【2026年2月17日】美祢線沿線地域公共交通協議会の第2回会合が開催され、JR美祢線のBRT(バス高速輸送システム)転換に向けた計画骨子案が承認されました。ただ、事務局を務める山口県はBRTが走るバス専用道の整備について、慎重な検討を求めています。
この日の協議会で山口県は、バス専用道の「概算事業費」と、現在運行している代行バスと比べた「所要時間の短縮効果」の試算結果を提示。概算事業費は約21~45億円に対し、所要時間はわずか1分程度しか短縮しないと示しました。
バス専用道以外の選択肢として山口県は、「PTPS(公共車両優先システム)」の導入を提案。約6,000万円の投資で最大1分半の短縮が見込めるとしています。協議会では引き続き設備やルートを検討するほか、自動運転バスの導入、増便なども協議する予定です。
【解説】バス専用道のないBRTもアリ?美祢線沿線自治体の決断は?
BRTの特徴のひとつに、鉄道の軌道跡などを活用した「バス専用道」による速達性と定時性の確保があります。
美祢線でも、貞任第5踏切~厚保駅(4.2km)をバス専用道に整備する案を、第3回復旧検討部会(2024年12月19日)でJR西日本が提案しています。その際に沿線自治体は、専用道がわずか4.2kmしかないことを疑問視。速達性と定時性を確保するために「他の区間でも専用道の設置を検討してほしい」と注文します。
その後の協議で、沿線自治体は鉄道での復旧を断念し、BRT案を採択。山口県と沿線自治体が共同で設置した法定協議会「美祢線沿線地域公共交通協議会」で、BRTを核に新たな交通体系の構築をめざす議論が始まります。
バス専用道の高額な整備費に山口県などが「待った」
法定協議会の初会合は、2025年10月20日に開催されます。この場でJR西日本は、復旧検討部会でも提示したBRT整備の概算事業費を改めて説明。貞任第5踏切~厚保駅をバス専用道にする整備費は約45億円、停留所の整備や車両購入費などを含めた総額は約55億円と伝えます。
なおバス専用道を整備しない場合は、その整備費を除いた約10億円に減額。また、沿線自治体が求めていた「他の区間のバス専用道」も提示し、すべて専用道に整備すると100億円規模になることも示しています。
この費用に対して、山陽小野田市が「バス専用道を設置するか否かで費用が大きく異なる。設置可否の議論は、慎重に審議・判断することが重要だ」と発言。事務局である山口県は「地域にとっては将来に向けての投資」としながらも、「費用対効果もしっかり議論する必要がある」と伝え、バス専用道の効果について調査することになったのです。
そして迎えた第2回協議会(2026年2月17日)。山口県は、試算し直したバス専用道の「概算事業費」と、現在運行中の代行バスと比べた「所要時間の短縮効果」の結果を示します。
■バス専用道の概算事業費と所要時間の短縮効果
| 検討区間 | 距離 | 概算費用 | 短縮効果 |
|---|---|---|---|
| 厚狭駅~下河端第2踏切 | 1.2km | 約21億円 | 約1分短縮(通常便ルートと比較) |
| 貞任第5踏切~厚保駅 | 4.2km | 約45億円 | ほぼ変わらず(通常便ルートと比較) |
| 南大嶺駅~美祢駅 | 2.5km | 約28億円 | 約1分短縮(快速便ルートと比較) |
参考:第2回美祢線沿線地域公共交通協議会「協議会資料」をもとに筆者作成
仮に、3区間すべてを整備した場合の費用は約94億円ですが、代行バスと比べた所要時間は1~2分しか短縮しません。JR西日本が提案した「貞任第5踏切~厚保駅」にいたっては、代行バスの所要時間とほぼ同じという結果です。
これを受けて山口県は「費用対効果が極めて低い」と評価。バス専用道の必要性に「慎重に検討」するよう求めたのです。
ちなみに、鉄道時代と比べた代行バスの所要時間は、快速便ルートで3分程度の増加、通常便ルートでは19分の増加です。通常便ルートは時間がかかりますが、快速便ルートだと「鉄道に近い速達性を実現可能」と協議会は伝えています。
バス専用道よりコスパの高い「PTPS」
バス専用道の整備に「待った」をかけた山口県は、BRTの速達性や定時性を確保するための代替案を用意していました。それが「PTPS(公共車両優先システム)」の導入です。PTPSとは、バスが交差点に接近すると青信号の延長や赤信号の短縮を行う信号システムのこと。これにより、信号待ちの停止時間を削減できます。
山口県はPTPSの導入で「交差点によっては最大1分半の短縮が見込まれる」と提言。バスルート上の交差点5カ所に設置した場合、整備費用は約6,000万円と伝えます。「数十億円かけて1~2分縮める」バス専用道よりも、「数千万円で1分半縮める」PTPSのほうが、公共交通の持続可能性という観点では合理的です。
山口県の提言にJR西日本は「専用道にこだわることなく、地域づくりなどを目指してどのように進めていくのかが大切」と発言。バス専用道のないBRTに理解を示します。一方で沿線自治体からは「速達性は低くても観光交流の推進を図れる」「将来の自動運転を見据えて考えるべきだ」など、バス専用道の必要性を訴える声も挙がったようです。
美祢線BRTは路線バスへの転換と同じ?
山口県の試算結果から、BRTの特長である「バス専用道」の優位性が暗に否定されるかたちになりました。仮にバス専用道を整備しないとなれば、美祢線BRTは「一般道を走る路線バス」と大差はないでしょう。沿線自治体からみれば「結局バス転換したのと同じじゃないか」と考えるかもしれません。
美祢線の復旧検討部会では、沿線自治体は「鉄道復旧」を第一に掲げ協議してきました。最終的には運行赤字をJR西日本が全額負担することなどを条件に、BRT案を「苦渋の選択」として受け入れた経緯があります。だからこそ普通の路線バスとは違う、専用道のあるBRTに固執したいのかもしれません。
ただ、BRTは必ずしもバス専用道を設ける必要はありません。一般的な路線バスよりも「速達性・定時性・輸送力」に優れ、「利用者に高い利便性を提供」できれば、全線一般道を走ってもBRTなのです。なお、山口県が提案したPTPSは、国のガイドラインで示した「BRTの要素のひとつ」になっています。
協議会は2026年度中に、バス専用道の有無を含めてBRT計画(地域公共交通計画と利便増進実施計画)をまとめる予定です。
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参考URL
美祢線沿線地域公共交通協議会(山口県)
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/94/321905.html
道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/road/brt/pdf/all.pdf

