【JR九州】日南線は廃止を避けられるか?沿線自治体の取り組みを解説

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日南線の列車 JR
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日南線は、宮崎県の南宮崎と鹿児島県の志布志を結ぶJR九州の路線です。このうち南宮崎~田吉の1駅間は電化され、日豊本線の特急列車が宮崎空港線に乗り入れます。

田吉以南は普通列車のみが走るローカル線で、とりわけ油津~志布志間は利用者が非常に少なく、沿線自治体は廃止の危機感を抱いています。沿線自治体が取り組んでいる利用促進策を含め、日南線の今後のあり方を考察します。

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JR日南線の線区データ

協議対象の区間JR日南線 田吉~志布志(86.9km)
輸送密度(1987年→2019年)田吉~油津:2,129→1,133
油津~志布志:669→199
増減率田吉~油津:-47%
油津~志布志:-70%
赤字額(2019年)田吉~油津:4億300万円
油津~志布志:3億5,700万円
営業係数田吉~油津:295
油津~志布志:1,039
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

宮崎市、日南市、串間市、志布志市、宮崎県、鹿児島県

日南線と沿線自治体

日南線をめぐる協議会設置までの経緯

日南線は国鉄末期、第三次特定地方交通線に指定されています。沿線自治体は、住民とともに決起大会を開催したほか、「通勤に鉄道を利用する」「きっぷは往復券を購入する」など利用促進の呼びかけも展開。この流れで1987年、「日南線利用促進連絡協議会」を設置し、現在に至るまで日南線の利用促進活動に努めています。

なお、国鉄時代の日南線は、並行する国道が台風などで幾度も通行止めになることから、「代替輸送道路が未整備」という理由で廃止対象から除外されました。ただ、道路整備が進んだ現在では、鉄道のほうが頻繁に災害で不通になる状況が続いています。

1996年には宮崎空港線が開業。特急列車が通る南宮崎~田吉の1駅間は利用者が増えたものの、田吉以南は道路整備や少子化・高齢化などの影響を受け、減少の一途をたどり続けます。協議会では、イベントの実施や清掃美化活動、イメージソングの制作、広報紙での呼びかけなどを通じて、日南線の利用促進やブランディングに努めました。

日南線の利用促進を呼びかける串間市の広報誌
▲沿線自治体の広報誌では、日南線を実情を伝える特集記事が組まれた。
出典:串間市「広報くしま(2017年12月号)」

しかし、利用者の減少に歯止めはかからず、とりわけ油津~志布志は減少率が大きいことにくわえ、輸送密度が200人/日を割り込む閑散路線になってしまいます。

「株主」になれば日南線の廃止は防げる?

2016年10月、JR九州が完全民営化を果たして上場。このとき、沿線自治体の日南市と串間市はJR九州の株を購入しています。JR九州の経営方針に異議を唱えるなど、株主として日南線の存続をアピールするのが目的です。

ただ、異議を唱えても他に賛同する株主が少なければ意見は通りませんし、そもそも特定路線の存廃について株主にできることがあるのかは疑問です。

だったら、災害復旧費用や老朽化した施設の更新費用の一部を補助するなど、JR九州に直接支援したほうが日南線の存続につながるでしょう。近年の日南線は、災害で不通になることが増えています。JR東海の名松線のように、災害が起きやすい場所の治山対策を自治体が担うといった方法も、路線の存続に有効な一手だと考えられます。

JR九州などと連携した利用促進策を実施

JR九州では2019年度より、利用者が大きく減少した線区を対象に「線区活用に関する検討会」を開催しています。日南線も検討会の対象路線となり、沿線自治体はJR九州や宮崎県などとの話し合いを、定期的におこなっています。

ただ、この検討会は利用実態に関する情報共有や意見交換を通じて「利用促進策を検討する場」であり、存廃の話し合いはおこなわれません。実行した施策に関しては、効果検証も実施しています。

日南線の主な取り組み

JR九州の検討会をはじめ、沿線自治体が取り組んできた利用促進策の一例を紹介します。

  • 観光列車「海幸山幸」の運行および貸切団体客への費用補助
  • 団体利用の運賃補助制度(小中学校の利用など)
  • イベント列車の運行(JAZZトレイン、子育て応援列車など)
  • イベントの実施(つながるマルシェ、JR九州ウォーキング、フォトコンテストなど)
  • 清掃美化活動
  • サポーターズクラブの設置(JR日南線鉄道応援隊)
  • 観光ツアーへの支援

…など

日南線ではJR九州の観光列車「海幸山幸」を運行していますが、これを貸切る団体客に対して自治体が費用の一部を補助する取り組みを、2021年に実施しています。ただ、コロナ禍でもあったため、利用団体は4団体209人と苦戦したようです。2022年には普通列車の団体利用者に対して運賃を全額助成する事業を展開し、42団体1,164人の利用がありました。

イベントでは、串間駅や志布志駅でマルシェを実施。日南線で来場した人には特典を付与する取り組みをおこなっています。マルシェの来場者数は約2,800人もいましたが、このうち鉄道利用者は約30人だったようです。

このほかにも、ショッピングチケットとセットになった割引きっぷの販売、地元高校生と連携した利用促進イベント、1日フリーパスの販売など、さまざまな取り組みを実施しています。これにより、2021年度は約740人、2022年度は約4,200人が日南線を利用。好評だった施策は、2023年度も引き続き実行される予定です。

利用者が増えているとはいえ、イベントだけで全体の利用者数を増やすには限界があります。少子化・過疎化も進む地域において、日常利用も増やせるかが今後の課題といえそうです。

なお、油津~志布志間は、2023年秋以降に始まる「再構築協議会」の条件を満たす線区です。JR九州が、検討会の内容だけでは不十分と判断すれば、協議を申し入れることになるでしょう。今後の動向が注目される線区のひとつです。

※再構築協議会の基本方針や対象線区の予想は、以下のページで解説します。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

交通・営業データ(JR九州)
https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/senkubetsu.html

JR日南線利用促進連絡協議会(串間市)
https://www.city.kushima.lg.jp/main/city/tiitki/cat2585/post-258.html

広報くしま(2017年12月号)
https://www.city.kushima.lg.jp/main/info/upload/p2-3_%E7%89%B9%E9%9B%86.pdf

2022年度「線区活用に関する検討会」の取り組みについて(JR九州)
https://www.jrkyushu.co.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2023/07/25/230725_senkukatsuyou_2022.pdf

「日南線活用に関する検討会」における2022年度の取り組みについて(日南市)
https://www.city.nichinan.lg.jp/material/files/group/8/480ec8ef29417b62779749a9d904c934.pdf