週刊!鉄道協議会ニュース【2024年6月16日~6月22日】

阿佐海岸鉄道のDMV 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、第三セクター鉄道や地方私鉄でおこなわれた決算報告の話題を中心にお伝えします。阿佐海岸鉄道では赤字額が拡大。弘南鉄道では過去最高の赤字に。一方で、あいの風とやま鉄道では過去最高の黒字を達成するなど、さまざまなニュースを取り上げます。

DMV効果が減速?阿佐海岸鉄道の赤字額が1億円に迫る

【2024年6月19日】阿佐海岸鉄道が、2023年度の決算を報告しました。赤字額を示す経常損失は、約9,694万円。前期(2022年度)と比べて約1,000万円も増えています。

赤字が増えた理由について、阿佐海岸鉄道は前年度より運輸収入が12.2%も減少したと説明。DMV(デュアル・モード・ビークル)の利用者が大幅に減っていることも、赤字増大の要因のひとつになったようです。阿佐海岸鉄道は、DMVの認知度を高めるために「今後もプロモーションに注力したい」と述べています。

【解説】世界初のDMV営業運行を始めた阿佐海岸鉄道の試練

阿佐海岸鉄道は2021年12月25日に、世界初となるDMVの営業運行を始めました。コロナ禍での開業でしたが、「世界初」という物珍しさに当初は月間3,000人以上が乗車。鉄道を運行していた前年同期と比べて、利用者数は約1.5倍に増加します。その後、2022年度には約4万4,776人が利用。さらに2023年度は4万6,290人と、右肩上がりに増えていた「はず」でした。

しかし、ここで大きな問題が発覚します。実は、この利用者数について「重複してカウントしたケースがあった」ことが、2024年5月に判明したのです。具体的には、定期利用者を実際の乗車回数ではなく見積もりで計上したり、企画乗車券の利用者を複数乗車したとしてカウントしたりと、結果的に利用者数を「水増し」していたのです。

これについて阿佐海岸鉄道は、予約をしていない利用者数に関しては「運転士が目視でカウントしている」と伝えたうえで、正確な利用者数を把握できない状況であることを報告しています。

こうした経緯から、運賃収入などから推測される2023年度の乗車人員は3万1,348人で、前年度より21%も減少。赤字額の拡大につながったのです。阿佐海岸鉄道は、2024年3月のダイヤ改正で減便を実施するなど運行経費の削減に努めるとともに、今後は正確な数字を出せるように徳島県と協議して、デジタル化などを進める考えを示しています。

さて、DMVの需要について開業前年の2020年8月に開かれた「第6回阿佐東線DMV導入協議会」では、年間で7万5,000人が乗車すると予測しました。これは、鉄道時代の2019年の利用者数(5万2,983人)の1.5倍です。

ところが実際には、予測はおろか鉄道時代の利用者数より減っています。2023年度の利用者数は3万1,348人ですから、予測の半分以下です。こうなると、DMVが地域にもたらす経済波及効果も、開業前の予測(約2億1,400万円)の半分くらいになるでしょう。

DMVは、開業前から赤字と予測されていました。しかし、観光客などが訪れてお金を落とすことで地域全体では黒字になるとして、沿線自治体はDMVの導入を決めました。ただ、現状では地域の経済波及効果とDMVの赤字額が同等とみられます。このまま利用者が減り続けると「地域に負の便益しかない」と判断されて、DMVが廃止になる可能性も出てくるでしょう。

DMVフィーバーが過ぎ、開業4年目に入った阿佐海岸鉄道。この苦境を脱出するために、これからがDMVと地域の本当の力が試されるときです。

※阿佐海岸鉄道がDMVに移行するまでの経緯や、利用促進などの取り組みについては、以下のページで詳しく解説しています。

その他の鉄道協議会ニュース

弘南鉄道が過去最大の赤字に

【2024年6月21日】弘南鉄道が定時株主総会を開催し、2023年度の決算を報告しました。経常損益は2億3,310万円で、前年度より5,000万円拡大。過去最高の赤字額になったそうです。2023年度は、大鰐線の脱線事故や両線の運転見合わせなど、運賃輸入が大幅に減少。これらの影響で赤字が増えたと弘南鉄道は説明しています。なお、弘南鉄道は沿線自治体や青森県、国から補助金を受けて運営していますが、これを含めた当期純損益も3,560万円の赤字でした。

ちなみに大鰐線については、2021年に沿線自治体が策定した弘南鉄道に対する支援計画で、「2019年度比で約2,000万円の増収」という目標を掲げています。しかし、実際には目標を達成できておらず、沿線自治体は目標の見直しを含め今後の対応を協議していく予定です。

※弘南鉄道の沿線自治体の支援内容や、大鰐線の存廃についてコミットした内容などは、以下のページで詳しく解説しています。

あいの風とやま鉄道 過去最高の黒字に

【2024年6月20日】あいの風とやま鉄道が、2023年度の決算を報告。富山県の補助などを含めた最終的な損益は約2億100万円の黒字となり、過去最高になったそうです。あいの風とやま鉄道では、2023年4月に平均6%の運賃値上げを実施していますが、利用者数は前年度より5%も増加。コロナ禍前とほぼ同じになるまで回復したそうです。これにくわえ、関連事業収入が増えたことも売上が向上した理由と伝えています。

なお、2026年度には増結用の中間車両を購入する予定で、現行の2両編成を3両編成にする投資計画も決算報告で伝えています。

※あいの風とやま鉄道は、JR城端線・氷見線を2029年度に継承する予定です。その経緯については、以下のページで詳しく解説しています。

リニア 山梨県内のボーリング調査に静岡県も合意

【2024年6月18日】山梨県、静岡県、JR東海は、リニア中央新幹線の山梨・静岡県境付近のボーリング調査を進めることで合意しました。ボーリング調査の現場は、静岡県境から約300m離れた山梨県内の地点です。静岡県は以前、地下水が山梨県側に流出する可能性を指摘し、ボーリング調査の掘削中止を求めていました。

今回の合意では、山梨県側に流出した水について「静岡県は返還を求めない」という前提で、地下水の流出量をみながら作業を進めることが確認されました。ただし、大井川の水量に変化がみられるなどの異常が発生した場合には、回復措置をおこなうことで合意しています。

今回の合意について、静岡県の鈴木知事は「県が抱く懸念が解消でき、また山梨県にもご理解をいただき感謝している」と述べています。

JR山口線の利用に対する運賃補助支援を拡大

【2024年6月21日】山口線利用促進協議会は、山口線の利用者に対する助成を充実させるなど、利用促進の強化を確認しました。協議会では2023年8月に、学校行事などで山口線を利用する生徒や教師などに対して、運賃の半分を助成する制度を設けています。今回の支援策では、運賃にくわえ特急料金や駅までの交通費も補助対象に。また、最少人数も5人以上から3人以上となり、より使いやすくなりました。

助成期間は2025年3月15日まで。助成制度を利用する際には、事前申し込みが必要です。

西九州新幹線の与党検討委員会 長崎・佐賀の両知事などにヒアリングを実施へ

【2024年6月19日】西九州新幹線の未開通区間の整備方針を議論する与党検討委員会が、約半年ぶりに開かれました。このなかで、長崎・佐賀の両知事や沿線自治体の首長に意見を聞く機会を設けることで一致。7月下旬までに、ヒアリングを実施する考えが示されました。

これに対して長崎県の大石知事は、県議会の一般質問でヒアリングへの参加を表明。全線フル規格での整備を求める考えです。一方で、巨額の財政負担を懸念している佐賀県の山口知事は、6月22日現在で態度を明らかにしていません。

また委員会では、国土交通省に対しても、佐賀県と粘り強く協議していくように求めています。

【告知】「第3回全国ローカル鉄道サポーターズサミットin 只見線」参加者募集

全国ローカル鉄道サポーターズサミットが、今年も開催されます。このサミットは、ローカル線の事業者やサポーター(応援団などの団体)などが集い、これまでの活動報告や意見交換、交流をするイベントです。鉄道ファンをはじめ一般の方も参加できます。

今回の舞台は只見線。東北運輸局鉄道部の基調講演、吉都線や京都丹後鉄道での取り組み報告などを予定しています。また、只見線の乗車体験会も企画中とのこと。詳細および参加の申し込みは、以下の公式サイトでご確認ください。

「第3回全国ローカル鉄道サポーターズサミットin 只見線」公式サイト

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