指宿枕崎線は、鹿児島中央と枕崎をつなぐJR九州のローカル線です。このうち、鹿児島中央~指宿は利用者が比較的に多いものの、指宿より先の枕崎までは閑散線区です。沿線自治体は指宿~枕崎間の存続を願い、さまざまな活動を続けていますが、利用者の減少に歯止めがかからない状況が続いています。
鉄道の利用促進をはじめ、沿線自治体の取り組みを紹介します。
JR指宿枕崎線の線区データ
協議対象の区間 | JR指宿枕崎線 指宿~枕崎(42.1km) |
輸送密度(1987年→2024年) | 942→216 |
増減率 | -77% |
赤字額(2024年) | 4億9,200万円 |
営業係数 | 1,697 |
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。
協議会参加団体
鹿児島市、指宿市、南九州市、枕崎市、JR九州ほか

指宿枕崎線の存続・廃止をめぐる協議会はない?
指宿枕崎線の沿線自治体には、「指宿枕崎線輸送強化促進期成会」という組織があります。この組織の目的は「輸送力の増強や改善を促し、地域住民の福祉の向上と沿線自治体の発展をめざす」としており、具体的にはJR九州に対する要望活動が主です。たとえば、「運行本数を増やしてほしい」「指宿のたまて箱を走らせほしい」といった要望をするのが、期成会の役割でした。
ただ、この後に紹介する「線区活用に関する検討会」が始まってからは、利用促進などの取り組みも本格的に実行するようになります。
指宿枕崎線の線区活用に関する検討会
2019年にJR九州は、利用者が激減した線区の沿線自治体に対して「線区活用に関する検討会」の開催を提案します。対象線区は、筑肥線(伊万里~唐津)、吉都線、日南線(油津~志布志)、そして指宿枕崎線(指宿~枕崎)の4路線です。
この検討会の目的は、沿線自治体に鉄道の利用実態を共有したうえで、利用促進などをみんなで検討することです。検討会で決まった事業はできることから実行に移され、その後は効果検証もおこないます。検討会には沿線自治体とJR九州のほか、鹿児島県や九州運輸局も参加しています。
なお、指宿枕崎線の存続・廃止に関する検討はおこないません。
協議で決まった内容の実施
指宿枕崎線の利用促進に関する、沿線自治体の取り組みの一部を紹介します。
- 団体利用への運賃補助
- イベント列車の運行(列車内講座、車窓フォトコンテストなど)
- イベントの実施(謎解きイベント、鉄道模型壮行会、ミニマルシェなど)
- 清掃美化活動
- SNSや広報紙による情報発信
…など
沿線の小中学校が校外学習などで指宿枕崎線を利用する場合、その運賃を沿線自治体が全額補助する事業を実施しています。自治体は、教育委員会や学校への働きかけや、校外学習の講師派遣などもサポート。2022年度には174人が利用したそうです。
また、イベント列車の運行や駅前などで各種イベントも実施。イベント列車は118人が利用、謎解きイベントには78人が列車を利用して参加しました(いずれも2022年の実績)。このほか、指宿駅前では「いぶすきバル」を開催。JRを利用する来場者には運賃を補助するなど鉄道での利用を呼びかけますが、バルに来場した約820人中、JR利用者は約60人でした。
2022年度に検討会が実行した施策で、指宿枕崎線を利用した人はトータルで約670人です。同じく検討会を開いている吉都線では約1,300人、日南線では約4,200人が鉄道を利用しています。
吉都線や日南線では、沿線自治体による協議会が30年以上前から活動を続けており、さまざまな方法で周知活動に努めています。これに対して指宿枕崎線の沿線自治体は、JR九州に要望するだけの期成会が長く続き、設置していませんでした。
もっとも、県には「鹿児島県鉄道整備促進協議会」という組織があり、ここで紹介した利用促進策に協力しています。つまり、鹿児島県の負担が大きく沿線自治体の周知活動が少ないことも、効果につながりにくい理由だと考えられます。
鉄道の利用者を増やすには、沿線住民の利用をいかに増やせるかがカギを握ります。沿線自治体も協議会を設置し、県と連携しながら取り組んでいくことが求められるでしょう。
JR九州が指宿枕崎線の「あり方」協議を申し入れ
「線区活用に関する検討会」の取り組みが苦戦するなか、JR九州は2023年11月30日、指宿枕崎線の沿線自治体に対して「地域公共交通のあり方」について話し合う任意協議会の設置を申し入れます。対象線区は、指宿~枕崎の42.1kmです。
これまでの検討会は、沿線自治体と協働で利用促進策に取り組んできたものの、効果は限定的であり、コロナの影響を差し引いても利用者の増加につながっているとはいえません。とはいえ、JR九州は検討会での実績を評価しており「期間を設けず、より踏み込んだ話し合いを進めたい」という意向を示しています。
この申し入れを受け、沿線自治体は実務担当者レベルの勉強会を2024年1月18日から開始。勉強会は月1回のペースで開かれ検討する内容を固めたうえで、「指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議」の設置が決まります。
第1回の検討会議は、2024年8月19日に開催。構成メンバーは、指宿市、南九州市、枕崎市、鹿児島県、JR九州、有識者(呉工業高等専門学校の教授)です。ちなみに有識者は、JR芸備線再構築協議会にも参加する、環境都市工学分野の専門家です。
まずJR九州が、指宿~枕崎の現状について説明。モータリゼーションの進展などの影響で利用者の減少が続き、1987年と比べて7割以上も減ったことを伝えています。
■指宿~枕崎の輸送密度の推移

参考:「第1回 指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議 検討会議資料等」をもとに筆者作成
続いて有識者が、沿線地域の過疎化について言及。「地域の足として鉄道はさらに厳しい状況になっていく」と述べ、単なる公共交通の問題で議論するのは難しいという見解を示します。そのうえで、「鉄道の価値は移動手段だけではない」と提言。「地域経済に貢献するという波及効果の観点で評価することも大事だ」と、観光やまちづくりを絡めた議論の必要性を訴えます。
この意見に、鹿児島県を含むすべての沿線自治体が賛同。JR九州も、鉄道を存続する場合は事業構造の議論も必要としながらも「まずは鉄道の可能性を追求することに、異論は無い」と伝え、協力する考えを示します。
JR九州が指宿枕崎線の協議を始めた本当の理由
第1回では、「鉄道を活用して住みたくなる地域をつくる」という目標を掲げ、指宿枕崎線の可能性を追求することで満場一致。沿線住民とのワークショップの実施や経済波及効果の調査なども決まります。
ワークショップについては2024年10月に、商工関係者と地元高校生でそれぞれ実施。鉄道の価値や魅力、活用法などを話し合ったようです。また経済波及効果の調査については、第4回(2025年8月5日)で委託するコンサルタント会社を決定。調査に必要な住民アンケートなどの施策も進められる模様です。
まずは、鉄道の存続を前提とした話し合いが始まった検討会議ですが、沿線自治体が「まちづくり」を含め前向きに取り組もうとする姿勢は評価されるでしょう。ちなみに、JR九州が指宿枕崎線の沿線自治体に検討会議を申し入れた理由について、以下のように語っています。
・何故,この地域なのかということについては,行政だけでなく,地域の方々もこの地域を何とかしていきたいとの思いが強い地域だと感じており,この地域であれば,後向きではなく,前向きな話ができるのではないかと思ったため。
・思いの大きなベクトルは皆さんと同じ。これを地域の中で大きな流れとして,いい方向に進んでいけたらと思う。
出典:第1回指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議 議事概要
「線区活用に関する検討会」での取り組みに苦戦していた指宿枕崎線の沿線自治体。しかしJR九州は、自治体や沿線住民の姿勢に何らかのポテンシャルを感じたようです。
他線区の協議では、利用促進の議論にこだわったり「あり方の協議」に抵抗したりと、鉄道を存続させることにしか目を向けない自治体も散見されます。もちろん利用促進も大切ですが、それだけにとらわれると、結果が出なければ「廃止を認める」以外に選択肢がなくなってしまいます。
地域活性化のツールとして鉄道の可能性に目を向け、地域と一緒に成長させられる議論を願うところです。
指宿枕崎線の関連記事
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
交通・営業データ(JR九州)
https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/senkubetsu.html
JR指宿枕崎線(指宿~枕崎)活用に関する検討会(指宿市)
https://www.city.ibusuki.lg.jp/main/info/page026283.html
広報南九州(2023年3月)
https://www.city.minamikyushu.lg.jp/material/files/group/6/2023minamikyushu03-vol184.pdf
「指宿枕崎線(指宿~枕崎)活用に関する検討会」における2022年度の取り組みについて(枕崎市)
https://www.city.makurazaki.lg.jp/uploaded/attachment/15691.pdf
鹿児島県鉄道整備促進協議会
https://www.kagoshima-tetsudo.com/
指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議
https://www.pref.kagoshima.jp/ac08/ibusukimakurazakikaigi.html