊鉄道㈱におけるこれまでの検討状況」をもとに筆者作成

この状況に平成筑豊鉄道は2024年6月の株主総会で、沿線自治体に対して支援を要請。「鉄道のあり方」にまで踏み込んだ法定協議会の設置を申し入れます。これに対して沿線自治体や福岡県は、協議会の設置を容認。2025年1月から、存続・廃止を前提としない「平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会」が始まったのです。

上下分離やBRT・バス転換案も検討へ

第1回の協議会は、2025年1月31日に開催。まず平成筑豊鉄道から、現状分析や将来の収支予測に関する報告があります。

あわせて、沿線自治体が提案した利用促進策などの収支改善計画について、その試算結果も提示されました。具体的には、JR筑豊本線への乗り入れ(折尾までの直通運転)や貨客混載などの計画を実行した場合、「収支はどれだけ改善するのか」を試算したのです。

ただ、筑豊本線への乗り入れでは、約528万円の収入増に対して必要経費は3億8,200万円と、大幅な赤字に。貨客混載は黒字ですが収入は年間2万円程度と予測され、10億円もの赤字を穴埋めできません。

これらの結果を踏まえ、「利用促進などを講じても赤字は軽減しない」と平成筑豊鉄道は主張。抜本的な改善策が必要として、以下の3案が現実的な解と示したのです。

  1. 上下分離方式への移行
  2. BRT転換
  3. 廃止・バス転換

いずれの案も、沿線自治体には大きな負担が想定されます。とりわけBRTは、専用道路の整備など高額な初期費用が予測されます。なお路線バスは、ルートを決めないと輸送量や必要な車両数などが確定しません。このため協議会では、暫定ルート案を決めたうえで収支予測をおこなうことになりました。

廃止されると1,000人以上の高校生が通学できない?

第1回協議会では、福岡県が「利用状況を正確に把握することが重要」と提言。なかでも利用者の約4割を占める高校生を対象に、アンケート調査の実施が提案されます。

平成筑豊鉄道の沿線には、高校だけで14校あります。多くの学生が鉄道で通学する一方で、スクールバスを運行している学校もあり、鉄道の利用実態を正確に把握できていない状況です。

福岡県の提言を受け、沿線高校生への利用実態調査が2025年6~7月に実施されます。6,000人以上から得た回答(回答率82.57%)の結果は、第5回協議会(2025年8月29日)で報告されました。平成筑豊鉄道で通学している高校生の割合をみると、14.91%。およそ7人に1人しか利用していません。しかし、実数は896人です。アンケートに回答していない高校生も含めると、1,000人を超えるでしょう。

この結果に、JR九州バスは「この人数をバスで運ぶのは、かなり困難」と主張。また西鉄バスも、バス転換を検討した他のローカル線の事例を挙げて「鉄道廃止を検討したが、結局存続したという事例もある」と、ドライバー不足の厳しい現状を伝えています。

なお、鉄道で通学している896人に他の通学手段について尋ねたところ、約7割の621人が「他に通学手段がない」と回答。バス10台分以上の学生が通学できなくなる実態も明らかになっています。

30年間の自治体負担額は上下分離が439億円・バス転換は110億円

2025年11月20日に開かれた第6回協議会。ここでは「上下分離方式への移行」「BRT転換」「廃止・バス転換」の3案について、初期投資を含めた今後30年間の自治体負担額の試算結果が報告されます。その結果は、以下の通りです。

■今後30年間に必要な自治体負担額

上下分離方式への移行439億3,200万円
BRT転換147億9,400万円
廃止・バス転換109億9,900万円
参考:平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会「収支シミュレーション資料」をもとに筆者作成

参考までに、現状維持で何も手を打たない場合の自治体負担額は473億3,200万円です。上下分離方式に移行すれば、国の社会資本整備総合交付金などを活用できるため、自治体負担額は約34億円抑えられると試算されています。

これに対してBRTは、直方・田川・行橋の市中心部を除く大部分に専用道を整備。車両購入費などを含めた初期費用は約266億円と見積もられますが、こちらも国の交付金により自治体負担額は半分に。さらに運行赤字に関しても、特別交付税措置により国が8割を負担する見込みで、トータルの自治体負担額は約148億円まで抑えられるとしています。

一方でバス転換では、大きく4路線を設定。直方~油須原には特急バスも運行し、利便性向上を図る計画です。直方~油須原のバス所要時間は、特急が約75分、各停が約96分と推測。鉄道の約62分より増加します。この条件で収支をシミュレーション。国の交付金などを活用することで、30年間の自治体負担額は約110億円と試算されます。

この結果を受けて田川市は「バスは運行赤字に対する支援もあるが、鉄道にはない」と国の支援制度を疑問視。「鉄道は金額が大きく、選択肢として選べない」と不満を述べます。

またJRバスは「単純に資料だけ見ると、お金が安い方に流れる」と、安易にバス転換を選ばないよう警告。BRTでは39人、バス転換では44人のドライバーが必要とされることから、人手不足も考慮してほしいと懇願します。これに対して事務局である福岡県は、連節バスや将来の自動運転技術の導入など、ドライバー不足の解決策を検討する考えを伝えています。

一方で行橋市からは、今後実施予定の住民説明会で「一部区間の鉄道存続を求める意見も想定される」とし、部分廃止案の議論の必要性を主張。これに福岡県は「平成筑豊鉄道とも協議して可能な範囲で準備する」と、一部線区の廃止パターンも検討するとしています。

さまざまな意見が出るなかで、事務局の福岡県はこれまでの協議内容を受けて存廃を含めた「方向性の決め方」について説明。規約(設置要綱第6条第4項)にもとづき、「委員の過半数で決定する」と伝えます。選択肢は「上下分離方式への移行」「BRT転換」「廃止・バス転換」のいずれかです。

多数決に委ねた平成筑豊鉄道の未来は「バス転換」で決議

第6回協議会のあと、沿線自治体は住民説明会やアンケート調査を実施します。そこで出た意見を踏まえ、3案から1つを選ぶ投票がおこなわれました。投票権があるのは、沿線9市町村と福岡県、平成筑豊鉄道、バスやタクシー事業者、有識者など27人の構成メンバー。設置要綱にもとづき、棄権票を除いて多数だった意見を「将来の方向性」とすることにしたのです。

投票期限は2026年3月13日でした。27人の構成メンバーが下した結果は、次の通りです。

鉄道(上下分離方式への移行)2票(福智町、みやこ町)
BRT転換4票(田川市、直方市、有識者1名、交通事業者1名)
廃止・バス転換8票(行橋市、小竹町、香春町、糸田町、赤村、有識者1名、交通事業者2名)
棄権12票(国土交通省3名、警察本部1名、福岡県6名、交通事業者2名)
※座長は同数のときに投票する規定により無投票
参考:福岡県「平成筑豊鉄道のあり方に係る大きな方向性 書面決議結果」をもとに筆者作成

投票数は14票。国や福岡県、警察などの半分近くが棄権しました。国と福岡県は「地元の意見を尊重する」というスタンスから棄権したと考えられます。ただ、福岡県は地元ですし、平成筑豊鉄道の筆頭株主でもあります。棄権ではなく、何らかの意思表示をしてほしかったところです。なお、座長の福岡県交通政策課長は「可否が同数の場合に投票する」という規定から投票していません。

鉄道(上下分離方式への移行)を支持したのは、福智町、みやこ町の2町でした。福智町では、住民アンケートで58.7%が「上下分離方式への移行」を支持。みやこ町の住民アンケートでは、上下分離方式とBRTが拮抗したそうです。

BRTは、田川市と直方市が支持。田川市は、住民アンケートでもっとも多く支持されたBRTを選択しました。直方市の住民アンケートでは路線バスが60.45%と過半数を占めたものの、定時性と速達性の観点からBRTを選んだとしています。

その他の市町村は、路線バスを支持。住民アンケートなどでバス転換を支持する人が多かったほか、今後30年間の自治体負担額が鉄道の4分の1に圧縮できることが理由としています。

このほか、有識者はBRTと路線バスにそれぞれ1票。平成筑豊鉄道をはじめ交通事業者の投票先または棄権については「非公表」とされ、誰がどれに入れたかはわかりません。

この結果から、平成筑豊鉄道の将来の方向性は「バス転換」で決まり、事実上の鉄道の廃止が確定したのです。なお、バス転換の時期や平成筑豊鉄道の最終運行日は未定です。

沿線自治体がバス転換を支持した理由は「支援疲れ」

将来の方向性が決まってから1週間後の2026年3月末。当サイトを閲覧された平成筑豊鉄道の関係者より、メールをいただきました。

メールには沿線自治体への思いも綴られています。そのなかで、自治体がバス転換を選んだ理由について「支援疲れをしてしまったのが、本当のところ」と書かれていました。

沿線自治体は、貨物輸送を守ろうとした2002年から公的支援を投じてきました。その後も補助金や基金、ことこと列車の導入にかかる事業費負担、利用促進の協力など、20年以上にわたり平成筑豊鉄道を支えてきました。

しかし、いろいろ試したものの利用者が増えない。一方で赤字額は増え続け、今後は年間10億円前後になる。だけど、沿線地域の少子化・過疎化が進み、自治体の財政悪化は避けられない。こうした状況から、「もうこれ以上の支援はできない」と限界を感じ、苦渋の決断を下したようです。

筆者は、平成筑豊鉄道の協議会で「クロスセクター効果や鉄道がもたらす地域経済効果の検証をしていない」ことを、当サイトの協議会ニュースで指摘しました。

これについて、その方のメールには、自治体の考えとして「クロスセクター効果などは、支援内容を正当化するための補強材料ではあるが、財政支援が軽くなるわけではない」「自治体が『鉄道は無理だ』と思い始めると、そこから新しい情報を入れなくなるようだ」と、自治体がネガティブな考えに傾倒していった様子を説明。自治体との協議の難しさについて、教えてくださいました。

沿線自治体がネガティブな考えに傾く様子は、協議会の議事録からも読み取れます。ただ、ネガティブな考えのままでは、将来を見据えた持続可能な地域公共交通網を構築できません。バス転換後の事業者やダイヤ、ルートといった具体的な内容は、これからの協議で決まりますが、みんなに利用される公共交通を「ポジティブな考え」で計画してもらえるよう願うところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

地域公共交通総合連携計画策定に向けて(平成筑豊鉄道)
【リンク切れ】https://www.heichiku.net/system/documents/pc001.pdf

地方鉄道の誘客促進に関する調査
https://www.mlit.go.jp/common/001293544.pdf

県民の声(福岡県)
https://kvoice.pref.fukuoka.lg.jp/voices/detail/id:2249

平成筑豊鉄道、存続へ経営改善策策定へ 交通体系の抜本的見直しも(西日本新聞 2022年7月7日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/952302/

田川市地域公共交通網形成計画
https://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/kiji0036970/3_6970_16691_up_0l52jpxl.pdf

平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/heichikukyogi.html

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