【JR西日本】城端線・氷見線の沿線自治体から学ぶ鉄道協議会のあるべき姿

城端線と氷見線の起点駅・高岡駅 JR

城端線と氷見線は、いずれも富山県の高岡を起点に、高岡地域を南北に縦断するローカル線です。城端線は高岡から南に進路を取り南砺市の城端へ、氷見線は北に進路を取り氷見まで運行しています。
沿線自治体は、各線の利用促進を目的に「城端・氷見線活性化推進協議会」を設置。地域活性化を含めて、さまざまな取り組みを進めています。LRT化も検討している両線と自治体の動きをみていきましょう。

JR城端線・氷見線の線区データ

協議対象の区間JR城端線 高岡~城端(29.9km)
JR氷見線 高岡~氷見(16.5km)
輸送密度(1987年→2019年)高岡~城端:4,479→2,923
高岡~氷見:4,416→2,498
増減率高岡~城端:-35%
高岡~氷見:-43%
赤字額(2019年)非公表
営業係数非公表
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。

協議会参加団体

高岡市、氷見市、砺波市、南砺市

城端線・氷見線と沿線自治体

城端・氷見線活性化推進協議会の設置までの経緯

城端・氷見線活性化推進協議会が設置されたのは、1987年10月です。同年4月にはJRが設立。その半年後に、沿線自治体は協議会を設置したことになります。

当時の城端線と氷見線の輸送密度は、いずれも4,000人/日を少し超えており、国鉄再建法による特定地方交通線には指定されませんでした。しかし、モータリゼーション化による利用者の減少は続いており、沿線自治体には「いずれ廃止になる」という危機感があったのかもしれません。

なお、この協議会とは別に、城端線には「ふるさと城端線応援団」「城端線もりあげ隊」など民間の団体が、また氷見線には商工会議所や観光協会などが組織する「JR氷見線応援委員会」も、鉄道の利用促進・マイレール意識の醸成に一役を買っています。

城端線・氷見線のこれまでの取り組み

沿線自治体の協議会が中心となって実施した、利用促進の取り組みをお伝えします。

  • ラッピング列車の運行(忍者ハットリくん列車など)
  • 観光列車の運行(ベル・モンターニュ・エ・メール)
  • 利用促進に関する取り組み
  • イベントへの助成
  • 城端線の増便試行・バスを含めた乗換の改善(ダイヤやバス路線の見直し)
  • 駅待合室の建て替え
  • 駅前広場の整備
  • 旅行商品の企画
  • 植栽や待合室の清掃など美化運動
  • 沿線ガイドの作成・配布
  • ホームページによる沿線の魅力紹介
  • 沿線の魅力再発見番組の制作

…など

「ラッピング列車」の運行は、2012年ごろから協議会が注力している事業です。沿線地域の観光地や祭り、伝統産業などをモチーフとしたラッピング車両を、城端線・氷見線のいずれでも運行しています。

氷見市出身の漫画家・藤子不二雄(A)氏にちなんだラッピング列車「忍者ハットリくん列車」は、子どもだけでなく大人にも人気があるようです。

また、JR西日本が2015年から運行している観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」では、車内の食事提供サービスにおいて沿線自治体もサポートしています。

なお、「城端線の増便試行」「バスを含めた乗換の改善」「駅待合室の建て替え・駅前広場の整備」「旅行商品の企画」に関しては、以下に紹介する地域公共交通網形成計画のところで解説しましょう。

「数値目標」を掲げた城端線・氷見線の利用促進策

2017年3月、城端・氷見線活性化推進協議会は、鉄道を中心とした公共交通ネットワークの形成と充実を図るため、「城端線・氷見線沿線地域公共交通網形成計画」を策定します。

計画の期間は、2017年度から2021年度末までの5年間。「地域に利用される交通ネットワークの形成」をめざし、生活利用や広域交流、そして将来のまちづくりにもつながるよう、さまざまな取り組みが示されました。

この計画のなかで注目すべきポイントが、具体的な数値目標を定めた「5つの目標」を掲げていること。取り組みの効果や達成状況を数値でわかりやすく示すことで、公正な評価ができるように策定したのです。

そして2022年7月、協議会の通常総会で5年間の活動内容を振り返る評価が示されました。5つの目標とあわせて、みていきましょう。

【目標1】城端線・氷見線の1日あたり乗車人員を増やす

<目標値>10,840人/日 以上(2015年の乗車人員)
<評価値>9,374人/日(2021年度の乗車人員)
<達成状況>未達成

20172018201920202021
城端線6,5466,6406,7225,5155,518
氷見線4,3174,4434,4954,0143,856
合計10,86311,08311,2179,5299,374
参考:高岡市「城端線・氷見線沿線地域公共交通網形成計画 成果検証について」をもとに筆者作成

沿線の少子化・過疎化にくわえコロナの影響もあり、結果は「未達成」となっています。ただ、コロナ禍前の2019年度までの乗車人員は増加傾向にあったことは、評価できるポイントでしょう。

【目標2】定期外利用者数の割合を増やす

<目標値>城端線:26%/氷見線:21%
<評価値>城端線:17.0%/氷見線:11.7%
<達成状況>未達成

20172018201920202021
城端線22.1%21.3%21.7%15.3%17.0%
氷見線15.4%15.6%15.2%10.0%11.7%

城端線と氷見線は、通学をはじめ定期利用者が8割前後を占める路線です。少子化・過疎化が進むなかで利用者を増やすには、「定期外利用者数を増やせるか」が課題となります。

そこで沿線自治体では、観光を中心とした取り組みを展開します。しかし、コロナの影響を大きく受け「未達成」になりました。なお、コロナ禍前でも定期外利用者の割合が増えることはなく、コロナがなくても達成は難しかったと考えられます。

【目標3】公共交通利用圏域内の人口カバー率を増やす

<目標値>75%
<評価値>74.1%
<達成状況>未達成

この目標は、「バス路線の再編」や「駅周辺の区画整理(宅地造成など)」にまで踏み込んだ計画です。具体的には、バス路線の見直し、デマンド交通の導入、市街化区域変更などを実施しますが、結果は「未達成」となっています。

ただ、計画策定時には71.7%でしたから、「公共交通を利用しやすい街になりつつある」という点では評価できそうです。

【目標4】城端線・氷見線との乗継ぎ満足度を高める

<目標値>城端線:平均評価 2.7/氷見線:平均評価 2.5
<評価値>城端線:平均評価 2.6/氷見線:平均評価 2.5
<達成状況>氷見線のみ達成

城端線・氷見線から、あいの風とやま鉄道やバスなどへの乗り継ぎについて、沿線住民の満足度をアンケート調査。「5点満点で何点か」を示す、定性評価です。「乗り換えの不便さがローカル線離れにつながる」とよくいわれますが、それを見える化したのが、この目標の狙いでもあります。

具体的な取り組みとしては、各社のダイヤ改正が主ですが、結果として「城端線は未達成」「氷見線は達成」となりました。

【目標5】過去1年に1度でも城端線・氷見線を利用した人の割合を高める

<目標値>城端線:32%/氷見線:20%
<評価値>城端線:18.5%/氷見線:9.6%
<達成状況>未達成

こちらも、沿線住民へのアンケート調査がもととなる目標です。乗車人員や輸送密度を改善するには、沿線住民の力が不可欠。普段は城端線・氷見線を利用しない人に対して、「乗ってもらう施策」が求められます。

具体的には、駅待合室の建て替え、駅前広場の整備・美化活動、免許返納者への乗車券配布、バスロケーションシステムの運用などの施策を進めました。ただ、これもコロナ禍で不要な外出の自粛が求められていたこともあり、「未達成」となります。

未達成が多いが「教訓」も多い

「5つの目標」の結果だけをみると、未達成ばかりで失敗のようにも捉えられます。ただ、目標を設定した2017年と比べた場合、【目標3】【目標4】は上昇していますし、コロナの影響がなければ【目標1】もクリアできたかもしれません。

一方で、「効果を出すのは難しい施策」が判明したことも、大きな意義があるでしょう。たとえば【目標2】と【目標5】は、いずれも「普段から鉄道に乗らない人に乗ってもらう」ことが狙いだったわけですが、コロナがなかったとしても目標をクリアするのは難しかったでしょうし、利用促進の限界でもあるのです。

いずれにしても、評価しやすい取り組みを実施することは、その後の改善策を検討するうえで非常に有用です。城端・氷見線活性化推進協議会が策定した地域公共交通網形成計画は、他の赤字ローカル線の協議会を実施する沿線自治体にとって、とても参考になると思われます。

城端線・氷見線のLRT化をJR西日本が提案

沿線自治体が地域公共交通網形成計画を進めるなか、JR西日本は2020年1月、富山県と城端線・氷見線の沿線自治体に対して、「LRT化など新しい交通体系の検討」を進めるための提案をおこないました。

これを受けて富山県は同年6月、「城端線・氷見線LRT化検討会」を設置。LRT、新型鉄道車両の導入、BRTなどの交通モードを含め、多角的に検討していくことを表明します。

城端線・氷見線沿線の人口は、今後も右肩下がりに減少していくことが明白です。JRとして鉄道を維持しても、利用者の減少は避けられません。

一方で富山県には、かつてJR路線であった富山港線をLRTに転換し、利便性を高めたことで利用者が大幅に増加したという成功事例があります。

これと同じことが、城端線と氷見線でも実現するのでしょうか。検討会の議事録や資料から、LRTの実現性を検証してみます。

城端線・氷見線がLRT化したときの需要予測

2021年3月に実施された第2回の検討会では、LRT化による需要予測が示されています。1日あたりの利用者について、JRのまま存続させた場合、2040年には約9,100人で、2019年と比べて29%減少すると予測されています。

では、LRT化するとどうなるのか。検討会では、「城端線と氷見線を直通化した場合」「富山ライトレールと同じ運行本数に増便した場合」など、さまざまなシチュエーションから需要予測をシミュレーションしています。その試算結果は、以下の通りです。

▲城端線・氷見線のLRT化の需要予測。現況をLRT化する場合(グラフの真ん中)と、両線を直通化する場合(グラフの右)でシミュレーションしている。「現況と同じ」とは現況と同じ運行間隔の場合、「増発した場合」とは富山ライトレールと同じ運行間隔の場合で試算。
参考:富山県「資料1 城端線・氷見線LRT化需要予測結果」をもとに筆者作成

現在のJRの本数と同じ場合(【パターン1】)、LRTにしても25%の減少、城端線と氷見線を直通化した場合でも16%の減少という結果になっています。

ただ、便数を大幅に増やした場合(【パターン2】)、LRT化で35%の増加、城端線と氷見線を直通化した場合には46%も増えるという結果になっています。

LRT化の課題

需要予測だけをみれば、LRT化を進めたほうが城端線と氷見線の存続や地域のまちづくりにも貢献できそうです。しかし、LRT化を進めるにはいくつかの課題をクリアにしなければなりません。その課題を具体的に示したのが、第3回の検討会(2021年11月開催)です。

大きな課題のひとつが、「財源をどうするか」という点です。城端線と氷見線の営業キロは、旧・富山港線の約6倍もあります。この路線長を電化するには、新たな変電所などの設備を整備する必要がありますし、便数を増やす場合は行き違い施設の新設や信号・通信設備の整備も求められます。くわえて、低床式車両の導入やホームの改良、留置スペースの新設など、イニシャルコストが非常に高くなることが予測されます。

また、利便性を高めるうえで新駅の設置も求められますが、設置すると速達性が低下し、利用者が減ることも予測されます。

新型鉄道車両の導入で決着

2023年2月、第5回検討会でLRT、新型鉄道車両の導入、BRTの概算事業費が提示されます。それぞれの事業費は、次の通りです。

LRT新型鉄道車両の導入BRT
421億円131億円223億円
参考:富山県「城端線・氷見線LRT化等の事業費調査結果」をもとに作成。

LRTは莫大なイニシャルコストにくわえ、設備改修による運休期間が2年になるという結果が報告されています。また、BRTも道路整備費だけで135億円と試算。設備改修による運休期間は3~4年とされました。これに対して新型鉄道車両の導入は、既存車両の置き換えだけのため、車両購入費だけで済みますし、運休期間もありません。

それぞれのコストやメリット・デメリットを踏まえた結果、第6回検討会(2023年3月)で「新型鉄道車両の導入をめざす」ことが確認されます。

※BRTを自治体が赤字ローカル線の解決策として検討する理由について、以下のページで解説しています。

あいの風とやま鉄道への移管が決定

新型鉄道車両の導入が決まったとはいえ、その費用は約130億円。JR西日本にも沿線自治体にも、重い負担です。そこで沿線自治体は、国の鉄道事業再構築事業を活用した支援を受ける考えで一致。その実施計画を策定する場として、2023年7月に「城端線・氷見線再構築検討会」を発足させます。

この検討会では、ICカードの導入や城端線・氷見線の直通化といった利便性向上をめざす話し合いを進める予定ですが、そのなかに「あいの風とやま鉄道への移管」という要望も提示されます。

そもそも、城端線・氷見線のLRT化を提案したのはJR西日本ですが、その狙いとして「飛び地となっている在来線の効率化」もあったと推測されます。一方、沿線自治体としては、あいの風とやま鉄道へ移管したほうがダイヤなども自分たちで自由に設定できますし、場合によっては富山駅まで直通運転する列車を設定することも可能になるでしょう。

このように、JR西日本から経営分離したほうが互いにメリットがあることから、沿線自治体は移管を求めたと考えられます。

一方、あいの風とやま鉄道も検討会の動きを察知しており、条件付きで城端線・氷見線を継承する方針を示します。その条件とは、「城端線・氷見線の沿線自治体が赤字補てんをすること(経理を区分する)」「JRはレールやまくら木などの再整備を行うこと」など、経営に支障をきたさないための要望です。

あいの風とやま鉄道が提示した条件は、第3回検討会(2023年10月23日)で、両路線の沿線自治体とJR西日本がすべて了承。城端線と氷見線は、あいの風とやま鉄道に移管することで合意します。

ところで、あいの風とやま鉄道は条件付きとはいえ、なぜ城端線・氷見線の移管を即決できたのでしょうか。その理由について、以下の記事で紹介します。

総事業費382億円・移管時期は2029年度をめざす

2023年12月18日に開催された第5回検討会では、「城端線・氷見線鉄道事業再構築実施計画」の案が公表されます。

あいの風とやま鉄道の移管にともない、事業費は新型鉄道車両の導入だけでなく、施設整備費や経営安定支援などもくわえ、トータルで約382億円になりました。このうち128億円は、国の社会資本整備総合交付金などを活用。また、JR西日本は104億円を拠出するほか、移管後の経営安定基金として別途46億円を拠出。トータル150億円を支援することで合意します。国とJR西日本の補助支援により、富山県と沿線自治体の負担額は150億円に抑えられました。

あいの風とやま鉄道への移管時期は、新型車両が導入される2029年ごろを予定しています。計画には、移管から5年後の2033年度に利用者数を1日12,000人以上に、収支は約7億円の赤字になるよう改善していくことも記載されています。

2022年度2033年度
利用者数9,609人/日12,000人/日以上
路線の収支▲10.86億円▲7.06億円
▲鉄道事業再構築実施計画に示された、利用者数と収支の予測。計画前は、JR西日本の実績。2022年度と比べ、利用者数は3,000人以上の増加、収支は3億円以上の改善をめざす。
参考:富山県「城端線・氷見線鉄道事業再構築実施計画」をもとに筆者作成

城端線・氷見線鉄道事業再構築実施計画は、第5回検討会で承認。事業期間は10年で、2033年度末までとしています。この計画の承認により、城端線・氷見線再構築検討会は終了。今後は、各自治体と鉄道事業者が連携を取りながら、より利便性の高い公共交通網の構築をめざした協議が始まります。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

データで見るJR西日本2020:区間別平均通過人員および旅客運輸収入(2019年度)(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/company/info/issue/data/pdf/data2020_08.pdf

城端・氷見線活性化推進協議会(高岡市)
https://www.city.takaoka.toyama.jp/soshiki/sogokotsuuka/2/3/1/4/4198.html

JR氷見線について(氷見市)
https://www.city.himi.toyama.jp/gyosei/soshiki/shinko/1/1586.html

城端・氷見線活性化推進協議会総会の開催状況(高岡市)
https://www.city.takaoka.toyama.jp/soshiki/sogokotsuuka/2/3/1/4/3051.html

城端線・氷見線沿線地域公共交通網形成計画(高岡市)
https://www.city.takaoka.toyama.jp/material/files/group/5/keikakuzentai_2.pdf

具体的な施策パッケージ(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001063198.pdf

城端線・氷見線LRT化検討会(富山県)
https://www.pref.toyama.jp/8001/kendodukuri/koukyou/koukyoukoutsuu/kj00022224/index.html

城端線・氷見線再構築検討会(富山県)
https://www.pref.toyama.jp/8001/saikoutiku.html

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