【JR東日本】小海線は観光誘客で残せるか?日常利用は長野と山梨に温度差

小海線の野辺山高原 JR

小海線は、山梨県の小淵沢と長野県の小諸を結ぶJR東日本のローカル線です。日本一の高地を走る路線としても知られ、2017年からは観光列車「HIGH RAIL 1375」を運行。「ハイレール(入れる)」という名称から、受験生にも人気がある路線です。

ただ、日常的な利用者は少なく、とくに県境を含む小淵沢~小海は輸送密度が500人/日を割り込んでいます。沿線自治体はJR東日本とも連携しながら、利用促進などの取り組みを続けています。

JR小海線の線区データ

協議対象の区間JR小海線 小淵沢~中込(65.5km)
輸送密度(1987年→2019年)小淵沢~小海:1,038→450
小海~中込:2,272→ 1,164
増減率小淵沢~小海:-57%
小海~中込:-49%
赤字額(2019年)小淵沢~小海:14億8,200万円
小海~中込:6億7,400万円
営業係数小淵沢~小海:1,457
小海~中込:911
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

北杜市、佐久市、小諸市、佐久穂町、小海町、南牧村、川上村、南相木村、北相木村、山梨県、長野県、JR東日本ほか

小海線と沿線自治体

国鉄時代から存在する小海線沿線自治体の協議会

小海線は国鉄末期、第3次特定地方交通線に該当し、廃止の危機に瀕していました。ただ、「ピーク時の乗客が1時間あたり1,000人を超える」という除外規定を満たすことから廃止を免れ、JR東日本に継承されます。

存続が決まったものの、沿線地域では人口減少やモータリゼーションが進んでおり、何もしなければ再び廃止議論が持ち上がるかもしれません。そこで沿線自治体は国鉄末期の1986年7月に「小海線沿線地域活性化協議会」を設立。小海線の利用促進と沿線地域の観光振興を図る取り組みを、スタートしたのです。

なお、協議会には自治体のほかにも長野県や山梨県、JR東日本、沿線の商工会議所や観光協会など44の団体が参画しています。

観光誘客で小海線を守れ!

小海線の沿線地域は首都圏からも近く、アクセスのよい観光地として人気があります。そのため、沿線自治体などは観光誘客に注力。各駅からの周遊コースの設定やパンフレットの作成など、さまざまな取り組みを展開してきました。ここで、観光客向けの具体的な取り組みを、みていきましょう。

  • 周遊ウォーキングコースの設定
  • パンフレットやガイドブックの作成(地域食材や特産品を紹介)
  • 首都圏の主要駅でのPR・SNSやラジオなど各種メディアでの配信
  • 観光列車の運行(HIGH RAIL 1375)
  • ホームページでの情報配信(From 小海線)
  • フォトコンテスト開催

…など

協議会では、小海線の各駅からの「周遊ウォーキングコース」を設定。そのコース上にある地域食材や特産品を紹介したパンフレットやガイドブックを配布し、観光誘客に努めます。また、首都圏の主要駅で観光PRを積極的に展開。地域の魅力をアピールするとともに、小海線の利用を呼びかけます。

JR東日本の信州ディステネーションキャンペーンにあわせて運行を始めた「HIGH RAIL 1375」は、沿線地域に大きなインパクトを与えました。協議会では、列車の利用者に特産品をプレゼントしたり、スタンプラリーを実施したりと、さまざまな施策を展開。HIGH RAIL 1375の利用者数は、2017年の運行開始から2023年までの6年間で7万人を超えています。

このほか佐久市などでは、アウトドア目的で小海線を利用する観光客に対してモニターツアーの実施や、プロモーションによる情報発信も展開しています。

日常利用の促進策に長野と山梨に温度差

観光誘客で利用者の増加をめざしてきた沿線自治体ですが、日常利用を含めた小海線全体の利用者数は減少傾向です。とくに中込~小海~小淵沢は、JRが発足した1987年と比べると半減。県境を挟む小海~小淵沢に関しては、輸送密度が500人/日を割り込んでいます。線区別収支は、中込~小淵沢で約20億円。営業係数は、小海~小淵沢で1,457(2019年)です。

■小海線の輸送密度の推移

▲2016年以降の小海線の線区別輸送密度。長野県側(小諸~小海)は比較的に多いが、山梨県側(小海~小淵沢)は県境を挟むこともあり、利用者は少ない。
参考:JR東日本「路線別ご利用状況」をもとに筆者作成

そこで沿線自治体は、普段使いの利用者を増やそうと、沿線住民に対する利用促進にも力を注ぎはじめます。

一例として佐久市では、駅周辺の駐輪場を整備するなど定期客の減少を抑える取り組みを実施。小海町では、小海駅の無人化にあわせて町が管理を引き受け地域との交流の場をつくっています。また川上村では、村営バスのダイヤを列車にあわせるなど、高校生や外国人農業従事者が利用しやすい地域公共交通に見直します。

このように、長野県側の自治体では日常利用促進に関する取り組みを進める一方で、山梨県側では消極的のようです。北杜市には観光地として人気の清里駅がありますが、2024年3月に無人駅に。小海駅のように、市が業務委託をすることはありませんでした。

もっとも、山梨県側の自治体もマンパワー不足で、普段使いの利用促進まで手が回らない点もあるでしょう。ただ、観光誘客だけで全体の利用者を増やすのは難しいです。小海~小淵沢は運行本数が少なく、普段使いできるようなダイヤとは言い難いものの、沿線住民が月に1回、できれば週1回でも鉄道を利用したくなるような工夫や取り組みをしていくことも大事ではないでしょうか。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

From 小海線(小海線沿線地域活性化協議会)
https://koumi-line.jp/

JR小海線で「のってたのしい列車」が運行されます!!(山梨県)
https://www.pref.yamanashi.jp/linear-jks/2017koumisenn.html

佐久市観光振興ビジョン
http://www.saku-library.com/books/0009/364/pdf/source/15494982935628.pdf

「HIGH RAIL 1375」“おもてなし”について(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2023/nagano/20230920_na0%EF%BC%91.pdf

「令和6年度アウトドアアクティビティを活用した小海線利用促進業務」の委託候補者を公募型プロポーザル方式により募集します(長野県)
https://www.pref.nagano.lg.jp/sakuchi/sakuchi-shokan/outdooractivities_traincar_proposal.html

佐久市地域公共交通計画
https://www.city.saku.nagano.jp/kurashi/kokyokotsu/kotsu_saikochiku/koukyoukoutuukeikaku.files/tiikikoukyoukoutuukeikaku.pdf

川上村地域公共交通計画
https://www.vill.kawakami.nagano.jp/www/contents/1713581175416/files/koutsukeikaku.pdf

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