JR釧網本線は、釧路湿原やオホーツク海の流氷といった大自然を身近に感じられる、北海道を代表する観光路線です。観光列車も頻繁に運行していますが、人口希薄地域を走るため定期利用客は少数。JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区」に指定しており、存続が危ぶまれる路線でもあります。
沿線自治体や北海道は、釧網本線をどのように活用し、守っていくのでしょうか。JR北海道を交えた協議会の動きから、各団体の取り組みや今後の行方を解説します。
JR釧網本線の線区データ
| 協議対象の区間 | JR釧網本線 東釧路~網走(166.2km) |
| 輸送密度(1987年→2024年) | 846→378 |
| 増減率 | -55% |
| 赤字額(2024年) | 19億1,900万円 |
| 営業係数 | 652 |
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。
協議会参加団体
釧路市、釧路町、標茶町、弟子屈町、清里町、斜里町、小清水町、網走市、鶴居村、JR北海道ほか

観光を軸に釧網本線の存続をめざす沿線自治体
JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」を公表したのは、2016年11月18日でした。このなかで釧網本線は、利用者が少ない赤字路線であることから「鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」と位置付けています。
この公表を受けた沿線自治体の動きは、俊敏でした。オホーツク圏活性化期成会では、公表から4カ月後の2017年3月に対策部会を設置。現状分析をもとに課題を整理し、関係機関の役割やJR北海道への支援策などの検討を始めます。また同年4月には、釧路地方総合開発促進期成会でも特別委員会を設置。観光路線としての可能性を探る調査事業として、WILLERと協力したツアー企画の開発などを進めています。
その後、両機関はJR北海道と意見交換を始め、2018年3月には「JR釧網本線維持活性化沿線協議会」を設立。釧網本線は「道東地域における広域周遊観光の基幹路線」であり、「次世代に残すべき社会資本」と、協議会は位置付けました。
■釧網本線の輸送密度の推移

参考:JR北海道「釧網線(釧路~網走間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画」をもとに筆者作成
観光を軸に協議を進める沿線自治体に対して、北海道でも、全道的な観点から黄線区(輸送密度200~2,000人/日の線区)の将来を検討する「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」という組織を発足させます。
ワーキングチームは2018年2月に、北海道が考える各路線の位置付けを公表。「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」としながらも、釧網本線については次のように示しています。
観光客の利用だけで鉄道を維持していくことは難しいことから、関係機関が一体となって、観光路線としての特性をさらに発揮するよう取組を行うとともに、地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に最大限努めていく。
出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」
上記の文言は、富良野線とまったく同じです。「路線の維持に最大限努めて」という表記から、北海道としても釧網本線を「可能な限り存続させたい」という考えが感じられます。
ただ、富良野線と異なり釧網本線の沿線地域は人口が少なく、沿線住民に「もっと鉄道を利用しましょう」と呼びかけても、効果は期待できません。全体的な利用者増加を図るには、「いかに観光客を増やすか」がポイントといえます。
一方で、鉄道の存続により地域には多大な便益を受けることから、「地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら」と、JR北海道に対する支援にも言及しています。この点は沿線自治体だけでなく、北海道も一緒に議論していく必要があるでしょう。
釧網本線の存続をめざす「アクションプラン」の策定
沿線自治体の動きが活発化するなかで、国土交通省は2018年7月に、JR北海道の経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう「監督命令」を発出します。
監督命令では、釧網本線を含めた黄線区について、沿線自治体と一体となった取り組みを進めるように提言。これを受けて協議会では、具体的な取り組み案をまとめます。それが、「アクションプラン(釧網線事業計画)」です。
アクションプランでは、利用促進や経費削減などによる改善状況を評価しやすいように「目標値」を設定しています。その目標値は「2017年度の輸送密度と収支」です。計画最終年度には、以下の目標値の達成状況をもとに「抜本的な改善方策の検討」をおこなうとしています。
■釧網本線のアクションプラン目標値
| 輸送密度 | 374人/日 |
| 収支 | 14億9,700万円 |
こうして、アクションプランの各種取り組みが2019年度より開始。最終年度は当初2023年度でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で中止・規模縮小となった取り組みが51件もありました。JR北海道と沿線自治体は「効果を十分に検証できなかった」として、国に期間延長を要望。これが認められ、最終年度は2026年度末に変更されています。
釧網本線アクションプランの実施内容
アクションプランの各種取り組みは、協議会を中心に実施しています。ここで、これまで実施した取り組み例と実際の効果についてまとめました。
観光列車の増発・ダイヤの見直し
釧網本線では「くしろ湿原ノロッコ号」「SL冬の湿原号」「流氷物語号」など、季節に応じた観光列車を運行しています。これらの列車の増発やダイヤを見直すことで、観光利用の促進と収支改善に努めています。
一例としてノロッコ号では、夕方の時間帯に「夕陽ノロッコ号」を増発したり、川湯温泉駅まで延長運転したり、釧路湿原駅での停車時間を延ばしたりと、観光客が利用しやすいように工夫しています。これらの施策もありノロッコ号全体の利用者数は、2019年度から5年間で約23万人、2024年度も63,000人が乗車しました。
民間企業(WILLER)と連携した利用促進事業
京都丹後鉄道や高速バスなどを運営するWILLERと連携し、利用促進の取り組みも進めました。
2018年には釧網本線と観光地を巡るバスのフリーきっぷをセットにした「ひがし北海道ネイチャーパス」を発売。列車のダイヤにあわせてバスを運行することで駅と観光地をシームレスにつなぐ「観光型MaaS」としても注目を集めました。
コロナ禍の2021年度と2022年度には、沿線風景をオンラインで配信する「釧網線リモートトラベル」を、WILLERと協力して実施。3回の配信で約630人が視聴し、コロナ禍後の需要喚起につなげたようです。
臨時駅化・駅の廃止や自治体移管など
2023年より細岡駅を「季節営業駅」に変更。冬季を営業停止とすることで、除雪費や電気代など約50万円のコスト削減につながりました。また2025年には、緑駅を自治体管理に移行。JR北海道のコストを約200万円削減できたとしています。
ボランティアによる沿線案内・車内販売
地元ボランティアによる活動も、目を引く施策です。「オホーツクSEA TO SUMMIT」にあわせて運行した臨時列車では沿線のみどころをボランティアが案内したり、ノロッコ号では沿線の高校生がガイドをしたり、流氷物語号では地元の有志が車内販売をしたりと、地域と一体となった利用促進策を実施しています。
その他の取り組み
- サイクルトレインの運行
- ふるさと納税返礼品にノロッコ号のきっぷを採用
- 鉄道利用に対する助成制度
- 札幌駅や札幌近郊列車内におけるPR広告の作成
- 駅舎の清掃・花壇整備
- フォトコンテストの実施
…など
観光利用を増やすだけでは釧網本線を維持できない
観光客を意識した取り組みが功を奏したのか、釧網本線の利用者数はアクションプランの目標値を達成しています。一方で、原油価格の上昇や新型車両導入による減価償却費の増加などにより、収支は悪化。赤字額は、目標値を上回る年が続いています。
■釧網本線の目標値との比較

参考:JR北海道の各年度の線区別利用状況をもとに筆者作成
もっともJR北海道は、「アクションプランの目標達成状況のみで存続・廃止を決めることはない」と、黄線区の沿線自治体に伝えています。沿線住民の利用状況や鉄道の重要性など、さまざまな指標から総合的に判断するそうです。
そこでJR北海道と沿線自治体は、高校生を除く沿線住民800人にアンケート調査を実施。定性的な指標を含めた釧網本線の価値を探ることになりました。ここでは、沿線住民の利用頻度と鉄道の重要度に関する結果をお伝えします。
■利用頻度

■公共交通の重要度

利用頻度をみると、週2日以上利用する人は0%、まったく使わないが約8割という残念な結果です。一方で重要度の回答結果をみると、「とても重要」と「まあ重要」をあわせて8割近くの人が、釧網本線の重要性を認識しています。「地域にとって大切な存在でも、自分たちはほとんど乗らない」という矛盾が、改めて示された形です。
もっとも、調査対象にならなかった高校生は釧網本線を利用しています。ただ、通学定期客は255.3人(2024年度の定期券月平均販売枚数)。この人数で170kmもの路線を維持するのは困難でしょう。しかも通学定期客は、少子化・過疎化の影響で減る一方です。
釧網本線は「観光客頼み」の路線です。しかし、観光利用を含めても運賃収入は約3億円。一方の費用は20億円を超えています。現実的に観光客を増やすだけでは鉄道を維持できず、沿線自治体の支援も必要です。
沿線自治体が、アクションプランの取り組みに要した予算は年間で390万円(2024年度)でした。ただ、釧網本線が存続することで沿線地域にはもっと多くのお金が落ちているでしょう。沿線地域に訪れた観光客が食事をしたり、お土産を買ったり、ホテルに泊まったりと、鉄道が与える経済波及効果は絶大です。
こうした観点から釧網本線の真の価値を調査してほしいですし、その結果「地域にとって鉄道が必要」となれば、残したい人たちによる支援の形態を考えなければならないでしょう。
釧網本線の関連記事
※JR北海道のアクションプランについて、以下のページで解説しています。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
JR釧網本線維持活性化実行委員会事務局
https://senmouhonsen.com/
当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf
鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/0/5/4/0/9/4/_/290731shiryou2.pdf
路線の必要性に係る検討・分析報告(釧路地方総合開発促進期成会)
https://www.city.kushiro.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/041/000116512.pdf
JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf
地域の皆様との連携(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/alignment.html
釧網線(釧路~網走間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/executionplan_01.pdf
事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画検証報告書(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/v_report_2024_01.pdf
