35年間で95%減ったローカル線も!JR線区別の減少率を調査

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減少率の高い線区の列車 コラム
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鉄道事業者にとって「利用者の減少」は、経営を揺るがす重大なリスクのひとつです。利用者が大きく減っている路線では、公共性の観点を鑑みても維持困難となり、何も手を打たなければ廃止になります。

では、ローカル線の利用者は、どれくらい減っているのでしょうか。そこで、線区別の輸送密度を公表しているJR5社のデータをもとに、JRが発足した1987年と2022年を比較(JR四国は1989年と2022年を比較)。各線区の減少率をランク別にまとめました。

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JRローカル線の減少率をランク別に集計

調査対象は、2022年度の輸送密度が2,000人/日未満のJRローカル線136線区です。なお、線区別の輸送密度を公表していていないJR東海は対象外としています。また、米坂線や肥薩線など災害で長期不通になっている線区は、被災前年度の輸送密度と比較しています。

この調査で見えてきたのは、減少率が異常に高いローカル線があまりにも多いという実態でした。136線区中126線区は、約35年で利用者が半分以下に減っていたのです。

減少率が50%未満に抑えられているのは、わずか10線区。まずは、50%未満の線区をみていきましょう。

■減少率50%未満のJR線区

社名線名線区減少率1987年2022年
JR九州後藤寺線新飯塚~田川後藤寺30.27%1,7281,205
JR四国鳴門線池谷~鳴門30.68%2,454※1,701
JR九州日田彦山線城野~田川後藤寺40.83%3,2871,945
JR東日本左沢線寒河江~左沢41.67%1,356791
JR九州唐津線唐津~西唐津41.83%1,315765
JR九州久大本線日田~由布院45.36%2,5641,401
JR九州日豊本線都城~国分47.36%2,0291,068
JR北海道富良野線旭川~富良野48.78%2,0561,053
JR九州指宿枕崎線喜入~指宿49.50%3,6871,862
JR東日本水郡線磐城塙~安積永盛49.56%1,608811
※JR四国は、1989年のデータ。
※リンクのある路線は、協議会の進捗状況について説明したページにリンクします。

10線区のうち6線区がJR九州のローカル線です。JR九州では、観光列車に代表されるようにローカル線を活用したサービスに注力してきた歴史があります。また、定期列車の減便を極力抑えてきたことも、減少率を抑えられている一因かもしれません。

JR北海道の富良野線も健闘しています。コロナ禍前の2019年度は、1,419人/日(減少率31.98%)でしたから、観光客が戻ってくれば改善が期待できるでしょう。

ちなみに、減少率50%台のJRローカル線は15線区、60%台は22線区、70%台は46線区ありました。

■減少率別の線区数(輸送密度2,000人/日未満のJR路線)

減少率80~84%のJR線区

ここからは、減少率が80%を超えるJRローカル線について紹介します。減少率が80%以上85%未満は、以下の22線区です。

社名線名線区減少率1987年2022年
JR東日本陸羽東線最上~新庄80.05%1,273254
JR東日本磐越東線いわき~小野新町80.41%1,036203
JR西日本木次線出雲横田~備後落合80.65%27954
JR東日本五能線東能代~能代80.69%3,527681
JR西日本紀勢本線新宮~白浜80.77%4,123793
JR九州肥薩線八代~人吉80.93%2,171414※
JR東日本奥羽本線大館~弘前81.08%4,175790
JR北海道根室本線釧路~根室81.11%1,006190
JR東日本飯山線飯山~戸狩野沢温泉81.11%2,171410
JR西日本姫新線中国勝山~新見81.20%702132
JR東日本八戸線鮫~久慈81.27%1,650309
JR九州肥薩線人吉~吉松81.37%569106※
JR東日本水郡線常陸大子~磐城塙81.85%788143
JR北海道函館本線長万部~小樽81.86%2,641479
JR西日本福塩線府中~塩町82.18%898160
JR西日本芸備線備中神代~東城82.34%50489
JR東日本羽越本線新津~新発田82.35%6,9171,221
JR東日本磐越西線津川~五泉82.36%2,233394
JR九州日豊本線佐伯~延岡82.38%3,428604
JR九州豊肥本線宮地~豊後竹田83.37%1,028171
JR東日本羽越本線酒田~羽後本荘83.54%4,393723
JR西日本山陰本線浜坂~鳥取84.26%4,878768
※肥薩線は2019年の輸送密度と比較しています。
※リンクのある路線は、協議会の進捗状況について説明したページにリンクします。

JR東日本の東北地方の線区や、JR西日本の中国地方の線区が目立ちます。

1987年には、国鉄の特定地方交通線の指定を免れた輸送密度4,000人/日を超えていた路線も、いくつかみられるでしょう。羽越本線の新津~新発田の場合、1987年度は6,917人/日もあったのが、2022年度は1,221人/日と約82%も減少しています。

災害で長期不通になっている肥薩線も、8割以上減少している線区があります。肥薩線では、沿線自治体が復興方針案を示し、上下分離方式による復旧をめざしています。ただ、JR九州は減少率の高さなどから慎重な姿勢を崩しておらず、復旧は決まっていません(2024年3月19日現在)。

減少率85~89%のJR線区

続いて、減少率が85%以上90%未満の10線区を紹介します。

社名線名線区減少率1987年2022年
JR東日本気仙沼線前谷地~柳津85.26%1,357200
JR西日本山陰本線城崎温泉~浜坂85.48%4,966721
JR東日本米坂線小国~坂町85.65%864124※
JR西日本山陰本線益田~長門市86.11%1,663231
JR九州筑豊本線桂川~原田87.08%2,981385
JR西日本山陰本線長門市~小串・仙崎88.74%2,424273
JR東日本北上線ほっとゆだ~横手88.93%81390
JR西日本大糸線南小谷~糸魚川89.06%987108
JR東日本大糸線白馬~南小谷89.06%1,719188
JR西日本芸備線備後落合~備後庄原89.66%72575
※米坂線は2021年の輸送密度と比較しています。
※リンクのある路線は、協議会の進捗状況について説明したページにリンクします。

こちらも、東北地方と中国地方の線区が多いです。2022年度の輸送密度が1,000人/日未満のなかには、国の再構築協議会の対象になり得る線区も含まれます。

幹線である山陰本線は、特急・急行列車が走らなくなった線区で大きく減少しているようです。このうち、城崎温泉~浜坂では兵庫県が主導する協議会が設置されており、「2027年度には輸送密度2,000人/日をめざす(城崎温泉~鳥取)」という目標値を掲げています。ただ、85%以上も減少している線区ですから、目標達成はなかなか難しいと思われます。

東日本大震災で大きな被害を受けた気仙沼線。前谷地~柳津は鉄道区間で、柳津から先がBRT(バス高速輸送システム)の区間です。柳津での乗り換えを嫌う利用者が多いためか、鉄道区間の減少率が大きくなっています。

大糸線も、糸魚川から白馬までの減少率が約89%と厳しい状況です。輸送密度は200人/日未満と極端に利用者の少ない線区ですから、先行きが不安でしょう。

減少率90~94%のJR線区

ここからは、減少率が90%以上95%未満の9線区を紹介します。

社名線名線区減少率1987年2022年
JR東日本陸羽東線鳴子温泉~最上90.35%45644
JR東日本飯山線戸狩野沢温泉~津南90.75%82276
JR東日本山田線上米内~宮古91.11%72064
JR西日本因美線東津山~智頭91.62%1,551130
JR東日本陸羽西線新庄~余目93.23%2,185148
JR東日本久留里線久留里~上総亀山93.44%82354
JR東日本奥羽本線新庄~湯沢93.53%4,047262
JR東日本磐越西線野沢~津川93.87%1,14270
JR東日本花輪線荒屋新町~鹿角花輪93.99%91555
※リンクのある路線は、協議会の進捗状況について説明したページにリンクします。

ほとんどがJR東日本の線区で、県境付近に集中しています。2022年の輸送密度が2桁だと、利用促進くらいで鉄道を維持するのは難しくなります。ネットワークの観点でも、これだけ利用者が少ないのに「なぜ鉄道がネットワークとして必要なのか」を沿線自治体も考えなければならないでしょう。鉄道がネットワークとしての役割を終えた地域という見方もできるのではないでしょうか。

減少率が約93%の久留里線の久留里~上総亀山では、鉄道の「あり方」の協議が進んでおり、他の交通モードへの代替も話し合いを始める方針です。輸送密度54人/日だと民間バスの運行も難しく、自治体によるデマンド交通が適しています。

同じく減少率が約93%の奥羽本線の新庄~湯沢では、山形新幹線の大曲延伸計画もあるようです。ただ、輸送密度262人/日という状況では厳しいでしょう。ちなみに、山形~新庄は、新幹線開業前は7,000人/日以上ありましたが、2022年には4,407人/日に減っています。

減少率95%以上のJR線区

JRが発足して35年のあいだに、95%以上も減少した線区が2つあります。津軽線と芸備線の一部区間です。

社名線名線区減少率1987年2022年
JR東日本津軽線青森~中小国95.23%10,813516
JR西日本芸備線東城~備後落合95.80%47620
※リンクのある路線は、協議会の進捗状況について説明したページにリンクします。

津軽線の青森~中小国は、北海道新幹線の開業により在来線特急が消滅したことで、利用者が大きく減ったのが原因です。貨物列車の走行区間ですから線路は維持されると思われますが、旅客列車については今後の利用者数次第といえそうです。

減少率がもっとも大きかったのが、芸備線の東城~備後落合。95.80%という非常に高い数値ですが、コロナ禍前の2019年度の減少率は約98%なので、これでも改善したほうです。同区間は、2024年3月より国の再構築協議会が始まる予定で、今後の行方が注目されます。

自治体が「見て見ぬふりをしていた時代」は終わった

一般的に、ローカル線の減少は少子化や過疎化、モータリゼーションの進展などが原因といわれます。ただ、約35年間で8割以上も減っている地域だと、それ以外にも理由があるのではないかと考えられます。

たとえば街づくり。35年のあいだに駅周辺から人影が消えた地域も多いでしょう。沿線自治体が道路ばかりに手厚く支援し、鉄道は事業者任せで見て見ぬふりをしてきた結果といえるかもしれません。

また、JR東日本と西日本の線区が多い点も、気になります。単純に路線数が多いだけでなく、黒字企業だからと安心してJRにお任せしていた自治体も少なくないでしょう。現に、利用促進を目的とした協議会を設置していない地域も、両社の沿線自治体には多いです。

鉄道の廃止に危機意識を持ち続け、古くから協議会を設置して活動していた地域では、減少率が低い傾向があります。あいの風とやま鉄道への移管が決まったJR城端線・氷見線の沿線自治体は、1987年に協議会を設置して利用促進の取り組みを続けてきました。両線区とも減少率は50%前後(城端線:44.61%減/氷見線:51.15%減)で他のローカル線よりも低く、輸送密度は2,000人/日以上を維持しています。

都市部も含め日本全国で人口が減っているいま、鉄道事業者任せで何とかなる時代は終わりました。沿線自治体は現実を直視し、鉄道の利用者を増やす、いや減らさないための方策を事業者と一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。

※輸送密度1,000人/日未満のJR線区一覧は、以下の記事にまとめています。

※輸送密度の基本情報について解説した記事は、以下をご覧ください。

※通勤通学時に鉄道を利用する人の割合を都道府県別にまとめたデータは、以下の記事で紹介しています。