今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、栃木県の観光地「日光いろは坂」に新交通モードを整備する検討会が設置されることになった話や、関西本線でJR東海・西日本をまたぐ臨時列車の運行詳細が決まった話など、鉄道事業者と沿線自治体との協議をめぐるニュースをまとめてお伝えします。
日光いろは坂で新交通モードの検討会を設置へ – 東武鉄道も参加
【2025年1月7日】栃木県の福田知事は、日光市のドライブコース「いろは坂」に新たな交通モードを整備するために、県と日光市、東武鉄道の三者で検討会を設置する考えを明らかにしました。
いろは坂は、日光市の中心部と奥日光エリアを結ぶ国道120号の一部区間です。秋の紅葉シーズンには、東武日光駅から中禅寺湖畔までの約20kmを進むのに2~3時間もかかるなど、渋滞が問題視されています。こうした状況に福田知事は、ロープウェイ・路面電車・ケーブルカー・電気バスなどの交通手段の整備を挙げており、渋滞解消につなげたい考えです。
福田知事は、三者協議を2024年度内に設置することを明らかにしており「どの交通モードで整備するのが適切か、日光市と東武鉄道の考えを聞いたうえで方向性を定めたい」と話しています。
【解説】東武鉄道と急接近する栃木県 – 福田知事と鉄軌道の20年
新たな交通モードが検討される日光いろは坂の周辺では、かつて東武鉄道が運行する路面電車やケーブルカー、さらに東武グループ会社の明智平ロープウェイ・中禅寺温泉ロープウェイを使い、東武日光駅と中禅寺湖畔を結んでいました。
ただ、モータリゼーションの進展にともない、1968年に路面電車が廃止。1970年にはケーブルカーが、また2003年には中禅寺温泉ロープウェイも廃止され、現在は明智平ロープウェイのみ運行しています。その結果、奥日光地域に向かう手段はマイカーやバスのみとなり、ハイシーズンの深刻な渋滞発生につながったわけです。
今回、栃木県の福田知事が示したのは、新たな公共交通網の整備だと考えられます。ただ、個人的な見解と前置きしたうえで「路面電車とケーブルカーの乗り継ぎが望ましい」とも述べており、かつての交通網が復活する可能性もありそうです。
具体的な交通モードやルート案などは、今後東武鉄道などと協議して決まりますが、渋滞は年中発生しているわけではありません。ハイシーズンのみマイカーの通行規制をおこない、いろは坂に設ける拠点から電気バスなどを運行するのも一手でしょう。なお栃木県は、新交通モードの調査費を2025年度の予算案に計上する方針です。
さて、福田知事はこれまでも公共交通の施策を打ち出してきた人物でもあります。代表的な功績として、2023年8月に開業した宇都宮ライトレール(ライトライン)があります。
福田氏が宇都宮市の市長だった2001年4月、宇都宮市で新交通システムを検討していた研究会が「LRTが適している」と報告。これを受けて、LRT整備事業が本格始動します。しかし、当時の栃木県知事が莫大な建設費用に難色を示し、「採算性が確保できない」として県の方針が一転。調査費すら計上されず、LRT整備事業は事実上凍結します。
この状況を打開するため、福田氏は2004年の栃木県知事選挙に立候補。LRTの賛否を決める選挙になります。その結果、福田氏が当選。あわせておこなわれた宇都宮市長選もLRT推進派の候補者が当選し、事業は再び動き始めます。
その後も、地元バス事業者などによるLRT反対運動や、民主党政権による公共事業の大規模削減といった障壁もありましたが、福田知事はLRTの必要性を一貫して主張。宇都宮市と一緒に困難を乗り越えてきました。
紆余曲折があって開業した宇都宮ライトレールですが、まだ完成形ではありません。東武宇都宮駅などがある市の中心街への延伸計画が進んでいます。
こうしたなかで福田知事は、宇都宮ライトレールの「東武宇都宮線への乗り入れ構想」を打ち出します。この案に宇都宮市も賛同。東武鉄道も、クリアしなければならない課題は多いものの、協力姿勢を示しているようです。なお、東武宇都宮線の乗り入れ構想に関する三者協議(栃木県・宇都宮市・東武鉄道)は、2025年度から始まる予定です。
いろは坂の協議にくわえ、宇都宮ライトレールの乗り入れ構想でも東武鉄道と接近している栃木県。今後、栃木県でどのような公共交通網が形成されるのか、期待されます。
※宇都宮ライトレールが開業するまでの経緯や、今後の延伸計画については、以下の記事で詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
JR関西本線の直通列車実験で三重県が詳細を発表
【2025年1月9日】三重県の一見知事は、2025年2月に関西本線で運行する直通列車の概要を公表しました。この列車は、沿線自治体の協議会(関西本線活性化利用促進三重県会議)が、JR東海と西日本の線区をまたぐ直通列車の運行を要望。名古屋方面からの観光誘客を図り、関西本線の利用促進につなげるのが狙いです。運行経費の一部は、三重県が補助します。
具体的には、2月16日と22日に名古屋~伊賀上野で団体向けの臨時列車を1日1往復運行。車両はJR東海のキハ75形(2両編成)を使用し、定員は100人です。乗車するには、日本旅行のサイトで「名古屋発専用臨時列車で行く関西本線の旅」という旅行商品の購入が必要です。参加者にはアンケートが実施され、三重県は「関西本線の利用促進に向けた課題を探りたい」と伝えています。
※関西本線をめぐるJR西日本と沿線自治体との協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
リニア着工協議 – 静岡市は年内に結論を出す方針でも県は「年内は難しい」
【2025年1月6日】静岡県の鈴木知事は、リニア中央新幹線の県内での着工をめぐるJR東海との協議について、「2025年中に終わらせるのは難しい」という見解を示しました。
静岡県とJR東海は、大井川の水資源や南アルプスの生態系など環境への影響について話し合いを進めていますが、解決しなければならない項目は24項目も残っています。これについて鈴木知事は、これまでの協議の流れから「1年で解決するのは、個人的には難しいと感じている」と述べ、2025年中の着工判断は難しいと伝えました。
一方、静岡市の難波市長は9日の記者会見で「市としての結論は年内に出せる」という見通しを示しています。難波市長は、工事の残土置き場の方向性がほぼ確定していることや、水資源などの影響については代償措置の方向性が定まっていることを挙げ、「やらなければならないことが見えているので、具体的な検討を進めていきたい」と、2025年度の早い段階で最終結論を出す方針を伝えています。
井原鉄道でボランティア駅長を募集
【2025年1月6日】井原鉄道は、無人駅を拠点に地域活動を担う「ボランティア駅長」を募集しています。募集する駅は、清音駅・井原駅以外の13駅です。ボランティア駅長に就任した人には、観光案内や駅構内の清掃、乗客のサポートなどの活動に、月2回取り組んでもらうそうです。また、営利目的ではないイベントなどを駅長自らが発案して開催することも可能とのことです。
応募資格は20歳以上で、地域貢献の意欲がある人。任期は原則1年で、再任もできます。井原鉄道は、「地域住民や鉄道ファンと一緒に盛り上げてほしい」と呼びかけています。応募締切は2025年1月15日です。
※井原鉄道に対する沿線自治体の支援や利用促進の取り組みなどは、以下の記事で詳しく解説しています。
神戸電鉄で貨客混載の実証実験開始 – 神戸市などと連携
【2025年1月6日】神戸市と神戸電鉄は、貨客混載の実証実験を開始すると発表。2025年1月11日から始まりました。この実証実験は、沿線の活性化などを目的に、2020年に神戸市と神戸電鉄が結んだ連携協定の一環として実施します。実験には、JA兵庫六甲や道の駅の運営会社も参画します。
具体的には、三田線の岡場駅で農産物を乗せて新開地駅まで輸送。神鉄食彩館(新開地店)で販売するそうです。この取り組みについて神戸市は、地産地消の推進や物流におけるCO2排出削減などもめざすとしています。貨客混載実験は、2025年7月まで実施されます。