【JR北海道】観光特化しか道がない?釧網本線の取り組みを振り返る

釧路湿原駅 JR

JR釧網本線は、釧路湿原やオホーツク海の流氷などの大自然を車内から満喫できる、北海道を代表する観光路線のひとつです。その一方で、沿線は人口希薄地域であることから利用者が少なく、存続が危ぶまれている路線でもあります。

沿線自治体は、観光資源としての鉄道を守るために「JR釧網本線維持活性化沿線協議会」を設置しています。協議会の設置経緯や具体的な取り組みについて紹介しましょう。

JR釧網本線の線区データ

協議対象の区間JR釧網本線 東釧路~網走(166.2km)
輸送密度(1987年→2019年)846→372
増減率-56%
赤字額(2019年)16億1,300万円
営業係数630
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

釧路市、釧路町、標茶町、弟子屈町、清里町、斜里町、小清水町、網走市、鶴居村

釧網本線と沿線自治体

釧網本線維持活性化沿線協議会の設置までの経緯

釧網本線の存続に向けて沿線自治体が動き出すきっかけになったのが、JR北海道の「当社単独では維持することが困難な線区」の公表でした。このなかで釧網本線は、輸送密度が200人以上2,000人未満の線区に該当し、「鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」として位置付けられています。

JR北海道の公表は2016年11月18日でしたが、その4カ月後の2017年3月、オホーツク圏活性化期成会の作業部会として「釧網本線部会」を設置します。また、翌4月には釧路地方総合開発促進期成会で「JR花咲線・釧網線対策特別委員会」が設置されます。

5月には、両者の作業部会が意見交換会を実施。あわせて、JR北海道から路線状況の説明や意見交換もおこなわれており、協議会が事実上スタートします。なお、JR釧網本線維持活性化沿線協議会が正式に設立されたのは、2018年3月のことです。

沿線自治体にとって釧網本線の価値とは

2017年5月以降も両期成会の協議は定期的に実施されますが、先行して進んでいたのはオホーツク圏活性化期成会のほうでした。2017年5月の中間報告では、線区の位置づけを再確認するとともに、現状分析と課題整理、関係機関の役割、JR北海道への支援策などについて協議しています。

一方、釧路地方総合開発促進期成会では2017年10月になって作業部会を設置。翌11月に中間報告をおこなっています。いずれの中間報告でも、釧網本線は次世代に残すべき社会資本と位置づけており、JR北海道との早期の協議開始を求めています。

釧網本線の必要性をまとめた資料
▲釧網本線は3つの国立・国定公園を走り、観光路線としての価値を認識。
出典:釧路地方総合開発促進期成会「路線の必要性に係る検討・分析報告」

沿線自治体からみた釧網本線の価値は、「道東地域における広域周遊観光の基幹路線」という位置づけが示されています。実際にJR北海道も、「くしろ湿原ノロッコ号」「SL冬の湿原号」「流氷物語号」など季節に応じた観光列車を走らせており、地域にとっても誘客に必要な路線といえるでしょう。

そこで、沿線自治体は2017年に観光路線としての可能性を探るために調査事業を公募。その結果、WILLER株式会社が選定され、魅力的なツアーの企画開発が進んでいます。

釧網本線は北海道にも必要な路線?

沿線自治体が設置する協議会とは別に、北海道でも運輸交通審議会の作業部会として「鉄道ネットワークワーキングチーム」を発足させ、全道的な観点から将来を見据えた鉄道網のあり方について検討を始めます。

2018年2月、ワーキングチームは「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」としながらも、北海道が考える各路線の位置づけを示しました。北海道にとって釧網本線は、以下のように位置付けています。

観光客の利用だけで鉄道を維持していくことは難しいことから、関係機関が一体となって、観光路線としての特性をさらに発揮するよう取組を行うとともに、地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に最大限努めていく。

出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」

この文言は、富良野線とまったく同じであり、観光利用だけで鉄道は残せないことを沿線自治体へ投げかけているようにみえます。

もっとも、沿線自治体も観光一辺倒ではなく、沿線高校の通学利用を中心とした「地域の経済・住民生活を支える路線」という見方も示しています。しかし、沿線人口が少なく過疎化・少子化が進む現状において、定期利用者を増やすのは容易でないことも認識しており、全体的な利用者増加を図るには「いかに観光客を増やすか」が鉄道存続の命題といえるのです。

※釧網本線と同じく、観光路線で存続の道を探る富良野線沿線自治体の協議会や取り組みは、以下のページにまとめています。

釧網線事業計画(アクションプラン)の策定

2018年7月、国土交通省はJR北海道の経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう監督命令を発出。このなかで、沿線自治体などと一体となった取り組みを2019年度より5年間実施するように求めました。その具体的な取り組みをまとめたものが、「釧網線事業計画(アクションプラン)」です。

アクションプランは、第1期(2019~2020年度)と第2期(2021~2023年度)にわけて、鉄道の利用促進や経費削減などに向けた取り組みを、JRと沿線自治体が一緒に実施する内容になっています。そして、最終年度となる2023年度に総括的な検証をおこなうとしています。

釧網本線アクションプランの実施内容

釧網本線における具体的な取り組み内容は、以下の通りです。

  • 観光型MaaSの取組を推進(WILLERとの連携)
  • リモートトラベル事業を実施(WILLERとの連携)
  • オホーツクSEA TO SUMMITで臨時列車運行(観光ボランティアがサポート)
  • 観光列車のおもてなし(ボランティアによる沿線案内、車内販売など)
  • ふるさと納税返礼品に、観光列車「ノロッコ号」のきっぷを採用
  • 鉄道利用に対する助成制度
  • 札幌駅や札幌近郊列車内におけるPR広告の作成
  • 駅舎の清掃・花壇整備・フォトコンテストの実施

…など

利用促進策としては、WILLER株式会社と連携した観光型MaaSの取り組みが、注目したいポイントです。2018年には釧網本線の乗り放題と観光スポットを巡るバスをセットにした「ひがし北海道ネイチャーパス」という企画きっぷを発売。列車のダイヤにあわせたバスの運行など、シームレスにつなぐ観光型MaaSとしても注目を集めました。

また、地元ボランティアによる活動も目を引く政策です。SEA TO SUMMITで運行された臨時列車では、ボランティアが車内でみどころを案内したり、観光列車ノロッコ号では沿線の高校生がボランティアガイドをおこなったり、流氷物語号では車内販売も地元の有志がおこなうなど、地域と一体となった利用促進策を実施しています。

観光客を意識した利用促進策に注力する釧網本線ですが、輸送密度ベースでは年々下がり続けています。コロナ禍の影響が大きいとはいえ、観光客だけで利用者を増やすのは難しく、沿線住民が普段から乗車するよう新たな施策も求められるでしょう。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

JR釧網本線維持活性化実行委員会事務局
https://senmouhonsen.com/

当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf

鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/5/1/1/4/9/0/9/_/290731shiryou2.pdf

路線の必要性に係る検討・分析報告(釧路地方総合開発促進期成会)
https://www.city.kushiro.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/041/000116512.pdf

JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf

第1期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_01.html

第2期事業計画(アクションプラン)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/actionplan_02.html

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