輸送密度とは?赤字額より重要な理由と鉄道各社の廃止基準

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輸送密度の推移 コラム
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鉄道事業者は、輸送密度や乗車人員、営業係数、収支などさまざまなデータをもとに、各路線を評価しています。なかでも、存続・廃止の判断で重視される指標が「輸送密度(平均通過人員)」です。鉄道は公共性の高い事業ですから、民間企業が運営する場合でも、赤字額より輸送密度のほうを重視する傾向があります。

そんな輸送密度とは、どのような指標なのでしょうか。乗車人員との違いや廃止対象となる基準も含めて解説します。

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輸送密度とは

輸送密度とは、特定の路線や線区における「1kmあたりの利用状況」を示す指標です。計算方法は、「年間輸送人キロ」を「営業キロ」と「年間の営業日数」で割って求めます。公式にすると、次の通りです。

【輸送密度】=年間輸送人キロ÷営業キロ÷365日(閏年は366日)
※災害などで長期不通になった場合は、実際に営業した日数で除する。

ここで耳馴染みのないキーワードとして「輸送人キロ」という言葉があります。輸送人キロとは、輸送人員に乗車距離をかけたもの。たとえば、1,000人が10km利用した場合の輸送人キロは、1,000人×10km=1万人kmになります。

当たり前のことですが、利用者が乗車する区間は人それぞれ異なります。日によって乗車区間が異なる人もいるでしょう。年間輸送人キロは、こうしたさまざまな利用ケースを含めて、その路線が年間でどれくらい利用されたかを示す指標になるのです。

乗車人員との違いは?

輸送密度と似ているものに、「乗車人員」という言葉があります。乗車人員とは、駅から乗った人数を足したものです。ただ、乗車人員だと路線ごとの正確な成績を示せません。なぜなら、距離の長い路線や線区ほど利用者数は多くなるからです。たとえば、営業キロが10kmの線区と100kmの線区を比べた場合、100kmのほうが乗車人員は多くなるでしょう。

そのため、営業キロで割った輸送密度のほうが、路線ごとの成績を公平かつ正確につかめ、鉄道の存廃問題においても事業者が重視する指標になるのです。

輸送密度の具体的な計算方法

ここで「営業キロが10km」「乗車人員が1,000人」の路線における輸送密度を、以下2つのパターンで求めてみましょう。

【ケース1】A駅~B駅で往復1,000人が乗車する線区

輸送密度1,000人の例

A駅からB駅まで、1日あたりの乗車人員が往復1,000人の路線の輸送密度を求めます。
この路線の年間輸送人キロは、1,000人×10km×365日=365万人kmです。これを営業キロ(10km)と年間営業日数(365日)で割った輸送密度は、1,000人/日になります。

【ケース2】A駅~B駅で往復100人、B駅~C駅で往復900人が乗車する線区

輸送密度500人の例

A駅からB駅まで往復100人、B駅からC駅まで往復900人が乗車する路線の輸送密度を求めます。なお、B駅は路線の中間地点にあるものとします。
年間輸送人キロは、A駅からB駅までが100人×5km×365日=18.25万人km、B駅からC駅までが900人×5km×365日=164.25万人kmです。これらを足した182.5万人kmが、全路線の年間輸送人キロになります。

これを営業キロ(10km)と年間営業日数(365日)で割った輸送密度は、500人/日です。
この2つのケースから、全線の乗車人員は同じでも、長く乗ってもらえる人が多い路線ほど輸送密度は高くなることがわかります。逆に、一部区間は混雑しても大部分が乗られていない路線だと、全線の輸送密度は小さくなるのです。

輸送密度が赤字額より重視される理由

赤字ローカル線の存廃協議において、鉄道事業者は赤字額よりも輸送密度を重視する傾向があります。これは、鉄道が公共性の高い事業であり、赤字額だけで存廃を判断すると社会に混乱をもたらすリスクがあるためです。

仮に、鉄道事業者が赤字線区をすべて廃止にすると、移動に困った多くの人たちが街中にあふれる地域も出てくるでしょう。時間帯によってはバスが満員で乗れない人たちが出てくるかもしれませんし、混雑を嫌いマイカーにシフトした人たちが増えると道路の渋滞が頻発します。また、路線によってはモノも鉄道で運べなくなり、トラックのドライバー不足はますます深刻化するでしょう。

こうした社会の混乱を避けるために、鉄道事業者は赤字でも一定の利用がある線区に関しては簡単に廃止できず、存廃の検討には利用状況を示す「輸送密度」を判断材料に使うのです。ちなみに輸送密度は、人だけでなくモノ(貨物)にもあります。

赤字額は路線廃止の参考にならない?

一方で、自治体のなかには各路線の「赤字額」にとらわれているところが少なくないようです。鉄道事業者が上下分離などの公的支援を求めるケースが増え「赤字額=財政支出」につながるため、赤字額に固執する自治体が多いのかもしれません。

しかし、赤字額を重視する鉄道事業者は近年少なくなっています。先ほども述べたように、赤字額だけで存廃を判断すると社会に混乱をもたらすケースがあることにくわえ、赤字額には公平性がないことも一因です。

たとえば、「普通列車のみ走る線区」と「有料特急が走る線区」を比べると、利用者数が同じなら有料特急が走る線区のほうが収入は多くなります。経費で比べると、「地上を走る路線」より「高架を走る路線」のほうが維持管理費は高くなるでしょう。ほかにも、トンネルや橋梁が多いと人件費の高い専門の保線スタッフが必要になりますし、複線や電化区間も点検箇所が増えるため人員が多くなり維持費が高くなって当然です。

災害が増えている近年では、復旧費用を収支に含めることもあります。そうなれば、ますます公平性のない指標になるでしょう。

また、鉄道事業者自体は黒字であることも輸送密度を重視する理由として考えられます。万年赤字の第三セクターであれば赤字改善が何よりも重要ですが、黒字の鉄道事業者からみれば、赤字の改善よりも「利用者が激減していること」のほうが重要な課題です。

なお、黒字事業者でも都市部の人口が減少しているなどの理由で全体の利用者数は減っていますから、内部補助で赤字路線を守ることが難しくなっている点は認識しておきたいところです。

これらの観点からも、鉄道事業者は赤字額よりも「輸送密度」のぼうを重視する傾向があるのです。

鉄道の存廃基準は輸送密度で何人?

輸送密度の小さい路線は、社会的な混乱をもたらすリスクが低く、また大量輸送という鉄道のメリットを発揮しにくいことから、廃止の対象になる可能性が高まります。では、輸送密度がどれくらいになると廃止が検討されるのでしょうか。その基準は、鉄道事業者によって異なります。

ひとつの目安になるのが、国鉄末期にバス転換の基準とした「輸送密度4,000人/日未満」です(貨物の輸送密度は4,000トン/日未満)。この数値の根拠について、国は明確に示していません。ただ、民営化後も「4,000人/日」という数値が独り歩きし、大手私鉄においても廃止の基準になることがあります。

一例として、名鉄では西尾・蒲郡線の対策協議会で「バスによる輸送が適当とする基準」として4,000人/日を使っています。

西尾・蒲郡線の西尾~蒲郡間については、モータリゼーションの進展やレジャーの多様化などによるご利用者数の減少が続いており、平成19年度における輸送密度は2,772人と、国鉄経営再建時に定められた、バスによる輸送が適当とする基準である4,000人を大きく下回っている。

出典:蒲郡市「第4回名鉄西尾・蒲郡線(西尾駅~蒲郡駅)対策協議会 議事録」

また近鉄も、養老鉄道や伊賀鉄道、四日市あすなろう鉄道などを経営分離した際に、輸送密度4,000人/日を基準にしていたようです。ちなみに、それぞれの開業年の輸送密度は、養老鉄道が4,032人/日(2007年)、伊賀鉄道が4,262人/日(2007年)、四日市あすなろう鉄道が4,090人/日(2015年)でした。

JRの場合、2016年にJR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」を公表した際に、輸送密度2,000人/日を基準としています。2,000人/日の根拠としてJR北海道は、国鉄末期の特定地方交通線で実際に廃止された路線の多くが2,000人/日未満だったことから、「鉄道の特性が発揮できるのが2,000人/日以上」という見解を示しています。

私どもとしては、その線区での輸送密度2,000人以上、ここも収支的には赤字なのですが、2,000人以上がやはり鉄道の特性が発揮できるような線区であろうと考えています。

出典:北海道新幹線並行在来線対策協議会「第6回後志ブロック会議 議事録」

これ以降、JR九州・西日本・東日本は2,000人/日未満の線区について収支を公表するなど、JR各社の基準値として使われるようになりました。

ただし、2,000人/日は廃止の基準ではなく「行政支援を受けながら存続させる目安」という考えである点には注意が必要です。実際に廃止基準を明確に示したのはJR北海道のみで、その基準は「輸送密度200人/日未満」としています。他のJR各社は、数値を公表していません。

なお、JR北海道が200人/日を廃止基準とした根拠について「鉄道としての特性を発揮できない」としていますが、これはバスでも補助金なしで経営が成立しない数値です。ちなみに、最近JR東日本と西日本が「あり方」の協議を申し入れた久留里線(久留里~上総亀山)や芸備線(備後庄原~備中神代)の輸送密度は、100人/日未満です。

輸送密度だけで廃止にされないためには

輸送密度が激減しているローカル線の廃止を防ぐには、利用者を増やすしかありません。鉄道事業者や沿線自治体はこれまで、価格の安いきっぷを販売したり、運賃補助をしたり、魅力的な観光列車を運行したりと、さまざまな施策で利用促進に努めてきました。しかし、その地域だけでなく日本全体の人口が減っていることもあり、利用者はなかなか増えないのが実情です。

筆者は全国100以上の協議会を調査してきましたが、過疎の進む地域において利用促進で輸送密度が増えたケースは、指で数えるほどしかありませんでした。もちろん、何もしなければ利用者は減る一方ですから、利用促進も必要な施策です。ただ、輸送密度が劇的に改善するケースは皆無に等しく、利用促進だけで鉄道を残せたケースは今のところ0と言い切れます。

それでも鉄道が必要というのであれば、必要とする人たちが輸送密度以外で「ローカル線の価値を明確に示すこと」が大事でしょう。

輸送密度は、あくまでも鉄道事業者の考える価値のひとつです。しかし、ローカル線の価値はそれ以外にも路線ごとにあるはずです。その価値を、誰もがわかりやすいかたちで示すことができれば、国の支援などを受けながら鉄道を存続できるかもしれません。

「そうはいっても、利用者がこれだけしかいない路線だと…」と、自治体が財政悪化を恐れて諦めたら、それまでです。鉄道を残すために本当に必要なことは、国や鉄道事業者に廃止の説明を求めるのではなく、「自分たちがその路線の価値を明確に把握し、国や鉄道事業者に納得してもらえるように説明できるか」にかかっているのです。

参考URL

輸送密度(一般社団法人日本民営鉄道協会)
https://www.mintetsu.or.jp/knowledge/term/16484.html

輸送人キロ(一般社団法人日本民営鉄道協会)
https://m.mintetsu.or.jp/knowledge/term/16482.html

※輸送密度1,000人/日未満の線区と、1,000人以上2,000人/日未満の線区における、鉄道事業者と沿線自治体の協議会は、以下のページに一覧で掲載しています。

輸送密度1,000人未満/日の赤字ローカル線の協議会リスト
輸送密度1,000人/日に満たない赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。
輸送密度1,000~2,000人/日の赤字ローカル線の協議会リスト
輸送密度が1,000人台の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。