今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、静岡空港の新駅構想の話題や、平成筑豊鉄道が鉄道の「あり方」について協議を申し入れる方針を固めたニュースなどをピックアップして紹介します。
静岡空港に新幹線の新駅を要望 – 静岡県の悲願は実現するか?
【2024年6月5日】静岡県の鈴木知事とJR東海の丹羽社長とのトップ会談が静岡県庁で開かれ、リニア中央新幹線の静岡工区に関する話し合いなどがおこなわれました。このなかで鈴木知事は、富士山静岡空港(以下、静岡空港)付近に東海道新幹線の新駅設置についても要望。JR東海からは「県の考えを受け止めながら対話をしていくことが大事だ」と、前向きな発言があったようです。
また、6月7日には沿線自治体などが組織する「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」が総会を開催。このなかでも東海道新幹線の新駅整備について話し合われ、構想を取りまとめたうえでJR東海と国土交通省に要望することが確認されました。
【解説】静岡空港に新幹線駅をつくる効果は?事業費は誰が出す?
静岡空港は、新千歳や福岡など7路線、1日に約20便が発着する空港です(2024年6月現在)。2022年度の搭乗者数は、年間で35万2,114人。2023年度は50万人以上にまで回復しますが、それでも1日あたり約1,400人の利用者しかいません。空港の収支は、約7億円の赤字です(2022年度)。
ただ、静岡県内の企業や産業に与える経済波及効果は、雇用創出や税収増など間接的なものも含めると、年間で374億円(2019年)とされ、静岡県に大きな便益をもたらしています。
ここに新幹線の駅ができれば、さらなる経済波及効果が期待されます。仮に、世界的な半導体メーカーなどのグローバル企業が空港周辺に進出すれば、数兆円単位の効果をもたらす可能性もあるでしょう。こうしたチャンスを手に入れるうえで、静岡県が新駅を作りたい気持ちもわかります。
一方でJR東海からみると、メリットよりもデメリットのほうが大きいと考えられます。確かに、空港周辺にグローバル企業が進出すればビジネスユーザーが増えることが期待されますが、あくまでも仮定の話。企業誘致のために、JR東海にできることはありません。
また、静岡空港から約15kmの位置に掛川駅があるため高速鉄道の特性を損なうこと、駅は地下に建設されるので通常の新幹線駅より防災設備などの施設管理費が高くなることなどが、デメリットとして挙げられます。
1日数万人の利用者が見込めればともかく、空港自体の需要が1日1,400人しかないため、「わざわざ新幹線の駅をつくる意味はあるのか?」と疑問に感じる人も少なくないでしょう。
こうしてみると、駅を作って大きな便益を得るのは静岡県や沿線自治体です。そのため、建設費などの事業費を自治体が負担する「請願駅」とするのが、妥当だと思われます。ちなみに駅の建設費は、静岡市の難波市長が副知事時代に試算した結果によると、約450~500億円。国の支援制度が使えたとしても、自治体には大きな負担です。
その国の支援を得るには、「駅を作ってどのように活用するか」という具体的なプランを含め費用対便益を分析し、効果がどれくらい見込めるのかを示す必要があります。ただ、空港直結の新幹線駅の前例はなく、グローバル企業の進出が確定しているといった前提条件もないため、試算することも難しいのではないでしょうか。
リニア中央新幹線建設促進期成同盟会は、これから新駅整備構想を取りまとめるとしています。地域へ経済波及効果も含めて国や周辺住民が判断できる材料を提示できるかも、新駅設置のポイントになるでしょう。
その他の鉄道協議会ニュース
平成筑豊鉄道で「あり方」の協議会設置へ
【2024年6月7日】平成筑豊鉄道は、地域公共交通の「あり方」について議論したいと、法定協議会の設置を沿線自治体に求める方針を固めました。
平成筑豊鉄道では2008年にも「筑豊・京築地域公共交通活性化協議会」という法定協議会を設置し、自治体から支援を受けています。しかし、沿線地域の少子化・過疎化などの影響で利用者の減少が続いていることにくわえ、燃料費や人件費などの高騰もあり、現状の支援では鉄道の維持が困難になるとしています。
これに対して沿線自治体は、「地域住民の交通手段を確保するために協議していく必要がある」とし、平成筑豊鉄道から正式な申し入れがあれば受け入れる方針です。
※平成筑豊鉄道の厳しい経営状況や、沿線自治体の協議会が実施してきた取り組みについては、以下のページで解説しています。
肥薩線(八代~人吉)復旧の最終合意に向けた協議開始
【2024年6月6日】熊本県や沿線自治体などで構成される「JR肥薩線再生協議会」が開かれ、復旧後の利用促進などを検討する新たなワーキンググループを立ち上げることが確認されました。具体的には、観光利用と日常利用の2つのワーキンググループを設置。民間事業者も交えて、具体策を検討していく予定です。
肥薩線の八代~人吉については、4月に熊本県とJR九州が復旧の基本合意を締結。協議会のワーキンググループの検討結果も踏まえ、2024年度内の最終合意をめざしています。
※肥薩線(八代~人吉)が復旧合意できた理由について、以下のページで解説しています。
愛媛・高知の連携後初となる予土線利用促進対策協議会が開催
【2024年6月3日】予土線の沿線市町などで構成される「予土線利用促進対策協議会」の総会が、開催されました。予土線の協議会は、これまで愛媛県と高知県で別々に存在していましたが、2023年に一本化。今回が連携後初の協議になります。
今年は予土線の全線開通50周年であることから、記念イベントの開催やPR活動に注力することなどが確認されました。また、予土線が再構築協議会の対象となることにも触れ、会長の松野町長は「国も当事者として関わるべきだが、沿線自治体も連携して路線を守る使命がある」と述べたようです。
※予土線の利用状況や協議会の取り組みについては、こちらのページで解説しています。
ハピラインふくい 1日の利用者数は約2万3,000人
【2024年6月5日】ハピラインふくいの開業後初となる利用促進協議会が開催され、利用状況などの報告がされました。1日の利用者数は2万2,508人(3月16日~5月31日の平均)と、開業前の目標値であった約2万人をクリア。快速列車の利用者数も安定しているようです。
協議会ではICカードに関する課題も取り上げ、敦賀駅構内にICカード用の乗換改札機や券売機の設置などをJR西日本に求めたようです。また、えちぜん鉄道と福井鉄道と一緒に「福井県鉄道協会」を設立し、人材確保や資材の同時発注によるコスト削減などで連携していくことも確認されました。
※ハピラインふくいの協議会で取り組んでいる利用促進策などは、こちらのページで解説しています。
JR烏山線を使った通勤実証実験 – 那須烏山市職員の16%が利用
【2024年6月6日】那須烏山市は、市の職員を対象とした烏山線の利用促進実験について、結果を公表しました。この実験は、市の職員が烏山線を使って通勤できるよう時差出勤制度を設け、昨年12月に7日間実施したものです。その結果、これまでマイカー通勤だった約250人のうち41人が烏山線を利用していました。ただ、運行本数が少ないなどの理由で「時差出勤でも使いづらい」といった声もあったようです。
那須烏山市では今年度も時差出勤による実験をおこない、効果を検証していくとしています。