【現地調査】JR北上線の廃止を防ぐには?路線バスも維持困難な地域の実態

北上線の起点であるJR北上駅 コラム

東北地方を東西に横断する鉄道は、利用者の減少が著しく、廃止の危機に瀕しています。JR東日本の北上線も、そのひとつです。岩手県北上市と秋田県横手市を結ぶ、全長約60kmの北上線。とくに、ほっとゆだ~横手間の輸送密度は100人/日を割り込み危機的状況です。

また、沿線では民間バス路線の撤退が相次ぎ、岩手県西和賀町では2021年に全廃となっています。公共交通の存続が危ぶまれる北上線沿線で何が起きているのか、現地を訪ねました。

北上線の存在価値を奪った2つの要因

現地調査を始める前に、近年の北上線の歴史と利用状況について確認します。

国鉄末期の北上線は、輸送密度が4,000人/日に満たず、特定地方交通線(第3次)に指定されます。しかし、「平均乗車キロが30kmを超え、輸送密度が1,000人/日以上」という除外規定に該当したため廃止を免れ、1987年にJR東日本へ継承されました。

JRに移管後、北上線の利用者数は微増します。しかし、少子化や過疎化などの理由で1990年代後半から再び減少へ。とりわけ1997年以降は大きく減っています。

■北上線の輸送密度の推移(1987~2022年度)

19871992199720022007201220172022
北上~ほっとゆだ1,4131,4211,087656640578424368
ほっとゆだ~横手81379758428720515212690
▲北上線の線区別輸送密度。1997年から2002年にかけて、いずれの線区も急減している。
出典:JR東日本「路線別ご利用状況(1987~2022年度(5年毎))」

1997年といえば、3月に秋田新幹線が開業。岩手県と秋田県をつなぐメインルートは、田沢湖線(盛岡~大曲)を改良した新幹線が担うことなります。さらに11月には、秋田自動車道が開通。北上線と並走する高速道路が、沿線地域のモータリゼーションの進展に拍車をかけたのです。

新幹線と高速道路のダブルパンチを食らった北上線は、1997年以降、利用者の減少に歯止めがかからなくなります。

北上線のほっとゆだ駅からの風景
▲ほっとゆだ駅の駅前通りから見た風景。右奥の橋は、秋田自動車道の鬼ヶ瀬川橋。

【乗車レポート】北上線(北上→ほっとゆだ)の利用実態

今回の現地調査は、青春18きっぷやJR東日本の期間限定フリーきっぷ「キュンパス」の利用期間中に実施しました。キュンパスとは、平日限定でJR東日本の全線(新幹線やBRTも含む)が1日1万円で乗り降り自由というお得なきっぷです。JR東日本管内の第三セクター鉄道も、利用できます(現在は販売していません)。

北上線でも、キュンパスを利用して訪れた観光客の姿がみられました。このため、以下の乗降客数は普段より多いかもしれません。あらかじめご了承ください。

■調査概要
・調査日:2024年3月の平日
・調査区間:北上~横手(一部の駅で下車)
・天候:雪

北上駅 9:55発(731D)

北上線の列車

北上駅から乗った列車は、2両ワンマンの快速です。まずは、ほっとゆだ駅をめざします。

北上駅で乗車したのは44人。座席はほぼ埋まっています。中高年の男性が多く、大きな荷物を持った観光客の姿も見かけます。なかには、PCで仕事をしているビジネス客もいました。

列車は9:55に出発し、ほっとゆだ駅には10:39に到着します。この間の乗降客数は、以下の通りです。

■乗降客調査(北上9:55→ほっとゆだ10:39)

乗車数降車数備考
北上44
柳原10男子学生
江釣子01柳原から乗った学生が降車
藤根02男女1名ずつ降車
立川目00
横川目00
岩沢駅00
和賀仙人20高齢の夫婦が乗車
ゆだ錦秋湖00
ほっとゆだ010観光客などが下車

横川目駅までは周辺に住宅街もみられますが、乗降のない駅も多くありました。横川目駅を過ぎると、山間の地域へ。吹雪の奥羽山脈を、列車は駆け抜けます。

民間の路線バスが消滅した西和賀町

ほっとゆだ駅

ほっとゆだ駅では、10人が下車。その多くが、大きな荷物を持った観光客です。この駅舎には入浴施設が併設されており、観光客だけでなく地元客も利用しているようです。

雪が降りしきるなか、上り列車(北上行き)が来るのを待っていると、駅前ロータリーに大型バスとマイクロバスが1台ずつ、続けて入ってきました。大型バスからは1人の乗客が降り、駅に向かいます。

西和賀町が運営する路線バス

大型バスから降りてきた運転手に話を聞くと、2台のバスは西和賀町が有償運送しているバス(デマンド交通)だそうです。大型バスは、貸切バスなどを運行する東日本交通に、西和賀町が委託して走らせています。

実は、西和賀町には民間バス会社の運行する路線バスがありません。西和賀町地域公共交通計画によると、2021年3月末に岩手県交通の路線バスが全廃となり、それ以降は町が主体で路線バスを維持しているそうです。

大型バスが走っているのは、ほっとゆだ駅から約5km離れた西和賀高校の学生を運んでいるからでしょう。西和賀高校は全校生徒が約100人。このうち数十人が、北上方面からほっとゆだ駅までJRを使い、このバスに乗り換えているようです。

ちなみに、筆者が遭遇した大型バスは高校生などを送り届けた帰りの便で、この後は回送になるようです。その代わりに、後から回送で走ってきたマイクロバスの「町民バス(貝沢線など)」が、地域の足を担います。

町民バスの時刻表
▲西和賀町のデマンド交通(町民バス)の時刻表。運賃は町内なら100円だが、高校生以下と75歳以上は無料。

なお、西和賀町の「町民バス」には、盛岡行きの便(山伏線)もあります。週4日の運行で1日1往復だけですが、西和賀町の市街地から約2時間、片道1,000円で盛岡バスセンターまで運行しています。ほっとゆだ駅までバスで行き、そこから鉄道を乗り継ぐより、町民バスのほうが早く安く到着するため、北上線を利用する人は少ないのです。

ほっとゆだ駅まで送迎で来る人たち
▲ほっとゆだ駅の1日の乗降客数は240人(2019年)。その多くが、デマンドバスを使わず家族の送迎のようだ。

西和賀町のように民間バス事業者が撤退した地域では、仮に鉄道が廃止になっても「鉄道廃止→バス転換」という公式が成り立ちません。

北上線の廃止に危機意識を高める西和賀町では、町民バスだけでなく、小中学校の通学に使われるスクールバスやNPO法人が運営するボランティア型デマンド交通などの活用も検討しており、公共交通全体の利用促進を図る方針です。町の財政も厳しいなか、持続可能な公共交通網をどのように維持していくかが課題となっています。

【乗車レポート】北上線(ほっとゆだ→横川目)の利用実態

今度は北上方面の列車に乗り、横川目駅まで戻ります。

ほっとゆだ駅 11:22発(730D)

ほっとゆだ駅からは、10人が乗車。内訳は男性が6人、女性が4人です。横手方面からは9人が乗車していたので、19人を乗せて北上方面へと向かいます。2両編成ですから、空席も目立ちます。横川目駅までの乗降客数は、以下の通りです。

■乗降客調査(ほっとゆだ11:22→横川目11:47)

乗車数降車数備考
ほっとゆだ10
ゆだ錦秋湖10女性1人乗車
和賀仙人20高齢男性2人乗車
岩沢10高齢男性1人乗車
横川目12女性1人乗車/高齢男性+筆者の2人降車

横川目駅前 11:51発(岩手県交通)

横井目駅
▲この建物は横川目駅の駅舎ではなく、北上市の「地域ふれあいセンター」。この右奥に、横川目駅のホームに入る道がある。

横川目駅から北上駅までは、岩手県交通の路線バス(横川目線)が並走しています。このバスに乗って、北上駅までのバスの利用実態も調査してみます。ちなみに、北上線ではSuicaが使えませんが、岩手県交通のバスでは利用可能です。

横川目線のバスは、平日は毎時1本の頻度で1日17往復運行しており、北上線より多いです。ただし、休日は2時間に1本で1日6往復しかありません。沿線には、大型ショッピングセンターや専修大学北上高校などもあり、利用者は比較的に多く感じます。横川目線の輸送人員は1日430人(2021年)。筆者が乗った便では、北上駅までに11人が乗車しました。

横川目線は、北上市で運行する路線バスでは利用者数が多いほうです。しかし、収支率は44%で赤字。単独で黒字にするには、1日1,000人以上、1便あたり平均30人以上の乗車が必要という計算になります。なお、横川目線を含め赤字の路線バスには北上市から補助金が出ています。ただ、それだけでは足りず、岩手県交通も負担(内部補助)しているようです。

■岩手県交通の路線バスの費用と収支率(北上市のみ)

▲収支率をみると、いずれの路線も100%に満たず赤字。赤字は北上市と事業者(岩手県交通)が負担している。
出典:北上市「北上市地域公共交通計画」

北上線に限らず、鉄道もバスも存続が危機的状況にある地域は、日本全国にあります。昨今、路線バスを中心に「運転手不足」を理由に減便や廃止が相次いでいますが、もとはといえば「公共交通を使う人が減っている」ことが運転手不足問題の根幹です。利用者が減り、運賃収入も減ったことで事業者の経営が悪化し、運転手の待遇改善や新規雇用に手が回らず、その結果、運転手不足につながっています。

自治体が補助金を増やすにも、過疎化や高齢化などで税収が減っている現状、すでに限界が近づいています。それでも必要な公共交通を維持するには、スクールバスなど自治体が所有する交通資産を活かしたりライドシェアを導入したりと、既成概念にとらわれないアイデアが求められるでしょう。事実、北上線の沿線自治体も、これらの検討を進めています。

鉄道もバスも、補助金だけではどうにもならない実態をみんなで共有し、持続可能な公共交通網を地域全体で考えることが、人口減少時代に必要なことではないでしょうか。

さて、バスは北上駅に到着します。ここで降車したのは筆者のみでした。ここから再び北上線に乗り、横手まで移動します。

※北上から横手までの利用実態については、以下の記事で紹介します。

※北上線の沿線自治体が組織する協議会の取り組みは、以下のページで解説しています。

参考URL

西和賀町地域公共交通計画
https://www.town.nishiwaga.lg.jp/material/files/group/1/2306nishiwagakotsukeikaku2406kaisei.pdf

町民バスの運行について(西和賀町)
https://www.town.nishiwaga.lg.jp/benrinaservice/bus_jrjikokuhyo/3382.html

北上市地域公共交通計画
https://www.city.kitakami.iwate.jp/material/files/group/56/2403kaitei.pdf

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