【JR西日本】吉備線のLRTはいつ実現するのか?構想からの20年を振り返る

吉備線の列車 JR

吉備線は、岡山県の岡山と総社を結ぶJR西日本のローカル線です。岡山市の通勤通学路線として多くの人が利用しますが、運行本数は毎時1~2本程度。都市規模からみると、少ない路線です。

この状況にJR西日本は、利便性を高めやすい交通モードへの転換を図ろうと「吉備線のLRT化」を提言。沿線自治体も賛同し、協議は続いています。現在はコロナの影響で一時中断となっているLRT化協議の流れをお伝えします。

JR吉備線の線区データ

協議対象の区間JR吉備線 岡山~総社(20.4km)
輸送密度(1987年→2019年)6,690→5,941
増減率-11%
赤字額(2019年)
営業係数
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。

協議会参加団体

岡山市、総社市、JR西日本

吉備線と沿線自治体

吉備線LRT化で岡山市と総社市に温度差

2003年2月26日、JR西日本は吉備線と富山港線(現:富山地方鉄道富山港線)のLRT化について検討していることを公表します。

このうち吉備線では同年3月18日に、沿線自治体に対する説明会を実施。駅数や運行本数を増やして利便性を高めるほか、岡山電気軌道との相互乗り入れも検討する考えを示しました。

JR西日本の提案に賛同した沿線自治体は、「吉備線沿線活性化検討会」を設置。同年10月10日に第1回の会議が開催されます。しかし、翌月に第2回が開催されて以降、議論は深まりませんでした。その理由のひとつに、岡山市が「乗り気ではなかった」ことがあります。

当時の吉備線では、備前三門駅付近の高架化計画を、県が主体で進めていました。LRT化を進めるには、この計画を取り下げる必要があるため、岡山市は県と協議しなければなりません。またLRT化されると、吉備線と並走する路線バスがライバル関係になります。当時の岡山市内には8つのバス事業者があり、その調整対応に苦慮することが予想されたのです。

一方で、もう一つの関係自治体である総社市は、LRT化に向けて積極的に動きます。2007年には、商工会議所が主体の特別委員会を設置。翌年には市が総合交通体系調査研究委員会を設置し、LRT化された未来のまちづくりを検討しています。

ただ、吉備線のLRT化を実現するには莫大な予算が必要です。財政規模を考えると、岡山市が積極的にならなければLRT化の実現はありえません。総社市としては「岡山市が動くこと」が目下の課題だったのです。

こうしたなか2010年2月に、岡山市がJR西日本と実務者レベルでの協議に入ることを明らかにします。同年11月には、LRTの技術的な検討会を発足。この検討会にオブザーバーとして、総社市も参加します。検討会は2013年まで計6回開催されますが、オブザーバーである総社市には大した発言権がありません。当事者であるにも関わらず、JR西日本と岡山市との協議を眺めるだけで不満を募らせていたようです。

(前略)今までどうだったかというと大森市長が誕生するまでの岡山市と我々の関係は、岡山市がやっている事務的な協議テーブルの上で我々がただ単にオブザーバーとして見ているだけ、あるいは不満を言っているだけ、あるいは「漏れ聞くところによると」というようなことを市民に伝えているだけという、まさしく無責任な当事者能力のない、そういった総社市の立場でありました。(後略)

出典:岡山市「平成26年5月7日岡山市長・総社市長共同記者会見」の総社市長の発言より

吉備線を活用した「コンパクトシティ」構想

岡山・総社の両市とJR西日本との第1回検討会議は、2014年10月30日に開催されます。まず両市から、現状の吉備線における課題を説明。運行本数が少ないこと、バリアフリー未対応の駅やバスが乗り入れできない駅が多いことなどが挙げられます。

また、沿線地域は車社会で「マイカーに過度に依存しない公共交通体系の構築」が喫緊の課題であることも訴求。吉備線の利便性を高めることで、富山市のように「コンパクトシティ」の実現をめざす考えを示します。

そのうえで両市は、吉備線の「あり方」について以下3つの方法を検討したと伝えます。

  1. LRT
  2. 既存鉄道の改良(電化)
  3. BRT

それぞれのメリットやデメリットなどの特徴を比較した表が、以下の通りです。

■各輸送システムのメリット・デメリット

LRT既存鉄道の改良(電化)BRT
運行本数4本/h3本/h5~6本/h
ピーク時の運行本数6~8本/h4本/h9~11本/h
定員155人(3両)360人(3両)110人(2両)
駅数安価に増やせる増設は難しい安価に増やせる
環境負荷低い低いCO2を排出する
バリアフリー対応低床車両で乗降が容易対応しにくい低床車両で乗降が容易
トータル費用(※)390~580億円480~750億円450億~580億円
▲トータル費用は、建設費と50年間の維持管理費の概算。
参考:岡山市「吉備線LRT化基本計画(素案)(3)」をもとに筆者作成

吉備線の電化は、コストがもっとも高いのがネックです。BRTは、沿線地域を活性化させる効果が期待されますが、輸送力が小さく総事業費は高くなるといったデメリットがあります。一方のLRTは、車両単価が高いものの既存路線を活かせることから、総事業費は安くなります。また、地域活性化も期待できるとして、沿線自治体は「LRTが最適」という結論を示したのです。

2014年12月25日に開催された第2回検討会議では、運営主体について話し合われます。考えられる運営主体としては、JR西日本などの「民間事業者」と「第三セクター方式」があります。このうち民間事業者に依頼する場合は、運営負担を軽減するために「みなし上下分離」または「上下分離方式」の採用も検討することになりました。

ちなみに、維持管理費は年間4億円に対し、運賃収入は5億円と試算。単年度で黒字が見込める予想です。また、建設費などの初期投資額は、富山港線のLRT化を参考に、約160億円という試算結果も公表されます。

2回の検討会議で話し合われた内容は、「吉備線LRT化基本計画素案」というたたき台にまとめられ、会議は幕を閉じます。このたたき台をもとに、次年度(2015年度)には「LRT化基本計画」を作成。岡山市、総社市、JR西日本の三者が合意したうえで、基本設計などが始まる流れでした。

ただ、三者が合意するまでに、このあと3年以上の歳月を要すことになるのです。

費用負担をめぐり再びLRT議論が硬直

約160億円とされた総事業費ですが、これは富山港線のLRT化を参考に試算した概算費用です。その後、現状の吉備線をもとに精査したところ、約240億円に増えることが判明します。内訳は車両基地などの地上設備が135億円、車両が36億円、7駅の新駅設置が25億円、そのほか道路拡幅などが44億円です。

さらに開業後の維持管理費も、当初の約4億円から約6億円に増えることが判明。想定される運賃収入が約5億円ですから、1億円の赤字になってしまいます。想定コストが大きく増えたことで「誰が何を負担するのか?」といった負担割合をめぐり、三者の議論が紛糾。LRT事業は、再び暗礁に乗り上げます。

議論を重ねること約3年。2018年4月4日に費用負担の内容が決定し、三者は吉備線のLRT化に正式合意します。

約240億円の事業費に関しては、国の補助金が38%(約91億円)と想定。これと同じ額を岡山市と総社市が負担することになりました。両市の負担割合は3対1で、岡山市が29%(約70億円)、総社市が9%(約21億円)です。残りの24%(約58億円)がJR西日本の負担になります。なお、国の補助額の割合については適用される制度によるため、あくまでも想定割合です。

また、運営主体はJR西日本に決まります。赤字補てんに関しては、JR西日本が50%を負担。残りは岡山市と総社市が「修繕費」の名義で折半することになりました。

何はともあれ、吉備線のLRT化が決まりました。ただ、基本設計や各種申請など事業を進めるうえで必要な具体策を決めるのは、これからです。このため開業時期は、10年後の「2028年をめざす」と三者は発表します。

しかし、この直後にLRT事業はまたもや暗礁に乗り上げるのです。

コロナの影響で協議中断…吉備線のLRTはいつ開業するのか?

吉備線のLRT開業に向けて、具体的な検討を続けていた2020年。想定外の出来事が発生します。新型コロナウイルスの流行です。その対応などで、岡山市と総社市の財政状況が悪化。JR西日本も大幅な減収となり、三者とも事業費の確保が難しくなったのです。

2021年2月7日、岡山・総社の両市とJR西日本は、吉備線LRT化の協議を一時中断すると発表します。再開の見通しは示されていません。2024年7月現在も中断したままで、2028年の開業は難しいとみられます。

ただ、協議が再開されてもスムーズに進むとは限りません。近年は資材費や人件費などの高騰もあり、建設費や維持管理費が大幅に増える可能性があります。赤字額の増加も見込まれますから、それをJR西日本と両市が負担できるかという点で再び協議が必要になることも考えられるでしょう。

いずれにせよ、コロナの影響が落ち着いてきた現在、できるだけ早く協議が再開されるのを願うところです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

データで見るJR西日本(2022年度)
https://www.westjr.co.jp/company/info/issue/data/pdf/data2023_08.pdf

吉備線のLRT化の検討経過について(総社市)
https://www.city.soja.okayama.jp/data/open/cnt/3/5011/1/keika.pdf

吉備線LRT化基本計画検討会議(岡山市)
https://www.city.okayama.jp/shisei/category/4-12-34-5-0-0-0-0-0-0.html

吉備線LRT3者協議中断見通し 新型コロナで財政状況が悪化(NPO法人 公共の交通ラクダ(RACDA)
http://www.racda-okayama.org/archives/2100

平成26年5月7日岡山市長・総社市長共同記者会見(岡山市)
https://www.city.okayama.jp/shisei/0000012078.html

吉備線LRT化基本計画素案(総社市)
https://www.city.soja.okayama.jp/data/open/cnt/3/5011/1/LRTsoan.pdf

吉備線整備方針の検討経過について(総社市)
https://www.city.soja.okayama.jp/data/open/cnt/3/10393/6/270716_kouseiiinkai.pdf?20220627090229

吉備線LRT化の三者合意内容について(総社市)
https://www.city.soja.okayama.jp/data/open/cnt/3/10457/6/300412_sangyokensetu.pdf?20220627090854

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