【NEWS】JR芸備線の増便実験が始まる – 運行期間をめぐり自治体と対立も

芸備線の備後落合駅 協議会ニュース

【2025年7月19日】JR芸備線の利用促進や沿線地域の活性化などを目的とした、増便実証実験が始まりました。
増便する臨時列車は、広島~備後落合と備後落合~新見(伯備線の一部線区を含む)で、それぞれ1日1往復運行します。運行日は、2025年7月19日から同年11月24日までの土日祝日のみです。

初日の下り列車には、新見駅などから約50人が乗車。そのうち約30人が矢神駅で下車し、無料シャトルバスで沿線地域の観光施設を巡ったそうです。このほか備後西城駅や東城駅でも、駅と観光地を結ぶシャトルバスやタクシーを用意。芸備線の観光利用の可能性を探ります。

また、2025年8月21日からは三次~備後庄原で運行している列車1便を、備後落合まで延長する実証実験も予定。同年12月23日まで、平日のみの期間限定で運行し、沿線住民の利便性向上を図ります。

【解説】芸備線の「真の価値」を問う増便実証実験【解説】

増便実験は、芸備線再構築協議会で決まった実証事業のひとつです。協議会では「芸備線の可能性を最大限追求する」ことを目的に、臨時列車のダイヤにあわせて無料シャトルバスやタクシーを運行するなど、観光による地域経済効果も検証されます。

さて、芸備線では2021年10月から12月にも、増便や延長運転の実証実験をおこなっています。このときも、イベント開催やツアー催行などさまざまな事業が展開されました。その結果、備後庄原~備後落合間の臨時列車の利用者数は、1日あたり平均で154人。なかには、平均1人も乗っていない列車もあり、惨敗でした。この結果が、JR西日本が再構築協議会を申し入れる決め手のひとつになったのです。

今回の実証実験は、備後落合~備中神代~新見でも臨時列車を設定し、エリアを拡大。また、利用者数の調査だけでなく地域経済効果の検証も兼ねた実験で、「芸備線の真の価値」がより可視化される点でも違いがあるでしょう。

増便列車の運行期間をめぐりJR西と広島県などが対立

実証実験の期間は、2025年7月19日から11月24日までの約4カ月です。この期間について、広島県などの沿線自治体は「最低でも1年間の実施」を求めています。

季節に応じた移動実態の違いや、取組の周知から定着まで一定の時間を要すること、そして、観光利用において地域の四季折々の魅力を生かすことなども踏まえると、最低でも1年間は実施する必要がある。

出典:国土交通省中国運輸局「第2回芸備線再構築協議会 議事概要」より広島県の主張

この要望に対してJR西日本は、増便自体には賛同しますが、「単線で行き違いができる駅が限られること」「車両や運転士のリソースも限られること」などを理由に、柔軟に対応できないケースがあると伝えます。また運行期間については、第3回協議会(2025年3月26日)で「観光客が増加するのは夏から秋であり、需要が大きい時期に集中的に実施するなどの工夫も必要」と提言。1年を通して実施できない可能性を示唆したのです。

このJR西日本の回答に対して、広島県が噛みつきます。「春夏秋冬の移動需要の変化を踏まえて最低でも1年継続する必要があることは、再三申し上げている。夏や秋以外の可能性も追求するために、最大限実施させていただきたい」と広島県は主張。庄原市も、定着するのに時間が必要などの理由で「十分な期間をとって実証事業が実施されるべき」と、広島県に同調します。

とはいえ、物理的な制約やリソースを無視した実証実験はできません。運行主であるJR西日本は、「今年度は約4カ月が限界」と主張。広島県と庄原市は「1年間実施するのが大前提だ」という条件付きで、実証実験の内容に合意します。

岡山県側は静観している?広島県側との違い

広島県側の自治体とJR西日本との対立構図がみえる芸備線再構築協議会において、岡山県側の自治体は発言数が少なく、静観しているようにも感じられます。

もちろん岡山県側の自治体も、芸備線の存続を願っていることには変わりありません。ただ、広島県側の自治体のように噛みつく場面は少なく、一歩ひいて議論に参加している姿勢がうかがえるのです。

実証実験の期間に関しても、岡山県側の自治体から期間の延長を求める声は挙がっていません。岡山県の伊原木知事は、2025年7月15日の定例記者会見で「いま提案されている期間であれば、いろいろなことがわかるのではないか」と述べ、4カ月という期間に「短すぎるという感覚はない」と伝えています。

さらに伊原木知事は、期間を延ばすことで別の可能性が見えてくるかもしれないとしながらも、「決められた期間でやることが大事」という考えも示しています。

最初にこのデッドラインでいこうねというふうにみんなで決めたときに、デッドラインを超えていく言い訳は、いくらでもあります。もっときちんと調べたいからとか、ここも気になるから。でもそういうふうにズルズル伸ばしていって、あまりいい仕事になることというのは少ないわけですので、もうどういうことであれ、その最初に決めたデッドラインで、どういう結論に達したのかということはすごく大事なことだと思っています。

出典:岡山県「2025年7月15日知事定例記者会見」

岡山県としては、「決められた期間内で結果を出すことが重要」という考えのようです。

もっとも、広島県側の自治体が言うように「定着するのに時間が必要」なこともわかります。ただ、臨時列車の運行は土日祝日に1往復のみ。1年間実施したところで、沿線住民に定着するのかは疑問です。

また、「季節による移動実態の違い」や「地域の四季折々の魅力を生かす」ことも1年間やる理由として広島県は伝えていますが、それは定期列車でもできることです。「なぜ、いままでやってこなかったの?」という疑問もあります。

芸備線とJR西日本との協議は、少なくとも前回の実証事業の前からやっているわけですから、4年以上も話し合っているわけです。それだけ話し合っても、芸備線を活用した地域活性化などのプランをいまだに作成できないのは、「期限を決めずにダラダラとやってきたから」とみられても仕方ないように感じます。

岡山県では、因美線や姫新線などの利用者が極端に少ないローカル線沿線自治体とJR西日本が協議する組織(JR在来線利用促進検討協議会)を設置し、目標値や期限を決めてさまざまな取り組みを進めています。協議を通じてJR西日本とのコミュニケーションも深まり、互いの考え方や課題なども共有しているでしょう。

一方の広島県には、芸備線のほかにも福塩線や木次線など利用者が極端に少ないローカル線がありますが、JR西日本との関係性を深める協議の場はありません。そのためJR西日本の事情を把握しにくく、国やJRに求めるばかりの一方的な発言が多いように感じます。

協議会とは、自治体と事業者それぞれの課題を解決することも目的とした場です。建設的な議論を通じて自らの主張を通しつつも、ときには妥協が必要な場面もあるでしょう。

自治体側が一方的に主張するだけではJR西日本の課題は解決しませんし、芸備線の実証実験が失敗するのは明白です。そして、その先には「備中神代~備後庄原の廃止」という選択肢しか残らないのです。

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参考URL

芸備線再構築協議会 実証事業に係る臨時列車の運行について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/250616%20_00_press_geibisen_rinjiunkou.pdf

芸備線再構築協議会について(国土交通省中国運輸局)
https://wwwtb.mlit.go.jp/chugoku/tetsudou/sankosen_00001.html

芸備線の利用促進結果と振り返り(広島県)
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/470651.pdf

2025年7月15日知事定例記者会見(岡山県)
https://www.pref.okayama.jp/site/chijikaiken/986599.html

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