BRTで赤字ローカル線問題は解決しない?自治体がBRTに頼る理由

スポンサーリンク
スポンサーリンク
気仙沼線のBRT コラム
スポンサーリンク

赤字ローカル線問題の解決策として、BRT(バス高速輸送システム)を選択肢のひとつに挙げる協議会が多く見られます。協議会では「鉄道の存続が前提」としながらも、国がBRTを推進しているためか、比較材料として検討している自治体も多いようです。

ただ、赤字ローカル線の代替交通手段としてBRTはデメリットのほうが大きいように見えます。BRTに転換することで、自治体にはどんなメリットがあるのでしょうか。実際に導入または検討した自治体の事例を踏まえ、自治体視点でBRTのメリット・デメリットを考えてみます。

スポンサーリンク

なぜ国はBRTを推奨するのか?

自治体がBRTを検討する理由のひとつに、「国がBRTを推奨している」ことが挙げられます。では、なぜ国はBRTを推奨するのでしょうか?

2022年9月、国土交通省は「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」という資料を公表しました。このガイドラインは、2020年6月に国土交通省の分科会が提言した「道路政策ビジョン」にもとづいてまとめられたもので、BRT導入に関する知見や留意点などが掲載されています。このなかで、国が考えるBRTの位置づけとして次のように示されています。

地域の存続・活性化のためには移動手段の確保が必要不可欠であり、最も身近で基礎的な交通インフラである道路の果たす役割は大きい。BRT等の道路空間を活用した公共交通は、街の広がりや分散に合わせて展開可能なため、広域のまちづくりと一体となった公共交通の確保による、持続可能な地域社会の形成や、都市や移動全体の低炭素化を図っていくことが可能である。

出典:国土交通省「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」

つまり、「既存の道路を有効活用して地域活性化をめざせること」、さらに「環境負荷を抑えられカーボンニュートラルの実現をめざせること」を理由に、国はBRTを推進しているといえます。

また、ガイドラインで示した「BRTの定義」には、以下の内容が記載されています。

BRTとは、走行空間、車両、運行管理等に様々な工夫を施すことにより、速達性、定時性、輸送力について、従来のバスよりも高度な性能を発揮し、他の交通機関との接続性を高めるなど利用者に高い利便性を提供する次世代のバスシステムである。

出典:国土交通省「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」

ここには、「速達性、定時性、輸送力」というBRTのメリットが記されています。最近では無人運転が可能なBRTの開発も進んでおり、これが実現すると運転手不足に課題を持つバス事業者の解決策となるでしょう。

ただ、これらは従来の「バス」と比べたメリットであり、「鉄道」と比べているわけではありません。むしろ、「他の交通機関との接続性を高める」という文言から、鉄道との共存を前提にしていると考えられます。

自治体のなかには、BRTの導入により「地域活性化の起爆剤になる」「バスのデメリットを克服し鉄道と同等のメリットが得られる」と認識し、赤字ローカル線の代替手段として注目しているところがあるのかもしれません。

営業中の鉄道をBRT転換した事例は「ない」

ガイドラインによると、現在日本には28のBRT路線があるそうです。2023年8月に開業予定の日田彦山線BRT(BRTひこぼしライン)を含めると29例になるでしょう。

日本でBRTを導入した最初の事例は、1950年代に廃止となった国鉄白棚線(福島県白河市)だといわれます。白棚線は、戦時中に不要不急の路線として休止となり、レールなどが撤去された路線です。戦後になって再建が進められたものの、採算性が見通せず鉄道の復旧を断念。代わりに廃線跡の一部区間をバス専用道に転用して、運行が開始されました。まさに、赤字ローカル線問題の見本となる事例でしょう。

ただ、その後のBRTの事例は1980年代に名古屋市で開業した「新出来町線」や、1990年代の「幕張新都心線(千葉市)」のように、新たに専用レーンを建設したり既存道路に優先レーンを設けたりしたケースが大半です。大都市部では、「鉄道の建設用地を確保できない」「コストが見合わない」などの理由で、2連のバスで輸送力を高めるBRTが多く見られます。

横浜市営バスのBRT
▲横浜市営バスが運行するBRT「ベイサイドブルー」。みなとみらい地区を中心に一般道を走行する。

白棚線のように、赤字ローカル線の廃線跡を再活用した事例は、2012年の「かしてつバス」が2例目です(実証実験は2010年よりスタート)。ここは以前、鹿島鉄道が運行していましたが、利用者数が1日1,600人程度にまで減少し、2007年に廃止されました。廃止後は代替バスを運行しますが、定時性を確保できないなどの理由で利用者はさらに減少。1日800人弱にまで減ってしまいます。

そこで沿線自治体は、鹿島鉄道の線路跡を取得してバスの走行環境を整え、公有民営方式に移行。鉄道と同等の定時性と速達性を確保しつつ、バス停数を倍増したこともあって、1日900人代まで回復します。なお、2010年に開業した茨城空港へのアクセス向上も、BRTにした目的といわれます。

廃線跡を活用した3例目は、2013年に開業した「ひたちBRT」です。ここも、日立電鉄の跡地を活用したケースですが、鉄道が廃止されたのは2005年。その後、BRTの運行が始まるまでに8年もの月日を要しています。日立電鉄でも、廃止後に代替バスを運行しますが、鉄道時代の通勤定期客の多くがマイカーにシフトしたため、渋滞が慢性化。その解決法としてBRTを導入します。

以降、廃線跡を再活用した事例は、JR東日本の気仙沼線BRTと大船渡線BRT、そしてJR九州の日田彦山線BRTだけで、いずれも災害により鉄道の復旧を断念したケースです。つまり、現在営業している鉄路を剥がしてBRTにした路線は、事実上ないといえます。

自治体視点で考えるBRTのメリット

先例がないにもかかわらず、自治体はなぜBRTを赤字ローカル線問題の解決策として検討するのでしょうか。検討するのは、自治体にとって何らかのメリットがあるはずです。ここで、自治体視点でみたBRTのメリットを考えてみます。

自治体は運営しなくてもよい

BRTの運営者は、鉄道またはバス事業者です。第三セクター鉄道のように、自治体が鉄道の運営ノウハウを得る必要がなく、従来のように「事業者に丸投げできる」ことが大きなメリットとして考えられます。

赤字補てんのリスクを下げられる

BRTの運行経費は、鉄道より安くなります。また、バス停を増やしたりルートを再考したりして利便性を高めることで、利用者が増える可能性もあります。このため、赤字額を大幅に圧縮できますし、鉄道を残すための巨額の赤字補てんからも逃れられ、財政の心配をする必要がないこともBRTのメリットでしょう。かしてつバスのように、上下分離にして下を管理する場合でも、鉄道を維持するよりコストを抑えられます。

専用道路の土地を確保しやすい

BRTはバス専用の道路を確保することで、速達性や定時性を確保できることがメリットとされます。ただ、専用道路をつくるには広大な土地が必要であり、調達に苦労するのが明白です。そこで着目するのが、赤字ローカル線の線路跡。旧鉄道の駅や線路敷なら用地確保が容易ですし、多くの沿線住民が既存駅の場所を知っていることから、周知活動も最低限に抑えられます。

最小限の広告活動で集客が見込める

BRTの路線は、JR時刻表にも掲載されます。鉄道と同じくBRTも広く周知されることから、利用促進活動の手間を省けます。極論ですが、時刻表に掲載されていれば「何もしなくても人が来てくれる」と思い込んでいる自治体があるのかもしれません。ただ、鉄道でも何もしなければ人は来ません。

検討したがBRTを導入できなかった事例

こうした理由から、BRTは「地域公共交通を刷新する」というより、「財政悪化を防ぐ手段」とみる自治体が多いのではないかと考えられます。しかし、実際に検討した自治体の多くがBRTの導入を断念しており、現存する赤字ローカル線の代替手段になるとは一概にいえないようです。

では、なぜBRTを断念したのでしょうか。過去の事例をみていくと「イニシャルコストが高くなりやすいこと」を理由に挙げる自治体が多いようです。

一例として、日高本線の鵡川~様似間があります。ここも、災害によりJR北海道が鉄道の復旧を断念した線区です。なんとか復旧させようと、沿線自治体はBRTを提案。諸々の費用を調査するため、専門のコンサルタント会社に依頼します。

その結果、BRTは初期費用だけで105億7,000万円という試算結果に。日高本線の廃止区間は116kmにもおよびますから、線路の一部をバス専用道にするための工事費用だけで93億円と見積もられたのです。結局、沿線自治体はBRTを断念します。ちなみに、バス転換する場合の初期費用は、2億6,000万円でした。

項目BRT一般バス
初期費用105.7億円2.6億円
単年度収支-5.2億円-1.8億円
▲日高本線(鵡川~様似)の事業費シミュレーション。「JR日高線(鵡川~様似間)沿線地域の公共交通に関する調査・検討協議会」の資料をもとに作成。

また、現在運行しているJR路線のLRT化を検討していた城端線・氷見線でも、BRTを選択肢のひとつに挙げていました。試算結果は、BRTが約223億円、LRTだと400億円を超えます。年間の維持管理費や赤字額を比べても、鉄道のほうが少ない結果となったのです。

項目BRTLRT鉄道(新型車両)
総事業費223億円421億円131億円
内訳車両:21億円
道路整備:112億円
車両基地:29億円
…など
車両:191億円
車両基地:31億円
既存駅改良:17億円
…など
車両:131億円
▲城端線・氷川線の事業費シミュレーション。「城端線・氷見線におけるLRT(電化)以外の交通モードの検討調査業務」の資料をもとに作成。

廃線跡を活用したBRTの導入では、一般道の右折レーンを延伸したり停留所を増設したりといった道路計画も必要なため、思いのほかイニシャルコストが高くなる場合があります。BRTは、単に「廃線跡を整備すれば導入できる」わけではないのです。

また、鉄道を運営するなら鉄道法を、バスを運営するなら道路法を適用する必要がありますが、BRTだといずれも考慮しなければならず、諸々の手続きが増えることも予測されます。

BRTは災害復旧路線が妥当?

これまでの事例からBRTは、都市部においては「鉄道を敷設するほどではないがバスだと輸送力不足や定時性の確保などに課題ある」という地域に適した交通手段といえます。

一方、赤字ローカル線を廃止にして、その跡地にBRTを運行させるのに有効なケースは、「一度代行バスを走らせたものの何らかの課題が顕在化した路線」または「災害で鉄道の復旧を断念した路線」くらいです。

それ以外の路線だと、「鉄道のほうがトータルコストは安い」という机上の結論で断念する協議会がほとんどでしょう。それに、BRTに転換する工事期間中は代行バスの手配が必要です。そのバスで運行に支障がなければ「従来のバスで十分」となり、BRTを検討する意味がなくなります。

もちろん、鉄道以外の比較材料として、BRTも一応調べておくという考えの自治体が多数だと思います。ただ、BRTに過度な期待をしてもイニシャルコストが高いうえ、これで赤字ローカル線問題が解決するわけではないことは認識しておく必要があるでしょう。

国が示すメリットだけでBRTに飛びつくのではなく、自分たちの地域で公共交通を残すための方法として何が適切なのか。それをもっと深掘りして考えなければ、鉄道であれBRTであれ、既存の路線バスであっても、公共交通を維持できないのです。

※BRTを検討したJR北海道の日高本線(鵡川~様似間)と、JR西日本の城端線・氷見線の協議会の流れは、以下のページで解説します。

参考URL

道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/road/brt/index.html

鹿島鉄道跡地バス専用道化事業(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/kankou/saisei/seminar_symposium/date/25/kashitetu.pdf

城端線・氷見線におけるLRT(電化)以外の交通モードの検討調査業務(富山県)
https://www.pref.toyama.jp/documents/31811/3-2_sankou2.pdf