鉄道の「再構築協議会」とは?本当に危ない対象線区を予想

再構築協議会の対象路線 コラム

2023年10月、改正地域公共交通活性化再生法の施行にともない、利用者の少ない赤字ローカル線を対象とした「再構築協議会」の設置が認められるようになりました。これに先立ち同年8月、国土交通省は再構築協議会に関する基本方針を公表。対象線区の定義や協議会の進め方などを明文化しています。

ここでは基本方針で示された定義をもとに、対象になり得る線区を予想。また、鉄道の廃止を避けるために沿線自治体にできる対策のポイントもお伝えします。

再構築協議会とは

鉄道の再構築協議会とは、利用者の減少により鉄道の運営が難しくなった線区を対象に、事業者と沿線自治体、そして国が「持続可能な地域公共交通を再構築する」ために話し合う場のことです。協議会は、鉄道事業者または自治体が国に申し入れることで設置されます。

再構築協議会の構成メンバーは、鉄道事業者と自治体(都道府県を含む)、国土交通省のほか、バスやタクシーなどの公共交通事業者、道路管理者など、協議を進めるうえで必要な人が招集されます。

再構築協議会が必要になった理由

赤字ローカル線をめぐる協議会は、従来から全国各地にありました。しかし、議論が紛糾して物別れとなり、最終的に鉄道の廃止を受け入れざるを得なくなった協議会も少なくありません。

もちろん、順調に話し合いを進めている協議会が大半ですが、こうした負の事例が「協議のテーブルに付くと鉄道を廃止される」という悪いイメージを自治体に植え付け、鉄道事業者が申し入れても協議会の設置を断ったり、「利用促進の話しかしない」と自治体が一方的に議題を決めたりと、話し合いがうまくいかない協議会も増えていました。

協議が滞っているあいだも、ローカル線の利用者は少子化・過疎化・モータリゼーションの進展などの影響で減り続けています。そこで、国が客観的な立場で仲介役となり議論を円滑に進めることで、地域公共交通の課題を解決することが、再構築協議会の目的のひとつとされます。

なお、話し合いの結果「鉄道が必要」と判断され、持続可能な方法が示された場合は、鉄道は存続できます。必ずしも「廃止が前提の協議会ではない」ことに、留意する必要があるでしょう。

再構築協議会の設置基準

再構築協議会の対象線区について、国土交通省が公表した「地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針」では、以下のすべての条件を満たす必要があるとしています。

  1. 都道府県をまたぐ線区(一部例外あり)
  2. 輸送密度が4,000人/日未満(1,000人/日未満を優先)
  3. JRは特急列車や貨物列車が走行していない線区

それぞれの項目を詳しくみていきましょう。

都道府県をまたぐ線区(一部例外あり)

複数の県をまたぐ線区では関係者も多くなることから、国が調整役を担うとしています。北海道は特例として、振興局(支庁)をまたぐ線区も再構築協議会の対象です。

なお、県をまたがない線区でも、他県とつながる路線に列車が乗り入れるなど広域ネットワークの一部をなす場合は、国土交通省が認めれば対象になります。

輸送密度4,000人/日未満(1,000人/日未満を優先)

利用者数による定義は、輸送密度4,000人/日未満が「目安」です。これは、国鉄再建特措法のバス転換の基準を、そのまま適用しています。

ただ、輸送密度4,000人/日未満の線区は全国に無数にあります。国鉄時代には、輸送密度に応じて第一次から第三次までランク分けして協議を進めました。これと同じく再構築協議会も、利用者の少ない「輸送密度1,000人/日未満の線区を優先する」としています。

JRは特急列車や貨物列車が走行していない線区

JRに限定した条件ですが、定期特急列車や貨物列車の走行区間は、基幹的ネットワークを形成する重要な路線として、再構築協議会からは除外されます。

また、貨物列車においては災害時に代行路線として活用される可能性が高い線区も、協議対象外です。ただし、対象外の線区は国とJR各社が確認したうえで決めるとしています。

▲貨物列車の代行路線は、国とJR各社が決める。そのうえで協議会の設置が決まるため、「貨物の代行路線として活用できる」という自治体の主張は、廃止を防ぐ理由にならない。

再構築協議会は「赤字」だけでは設置されない

再構築協議会は「利用者が激減して鉄道としてのメリットを発揮できないローカル線」が、対象になります。「赤字額」「営業係数」といった、鉄道事業者の収支や採算性のみでは設置されません。

路線を廃止しようとするときには、地方公共団体等に対して事情の変化を十分に説明することとされていることに留意する必要があり、単に路線の収支が赤字であるということのみでは、再構築協議会を組織する理由とならない。ただし、人口減少や少子化、自家用自動車の普及やライフスタイルの変化等の外的要因により、大幅に輸送需要が減少している場合には、輸送需要に見合った、より利便性と持続可能性の高い地域旅客運送サービスの実現を図るために、交通モードの最適化に向けた協議を行うことは否定されず、再構築協議会における協議の対象となり得る。

出典:国土交通省「地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針」

すでに協議の場を設けていることも条件か?

本来、公共交通に関する協議は、自治体が主宰する任意協議会や地域公共交通活性化再生法にもとづく法定協議会で、鉄道事業者と沿線自治体が話し合うのが原則です。このため再構築協議会は、両者が話し合ったものの何らかの理由で行き詰まった場合に設置するという流れになることが想定されます。

再構築協議会の組織の要請に至る前に、まずは、地方公共団体と鉄道事業者との間で協議を行うことが望ましい。

出典:国土交通省「地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針」

なお、必ずしも任意協議会または法定協議会が設置されていることが、再構築協議会の条件ではありません。たとえば、鉄道事業者の申し入れを自治体が拒み続けた場合、いきなり再構築協議会に入ることも可能でしょう。

また、再構築協議会の参加を拒否する自治体には、「国が理由を聴取しつつ、都道府県とも連携して理解を求める」としており、よほど特別な事情がない限り参加を断れないと考えられます。

【独自予想】再構築協議会の対象線区は?

上記の条件をもとに、再構築協議会がどの線区で適用されるのかを独自予想してみます。あくまでも予想ですから、下記に示した線区以外で協議会が設置される場合もありますので、ご了承ください。

JR北海道の対象線区予想

JR北海道では、沿線自治体と協働した経営改善計画「アクションプラン」を進めています。計画期間は、2019~2023年度までの5年間。2024年度以降も継続されるでしょうから、2023年度中には新計画を立てる必要があります。

その際に、再構築協議会の話も出てくるでしょう。これまでのアクションプランは、住民アンケートやクロスセクター効果などの分析はしておらず、「ファクトとデータ」にもとづいた施策がなされていませんでした。より効果的な施策を実行するうえで、再構築協議会への移行が適切だと思われます。

対象線区は、国土交通省の基本方針で示された条件から、以下になると推測されます。

線区輸送密度減少率特急・貨物協議会
根室本線(釧路~根室)238-76%×根室本線花咲線対策沿線地域連絡協議会
釧網本線372-56%×JR釧網本線維持活性化沿線協議会
※輸送密度は2019年度のデータを使用。減少率は1987年と2019年を比較。

もちろん、これまでの任意協議会を続けるのも一手です。ただ、再構築協議会に移行すれば利用促進策などの実証事業に国の補助金を使えるといったメリットがあるため、自治体の負担を軽減できるかもしれません。場合によっては、宗谷本線や石北本線なども含め黄線区(輸送密度2,000人/日未満の線区)すべてが再構築協議会に移行できるよう、国と相談してもよいのではないでしょうか。

JR東日本の対象線区予想

ローカル線のあり方について、以前より国の関与を求めてきたJR東日本。ただ、対象線区があまりにも多く、経営的・マンパワー的にも一斉に協議を始めるのは難しいでしょう。そこで、「輸送密度が極めて低い線区」から優先して協議を申し入れるのではないかと推測されます。

ひとつの目安として、JR北海道が鉄道の廃止基準とした「輸送密度200人/日未満」の線区が、第一フェーズの候補になるかもしれません。具体的には、以下の線区です。

線区輸送密度減少率特急・貨物協議会
花輪線(荒屋新町~鹿角花輪)78-91%×花輪線利用促進協議会
北上線(ほっとゆだ~横手)132-69%×JR北上線利用促進協議会
陸羽東線(鳴子温泉~最上)79-83%×陸羽東線利活用促進検討会議
磐越西線(野沢~津川)124-89%×なし
水郡線(磐城塙~常陸大子)152-81%×水郡線利用促進会議
飯山線(津南~戸狩野沢温泉)106-91%×飯山線沿線地域活性協議会
※輸送密度は2019年度のデータを使用。減少率は1987年と2019年を比較。

このうち、磐越西線(野沢~津川)の沿線自治体は、JR東日本と利用促進などを目的とした話し合いの場を設置していません。このため、再構築協議会の前に任意協議会などの申し入れをするのではないかと思われます。もっとも、その他の線区も再構築協議会に移行せずに、既存の協議会で決着させるのが理想です。

なお、米坂線は災害復旧協議への影響もあることから、現段階(2023年9月)では対象線区から除外しました。ただ、米坂線も再構築協議会に移行する可能性はあるでしょう。また、只見線は上下分離により「再構築された」路線ですので、除外しています。

JR東海の対象線区予想

JR東海は、過去の社長記者会見などで「再構築協議会の設置を検討していない」と表明しています。今後、設置される可能性はありますが、現段階(2023年9月現在)で予定はありません。

JR西日本の対象線区予想

JR西日本では、すでに芸備線の備後庄原~備中神代で、再構築協議会を申し入れています。この区間の輸送密度は100人/日未満と利用者が極めて少なく、JRが発足した1987年と比べた減少率は、備後庄原~備後落合が-91%、備後落合~東城が-98%、東城~備中神代が-84%と激減しています(1987年と2019年を比較)。

芸備線以外の線区については、「輸送密度が極めて低い線区から優先して始める」と推測。こちらも200人/日未満が目安になると思われます。

線区輸送密度減少率特急・貨物協議会
大糸線(糸魚川~南小谷)102-90%×大糸線活性化協議会
因美線(東津山~智頭)179-88%×岡山県JR在来線利用促進検討協議会
木次線(出雲横田~備後落合)37-87%×木次線利活用推進協議会
※輸送密度は2019年度のデータを使用。減少率は1987年と2019年を比較。

因美線は、岡山県側でJR西日本との話し合いの場(岡山県JR在来線利用促進検討協議会)を設けていますが、鳥取県側にはありません。このため、鳥取県側も含めた再構築協議会の設置を前提とする協議の申し入れをするのではないかと予測されます。

※芸備線で始まった再構築協議会の進捗状況は、以下のページで解説します。

JR四国の対象線区予想

JR四国では、予土線、牟岐線と予讃線の一部区間について、沿線自治体との協議の場を求めています。このうち、予土線にはすでに任意の協議会が設置されていますが、牟岐線と予讃線にはありません。このためJR四国は、いずれの線区も任意の話し合いから始めたいと各県に申し入れており、「いきなり再構築協議会を要請するつもりはない」としています。

ちなみに、JR四国で再構築協議会の条件を満たすのは「予土線」のみです。ただ、牟岐線は一部列車が高徳線に乗り入れ県をまたいで運行しているため、再構築協議会の対象になるかもしれません。予讃線の海回り区間も、設置の可能性はあるでしょう。

線区輸送密度減少率特急・貨物協議会
予土線301-48%×予土線利用促進対策協議会
牟岐線(牟岐~阿波海南)186-60%×なし
予讃線(向井原~伊予大洲)364-66%×なし
※輸送密度は2019年度のデータを使用。減少率は1989年と2019年を比較。

JR九州の対象線区予想

JR九州では、利用者が大きく減少した線区の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を進めています。対象区間は5線区で、このうち以下3線区は再構築協議会の対象になりそうです。

線区輸送密度減少率特急・貨物協議会
筑肥線(伊万里~唐津)214-71%×筑肥線活用に関する検討会
吉都線451-70%×吉都線活用に関する検討会
日南線(油津~志布志)199-70%×日南線活用に関する検討会
※輸送密度は2019年度のデータを使用。減少率は1987年と2019年を比較。

ちなみに「線区活用に関する検討会」は、指宿枕崎線(指宿~枕崎)でも実施しています。このほか肥薩線でも実施されましたが、2020年7月の豪雨災害で不通となり、現在は災害復旧協議を進めています。

第三セクター・私鉄の対象線区予想

第三セクターの鉄道事業者は、基本的に自治体が運営に関わり、かつ単一県内に収まる路線がほとんどですから、再構築協議会を設置する線区は少ないと思われます。

ただし、県をまたぐ事業者もありますし、両県に鉄道に対する温度差があるなど話し合いがうまく進んでいないケースだと、再構築協議会が設置されるかもしれません。あるいは、公共交通の再構築が急務と考えている沿線自治体が、協議を申し入れるケースもあるでしょう。

また私鉄は、複数の県に路線を展開する大手に限られます。そもそも、輸送密度1,000人/日未満の線区を有す私鉄は少ないですし、そのうえ県をまたぐ路線になると皆無に等しいため、2023年9月現在で再構築協議会の要請を検討しているところはないと推測されます。

なお、第三セクターも私鉄も「輸送密度1,000人/日以上の線区」で、再構築協議会の必要性が感じられる路線が複数みられます。輸送密度はあくまでも「目安」ですから、もしかすると1,000人/日以上の線区で、2023年度中に協議を申し入れる事業者や自治体があるかもしれません。

存続させるには「鉄道の価値を明確に示すこと」がポイント

再構築協議会の基本方針では、JR西日本などがよく口にする「ファクトとデータ」にもとづいて、客観的かつ総合的に判断することが大切だと指摘しています。

廃止ありき、存続ありきという前提を置かず、具体的なファクトとデータに基づき、透明性を確保して議論していくことが重要であり、国はあくまで中立的な立場からそうした議論を促していく。また、区間のあり方についての議論に当たっては、旅客数や収支だけで判断するのではなく、地域公共交通の利用者や地域に与える影響等を十分に考慮して、地域公共交通がもたらすクロスセクター効果も踏まえながら総合的に判断すべきである。

出典:国土交通省「地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針」

上記の「クロスセクター効果」とは、公共交通を廃止にしたときの自治体の負担額をシミュレーションし、交通事業者への支援額と比較する分析法のことです。

鉄道が廃止になると、自治体には代替交通手段を確保するための費用や、沿線道路の渋滞緩和に必要な道路整備費などの負担が想定されます。これらの負担額が、鉄道事業者への支援額(赤字額)よりも高ければ鉄道を残したほうが合理的ですし、逆に安ければ他の交通モードにシフトしたほうが持続可能な交通網を構築しやすいといえます。

クロスセクター効果のほかにも、鉄道を廃止にしたときの経済的損失をシミュレーションする「費用対便益」や、住民アンケートにもとづく「潜在ニーズの調査」などのデータも、ローカル線の価値を客観的に示す指標としてリサーチする協議会が増えているようです。

こうしたデータをまとめるには、公共交通に詳しい大学教授など第三者の専門家と進めるのが理想です。たとえば、協議会の下に検討会やワーキングチームを設け、専門家とリサーチしてレポートをまとめ、それをもとに協議会で話し合うのが効率的な進め方でしょう。

鉄道の廃止を防ぐには、これらのファクトやデータを沿線自治体が示し、その地域における鉄道の価値や重要性を「みんながわかるように示すこと」が、重要なポイントになってきます。自分たちだけにしか理解できない価値や重要性しか示せない場合は、「じゃあ、自分たちで三セクでも立ち上げて運営してください」と言われるのがオチです。

「ローカル線の真の価値を、みんなで探ること」。それも、再構築協議会に課せられた使命であると願い、鉄道事業者・沿線自治体・国がひざを突き合わせ、適切な判断をしてほしいと思います。

※芸備線で始まった再構築協議会の進捗状況は、以下のページで解説します。

※クロスセクター効果や費用対便益の実施例として、「近江鉄道」「北陸鉄道」「岳南電車」などの協議会が参考になります。

参考URL

地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001626587.pdf

地域公共交通の活性化及び再生に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000059_20231001_505AC0000000018

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