【NEWS】たま駅長でも有名な和歌山電鉄が上下分離方式により存続へ

たま駅長をモチーフにした和歌山電鉄の駅舎 協議会ニュース

【2025年11月24日】和歌山電鉄と沿線自治体は、同社の鉄道施設を自治体が保有・管理する上下分離方式に移行することで合意しました。

和歌山電鉄は、南海貴志川線を継承した2006年の開業時から、沿線自治体の支援を受けながら運行を続けています。しかし、現状の「みなし上下分離」による支援では、老朽化した鉄道施設の修繕費などを穴埋めできず、和歌山電鉄は上下分離方式への移行を求めていました。移行により和歌山電鉄は、黒字転換できる見通しです。

なお、沿線自治体は準備期間が必要として、2028年度からの移行をめざすとしています。

【解説】上下分離方式への移行を訴え続けた和歌山電鉄

和歌山電鉄は、猫駅長(たま駅長、ニタマ駅長)の起用などユニークな取り組みで、沿線住民はもとより国内外の観光客からも愛されるローカル線です。南海からの継承後は利用者が増加。ローカル線再構築の成功事例に見えた和歌山電鉄ですが、2006年の開業後一度も黒字になったことがありません。そのため、沿線自治体が公的支援をして運行を続けています。

和歌山電鉄に対する公的支援の形式は、大きく二つあります。

ひとつが、鉄道用地のみ沿線自治体が保有していることです。これにより和歌山電鉄は、土地にかかる固定資産税が減免されます。

もうひとつが、赤字補てんです。開業後10年間(2006~2015年度)は、自治体が定めた上限以内で赤字額を補てんしてきました。ただ、2016年度からの10年間は、設備の更新や維持管理に必要な費用のみを支援する「みなし上下分離」に移行。10年間で12億4,790万円を上限に支援するという協定を結びます。

この協定を決める協議で和歌山電鉄は、鉄道用地にくわえ線路や駅舎などの鉄道施設も自治体が保有・管理する「上下分離方式への移行」を要望していました。ただ、利用者数は増加傾向で収支が改善していることや自治体負担が重くなることなどを理由に、「必要なし」と受け入れられなかったのです。

しかし、この協定を結んだ2016年度から、和歌山電鉄の利用者数は減少の一途をたどり始めます。

■和歌山電鉄の年間利用者数の推移(単位:万人)

和歌山電鉄の利用者数の推移
▲和歌山電鉄の利用者数のピークは、2015年度の年間232万人。ここ数年はコロナ禍からの回復で増えたように見えるが、コロナ禍前には戻っていない。
参考:和歌山市「貴志川線の状況」をもとに筆者作成

路線バスやBRTへの転換も検討された和歌山電鉄

和歌山電鉄の利用者が減少を始めた理由は、沿線地域の人口減少もありますが、2016年と2019年に実施した運賃改定や、2020年から始まった新型コロナウィルスの感染拡大の影響も大きいようです。

また、老朽化した鉄道施設の修繕費も年々増加。2022年度は、修繕費の増加とコロナの影響による運賃収入の減少で、和歌山電鉄の赤字額は2憶9,816万円にまで増えました。みなし上下分離を採用しているため、修繕費の増加は沿線自治体の負担増につながります。2016年度からの10年間で「12億4,790万円を上限」と協定で決めた支援額ですが、実際には2024年度末の段階で18億1,480万円に膨らんでいます。

こうした状況に和歌山県と沿線自治体などは、2024年7月に今後の負担額などの調査を開始。協定で決めた支援期間が2025年度末に迎えることもあって、2026年度以降の自治体支援のあり方について検討することになったのです。

一方の和歌山電鉄も、沿線自治体に対して上下分離方式への移行を再び要望。受け入れられければ、「貴志川線の運行から撤退する」と伝えていたそうです。

この要望を受けて沿線自治体は、上下分離方式に移行するケース以外にも、路線バスやBRT(バス高速輸送システム)への転換、LRV(低床式車両)の導入も調査することになりました。これらの調査結果は、2025年9月19日に開かれた和歌山市議会の建設企業委員会で提示されます。

■鉄道とモード転換した場合の自治体負担額と事業者収支(10年間)

自治体負担額事業者収支
現状維持(みなし上下分離)48億円▲2.8億円
上下分離方式50.9億円4.7億円
路線バス24.1~27.5億円▲16.5~▲23.3億円
BRT60.6~65.1億円▲12.9~▲29億円
LRV66.85億円▲2.8億円
参考:和歌山市議会「和歌山電鐵貴志川線の再構築に向けた検討資料」をもとに筆者作成

自治体負担額で比べると、路線バスへの転換がもっとも安くなります。一方で事業者収支で比べると、路線バスでも赤字ですが、上下分離方式の場合は10年間で4億7,000万円の黒字を確保できると試算されています。

上下分離方式が適切と自治体が判断した理由

この結果を受けて、和歌山県と沿線自治体などが協議。その結果、「上下分離方式で鉄道を存続させる」方針で一致し、2025年11月24日に和歌山電鉄とも合意書を交わします。

ただ、上記表の自治体負担額を比べると、現状のまま(みなし上下分離)のほうが約3億円も安く、路線バスに転換すればもっと軽くなります。自治体はなぜ、負担が重くなる上下分離方式を受け入れたのでしょうか。

みなし上下分離の場合、和歌山電鉄の赤字は解消されません。これでは赤字の穴埋めでしかなく、「税金の無駄遣い」とも捉えられます。自治体としては、和歌山電鉄の経営を改善させることで、沿線地域の発展に寄与する事業に取り組んでほしいという願いもあります。そのため、自らの負担額が多少増えても、上下分離方式への移行を決めたと考えられます。

一方で路線バスの場合、事業者にも多額の赤字が見込まれ「受け入れる事業者を探すのが困難」という課題があります。また、和歌山電鉄は赤字とはいえ、1日5,000人以上の利用者を輸送します。これを路線バスで置き換えると、朝のピーク時には30台が必要で、33人のドライバーを確保しなければなりません。

さらにバス転換は、周辺地域の道路事情にも影響を及ぼします。他の地域でバス転換をした事例を見ると、3~4割くらいの鉄道利用者が「マイカーにシフト」する傾向があり、和歌山電鉄の沿線地域でも周辺道路で大渋滞が発生する可能性が高まるのです。これを防ぐには道路整備も必要となり、自治体負担はさらに大きくなることが予測されます。なお、沿線自治体はその費用が約146億円と試算しており、結果的に「バス転換すると自治体負担がもっとも大きい」という結論に至ったのです。

以上の理由から、沿線自治体は上下分離方式へ移行することで和歌山電鉄とも合意しました。今後は、沿線自治体による負担額の分担割合や、鉄道設備を管理する団体などを決め、2028年度からの移行をめざします。

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参考URL

和歌山電鐵完全上限分離方式移行へのご挨拶(和歌山電鐵)
https://wakayama-dentetsu.co.jp/message/16277/

貴志川線の状況(和歌山市)
https://www.city.wakayama.wakayama.jp/kurashi/douro_kouen_machi/1007740/1002191.html

和歌山電鉄貴志川線「完全上下分離」なら黒字に 現行支援スキームの終了控え検討中(鉄道プレスネット)
https://news.railway-pressnet.com/archives/81556

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