【JR西日本・JR東日本】大糸線(糸魚川~信濃大町)の協議に足りないもの

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大糸線の列車 JR
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JR大糸線は、新潟県の糸魚川から長野県の松本までを結ぶローカル線です。途中の南小谷を境に管轄事業者がわかれ、新潟県側の糸魚川~南小谷はJR西日本が、長野県側の南小谷~松本はJR東日本が管理しています。

大糸線は、県境の線区を中心に利用者の減少が続き、とりわけ糸魚川~南小谷~信濃大町は輸送密度が1,000人/日を割り込む閑散とした区間です。そこで沿線自治体は「大糸線活性化協議会」を設置し、沿線の利用促進をはじめ各種取り組みを実行しています。

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JR大糸線の線区データ

協議対象の区間JR大糸線 糸魚川~信濃大町(70.3km)
輸送密度(1987年→2019年)糸魚川~南小谷 987→102
南小谷~白馬 1,719→215
白馬~信濃大町 2,668→762
増減率糸魚川~南小谷 -90%
南小谷~白馬 -87%
白馬~信濃大町 -71%
赤字額(2019年)糸魚川~南小谷 5億7,000万円
南小谷~白馬 3億9,500万円
白馬~信濃大町 8億7,200万円
営業係数糸魚川~南小谷 2,693
南小谷~白馬 3,852
白馬~信濃大町 1,088
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

糸魚川市、小谷村、白馬村、大町市、新潟県、長野県、JR西日本、JR東日本など

大糸線と沿線自治体

大糸線活性化協議会の設置までの経緯

2016年10月、糸魚川市は駅利用者や市民を対象に市の公共交通に関するアンケート調査を実施しています。このなかで、JR大糸線の利用頻度について、以下のような結果が示されました。

■「利用していない」の回答が最も多く 74.7%、次いで「年に数回」14.3%であり、全体の 89.0%が年に数回程度または利用していない。
■「冬季や悪天候時に不定期に利用している」の回答は全体の 0.6%であり、JR大糸線の利用は天候に影響されない。

出典:糸魚川市「アンケート調査結果 (速報版)概要版」(平成28年11月)

糸魚川市民の大半が利用しないJR大糸線。その価値を探ろうと、糸魚川市だけでなく他の沿線自治体も動き始めます。

そして2019年2月、糸魚川~信濃大町までの沿線自治体にくわえ、新潟県と長野県、JR西日本、JR東日本によって組織されたのが、大糸線活性化協議会でした。協議会設置の目的は、「自治体と鉄道事業者が連携して利用促進に関する活動を推進し、沿線地域の活性化に寄与すること」。利用者の乏しい鉄道の復活をめざし、検討が始まったのです。

大糸線(糸魚川~南小谷)の輸送密度の推移
▲大糸線(糸魚川~南小谷)の輸送密度の推移。かつては1,000人/日を超えていたが、1995年の豪雨災害で激減。1998年の長野五輪で490人/日まで回復するが、その後は減少の一途をたどり近年は100人/日前後で推移している。
参考:糸魚川市「第2回 振興部会 資料」のデータをもとに筆者作成

具体的な目標設定なく始まった取り組み

第1回の協議会(2019年2月)では、「基本方針」と「実施方針」の2点が提議されています。

このうち基本方針では、沿線自治体や県との連携、JRとの連携(車両の活用、広告・宣伝力の活用)について確認。また、実施方針では「生活利用」「観光利用」「地域連携・協働」「安全・安心・快適」の4項目から、以下の点を検討するとしています。

(1)「生活利用」の促進
大糸線は学生や高齢者にとって欠かせない移動手段であるとし、効果的な利用喚起策を検討する。具体的な施策として、定期券購入費の一部助成や鉄道と連絡するバスの増便など。

(2)「観光利用」の強化
沿線の海や山など豊富な観光資源を生かし、とくに訪日外国人や鉄道ファンをターゲットとした誘客方策を検討する。具体的には、旅行会社とのツアー企画や広告宣伝、SNSを利用した情報発信など。

(3)「地域連携・協働」の仕組みづくり
鉄道に対する取り組みに、沿線住民が積極的かつ主体的に参加できる仕組みを構築する。一例として、小中学校などの行事利用や体験学習、ファンクラブ(大糸線応援隊)の結成など。

(4)「安全・安心・快適」な利用環境づくり
高齢者や体の不自由な方が利用しやすい環境を整備し、公共交通利用への不安解消を目指す。

ここで示したのは「方針」ですから、何をやるのかを決めればよいわけです。ただ、「振り返り・評価・改善」に関して、具体的な基準を決めないまま、この後3年にわたり「計画・トライアル・実施」を続けることになります。

JR大糸線のこれまでの取り組みと実施結果

改めて、協議会で決まった取り組みの内容をまとめておきましょう。

  • 定期券購入費の一部助成
  • バスによる補完増便
  • 観光モデルツアーの実施(Hakuba Valleyと連携した観光振興など)
  • 他路線とのコラボ企画(えちごトキめき鉄道の乗り入れ、スタンプラリーなど)
  • サイクルトレインの運行
  • 列車を活用したイベント事業者への助成
  • ファンクラブ「大糸線応援隊」の結成
  • フォトコンテスト
  • 大糸線無料券(回数券)配布事業(配布枚数:129枚)
  • 小中学校などの行事利用促進
  • 体験学習(大糸線こども車掌体験)

…など

これらのうち一部の取り組みに関しては、協議会で数値による報告をおこなっています。

たとえば「定期券購入費の一部助成」に関して、2019年度の申請件数は17件(通勤4件、通学13件)、2020年度は19件に増えますが、2021年度は12件に減っています。

また、鉄道が走らない時間帯にバスを増便する事業では、2019年に糸魚川~南小谷・白馬間で1日3.5往復を運行しますが、1便あたり平均4.6人と惨敗でした。

一方、観光モデルツアーは成長の兆しがあります。2020年8月の実施では参加者が16名でしたが、同年10月には39名、さらに11月から12月にかけて実施したキャンペーン「湯めぐり手形すたんぷらりぃ(鉄道を使った温泉巡り旅)」には59件の応募があったようです。このキャンペーンは2021年にも実施され、41件の応募がありました。

このほか、サイクルトレインも可能性があります。コロナ禍前の2019年の参加者は13人でしたが、2022年は41名(3回実施した延べ人数)になっています。

さらに2021年には、えちごトキめき鉄道や北越急行とコラボした「トキてつ×ほくほく×大糸線 コラボラリー」を実施。こちらの参加者数は、655人(賞品受渡し数)にのぼりました。

観光やイベントであれば成長が見込めそうですが、イベントだけでは全体的な利用者増加にはつながりません。こうしたなか、JR西日本は沿線にインパクトを与える「あの公表」をしたのです。

JR西日本の求めで振興部会を設置

2022年4月11日、JR西日本は「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というプレスリリースで、輸送密度2,000未満の線区の収支状況を公表します。このなかに、大糸線も含まれていました。

その翌月、JR西日本は沿線自治体に対して、利用促進を図るための新たな振興部会の立ち上げを求めます。この振興部会は、自治体や経済団体などで構成される「大糸線利用促進輸送強化期成同盟会」の下に設置されました。

第1回の振興部会は、2022年5月19日に実施。JR西日本もオブザーバーとして参加しています。そして、部会後に会長を務める大町市の市長が、以下のようなコメントをしています。

「利用客の数値目標を設定することは地域の元気につながると思う。大糸線の利用状況を踏まえ、多くの人に乗ってもらう計画をたてたい」

出典:NHK信州「『JR大糸線の利用者数の目標設定を』牛越大町市長」

これまでの協議会の議事録を見る限り、どの取り組みにも「数値目標」が記載されていませんでした。

成功か否かを客観的に判断するには、「数値目標」が非常に大切です。役所が主体で実施する公共交通実験によくある話ですが、数値目標もなく取り組みを進めて「これだけ利用された」と、自己満足で終わってしまうケースが多々みられます。

大糸線の協議会にも同じことがいえ、本来の目的である「利用促進につながっているのか」という客観的な判断が一切されないまま、3年の月日が経過していたのです。

これは推測ですが、振興部会を設置する際に、JR西日本が目標数値を求めたのではないかと考えられます。

とはいえ、数値目標を決めるには、乗車人員や収支といったデータをJR西日本が提供する必要があります。これまで3年間の協議会には、JR西日本(金沢支社)も参加していました。数値目標の提案やデータを公表する考えは、金沢支社にはなかったのでしょうか。

いずれにしても、これから互いが情報を持ち寄り、大糸線の「あるべき姿」が検討されることを期待したいものです。

参考URL

大糸線活性化協議会(糸魚川市)
https://www.city.itoigawa.lg.jp/7274.htm

平均通過人員2,000人/日未満の線区ごとの収支データ(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/pdf/2019.pdf

ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf

アンケート調査結果 (速報版)概要版 平成28年11月(糸魚川市)
https://www.city.itoigawa.lg.jp/secure/12308/281129%20shirou-02-01.pdf

平成 30 年度 大糸線活性化協議会 設立総会 会議録(糸魚川市)
https://www.city.itoigawa.lg.jp/secure/26032/H31.2.7kaigiroku3.pdf

令和元年度 大糸線活性化協議会 総会 会議録(糸魚川市)
https://www.city.itoigawa.lg.jp/secure/26032/R1kaigiroku3.pdf