【現地調査】北上線無料実験のその後…利用者は増えたのか?

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北上線の列車 コラム
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2023年11月、JR東日本の路線では初めての社会実験がおこなわれました。「北上線100周年目前!無料で乗ろう!キャンペーン」です。同年11月9日から12日までの4日間、北上線内ならどこまで乗っても、何度乗っても「無料」という実験です。

この実験で無料乗車した人数は、3,418人。定期利用客も含めると、4日間で5,295人が北上線を利用しました。あれから5カ月。北上線の利用者数は、増えたのでしょうか。実際に乗車して乗降客数を調査しました。

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北上駅東口に誕生した「さくらPORT・TOWN」

今回調査した日は、2024年3月の平日。春休みに入った学生もいるでしょうし、JR東日本の期間限定フリーきっぷ「キュンパス」の利用期間中でもあったため、観光客も多いと思われます。このため、記事内の乗降客数は普段とは異なるかもしれません。あらかじめご了承ください。

さて、無料キャンペーンがおこなわれた時期には、北上駅東口の再開発事業が完了。ホテルやオフィス、マンション、立体駐車場などで構成される「さくらPORT・TOWN」という新しい施設が誕生しました。駅前に賑わいを取り戻す再開発でしたが、筆者が訪れた日は人影がまばら。商業施設がないため、集客力が低いのかもしれません。

オフィスやマンションもありますが、どちらかといえば、新幹線などで訪れる観光客向けの施設が多いようです。

北上駅東口の「さくらPORT・TOWNホテル」
▲北上駅東口で2023年に誕生した「さくらPORT・ホテル」。右奥に北上駅があり、便利な立地だ。

【乗車レポート】北上線の利用実態

では、北上線に乗って横手をめざしましょう。乗車したのは北上駅13:42発の便です。

北上駅 13:42発(733D)

北上駅改札口

列車は2両編成のワンマン快速。立っている乗客もみられますが、クロスシートには1~2人ずつ座っている感じです。

ローカル線あるあるですが、クロスシートの車両で立ち客がいると混んでいるイメージがあります。ただ実際には、1両でも全員着席できる人数しか利用していないこともあるのです。現に、筆者が乗った列車の乗客は最大で30人ほど。席数は1両あたり約50席ですから、1両で十分に足りる人数です。

とはいえ、旅情を楽しみたい人にはクロスシートが適しているでしょう。この列車にも、大きな荷物を持った観光客もみられました。また、地元客と思われる人もそこそこ乗っています。多くは年配の男性でしたが、学生の姿もありました。ちなみに、北上市内の駅では朝夕の利用が多く、全体の71%が高校生の通学客だそうです(2021年北上市調べ)。

柳原駅 13:45着

北上駅を出発した列車は住宅街を駆け抜け、柳原駅に到着します。ここで、1人の高齢男性が降車します。乗車はありません。

柳原駅では社会人の利用も多いそうですが、駅の近くには専修大学北上高校があり、学生の利用がほとんどです。北上市地域公共交通計画によると、柳原駅の乗降客数は1日102人(2021年北上市調べ)。その多くが、高校生のようです。なお、筆者は午前中の便も乗りましたが、柳原駅で1人の男子学生が乗車し、次の江釣子駅で降車しました。

江釣子駅 13:49着

北上線の江釣子駅付近の風景

柳原駅を出ると、周囲には田畑が広がってきます。続く江釣子駅では、若い女性と高齢の男性が乗車。1人の男子学生が降車します。ここから、雪が強く降り出してきました。

藤根駅 13:53着

藤根駅の乗降客数は、1日110人(2021年北上市調べ。JR東日本の2018年調べでは298人)。このうち80%が、高校生です。ただ、午後の利用者数は少なく、夕方以降の上り列車(北上方面)には乗降がないようです。

この便に限ると、女性1人が乗車し、高齢男性と男子学生が降車しました。

立川目駅 13:57着

立川目駅では、高齢の夫婦と若い女性2人の計4人が降車します。

横川目駅 14:01着

横川目駅では、高齢の男性2人と若い女性1人の計3人が降車します。横川目駅の1日の利用者数は、39人です(2021年北上市調べ)。

ここから先は山間の区間に入り、住宅街が少なくなってきます。小中学校も、駅の近くにありません。そのため、次の和賀仙人駅や岩沢駅から横川目駅まで通学する小中学生もいるようです。ただ、通学定期客は2人だけ。しかも、上り便(登校)のみの利用で、下り(下校)は利用していないようです。路線バスもありませんから、下校は親が送迎しているのでしょう。

岩沢駅~和賀仙人駅

岩沢駅では、高齢男性と女性が降車。和賀仙人駅では、高齢男性2人が降車します。

この日に限られるかもしれませんが、日中の北上線は高齢の男性が多いことに気づきます。車内で会話している人のなかには「今日は吹雪いているから車の運転が不安」といった声も聞かれ、雪の日は北上線が地域の足になるのでしょう。

ゆだ錦秋湖駅 14:19着

北上線のゆだ錦秋湖駅付近の風景

列車は北上市を離れ、西和賀町に入ります。雪も強くなってきました。

ゆだ錦秋湖駅では、高齢の夫婦と大学生風の男女4人の計6人が乗車します。大学生風の4人は大きなスーツケースを持っており、旅行中のようです。この駅の近くには錦秋湖という観光スポットがあり、秋の紅葉シーズンには多くの人で賑わいます。ただ、3月の猛吹雪の日に、ここで乗車した学生はどこから来たのか…気になります。

ほっとゆだ駅 14:26着

ほっとゆだ駅では、5人が降車して6人が乗車してきました。

ほっとゆだ駅は、西和賀町の玄関ともいえる駅です。ここからバスに乗り換えて、地元の高校まで通学する学生もいます。ただ、西和賀町では2021年に、民間バス事業者が撤退。公共交通の存続危機に瀕しています。詳しくは、以下の記事で紹介します。

北上線の”広告戦略”は…出稿者がいなかった?

さて、沿線自治体が組織するJR北上線利用促進協議会では、鉄道の利用促進をめざして「北上線通勤定期券購入促進事業」という事業を展開していました。この事業は、北上線の通勤定期客がいる企業は、列車内に広告を1カ月掲載できるというものです。広告出稿費は、沿線自治体が負担します。

当サイトの「北上線の”広告戦略”は効果が期待できない」の記事でも詳しく伝えていますが、果たしてどれくらいの企業が出稿しているのでしょうか。天井を見上げると…。

北上線車内の広告

そもそも広告が少ない…。

出稿しているのは、JR東日本のグループ会社と岩手県の福祉関連の広告くらいで、協議会が支援する沿線企業の広告は見当たりません。それだけ、北上線で通勤する人がいないのか、それとも利用者が少なく広告を出す意味がないと判断したのか。やはり、期待できなかった事業のようです。

なお、西和賀町のウェブサイトに掲載されていた「北上線通勤定期券購入促進事業」のページは、現在削除されています。

※北上線の沿線自治体が組織する協議会の取り組みは、以下のページで解説しています。

【乗車レポート】北上線の利用実態(輸送密度90人/日区間)

ほっとゆだ駅から先は、輸送密度90人/日(2022年度)という閑散区間です。ただ、この日は観光客が多く、ほっとゆだ駅を過ぎた段階で27人も乗っています。18きっぷシーズンとまではいかないまでも、普段とは異なる様相でしょう。

ゆだ高原駅 14:31着

乗降客はいませんでした。

黒沢駅 14:37着

黒沢駅からは、秋田県横手市です。この駅では、男性1人が乗車しました。

なお、乗車した列車は快速のため、次の小松川駅は通過です。横手市内の区間は利用者が非常に少なく、2022年には平石駅と矢美津駅の2駅が廃止になっています。小松川駅も、廃止になる日が近いかもしれません。

相野々駅 14:47着

相野々駅では、高齢の男性が乗車します。相野々駅の乗降客数は、1日20人です(2019年JR東日本調べ)。

次は終点の横手ですが、その手前2kmのところに横手清陵学院があります。北上線の車窓からも、校舎が確認できました。

北上線の車窓から見た横手清陵学院

横手清陵学院の生徒数は、中学生が95人、高校生が358人(2023年度)。このうちJRを使って通学する生徒がどれくらいいるのかわかりませんが、近くに駅をつくれば北上線の利用者が増えるかもしれません。

ちなみに、横手清陵学院は横手駅から徒歩30分、または最寄りのバス停から徒歩10分です。北上線に新駅をつくれば、徒歩5分以内で通えるでしょう。

横手駅 14:55着

北上線の横手駅

列車は終点・横手駅に到着します。改めて、北上線の乗降客数を整理します。

■乗降客調査(北上13:42→横手14:55)

乗車数降車数備考
北上28
柳原01高齢男性が降車
江釣子21若い女性と高齢男性が乗車/男子学生が降車
藤根12女性1人が乗車/高齢男性と男子学生が降車
立川目04高齢の夫婦と若い女性2人が降車
横川目21高齢男性2人が乗車/若い女性が降車
岩沢駅02高齢男性と女性が降車
和賀仙人02高齢男性2人が降車
ゆだ錦秋湖60高齢夫婦と学生4人が乗車
ほっとゆだ65観光客などが乗降
ゆだ高原00
黒沢10男性1人が乗車
小松川快速列車は通過
相野々10高齢男性が乗車
横手29

平日の日中とはいえ、最大で30人にも満たない利用状況の北上線。2023年の無料実験では、1便あたり200人を超える利用がありましたが、普段の状況をみると存続の厳しさがうかがえます。

路線バスと共存できない横手駅

横手駅前には広い駐車場があり、バス乗り場も併設されています。ただ、駅で発着するバスの本数は少ないようです。というのも、東口から150mほど離れたところに、羽後交通のバスターミナルがあります。バスを利用する人の多くが、このターミナルで乗降するため、横手駅に乗り入れるバスの本数が少ないのです。

羽後交通バスターミナル

横手市も、バス事業者の経営は苦しい状況です。羽後交通は2007年に、複数の路線バスを廃止にしました。これを契機に横手市では、協議会を設置。2011年には地域公共交通総合連携計画を策定し、路線バスの維持に努めてきました。ただ、市内に526もある停留所のうち、7割を超える385停留所で利用者数が0人。路線別収支は、15路線中13路線が赤字です(2022年)。

一方で、タクシー会社などによる予約制デマンド交通は充実しており、市内であればどこでも行けます。料金は、通常のタクシー料金の半額くらいです。見方によっては、デマンド交通(タクシー)が鉄道とバスのライバルとなっており、それぞれが独立して共存できていないように感じます。もっとも、ほとんどの市民がマイカーで移動するため、デマンド交通も厳しい状況です。

公共交通の利用者を増やすには、いかに利便性を高めるかがポイントになります。そのためには、鉄道・バス・タクシーなどの交通モードが結節点でシームレスにつながり、乗り換えが便利な街づくりをすることも求められます。とくに鉄道は大量輸送を得意とする交通モードですから、一定の利用者数を確保しやすい路線バスとの接続が重要ではないでしょうか。

横手駅東口の光景
▲横手駅東口から見た風景。東口近くにはタクシー乗り場や自家用車の乗降場があり、バス乗り場は離れた場所にある。

※北上線沿線の路線バスの実情を解説した記事は、以下のページで紹介します。

※北上線の沿線自治体が組織する協議会の取り組みは、以下のページで解説しています。

参考URL

「沿線3市町の皆さまに感謝!北上線100周年目前!無料で乗ろう!キャンペーン」を実施します!(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2023/akita/20231012_a01.pdf

赤字のJR北上線無料キャンペーン 3倍近い約5300人乗車(NHK秋田)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/akita/20240117/6010020113.html

広報きたかみ(2024年1月)
https://www.city.kitakami.iwate.jp/material/files/group/4/20240119.pdf

北上市地域公共交通計画
https://www.city.kitakami.iwate.jp/material/files/group/56/2403kaitei.pdf

横手市地域公共交通計画
https://www.city.yokote.lg.jp/res/projects/default_project/_page/001/003/840/000134953.pdf

横手デマンド交通
https://www.city.yokote.lg.jp/res/projects/default_project/_page/001/003/724/dema01.pdf