【JR北海道】二段階で廃止へ-留萌本線を残せなかった理由とは

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留萌本線の列車 JR
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留萌本線は、深川と石狩沼田を結ぶ全長約14kmのローカル線です。かつては、石狩沼田から先まで鉄道が続いていましたが、利用者が極端に少ないことから2016年12月に留萌~増毛間が廃止に、また2023年3月には石狩沼田~留萌が廃止になっています。

残る線区も、2026年に廃止されることが決定した留萌本線。沿線自治体が組織する協議会「留萌本線沿線自治体会議」の動きを中心に、全線廃止に至った経緯をお伝えしましょう。

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JR留萌本線の線区データ

協議対象の区間JR留萌本線 深川~留萌(50.1km)
輸送密度(1987年→2019年)418→137
増減率-67%
赤字額(2019年)6億6,100万円
営業係数1,821
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

深川市、秩父別町、沼田町、留萌市、妹背牛町、北竜町、商工会議所、商工会会長、JA組合長

留萌本線と沿線自治体

留萌本線沿線自治体会議の設置までの経緯

2016年11月18日、JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区」を公表しました。このなかで留萌本線は、輸送密度が200人未満の線区(以下、赤線区)に該当し、「鉄道よりも他の交通手段が適している」として鉄道の廃止を提案しています。

JR北海道の公表を受け、赤線区のなかでもっとも早く動き始めたのが留萌線の沿線自治体でした。というのも、JR北海道の公表から約2週間後の2016年12月に、留萌本線の留萌~増毛間が廃止になったからです。沿線自治体からみれば、部分廃止どころか全線廃止になるという危機感があったのは言うまでもありません。

翌月の2017年1月には「北空知JR留萌本線問題対策会議」を設置。さらに5月には幹事会を設置して、利用促進策の検討を始めています。

なお、この時点では留萌市は協議に参加していません。留萌市を含めた協議会「留萌本線沿線自治体会議」が設置されたのは、2018年6月でした。

存続を目指して沿線自治体が取り組んだこと

北空知JR留萌本線問題対策会議の第1回検討会議では、「オール北海道」、つまり北海道全体の問題として、北海道が中心となり国に働きかけていくことを提言しています。

2017年5月の第2回検討会議では、日常利用とインバウンドも視野に入れた観光面での利用促進策について、検討の必要性を提示。同年12月の第3回検討会議で、16項目の利用促進策をまとめています。利用促進策の具体的な案は、以下の通りです。

(1)運行時間の見直し
(2)「自転車持ち込み」の規制緩和
(3)鉄道運転シミュレーターDVD製作等
(4)「貨客混載」事業の実施
(5) 「花火列車」「祭り列車」の運行
(6)商店・飲食店のクーポン券の発行
(7)市町広報紙に特集掲載
(8)利用料金割引制度の導入
(9)スタンプラリーの実施
(10)留萌本線関連グッズの製作
(11)留萌本線応援ファンドの設立
(12)「フォトコンテスト」の開催
(13)切符プレゼントセールの実施
(14)イベント「留萌線乗車会」の実施
(15)路線バスの運行時間の見直し
(16)「深川市公共交通ガイド」の作成

(1)~(5)は、JR北海道に対する要請で、自治体主導の内容は(6)以降となります。

このうち(6)のクーポン券発行・配布や(8)の料金割引制度など、一部の施策は実施しています。ただ、コロナ禍の影響も重なり、乗車人員や輸送密度が改善することはありませんでした。

高規格道路の開通で鉄道の価値が低下

留萌本線の存続に向けて、沿線自治体が協議を重ねる一方で、北海道でも運輸交通審議会の作業部会として「鉄道ネットワークワーキングチーム」を発足。全道的な観点から、将来を見据えた鉄道網のあり方について検討を始めます。

2018年2月、ワーキングチームは「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」としながらも、北海道が考える各路線の位置づけを示しました。北海道にとって留萌本線は、以下のように位置付けています。

2019年度の鉄道路線と並行する高規格幹線道路の全線開通を踏まえ、利便性の高い最適な公共交通ネットワークの確保に向け、今後の活力ある地域づくりの観点に十分配慮しながら、他の交通機関との代替も含め、地域における検討・協議を進めていく。

出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」

留萌本線と並行する高規格幹線道路「深川・留萌自動車道」は、1998年4月に深川JCT~深川西IC間が暫定開通して以来、留萌方面に延伸を続け、2003年7月には沼田ICまで、2006年11月には留萌幌糠ICまで開通しています。そして、2020年3月に留萌ICまで開通し、全線開通しました。

一般道にくわえ高規格道路も開通すれば、鉄道の利用者数が減少するのは目に見えています。この状況から北海道も、「他の交通機関との代替も含め」た検討を促したのです。

協議会から留萌市が一時離脱

鉄道ネットワークワーキングチームの提言後も、沿線自治体は協議会および幹事会を定期的に実施し、「オール北海道」で国に対して支援を求めることを確認していました。

しかし、2019年に入ると協議会自体が硬直状態になります。これは、2018年7月に国土交通省が発出した監督命令において、国として赤線区への支援をおこなわない旨を伝えたからです。北海道も国の意見に賛同したことで、沿線自治体が当初掲げていた「オール北海道で国に働きかける」という考えが崩れ去ります。

留萌本線を存続させるには、沿線自治体のみで支援するしかありません。JR北海道が求める支援額は年間9億円。このうち、留萌本線を存続させることでいちばんの受益者となる留萌市には、年間6億円の支援が必要と試算されました。

その一方で、留萌本線利用者の約7割が深川~石狩沼田の区間(深川市、秩父別町、沼田町に属する線区)であり、留萌市の利用者は約3割しかいません。留萌市内における鉄道の乗車人員は約60人。その利用者の移動のために年間6億円を投じるのは、あまりにも高すぎるでしょう。

こうした状況を受け、留萌市は2019年11月に「国や道からの助成の可能性はゼロに近く、路線存続は難しい」として、市は負担できないという認識を報道陣に示します。そして、2020年8月の協議会において留萌市内における鉄道の廃止を容認。その後、留萌市は鉄道存続の協議から離脱することになります。

段階的な廃止案で自治体が容認

留萌市内の線区については廃止を容認したものの、深川市、秩父別町、沼田町の3市町は深川~石狩沼田(または恵比島)の部分存続に向けて協議を進めることになります。

しかし、2021年2月に開催された協議会において、JR北海道は「部分存続は難しい」との認識を示すとともに、深川~石狩沼田(または恵比島)まで存続させる場合でも年間3億円以上の支援が必要だと提言します。

この後、協議会はしばらく硬直状態が続きますが、実務担当者レベルではJRとの交渉が続いていました。そのなかで、2022年7月「石狩沼田~留萌は2023年春に廃止、深川~石狩沼田は3年後を目途に廃止にする」「その場合、年間3億円の支援は不要」という案をJR北海道が提言。この案が、3市町に受け入れられ、段階的に廃止にする案が出てきます。

同年8月には、沿線自治体が留萌本線の廃止に合意する文書に調印。代替交通について廃止後18年間はJR北海道が支援するほか、各自治体への「まちづくり支援」として7,000万円ずつ提供することも合意されます。

翌月には、JR北海道が留萌本線の鉄道事業廃止届を国土交通省に提出したことをリリースしています。これにより、石狩沼田~留萌間は2023年3月末に、深川~石狩沼田間は2026年3月末に廃止されることが確定しました。

留萌本線が残せなかった理由

留萌本線が残せなかった理由は、利用者が極端に少なかったこともありますが、通学利用以外に鉄道の存在価値を見出せなかったことも大きいでしょう。

過疎化・少子化が急速に進み歯止めがかけられない現状、「高校生の通学のために鉄道を残せ」といったところで先細りは明白です。実際、留萌本線の通学定期客は2016年に113人いたのが、2020年には69人にまで減少しています。ちなみに通勤定期は、わずか4人です。

観光利用を検討するにも、鉄道でなければ運べないほどの人が訪れる有名なスポットはなく、多額の支援をしてまで鉄道を残すにはコストパフォーマンスが悪すぎます。

また、協議会の進捗の悪さも留萌本線を残せなかった一因として考えられます。とりわけ2019年以降は、鉄道を維持するための協議をしていなかったといっても過言ではありません。「オール北海道」と言いつつ、結局、国と道に頼る他力本願の考えでは、赤字ローカル線は残せないのです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

JR留萌本線沿線自治体会議について(北空知圏振興協議会)
https://kitasorachi.sakura.ne.jp/pdf/04_siryo_JRpdf.pdf

当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf

鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/5/1/1/4/9/0/9/_/290731shiryou2.pdf

JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf

JR留萌本線「利用促進策」検討整理表(北空知圏振興協議会)
https://kitasorachi.sakura.ne.jp/pdf/H291213_JR.pdf

JR留萌本線(深川・留萌間)に係る説明会について(留萌市)
【リンク切れ】https://www.e-rumoi.jp/seisaku/page15_00316.html